今回は本筋からちょっと離れた。
こんなお話になってます。
星輪女学院
三門市外れ、隣接2市と接し、昭和初期からこの地にある中高一貫のお嬢様学校だ。
凡そ全校生徒600人。
ボーダー提携の学校ではないが、ここにも数人のボーダー隊員が在学している。
2年A組小南桐絵、那須玲、実は桐絵と玲は同じクラスだった。
桐絵はボーダーや玉狛支部に居る時とは違い、学校では猫をかぶりお嬢様風に装っている。
さらに1年B組にはB級柿崎隊のオールラウンダー三つ編み真面目美少女照屋文香。
中等部3年にA級嵐山隊のオールラウンダーツンケン真面目美少女木虎藍。
4人在籍していたのだ。
実は桐絵はああ見えて勉強は出来るのだ。勉強は……頭の中はお花畑なだけで……。
そんな星輪女学院に突如として危険が迫る。
ネイバーが現れたのではない。テロリストに占拠されたのだ。
桐絵や玲、照屋文香に木虎藍はボーダーの中でもやり手の戦闘員だ。
トリガーも普段から携帯しているため、対処も可能に思われたがトリガーを使う間も無く拘束される。
テロリストの目的の一つはこの4人だった。
桐絵と玲は、桐絵は抵抗していたが、玲が人質に取られ拘束される。
照屋文香も木虎藍もトリガーを使う間もなく、拘束されたのだ。
トリガーが無ければ彼女らも普通の女子学生だ。
だが、テロリスト達は、目的の人物を、しかもトリガーを使う間も与えず素早く押さえる手際から、かなり訓練された兵士達だと分かる。
実際、テロリストに偽装した某大国の特殊部隊だった。
目的はトリガーとトリガーを扱う人間の拉致。
トリガーに関する技術は現在、ボーダーが独占し、日本国でもその詳細な実態を知らされていなかった。
トリガー技術は軍事力としても破格な能力である事に世界各国は注目している。
何せ、トリオン体には通常の銃弾は効果が無く、対戦車ライフルさえ無効化しえるのだ。
そして、あの攻撃力に人間離れした身体能力。
ボーダー隊員一人がトマホーク1機分並みの価値、A級上位となるとそれ以上ともいわれる。ボーダー全体の戦力は国の一個師団以上の力を持っているとされていた。
トリガー技術はどこの国も喉から手が出る程欲していたのだ。
今迄もこんな事が数度あったが、ここまで本格的なのは今回が初めてだ。
これまで抑えられていたのはボーダー幹部の外部・営業部長の唐沢克己の高い交渉能力のお陰でもあった。
今回のテロ、表向きはお嬢様学校の生徒の保護者から金を巻き上げるためと称しているが、明らかにボーダーに対しての何らかの要求を行うためのテロだと誰が見てもわかるだろう。
ボーダーは事件発覚後、即対策を練り始めるが、ここぞとばかりに国や自衛隊などが介入を画策してくるため、その対応にも追われる始末。
迅はそんな状況に先行偵察と称し、頼れる相棒を引き連れて現場である星輪女学院へと向かったのだった。
「桐絵ちゃん、ごめんなさい。私のせいで……」
「大丈夫よ玲、照屋も木虎ちゃんも、きっとボーダーの皆が助けに来てくれるわよ」
「そうです。きっと来てくれます」
「………」
玲と桐絵、照屋文香、木虎藍は、校舎3階のコンピュータ室に囚われていた。
全員、後ろ手に手錠を嵌められ、部屋の中央に座らされている。
目の前にはテロリストを装った武装した精鋭兵士が二人、銃を構え4人を監視している。
窓はあるが、カーテンが閉められており、外の様子は分からない。
他の生徒や教職員凡そ600人は体育館と大講義室の2か所に押し込められ人質として囚われていた。
しばらくして……
『パラパラパー、パッパラパーーー!』
何故かトランペットの音色が学内に鳴り響く。
「女子高生の皆さん、私がボーダーきってのエース横島忠夫です!お困りの事があれば何でも僕に相談してください!!」
校舎の屋上に立ち、爽やかな笑顔を振りまき、高校の学ラン姿の横島がトランペット片手に拡声機を使ってこんなとんでもない時にナンパまがいな自己紹介を行ったのだ。
勿論、女子高生達にアピールするためにこんな事を仕出かしたのだ。
しかも、今現在絶賛お困り中の女子高生達に向かって、無神経にも程がある。
その声は、囚われの4人にも聞こえてくる。
「ったく、あいつは何をやってるのよ!!ボーダーの恥をさらすな!!」
「横島さん……」
「え?何?横島さんって、あのトラッパーの?」
「………」
桐絵はそんなアホな横島の言動に突っ込み、玲は横島が来てくれた事に何故かほっとし、文香は何が何だか分からないと言った風、木虎に関しては呆れて言葉も出ないようだ。
「あれ?女子高生の皆はどこ?うわっち!!なんで銃が!?あれ?おわーーーーーっ!!ギャーーーース!!?お助け―――――!!」
銃声と共に横島の雄たけびが拡声器越しに届いてくる
横島は今この星輪女学院で何が起こっているのか把握していないかのようだ。
「あ、あいつ大丈夫かしら?」
「横島さん……」
「え?……」
「………」
さすがの桐絵も横島の心配をし、玲も横島の安否が気になって仕方がないと言った風だ。
文香は横島が銃に撃たれて死んだんじゃないかと青ざめ、藍も何れ自分達もそうなる可能性がある事に気が沈む。
だが、しばらくして。
「何にも知らんかったんやーーー!!かんにんやーーー!!ちょっとした出来心やったんやーーー!!だからボーダー関係ないんやーーー!!」
こんな横島の泣き叫ぶ声が桐絵たちに廊下越しに聞こえてくる。
横島が無事である事に桐絵も玲もホッとする。
そして、
「おわっち!!」
横島は桐絵たちが囚われているコンピュータ室に、兵士に蹴り飛ばされ放り込まれるが……
「ななななにやってるの横島!あんた何でそんな恰好なのよ!!」
「きゃっ!?横島さん?」
「え?ええ?な何?」
「……きゃ!?」
桐絵は顔を真っ赤にし、玲はほのかに顔を赤らめ、文香は何が起こってるのかわからず混乱、藍も顔を赤くして珍しく可愛らしい声を上げていた。
横島は顔が変わる程ボコボコにされてはいたが、皆が驚いたのはそこじゃない。
パンツ一丁だったのだ!
まあ、怪しい奴な上に、ボーダーを名乗っていたため、トリガーや通信機等を持っていないか身ぐるみをはがされたというのが経緯なのだが……。
あの銃声の中、よく銃弾一つ浴びずに生きて居られたものだ。
「そいつをあっちの柱にでも括っておけ、トリガーも通信機も持っていなかった。奴ら(ボーダー)の使いか斥候かと思ったが唯のバカだった。ボーダーの隊員リストに載っていた奴だ、こいつも拘束しておく」
横島を連れて来た兵士が、桐絵たちを監視している兵士にそう命令し、部屋を後にする。
兵士の一人が横島を桐絵たちから5m程離れた柱に縄でぐるぐる巻きにして縛り付ける。
「あはははっ、あれ?皆も捕まっちゃった?」
青白の縦縞トランクス一丁で傷だらけの横島は、括られたまま皆にこんな感じの軽い挨拶をする。
「ななななな、なんで裸なのよ!助けに来たんじゃないの!!」
「よ、横島さん。大丈夫なんですか?」
「その、あの」
「………ん」
桐絵はどうやら横島が裸のまま助けに来たと思ったらしい、玲は恥ずかしそうにパンツ一丁の横島をチラッと見、気遣う。
文香はこの状況に混乱したまま、藍は半裸の横島を直視できずに目を瞑る。
「静かにしろ」
監視の兵士の一人が横島の眉間に銃口を当て、もう一人は4人に銃口を向ける。
しばらく、コンピュータ室に沈黙が訪れるが……。
横島は監視の目がこちらに向いていない時に、足をヨガか何かのようにくねらせ、体を括っているロープを足の指を使って器用に解こうとしていた。
監視の目が横島に向くと同時にその行動をピタと収め、まるでだるまさんが転んだかのような感じで行っていたのだ。
傍から見ればギャグにしか見えない。
桐絵は横島の真似をしようと足を上げてみるが、勿論無理だった。
玲は横島の行動がバレないかはらはらする。
文香も玲と同じくはらはらと見ていた。
藍は「ぷっ!?」
横島の行動が滑稽に映ったのか、つい笑いが漏れる。
その様子に兵の一人が訝し気に思い、横島に銃口を向け。
「お前、何かやっているのか?おかしな行動をとるなよ」
「いや~背中がかゆくて、このロープ緩めてくれないっすか?」
「ふん、我慢しろ!」
どうやら、横島がロープを解こうとしたことがバレずに済んだようだ。
また、しばらくすると……
「交代の時間だってさ」
ひと際図体がでかい兵士が現れ、監視の兵士二人にこう告げた。
「もう一人の奴はどうした?二人一組だといわれなかったか?」
監視の兵士の一人が訝し気にその図体のデカい兵士に少々キツメに問いかける。
「トイレだ。なんか漏れそうとか言ってな、けへへへへ、腹でも壊したんじゃねーの、待ってるのが面倒くさいから、俺は先に来ただけ。うんこが終われば直ぐに来るんじゃね?」
「ふ~、何故こんな繊細な作戦にこいつを呼んだんだ?言っておくが、サボるなよ。それと人質に手を出すな。わかったな」
「へいへい、わーってるよ。会議なんだろ?さっさと行った方がいいんじゃね」
この兵士、見るからに素行が悪そうだ。
仲間内からもそう言う認識の様だ。
「仕方がないか」
そう言って、先ほどまで監視していた兵士二人はコンピュータ室から出て行き、素行の悪そうな図体がでかい兵士はズカズカと部屋に悪態をつきながら入って来る。
「気取りやがって、今度、後ろから撃ってやろうか」
「ん?ガキだと聞いていたが、一人上玉がいるじゃねーか」
素行の悪い兵士は、そう言って人質となった4人に近づき、玲の前でしゃがみ、顔を覗き込む。
確かに4人とも美少女ではあるが、玲以外は子供っぽさが抜けていない。
玲は同じ世代の女子の中でも大人びた顔立ちをしていた。
「………」
「ちょ、あんた何!?」
玲はビクッと肩を震わせ、桐絵はその行為に文句を言おうとする。
「よー、姉ちゃん。暇だし遊ばねーか?勿論大人の遊びだけどな……げへへへへ」
そう言って、素行の悪い兵士は玲の顎に手をかけ、顔を上げさせ、下卑た笑みで玲の顔をなめるように見つめる。
「うっ……」
「玲に触るな!!」
玲は顔を顰め、桐絵は叫ぶ。
そして素行の悪い兵士の手は玲の肩に伸びようとしていた。
だが突然、素行の悪い兵士と玲の間に影が走る。
「おっさん、玲ちゃんに何をするつもりだ!?」
何時の間にか横島が現れ、素行の悪い兵士の鼻の穴に指二本突っ込み、そのまま持ち上げていたのだ。
横島の口調は軽いものの、その目は真剣そのものだった。
「え?なに?」
「よ、横島さん……」
桐絵は一瞬の事で理解が追い付かない。横島が急にその場に現れたかのように目に映ったのだ。玲も一瞬何が起きたかわからなかったが、目の前の背中が横島だという事だけは理解出来た。
他の二人もこの状況に驚きを隠せない。
「ふごごおご、おおお前いつの間に!?ほ、ほのーーーやろーーー!!」
当の素行の悪い兵士も何が起きたかわからなかったのだが、苦し気に銃を腰のホルスターから抜き、目の前の横島に撃とうとする。
だが、横島は兵士が銃を抜く前にすかさず頭突きをかました。
「ふん!」
「ぐぼっはっ!?」
横島の頭突きで素行の悪い兵士は鼻血を出しながら、白目を剥いてその巨体は崩れるように倒れた。
「ふっ、玲ちゃん大丈夫だった?」
横島は兵士の鼻に突っ込んでいた指をその兵士の服で拭いてから、兵士が装備していたコンバットナイフを奪い、玲の縄を切る。
「……横島さんありがとう……でも」
玲は涙目でお礼を言うが、顔を赤らめ視線を横に逸らす。
「えっと、修の友達の木虎ちゃんだっけ」
「友達じゃないです。……その助けてくれてありがとうございます」
横島は次に藍の縄を切り、気恥しそうに視線を逸らしながら礼を言う。
「三つ編みが似合う照屋文香ちゃん、僕!横島、よろしく!!こんな所じゃなかったら、喫茶店にお誘いしてました!!だから後日で!!」
「え?ええ?あの、その……ありがとうございます」
そして、文香にはナンパをしながら縄を切る。
文香は戸惑いながらも視線をずらし、礼を言う。
「あんた場所を弁えろ!!早く私の縄も切れ!!」
「小南、しーーーっ。大声出すなって、……ふう、外に漏れてないよな」
「ご、ごめん。でも助かったわ……」
最後に小南に突っ込みを入れられながら縄を切る横島。
「ふぅ、みんな無事でよかった」
横島はニカっとした笑顔を皆に向ける。
実は横島は迅と共に皆を助けるためにここに来た、囚われの4人の状況を探り、又は助けるために、ワザと目立ち捕まったのだ。
途中経過はさておき、横島はヒーローの様に美少女のピンチを華麗に救ってみせたのだ。
間違いなく男としてかっこいい場面である。
だが、小南はある一点を指摘する。
「ととところであんた何でパンツ一丁なのよ……なな何かの作戦なの?」
そう、横島はパンツ一丁なのだ。皆は横島の姿を直視できず、礼を言う時も視線を逸らしていたのだ。
「……あれ?」
かっこよく美少女たちを救っても、しまらない横島。
きっとギャグの神様は彼をシリアスのヒーローにしたくはないのだろう。
だが、ピンチはまだ続く。
星輪女学院編は前後編で終わらせたい。