やっとランク戦に復帰!
では……
「本日のランク戦第6戦中級夜の部を、実況は風間隊オペレーターの三上歌歩がお送りいたします。解説にはA級冬島隊、冬島隊長。同じくA級嵐山隊から嵐山隊長にお越しいただきました」
少々幼い顔立ちの小柄な美少女、三上歌歩は落ち着いた雰囲気で実況を開始する。
ステルス機動を行うA級風間隊を導く実力派高性能オペレーターでもある。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
冬島慎次と嵐山准はそれぞれ挨拶をする。
「本日の対戦はB級10位諏訪隊、B級11位荒船隊、今回B級中位に上がって来ました14位横島隊となっております。注目はトラッパーでありながら一人という常識では考えられない編成で圧倒的な勝利で勝ち上がって来た横島隊、横島隊長ですが、果たして中位以上では通用するのでしょうか?」
「確かに意表を突いた作戦で今迄は勝ち進んできた。だが横島のトラッパーとしての能力、作戦、戦術、戦場での立ち回りを見てもかなり出来る奴だという事はわかる」
同じトラッパーである冬島の横島の評価はかなり高い。
「なるほど、B級中位でも十分通用すると、では嵐山隊長はどう思われますか?」
「B級中位からは実力者が揃ってます。横島隊長のトラップ対策も十分練ってきているハズです。諏訪隊と荒船隊がどのような対策を練ってきているのか、その状況で横島隊長がどう立ち回るのかを注目したいところです」
嵐山は相変わらず無難な回答をさわやかな笑顔を交えて答える。
だが、嵐山は横島が並みの隊員ではない事を感じていた。
先日の星輪女学院でのテロ事件で、隊員の木虎藍を救出したのが横島だった。
藍から話を聞こうとしたのだが、詳しい内容は聞けなかった。
ボーダー本部から政治的要素が強い案件なため、情報規制が掛っており、横島がトリガー無しで成し遂げた事も藍は詳しく話せないのだ。
ただ藍からは、「横島先輩は普通じゃない」と真剣な眼差しで語っていた事が印象深く残っている。
大概、横島が普通じゃないと聞けば、普段の『痴漢・変態・セクハラの横島』の印象で納得するが、嵐山は藍の様子に、藍が認めるぐらいのかなりの実力者であると感じていたのだ。
「マップ選択権を持っている横島隊が選んだマップは市街地Cです。これはB級中位第二戦、諏訪隊、荒船隊、玉狛第2三雲隊との対戦で三雲隊が選択した高低差のある丘陵斜面の市街地マップです。この戦いでは三雲隊の作戦が見事に決まり勝利いたしました。今回、諏訪隊、荒船隊は同じくして、玉狛支部の出向という形でランク戦に参加している横島隊と、シチュエーションは酷似しておりますね」
三上歌歩は選択されたマップを過去の対戦例を元に説明する。
「ふう、このマップをわざわざ選んで来るか?よっぽど横島隊に何かの作戦があるのだろう。スナイパーが斜度の上を取れば全体が見渡せる上に、傾斜の途中に横たわるように道が何本も挟み、上に進もうとすればスナイパーには丸見えとなる。遠距離攻撃で一方的にトラッパーに仕事をさせない事も出来るマップだ」
冬島は横島隊が選択したマップはスナイパーとの相性で圧倒的に不利なマップである事を説明する。
「成る程、全員スナイパーの荒船隊が圧倒的な有利なマップという事ですね。ですがその有利を逆手にとって、前回は三雲隊自らが囮になりつつ、諏訪隊と荒船隊を戦わせて漁夫の利を得る作戦勝ちをしております。それを踏まえて、ここは先に両隊とも横島隊長を先に排除する構えを見せるのでしょうか?」
三上歌歩の問いに嵐山、冬島が次々と答える。
「そうはならないでしょう。何せ横島隊は一人で、しかもトラッパーですので直接攻撃手段がないです。トラッパーにとってもスナイパーは天敵です。ガンナー2人、アタッカー1人の中近距離主体の諏訪隊もスナイパー編成の荒船隊に上を取られればなかなか手が出せないでしょう。横島隊長と諏訪隊4人を相手したとしても荒船隊の優位な状況は変わりません」
「俺も嵐山に同意だ。マップや相手の編成に至るまで荒船隊優位だ。諏訪隊や横島が如何に荒船隊にマップの上方に陣取らせないかがカギになる。だが、このマップは全体が広々と斜度となっている。4部隊の対戦であれば荒船隊に上を取らせないように出来るかもしれないが3部隊、しかも1部隊は1人だ。この人数では難しいだろう。諏訪隊は荒船隊よりも先に上方のどこかに陣取れればいいが、いずれにしろ我慢を相当強いられる戦いにはなる。開始直後の転送位置次第では荒船隊の一方的な展開になりうるだろうな」
「嵐山隊長、冬島隊長の両隊長とも同意見ですね。荒船隊が圧倒的に優位となると予想、しかし、それを選んだ横島隊長も不利な状況はわかっているはずです。果たして横島隊長にはどのような作戦があるのでしょうか?」
その頃、荒船隊の作戦室では……
「こちらが圧倒的な有利なマップだ。横島が何故このマップを選んだのかは不明だ。何らかの作戦があるのだろう。だが、奴は所詮トラッパーだ。射程は極端に短い上に待ちの戦法が基本だ。罠を張った間合い(テリトリー)に入らなければ問題ない。だが、奴は意外と動く、諏訪隊が乱戦を仕掛けに来た際に、距離を詰めてトラップを仕掛けて来るだろう」
荒船隊隊長荒船哲次(18歳)は他の隊員に現状を説明する。
「あの落とし穴トラップは厄介よ。構造はトラッパーのホール、ホールドア、マインの三つの組み合わせで出来たトラップよ。マイン(地雷)だけであれば見えない事もなかったのだけど、あのホールとホールドアの落とし穴はマインを隠すためのものなの、落とし穴自体は巧妙に景色に溶け込んでいるため設置位置はわからないわ。スポッターの尼倉さんにも聞いたのだけど、通常のレーダーにも映らない代物らしいわ」
オペレーターの加賀美倫(18歳)はトラッパー横島の代名詞となりつつある落とし穴について説明する。
「うわっ、それだるいっすね」
荒船隊唯一の年下である半崎義人(16歳)はめんどくさそうに言う。
「見え難いが、見えなくなった程度だ。それはあまり変わらない。ようは横島が罠を仕掛けているだろうテリトリーに踏み込まなければ問題ない。その辺は加賀美に横島の行動範囲を予想演算してもらう。半崎には加賀美の指示で横島の行動の監視だ。横島の対処は奴のテリトリーに踏み込まない事と、近づけさせない事だ。奴に遠・中距離どころか直接近接攻撃も無い、罠さえ気を付ければ、何をしてこようと問題ない」
荒船はそう言って、加賀美と半崎に指示を出す。
「了解よ」
「ういっす」
「諏訪隊の対処は俺と荒船か」
穂刈篤(18歳)は大きく頷く。
「前対戦の三雲隊のように横島が囮となる事はない。トラッパーは基本自ら姿を現す事は無い。諏訪隊は単独でこちらに距離を詰めなくてはならない。冷静に対処すれば問題はない。今回は全ポイントを取りに行く」
荒船はそう説明し作戦会議を終える。
一方、諏訪隊の作戦室では……。
「かったりーな。くそったれ―!横島の奴、なんでこんなマップを選びやがった!」
火のついていない煙草をくわえながら、諏訪隊隊長諏訪洸太郎(21歳:ガンナー)は悪態をついていた。
作戦室では禁煙らしい。
「あーそれね。圧倒的に荒船隊が有利だよね~。どうしよっか?」
棒付き飴玉をくわえたままの美少女、オペレーターの小佐野瑠衣(17歳)は間延びした口調で年上の諏訪に対し、ため口で答える。
因みに、中学まではジュニアファッションモデルだった経歴がある。
こんな彼女だが、意外にもオペレーター能力は非常に高かった。
「横島の奴はああ見えて冬島さんがその実力を認めてるトラッパーだ。下手にこちらから近づくのはヤバい。奴の縄張りには入るのは危険だ。小佐野、奴の行動範囲とトラップ位置の予想を頼んだぞ」
「了~。任せて~」
「何れにしろ、荒船隊とは正面から戦う羽目になりますね。如何に荒船隊と距離を詰めるかが問題か、小佐野さん、ルート選択はお願いします。しかし横島がこのマップを選んだ意図がまったく分からないのが痛い」
菩薩の堤、そう呼ばれるほどの温厚な表情に丁寧な口調の堤大地(20歳:ガンナー)は横島をかなり警戒しているようだ。
「おっけー、つつみん」
小佐野瑠衣は先輩の堤に対してもため口で、しかもあだ名呼びで返事をする。
「では、作戦はいつも通りですか」
笹森日佐人(16歳:アタッカー)は皆に聞く。
「その通りだ日佐人。横島はとりあえず無視だ。荒船隊が警戒して奴を釘付けにするはずだ。横島の縄張りにさえ足を踏み込まなければいい、その辺は小佐野が上手くフォローしてくれる。とりあえずは上を取りに行くだろう荒船隊を合流しつつ追いかけ、近接で一気に肩を付ける」
諏訪は初動の動きを決め、作戦会議を閉める。
一方、横島隊の作戦室では……
「迅、何で揚げせんの箱が積んであるんだ?どんだけ好きなんだよお前?」
「いいじゃん、作戦室には二人しかいないし、別に狭くないだろ?お前だって、何でエロビデのレンタルDVDこんなに置いてあるんだ?寮で見ろよ」
「作戦室のテレビって滅茶デカいから大迫力だからだ!!」
「……お前、女の子のオペレーターや隊員を入れるつもりないだろ?」
「そうだった!片付けなくては、辞書の外箱に隠してと」
「さっさとレンタル店に返して来いよ。それにパソコンの配信とかであるんだろ、そう言うの」
「いや~、レンタル店でコソコソ借りるのってなんか楽しくない?」
作戦らしい作戦会議などせず、くだらない雑談ばかりしていた。
「それでお前、なんでわざわざ不利なマップ選んだんだ?」
迅は横島にようやくここで作戦について聞く。
「全然不利じゃないぞ。俺としては美味しいマップだ。それに相手は結構ベテランだし、警戒してくれるんだろ?」
横島にはどうやら、ボーダーのランク戦のセオリーが通じないようだ。
「お前って奴は」
迅は呆れるやら頼もしいやらとそんな感じの感情が渦巻いていた。
玉狛支部では、今日のB級ランク戦上位昼の部で勝利した三雲隊の面々とボーダー入りが決まり入隊日を明日に控えたヒュース、学校帰りの桐絵に陽太郎たちが、横島達のランク戦中継を見守る。
開始は次回……