近界国家アフトクラトルによる大規模侵攻が始まり三門市は戦場と化した。
防衛組織ボーダー、トリオンという生命エネルギーを使用した特殊な技術を持つ彼らは、アフトクラトルの侵攻を阻止せんと住民を守りながら、戦い続ける。
アフトクラトルの侵攻の狙いは占領やボーダーの壊滅ではなかった。
トリオン量の多い人間の捕縛。
要するにボーダー隊員の捕縛誘拐が目的だったのだ。
ボーダー隊員になるにはトリオンを使用する戦闘スタイルから、トリオン量が普通の人間に比べ多くなくてはならない。
トリオン量を多く保有する人間を集めているアフトクラトルはそこを狙ってきたのだ。
特に実戦経験の殆ど無い、捕縛しやすい訓練生のボーダーC級隊員を狙っていた。
ボーダー本部はその狙いを察知するのが遅れ、本部所属のC級隊員は散り散りとなり次々と襲われる。
三門市の外れのボーダー早沼支部が所在する地区近隣でも一部のC級隊員が逃れた所をトリオン兵団に襲われる。
ボーダー隊員を捕縛するために開発された3m程の二足歩行型新型トリオン兵ラービット3体を中心に、虫型の子犬程度の小さなモールモッドや車ぐらいの大きさのトカゲの様なバムスターと呼ばれる量産型トリオン兵を多数引き連れて、軍団で襲い掛かって来たのだ。
だがそんな中……、
「おわっ!?なんで追って来る……!?俺美味しくないっすよ!!」
ジーパン、ジージャンに額に赤のバンダナを巻いたひと昔前のオタク風スタイルの青年が、涙をちょちょ切らせながら、トリオン兵に追われていた。
その不格好に逃げ走る姿に、今にも捕まりそうな感じなのだが、何故かトリオン兵達はその青年に追いつく事が出来ない。
この青年が何故追われているのか?
辺り一帯の人間と比べ、トリオン量が群を抜いて多いからだ。
「ギャーーース!?こ、こんなに!?」
早沼地区に襲い掛かって来たトリオン兵の半数以上がこの青年を追っている状況だった。
だが、狙われているのは彼だけではない、逃げ惑うボーダーの訓練生C級の女性隊員数名が捕捉され、トリオン兵達に囲まれ、そのうちの一人の女性隊員がラービットに捕まる。
ラービットに捕まるとキューブに変えられ、体内に飲み込まれるのだ。
しかし……。
「ぜいやーーーーっ!!」
先ほど、不格好に逃げまくっていた青年が、トリオン兵達の囲みを突破して、光り輝く剣を振るいラービットを頭から真っ二つに切り裂き、捕まった彼女を救い出したのだ。
彼女らを背に、先ほど逃げまくっていた時とは一転、囲んでいたトリオン兵達を次々と屠りだしたのだ。
「世の中の女はすべて俺んのじゃーーーーーっ!!」
但し、最低な雄叫びを上げながら不格好に……。
この後、ボーダーは隊員の尽力により、アフトクラトルによる大規模侵攻を見事防ぎ、勝利したのだった。
半月後……
ボーダー、正式名「界境防衛機関」
近界(ネイバー・フッド)とよばれる異界の国々から侵攻してくるトリオン兵からトリガーを使用し戦うための防衛組織である。
そのボーダーきっての戦闘力を誇る迅悠一。
自らを実力派エリートと誰かれ憚らず、砕けた口調の軽いノリで名乗る変わり者でもある。
そんな迅ではあるが、先のアクトクラトルの大規模侵攻に対し最大級の貢献し、ボーダーにとって切り札とも呼べる存在だった。
彼のサイドエフェクト(特殊能力)『未来予知』は関りのある人物の未来を見通せるという代物だ。
その予知した未来をつなぎ合わせ、何れ起こり得るだろう未来をほぼ正確に把握することが出来る。
だが、未来は確定的ではない。現時点で見える未来には分岐点が多数あり、複数の未来が存在する。
その中でもベストな未来に少しでも近づけるため、迅は数々の策略を巡らせ、よりよい未来へと導いてきたのだ。
軽い外見と言動とは裏腹に、ボーダーの仲間やこの国の未来の為に、あらゆる手段を用い尽力してきた心優しく情熱的な人物でもあった。
半月前、ネイバー(近界民)アフトクラトルによる大規模侵攻を凌ぎ切ったが、迅の未来予知により事前に察知していたとはいえ、住民への被害及び隊員がアフトクラトルに連れ去られ、傷跡は大きかった。
そんな中、迅は珍しくボーダーの支部の一つである早沼支部へ足をのばしていた。
ボーダー支部は基本、ネイバー・フッドとの接続門(ゲート)である三門市の警戒区域との外延部に複数存在し、三門市の防衛と共にボーダーとの住民窓口伴っている。
玉狛支部や鈴鳴支部は例外として、主に仕事や学業優先でA級を目指さず、ランク戦に出ない隊員が所属している事が多い。
迅はそんな早沼支部のとある人物に会いに来ていた。
「横島ぼんち揚げ喰う?」
「迅の嘘つきーーーー!!お姉ちゃん達とくんずほずれつ出来るからってボーダーに入ったのに!この支部はマッチョメンのお兄さんやおネエさんしかいないのはなぜじゃーーーー!!」
ジージャン、ジーパンに赤のバンダナを額に巻く、ひと昔のおたくっぽい恰好のこの青年はいきなり涙をまき散らし、迅に迫っていた。
「はははははっ、自業自得だって、やっぱり最終的に沢村さんのおしりを触ったのがまずかったんじゃない?」
迅はぼんち揚げを食べながら軽い感じで笑う。
迅に横島と呼ばれたこの男、ボーダーに入ってすぐにセクハラを働いて、本部への出入り禁止となりこの男所帯のこの早沼支部に島送りにされたのだ。
「アレは冤罪じゃー!お前は、沢村さんだけじゃなくって、くまちゃんや国近ちゃんのおしり触ってたのに!!」
「俺は良いの、実力派エリートだし」
「くそ、顔か!!イケメンは何しても許されるのか!!不公平じゃーーー!!イケメン死すべしっ!!」
横島は血の涙を流しながら雄たけびを上げる。
迅は確かにイケメンだ。
たびたび、女性隊員や職員にセクハラまがいな事をやってはいたのだ。
女性を不快にさせないある一線を越えないため、ギリギリバランスを保っているからなんとか訴えられずにすんでいた。
だからといって制裁は受けているようだが……。
まあ、横島も警察のご厄介になってないところから、ある程度許してもらえてるのだろう。
いや、ボーダーの事だ。事実をもみ消している可能性もある。
横島は現在高校3年生、C級隊員である。
約半年前に迅や玉狛支部林藤支部長の推挙でボーダーに入りしたのだが、個人ランク戦なども行わずにセクハラで本部出入り禁止になったため、階級は上がっていない。
本部に居た期間は短いが、本部隊員達にはその強烈な個性とセクハラ行為で名は今も轟きまくっていた。
『痴漢・変態・セクハラの横島』と。
だが……、その実力は迅も認める程の戦闘力を秘めている事を、ボーダー内でも一部の人間しか知らなかった。
迅はここでようやく目的を果たすために横島にこう切り出した。
「ところで横島、遠征に行ってくれないか」
遠征とは、近界(ネイバーフッド)調査の為に、特殊な船艇で少数精鋭で出向く事である。
ボーダーの重要な任務の一つだが、危険を伴うため、実力者しか参加できない。
「めんどくさいからヤダ、そもそもC級隊員だし、本部出禁なんだけど俺」
横島は本当にめんどくさそうな言い草をする。
「本部出禁は解除となった。この前のアフトクラトルの大規模侵攻での横島の活躍が功を奏した」
迅が言う通り、横島が受け持っていた早沼支部周辺では住民への被害はゼロ、建物への被害もほぼゼロだった。確かにブラックトリガー持ち等の強力なネイバーは来なかったが、A級隊員でさえ手こずっていた新型トリオン兵ラービットも何体か現れたのだ。
しかし、有象無象のトリオン兵と共に横島は難なく撃破していたのだ。
少なくとも、A級上位の隊員、マスタークラス並みの実力者であるということになる。
普段の横島のスケベそうなニヤケ顔からはそんな凄腕隊員の気配は全く感じないが事実である。
しかも、トリガーを使用せずに……
横島は根っからのスケベで女性には目は無いが、人間であることは確かである。
ただ、この世界の人間ではない。
そうかといって、ネイバー(近界民)でもない。
この世界とよく似た平行世界、しかも、神や悪魔、妖怪などが存在した世界の霊能力者であった。
そして、彼はその世界ではデーモンバスター、魔神殺しの英雄の異名を持つ、知られざる英雄でもあった。
彼は魔界三大魔神の一角、魔神アスタロスを倒した後、しばらくして、人間である横島が魔神殺しの英雄である事に快く思わない何者かの奸計にかかり、次元の狭間に落とされ、偶然この世界に飛ばされてきたのだ。
そして8カ月前、この世界の日本に飛ばされ、右往左往している所を玉狛支部のミカエル・クローニンに拾われる事になる。
その後、玉狛支部に2カ月程滞在していた。
セクハラまがいな行動を毎度行い、玉狛支部所属の女性陣にぼこぼこにされる毎日を過ごす。
しかし、迅とは妙に気が合っていた。主にセクハラ方面でだが。
その迅だが横島自身の未来だけは予知できなかった。
横島が平行世界の人間だからなのか、霊能者だからなのかは不明だが……。
だが、ボーダーの他のメンバーの未来予知では横島が大いに関った未来で見えていた。
その横島の鬼神の如き活躍を……。
迅はある時、まだ一般人扱いの横島をトリオン兵の襲撃防衛に付き合わせ、その事実を確かめようとしたのだ。
そして、迅は知った。
横島がトリガーを使わずともトリオン兵を屠る力を持っている事を……。
迅は林藤支部長と共に口車にのせ、ボーダーに横島を加入、現在に至る。
「普通に給料がもらえるようになる」
迅は横島の説得に掛かる。
「別にバイトする時間もあるし、高校は奨学金で通わせてもらってるし、支部で住まわせてもらってるし」
まあ、横島は元の世界では時給255円で働いていたのだから、今の方が待遇がずっといいぐらいなのだ。
「何よりも俺のサイドエフェクトがそうすべきだと言っている」
迅のサイドエフェクト未来予知では、次回の遠征はかなり厳しい状態に陥るが、横島が次回の遠征に参加することで、遠征組のメンバーが救われる未来が見えていた。
「また俺を丸め込もうとしてるな!!もう騙されないぞ!!」
「近界に行けるチャンスだ。次の遠征部隊に参加すると、お前の元の世界へ戻る手がかりが見つかる可能性が高い。それに近界は美女が多いらしいし」
尚も迅の説得が続く。
「び、美女!?ああっ、危ない所だった。また口車に乗る所だった」
「悪いようにはしないさ」
「はぁ、ここじゃ元の世界に戻る手がかりも無いしな~。でも、あれってA級隊員じゃないと行けないんじゃなかったっけ?俺まだC級隊員なんだけど」
「今回の防衛の活躍でB級に昇格という事になってる。C級が活躍したってのは本部のメンツにかかわるから、表沙汰にはなってないが、評価はちゃんとしてくれてる。それにB級隊員の中でも実力があれば遠征部隊に選ばれる。それに俺に策がある」
「ということは、どこかの隊に入れるってこと?という事で加古の姉ちゃんの隊でよろしく!!あのおっぱいはすばらしい!!」
「はぁ、お前という奴は、それは無理だ。そもそも加古さんが許してくれない。それにもうセクハラは勘弁してくれ、次は流石に擁護しきれない」
「ちょっと待て!俺はいっつも未遂で終わってるんだぞ!!お前と違ってな!!」
「そうだったっけ?まあ、気にするな。それよりも一番の問題はお前を隊に入れてくれるところがあるかという問題だ」
迅は横島の激しい突っ込みを軽くいなした後、深刻そうに語る。
確かに『痴漢・変態・セクハラの横島』の汚名を持つ横島は、まず、女性が入隊している隊への入隊は絶望的だ。
それだけじゃない、横島の実力は全く知られていないのだ。
快く受け入れてくれる隊などありようも無かった。
「……それって詰んでない?」
横島の遠征への道のりは初っ端から暗雲立ち込めていた。
横島くんはアシュタロス戦後、しばらく経っての横島くんです。
ワールドトリガーの知識が怪しいので、ご指摘お願いします。
投稿は不定期です。