それではランク戦の続きを……。
「各隊転送開始されました。それでは本日B級第6戦中級夜の部ランク戦開始です」
実況の三上歌歩が落ち着いた声色でそう宣言し、荒船隊、諏訪隊、横島隊によるランク戦が開始される。
荒船隊は荒船だけが傾斜のある市街地の中腹から下方に転送され、荒船はオペレーターの加賀美倫に状況を確認する。
「荒船君だけ離れてる。穂刈君と半崎君は上の方で比較的近い場所に転送されてるわ」
「了解だ。加賀美、穂刈と半崎には先に上を取り、作戦通り穂刈は諏訪隊、半崎には横島の動向監視するように伝えろ。横島と諏訪隊の転送状況は?」
「了解よ。諏訪隊、横島隊共に開始早々バッグワームを機動して、正確な位置は分からないわ。ただ、穂刈君と半崎君の転送位置から諏訪隊と横島隊長はかなり近い位置よ」
「そのまま、やり合えといいたいが、諏訪隊も上を取りに来るだろう」
「あっ、穂刈君が諏訪さんと笹森君を中腹で確認。射撃を開始。」
「わかった。位置を諏訪さんと笹森の位置を頼む。上に登りつつ穂刈と連携し、諏訪隊をその場に釘付けにする。堤さんがまだ見えないか……諏訪さん達を囮にして、堤さんは単独で穂刈を狙うつもりなのかもしれん。穂刈に警戒を促してくれ」
「了解よ。横島隊長はまだ目視で確認できていないけど、諏訪さんと笹森君が早期に合流出来たのだから、横島隊長の転送位置は中腹から下方だと予想が付くわ。予想転送位置から行動範囲をマッピングするわね」
「了解だ」
一方、諏訪隊は……
「上は取れなかったけど、皆意外と近いよ~」
「合流はすんなりいけそうだな。だが、この分だと荒船達の誰かは上の方に転送されてるだろうな。ちっ、めんどくせー!俺と笹森で合流し街中を突っ走って上に行く、堤は荒船達を警戒させるために見つからない様に外延から移動させろ」
「おっけー。つつみんにルートを送っておくね~」
諏訪隊は諏訪と笹森が傾斜の中腹で隣に転送され、堤はやや下方に転送されたが、お互い近い位置だった。
「よし、こっちは笹森と合流した、こっから一気に登るぞ。小佐野、横島の位置はどうだ?」
「うーん。下の方じゃないかな~、勘だけど」
「勘かよ!?」
「もしエロシマン(小佐野が勝手に横島に付けたあだ名)が上に転送されたとしたら、エロシマンと荒船の誰かがかち合うじゃん。そうなると、こっちは上に行きやすいけど。なんかそうはならないんじゃないかな~」
「なんだそりゃ?……っと、やべっ!上から狙撃かよ!?ということは小佐野の勘が当たったのか?荒船隊が上を陣取ったって思った方が良さそうだな……クッソめんどくせー!小佐野っ、今の狙撃で凡その位置は分かるか?」
「ちょっと待って~」
「笹森、ちょっと引き気味に登るぞ!」
諏訪と笹森は合流し、上へと街中の細い路地を登っていたが、荒船隊の穂刈に位置がバレ、狙撃を受けるも、ギリギリ回避し少々削られはしたが戦闘に支障がない程度だった。
実況席では、隊の状況が全て見えていた。
「荒船隊の転送位置は穂刈隊員と半崎隊員が上方の近い位置、荒船隊長は右端のやや下方ですね。一方、諏訪隊は全員ほぼ中腹付近、諏訪隊長と笹森隊員が直ぐに合流出来る位置ですね。横島隊長は最も下の位置です。全員バッグワームを起動しました」
「ふう、見事荒船優位の転送位置だな。横島は運が無かった。トラッパーのスイッチボックス本体を起動させたとしても、トラップ設置の範囲に全く届かない。上方で陣取る荒船隊とそれを追う諏訪隊に攻撃を仕掛けようにも、この斜度を登らなければ始まらない。バッグワームで移動したとしても途中に開けた道路を越えなければならない。上を取ったスナイパーには丸見えだ。さすがに圧倒的に不利だな」
冬島は横島の転送位置で不利を被っている事を指摘する。
トラッパーのトリガースイッチボックス本体はアタッシュケース状の分厚いノートパソコンのような形状をしている。
スイッチボックスは本来ノートパソコンのように開き画面を見ながら操作しトラップの設定や設置を行う。
しかも、マッピング記録をしてあれば、ある程度の射程範囲でトラップを設置することが可能なのだ。
しかし、その反面、その間は落ち着いて腰を下ろし画面を見ながら作業をしなくてはならないため、かなり無防備となる。前線や乱戦状態などではこのような作業は出来ようもない。
だが、スイッチボックスを開かなくとも、直接手で触れられる範囲の距離であれば、予め設定していたトラップは設置可能となっている。
横島は今迄、スイッチボックス本体を開く事なく直接トラップを仕掛けていた。
「諏訪隊も直ぐに合流出来る良い位置ですね。諏訪隊も荒船隊長が上方にたどり着く前に、上の一角を取るか、一気に距離を詰め数で押せば優位がとれます」
嵐山はこの転送位置は諏訪隊にもチャンスが大きいと解説する。
「荒船隊の穂刈隊員が合流し上を目指す諏訪隊長と笹森隊員を捕らえスナイピング。諏訪隊長は間一髪で避ける。多少被弾しましたが、戦闘に問題ないレベルですね」
歌歩は淡々と実況を進めていく。
「ここで荒船隊長も上方に到達、諏訪隊の諏訪隊長と笹森隊員は引き気味にスナイパーの射線を切りながら上を目指しております。諏訪隊の堤隊員は慎重に移動、まだ荒船隊に捕らえられていない模様。横島隊長は……転送位置の下方からあまり動いてませんね。家の中でしょうか?これはどういう事でしょうか?荒船隊と諏訪隊が交戦するのを待っているのでしょうか?」
「そうなのかもしれませんが、この位置ですと、両隊の戦闘に横やりを入れるには遠すぎます。それにしても今迄の横島隊長の戦いぶりを見るに今回はかなり消極的ですね」
嵐山は歌歩の実況に捕捉する。
「この転送位置の不利を見て、完全に待ちの戦法に変更したのかもしれない。荒船隊と諏訪隊との戦闘で勝った方とやり合うつもり……いや、上を取られている時点で、どちらかの隊と対峙したとしても横島の不利は変わらないがな」
冬島はさらに補足説明を付けたし、横島の行動を予測する。
「今回家の中での行動もモニタリング出来るようにさせていただきました。横島隊長は家でじっと、待っているのでしょうか?……??…横島隊長はスイッチボックスを起動させております。周囲にトラップの罠でも仕掛けるのでしょうか?」
横島は鼻歌交じりに、アタッシュケース風の分厚いノートパソコンのようなスイッチボックス本体を起動させ何やら操作しながら、ガラクタを弄っていた。
そんな中、ずっと慎重に行動していた諏訪隊の堤が、荒船隊の穂刈に距離を詰め奇襲の機会を伺っていたが、荒船に見つかり片腕を失う大ダメージを追う。
諏訪隊はその後3人合流、そのまま中距離まで迫るが、荒船がけん制射撃を行い、穂刈が引いて距離を置く。
さらに荒船隊のスナイパーによるクロスレンジ攻撃で諏訪隊は身動きがしずらく我慢を強いられていた。
この硬直状態が続くのかと思われたその時だ。
諏訪隊は身を隠すために家を盾にしていたのだが、隣の家が突如大爆発を起こす。
「はぁ!?なんだこりゃ?荒船の奴、しびれを切らしてメテオラを多量にぶっ放したか?あいつそんな大雑把な攻撃して来る奴だったか?小佐野っ!どうなってやがる!?」
諏訪は驚きつつ、オペレーターの小佐野瑠衣に状況を確認しようとする。
「荒船隊からじゃないよ~、多分その威力、トラッパーのトリオン爆弾だよ~」
「はぁ!?横島の奴にいつの間にか迫られたってのか?」
「でも、エロシマンは動いてないはずだよ~。荒船隊のザキハン(半崎)がエロシマンを監視しているはずだし~」
「じゃあ、どういうことだ!?おわーーーーっ!?」
今度は諏訪隊が背にしていた家が吹き飛び、それに巻き込まれ、堤がトリオン流出過多でベイルアウト。
そして、横島にポイントが入る。
「やっぱり、ヨコシマンが何かしたみたい~、そこから逃げないと危ないよ~」
「ったく、逃げろってよ!?ヤバすぎるだろ!?くそったれーー!!横島の奴!どこにいやがるんだ!?笹森、奴は近くにいるハズだ!!」
諏訪と笹森がたまらず、荒船隊の射線が通らない方へ下がるが、今度は諏訪と笹森の直ぐ近くで爆発が起こり、諏訪と笹森はあえなくベイルアウト。
諏訪隊は状況が全く把握できずに全員倒されたのだ。
一方、荒船隊も同じく状況が把握できていなかった。
「爆発!?諏訪隊が全員ベイルアウト?……なんだ?横島が諏訪隊の後ろを取ったのか?いつの間に?加賀美!半崎!横島はどうなった!?」
「……荒船さん横島先輩を見てないっすよ!」
「見逃した……!?そんなはずは!?」
半崎と加賀美倫も困惑気味だ。
「荒船、何かが飛んで行ったように見えたぞ。諏訪隊の方へ」
穂刈は諏訪隊の方向で爆発が起きる前に何かが飛んで行ったように見えたが、それが何かわからなかった。
ただ、銃弾でもなく、バイパーやメテオラの様なトリオン弾でもなかったため、見逃していたのだ。
「何かって何がだ?」
「わからん!」
荒船隊の方も状況が把握できずに困惑気味だ。
この状況を見ていた実況席では横島の行動が見えていた。
「あいつ、とんでもない奴だな!?」
「…………これは……!?」
冬島と嵐山は唖然としていた。
少し前から横島の様子をモニターで見ていた実況席では横島の行動を把握していた。
荒船隊と諏訪隊が上を取るために移動を行ってる最中に横島は、下方の家の中で家の中のガラクタの金属の筒を適度の大きさに切って、スイッチボックスの機能の一つであるトリオン修復キットを使い、トリオンを盛って金属の筒の耐久度を上げる。
そして、上方から見えないその家の庭に、金属の筒を縦に置いて6本並べる。
この様相はまるで、打ち上げ花火を上げるようであった。
「迅、荒船隊と諏訪隊の大体の位置が分かるか?」
「バッグワームを起動させてるから荒船隊の正確な位置は分からないが、皆バラバラで上方で狙撃位置を確保しているはずだ。諏訪隊は今、荒船隊に居場所がバレ、狙撃を喰らってるから場所は分かる」
「そんじゃ、諏訪隊からだな。その前にっと」
横島はそこ意地悪い笑みを浮かべる。
横島は金属の筒のトリオン爆弾やマイン(地雷)をセットしていき、筒の尻にグラスホッパーを起動させ、次々とトリオン爆弾とマインを次々と射出していき、山成りに目標へと飛んで行く。
そう、横島はグラスホッパーの物を飛ばす反発力を使って大砲を作ったのだ。
「ふはははははっ!!物量こそが物を言う!火力こそが物をいう時代なのだ!!マシンガン!?ライフル!?第一次世界大戦かお前らは!?時代は違う!!時代は冷戦時代!この圧倒的火力!!うははははははははっ!!」
横島はバカ笑いをしながらも次々とトリオン爆弾とマイン(地雷)を四方八方に飛ばしていく。
その様子を見ていた実況席では……
「トラッパーがグラスホッパーをセットしてるのかよ。しかもグラスホッパーをそうやって使うか!?グレネードランチャーかよ!?」
冬島は笑いながら驚いていた。
「冬島さん、グラスホッパーではまったく届きませんよ。諏訪隊と荒船隊は相当離れている」
嵐山はグラスホッパー使いとの対戦でその性能は良く知っている。
「届く。あいつグラスホッパーを二枚使っていやがった。恐らくグラスホッパー2枚をVの字に斜めにし、トリオン爆弾を挟み込むようにして射出したのだろう。これで発射威力は相当上がる。そもそも飛ばすのは人じゃない、トリオン爆弾等のマイン系は軽いから相当飛ぶ。だが、ブレは凄いだろう。だからあの金属の筒だ。ブレを修正し正確に飛ばすためにな。しかも飛ばしたのは通常弾丸と違い威力範囲共に高いトリオン爆弾だ。榴弾、炸裂弾、いやまるでミサイルだな。当たらなくとも、爆発に巻き込まれればひとたまりもない。しかも着弾前に爆発するように設定、いや、様々なタイミングで爆発するように設定すれば、防御もままならないだろう。しかもだ、メテオラとかと違い、トリオン爆弾やマイン系は半透明だ。飛翔する半透明の物体はかなり見えにくい。初見だと砲撃だとは思わないだろう。アイビスの弾丸のように発射音がしない。しかし、所詮グラスホッパーだからライフルの様なスピードや距離は出ない。弾速は遅いし射線も山成りせざるを得ない。だが、そのかわり射線が山成りなぶん障害物を越える事ができ発射位置も特定しずらい。横島の位置が分からなければ、これは一気に形勢逆転する」
冬島は珍しく少々興奮気味に語りだす。
「横島隊長のトリオン爆弾による砲撃が遂に諏訪隊をとらえ……諏訪隊全滅です……」
冷静に解説をすることで定評のある三上歌歩だが、この光景には流石に唖然としていたようだ。
「……やはり横島くんは」
嵐山は木虎藍の言葉を思い出す。
(横島先輩は普通じゃない)と。
まあ、横島くんだから……