続きです。
時間を遡る。
迅と横島は星輪女学院がテロリストに占拠された事を知り、忍田本部長の許可を得て、先行偵察として、星輪女学院に向かったのだった。
ボーダー本部はそれ以外にもスナイパー数人を現場に向かわせ待機させる。
ボーダー本部では対策を講じようとするが、ここぞとばかりに国や自衛隊、警察などが介入しようと、やれボーダーの責任問題やら合同作戦やら、管轄問題やらと圧力をかけ、それの対処にも追われる羽目になっていたのだ。
そこで、国などの要求に一応配慮する形で、先に偵察と地域住人の安全確保という名目で、迅、横島組とスナイパー隊を送り込んだのだ。
忍田としては、国などの介入する前に、迅にその戦力で何とか先に解決してほしいという願いも込めていた。
迅のサイドエフェクト未来予知も万能ではない。
迅のサイドエフェクトで見えた未来予知では、星輪女学院がテロリストに占拠される可能性は非常に低く、しかもここまで大規模となるなど、確率はゼロに近かったため、見逃していたのだ。
「横島、星輪女学院がテロリストに占拠された。ボーダー本部は国や他の組織の介入で動きが取りづらい。俺達で何とかしないといけない状況だ」
迅は横島を大型バイクの後ろに乗せ、移動しながらヘルメット通信越しに、横島に状況と経緯を話しだす。
「じょ、女!子!学!いーーーん!!きたーーーーっ!!」
横島に女子高は危険な気がする。
羊の檻に狼を送り込むに等しい行為だろう。
「……はぁ、お前は気楽でいいよな」
「迅、これってテロリストの立てこもり事件なんだろ?警察とかの仕事じゃないのか?ボーダー関係あんの?それは置いといて、女子高生の皆が待ってるから、絶対行くけど!」
「テロリストが占拠してる星輪女学院はボーダーと提携していない学校だが、小南、那須、照屋、木虎の4人が在籍している。奴らは星輪女学院の経営陣に対し、人質交換として金品を要求しているが、目的は、トリガーと4人の拉致だろう。トリガーについては安全装置が作動し、内部情報は遮断できる。トリガー自身の構造は既に外部に漏れているが、その内部の仕組みはまでは解明できていない。何せトリオン体の理論は現代科学とは全く異なるからな。予想ではそのうち、ボーダーに技術提供を要求して来るだろう。ボーダー4人と星輪女学院生徒全員と引き換えに、もしボーダーが要求をのまなければ、4人をそのまま拉致、女学院にも大きな被害が出るだろう。その事でボーダーは市民や国民からの非難を浴び、活動は大幅に制限され、最悪ボーダーは存続できなくなる。ボーダーの解体、それも狙いにあるかもしれない。それに今回のテロはテロリストを装った大国の特殊部隊の可能性が高いと忍田さんも言っていた。余りにも動きが速いと。何処の国もトリガーの軍事利用をと考えているだろうから当然と言えば当然だが……」
迅は一気に重要な事を横島に語る。
「はぁ、権力争いとか政治的意図とか軍事バランスとかで、そんな事に?どこの世界でも一緒なんだな。まあ、俺には関係ないけど」
横島がいた元の世界でも同じような事が起こっていた。
しかも、神や悪魔といった高次元の存在すらも似たようなものだった。
「小南達はもちろん、生徒達や教職員誰一人も怪我をさせずに、迅速にテロリストを排除しなくちゃならない」
「小南がいるのになんでそんな事に?いっちゃなんだが、玲ちゃんもかなりの使い手だぞ。そんなあっさり捕まるか?」
横島がそう言うのも無理もない。前述通りトリオン体となったボーダー隊員にテロリスト如きが対抗できるものではない。ましてやボーダートップクラスの実力者である桐絵もいたのだ。
「トリガーが無ければ小南も普通の女子高生だ。それに那須ちゃん本人は病弱だ。テロリストはトリガーを使わす前に捕らえたという事だ。相手はかなりの手練れた連中ってことだな。忍田さんが言う通りテロリストを装った大国の特殊部隊の可能性は非常に高い」
迅が言う通り、忍田の予想は当たっていた。
「そう言う事か」
「横島、正直俺はテロリスト相手、要するにトリオン体ではない人間相手の戦い方なんてものは経験が浅い。何かいい案はあるか?」
「そうだな。現地行ってから考えるか、とりあえず状況を知らないと何にも始められないし」
迅と横島はそうこうしている内に星輪女学院近辺に到着する。
横島と迅は先ずは星輪女学院近辺の雑居ビルの屋上から様子を見る事にした。
横島は手の平からビー玉サイズの水晶のような物を二個生成する。
「よっと、うーん、結構テロリストって居るよな」
小さな水晶には一個には『拡』の文字がもう一個には『探』の字が浮かび上がっていた。
これは横島の霊能の究極術儀『文珠』、神の権能に匹敵する能力を持つとされている。
この珠にイメージを文字一文字に念じる事で、さまざまな事象を起こす事が出来る破格の能力だ。
横島は修行の末、最大文殊一個につき二文字を念じ込め、さらに複数を一斉に発動できるようになっていた。
今回の『拡』の文字で、横島の霊能力の一部である霊視や霊感を拡張し、『探』の文字で星輪女学院を占拠するテロリストを探知したのだ。
「あーあ、納品業者っぽい奴に変装してる奴もいる。テロリストは28人ってとこか、結構いるな~。おっと、小南と玲ちゃん見っけ、このかわいい子は照屋ちゃんで、こっちの子は修の友達の子だ。しっかりと監視付きか、この4人を重視してるってことは、やっぱボーダー狙いだよな」
「トリガー無しにそんな事までわかるのか?凄まじい能力だな」
迅は平然とこんな高度な事をやってのける横島に、かなわないなと言わんばかりに首を振る。
「うーん、やっぱ相手は結構慣れてる連中だ。外からの狙撃に備えてるし、人質の位置もいい。下手に狙撃したら人質もろともって感じだ」
「配置とかわかるか?」
迅はタブレットPCを出し、星輪女学院の校内マップを映し出し、横島にテロリストと人質の位置を確認する。
迅と横島は状況確認を行っていき、横島は幾つかのプランを迅に提案し、一番良さそうな作戦を横島が勧める。
「というわけでこんな感じで俺が内部に潜入して、小南達を救出するのが先決かな」
「ボーダー本部には警察や自衛隊が動かない様に抑えてもらうが、それ程時間は稼げないだろう。ボーダーの人員もこちらに回せる人数も少ない。スナイパーの人数がもう少し欲しいところだが、俺の方でこれは何とかする」
「内部かく乱は任せろ、そういうの超得意」
「校舎の外の連中はスナイパーで一掃、体育館の人質解放は俺とスナイパー二人いれば何とかなりそうだ」
「じゃあ俺は、大会議室の方だな」
横島と迅は星輪女学院人質解放作戦を詰めていく。
「人質解放と狙撃のタイミングは合わせる必要があるが……」
「これ渡しておく、これで俺と迅はトリオン体通信と同じような念話がしばらく出来る」
「ほんと、万能だな」
横島は『念』と『話』の文字が浮かび上がった文珠を生成し、『念』の珠を飲み込み、『話』の珠を迅に渡す。
そして、作戦を実行し、横島はワザとテロリストに捕まり、小南と合流出来たのだ。
ただ、パンツ一丁なのは予想外だが……。
テロリストもまさかトリガーや装備品らしい装備など一切持っていない物凄く変な奴が切り札だとは思っていないだろう。
だが、流石は精鋭部隊、一応マニュアル通り、斥候や内部偵察の可能性を考慮し、身ぐるみを全部剥がし、確実に拘束するためにロープです巻きにまでして柱に括ったのだ。
普通であれば、何も出来ようがないのだが……。
この横島という男、ロープで縛られたり吊るされたり、括られたりする経験はマジシャンやSM男優よりも多いだろう。主に元上司(美神令子)のせいで……。
この程度の縄抜けなどこの男にとってどうという事はない。
靴紐の蝶々結びを解くのとあまり変わらないのだ。
横島は監視役の下衆兵士を頭突きで倒し、4人を開放した後、
「よっと、これでよし」
横島は倒した下衆兵士をテキパキとロープでぐるぐる巻きにして、兵士が持っていた銃をケツの穴に突っ込み、さらに兵士の額に変態ですとマジックでキュキュと書き、満足そうに頷く。
「………あんた、何でパンツのままなのよ。その兵士の服を奪っちゃえばいいじゃない」
そんな横島の様子を見て、桐絵は疑問の声を上げる。
「おっ?忘れてた。もう、縛っちゃったし」
どうやら、横島は自分が半裸である事を忘れていたようだ。
「あ、あんたの裸見たところで、ど、どうってことないんだから!」
桐絵は若干顔を赤らめながら、こんな事を言う。
いわゆるツンデレって奴だろう。
「横島さん、寒くないですか?これを……」
校舎は冷暖房が効いているとはいえ、今は2月中旬だ。まだ、外はかなり寒い。
玲は横島に制服のカーディガンを渡そうとする。
「ははははっ!大丈夫だって、それに玲ちゃんの方こそ、無理してるんじゃない」
玲はかなり病弱だ。体育の時間はほぼ休んでいるぐらいなのだ。
「これからどうするの?横島」
小南がそう横島に聞くと、玲は顔を赤らめながら、照屋文香、木虎藍は不安と恥ずかしさが入り混じったような表情で、半裸の横島の方を向く。
どうやら、皆もその事が聞きたかったようだ。
「迅が今動いてくれてる」
横島はこの一言で答える。
この一言だけで、小南や玲達は安堵の表情を浮かべる。
迅は小南にとってはもっとも頼れる仲間であり、玲達にとっては絶対的なエースだからだ。
迅だったら何とかしてくれるという思いが皆の心の中にはあるだろう。
「それじゃ、私達はあのむかつくテロリストを倒せばいいのね!」
何故か桐絵はこの話の流れでこう結論づけたのだ。
桐絵の中では、迅が裏で動いて、正面で戦うのは自分の役目だと、自然にそう思っていたためだ。
「桐絵ちゃん、私達、トリガー奪われたままだから……」
「先輩、トリガーありませんよ」
「小南先輩、それは流石に厳しいのでは」
玲は苦笑気味に、文香は真面目に、藍は呆れ気味に小南にそれぞれに突っ込まれる。
「うきーーーっ!そうだった!あいつらーーーー!!」
桐絵は両手で頭を抑え叫ぶ。
どうやらトリガーを奪われたままだった事を忘れていたようだ。
「小南、しーーーっ!」
横島は慌てて小南を黙らせる。
横島はこんな残念美少女である小南を他の女子とは異なる扱いをしている。
出会った当初こそセクハラを敢行していたが、小南のこの性格からかなりの年下扱いというか、元の世界の弟子であるシロ(精神年齢小学高学年)とほぼ同じ扱いであった。
玲も文香も慌てて小南の口を抑えに行き、藍もガムテープで小南の口を塞いでやろうかと本気で考えていた。
小南はどうやら、解放された安堵とトリガーを奪われた怒りで、テロリストに占拠されてる今の状況を忘れていたようだ。
すると、廊下から誰かが走って来る足音が近づいてくる。
恐らく、ここに変態と額に掛かれた下衆兵士の相方だろう。
「小南先輩が声を上げるから」
藍は桐絵に目を鋭くして注意する。
「ご、ごめんて。でも挽回するわよ」
桐絵は謝りながら、机を持ち上げ構え兵士がこの部屋に入ったら殴りつけるつもりだ。
相変わらずポジティブというかなんというか……
「ふぅ、静かに頭を伏せて……」
横島が玲達に小声で指示すると、机の物陰に皆は頭を下げ隠れる。
机を持ったまま前に出ようとするのを、藍と文香は桐絵の服の裾を引っ張り抑える。
ガラリと扉が開くと若そうな兵士が、謝りながら入って来る。どうやら小南の叫び声は聞こえていなかったようだ。
「フレッドさん、お待たせしました、いや~うんこが渋っちゃって……おわーーーーっ!!ぶっ!?」
だが、教室の扉を開き一歩踏み込んだところ、足に縄が絡まり、そのまま顔面から床に豪快に倒れる。
横島は入口付近の床に縄で足罠を仕掛けていたのだ。
若い兵士が片足を部屋に踏み込んだ瞬間、タイミングよく足罠の縄を引っ張り、転ばせたのだ。
「美神流緊縛術なんちって!小南~殴っていいぞ。机は死んじゃうかもしれないから、そこの箒でな!」
「OK、横島!」
「な、なんだ君たちは?何をする!?うわっ!やめっ!?」
横島は師匠であり上司である美神令子張りの縄捌きで倒れた兵士をあっという間にグルグル巻きに拘束し、小南がそこにあった箒で一撃を加えると、兵士はあっさり気絶する。
普通の女子高生ではこうもあっさり兵士を気絶させる事は出来ないだろう。
小南は頭の中はお花畑のようにふわふわだが、戦闘センスの塊のような少女だった。
「玲ちゃん達、もう大丈夫」
その横島の声で、机の影からこちらの様子を伺っていた玲と文香と藍は、ホッとした表情をし、横島と桐絵の元に歩む。
「トリガー無しで……。凄いわ横島さん」
「あっという間に……やはり凄いトラッパーなんですね」
横島のあっという間の捕縛劇に、玲は感心と尊敬の眼差しを、文香は驚きと感心の眼差しを横島に向ける。
但し、今も横島はパンツ一丁のままだ。
しかし……
「横島さん、あなたは何者?」
藍だけは、横島に疑いの目を向けていた。
なんか、上中下で終わらせたいけど、長くなりそうで怖い。
ランク戦の続きもやりたいな。