誤字脱字報告ありがとうございます。
今回はかなり繋ぎ回です。
「迅、くまちゃんに似合うブラってどっちだと思う?」
『真面目にやれ!』
横島はランク戦中、あろうことか下着の物色を行っていたのだ。
確かに、トリオンによる仮想空間とは言えすべてが現実と同じように精巧に作られている。
この大型商業施設の中のショッピングモールの細かな品々も例外ではない。
「俺は何時だって真剣だ。カッコいいくまちゃんのあの豊満でハリのあるEカップを包み込むブラがどんなものなのか、想像するだけで鼻血が!!」
『横島、それには俺も同意するけどさ、今はランク戦だぞ』
横島は迅に反論し力説し、迅は迅で横島の意見に同意していた。
迅も所詮横島と同類だが、一応場所は弁えているようだ。
「いや……まてよ。意外とスポーツブラとかいいんじゃないか?スポーツブラで押さえつけようがないあのはじけるようなおっぱいが、さらに強調されるんじゃ!?」
『ああ、くまちゃん。結構スポーツブラを付けてるぞ』
「なぬ!?何故迅がそれを!」
『学校帰りの夏の制服姿のくまちゃんだったら、スポーツブラは意外と主張が強いし、夏服越しにちょい透けて見えてた』
「なんだとーーーーーー!!迅ズルいぞ!何故今迄黙っていた!!くっ、そんなくまちゃんの姿を俺は見逃していたのか!!」
「だって、お前、去年の夏頃、ボーダー本部出禁だっただろ?」
「そんなーーーーー!!某国の陰謀じゃよーーー!!」
横島は友子のスポーツブラを付けた夏服姿が見れない事で、血の涙を流していた。
迅も横島の言葉に引っ張られ熊谷友子のブラについて語り出してしまっていた。
2人とも普通に最低である。
その頃解説席では……。
「横島隊長、大型商業施設に入り、身を潜むように移動していたのですが、何故か専門店街に入りじっとしてるようです。映像来ます。……………うーん。これはどういう状況でしょうか?」
映像に映ったものは、女性用のブラを手に持って物色する横島の姿だった。
さすがのゆりもこの横島の姿にどう解説すればいいのか困りかねて、つい、横の冬島に話しを振ってしまった。
「…………」
冬島は冬島で話を振られたが、対処出来ようも無く、無言で隣の太刀川に泳いだ目で視線を送る。
「プッ、普通にブラを物色して、鼻の下伸ばしてるだけじゃないですかね」
ゆりの困惑顔と横島の行動のギャップに思わず笑いが漏れる太刀川は、普通に横島の行動を解説する。
「あの子は何をやってるの……」
ゆりはマイクをオフにし、呆れ顔で文句を漏らす。
当然観客席では、女性陣が横島へ冷ややかな視線や罵りの言葉を画面越しに送っていた。
ただ、迅も友子のブラジャー透けの件で女性陣に糾弾されてもおかしくは無いが、横島と迅の通信越しの会話は会場に聞こえるわけも無く、好感度が下がったのは横島のみ。
発端は女性の下着コーナーを物色していた横島であり、それに迅が巻き込まれたようなものだから、妥当なのだろう。
対横島討伐作戦の行動に移した影浦隊だが、あぶり出すまでも無く横島を発見する。
「横島先輩を発見」
絵馬ユズルは身を潜めながら目視で各階を吹き抜けから見える範囲で捜索していたのだが、作戦開始早々にバッグワームを羽織った横島を発見したのだ。
『ユズル、でかした!横島の野郎は何をやってる?』
オペレーターの仁礼光は早々に横島を発見したユズルを褒め、横島の状況を聞く。
ユズルはわざわざ探した言うよりも、横島がただ単に隠れもせずに堂々と姿をさらしていたと言った方がいいだろう。
「その……女性用の下着コーナーで……下着を……その漁ってる様に見える」
初心なユズルは少々顔を赤らめ言い難そうに報告する。
ユズルが見たものは、だらしない顔を晒して、大きなサイズのブラジャーを物色する横島の姿だったのだ。
『ユズル……撃っていいぞ。変態のド頭を吹っ飛ばしてやれ!!』
それを聞いた光は横島が変態行動に及んでいる事を理解し、ユズルに怒鳴り声を上げる。
「ちょっと待って光ちゃん。ゾエさん達まだ配置についてないよ」
『そんなの良いんだよ!!いいからユズル、変態野郎をぶっ潰せ!!』
光の怒りの命令を聞いた尋は止めに入るが、尋の言葉など、もはや怒り心頭の光には届かない。
「カゲさんどうする?」
ユズルは横島に照準を合わせながら、影浦に通信越しに撃っていいかと尋ね、判断を委ねた。
「俺も直ぐにそっちに着く、狙えるなら撃て」
「了解」
ユズルは影浦の同意を得て、横島の後頭部に狙いを定めライトニングの引き金を引く。
スナイパー用トリガーは主に3つありそれぞれ性質が異なっている。
射程重視のイーグレット 射程◎ 威力〇 弾速〇 照準〇 取回し〇 速射△
弾速重視のライトニング 射程△ 威力△ 弾速◎ 照準◎ 取回し◎ 速射◎
威力重視のアイビス 射程〇 威力◎ 弾速△ 照準△ 取回し× 速射△
更に特徴としてイーグレットとアイビスは一般的な筒状の望遠スコープで照準を合わすが、ライトニングは銃身の横にあるパネル画面で照準を合わす。
其々一長一短あるがB級隊員以上のスナイパーの殆どが万能なイーグレットを選択している。イーグレットだけというスナイパーもいるぐらいだ。
ライトニングは威力や射程は無いがその扱いやすさから初心者や女性陣から人気である。
ユズルは状況に応じて3つのスナイパートリガーを使い分けて使用しているが、ランク戦では普段ライトニングを余り使用していない。
ユズルは前回の横島が参加したランク戦で日浦茜の狙撃を横島が避ける映像を何度も見ていた。
日浦茜のイーグレットによる狙撃は、超遠距離ではあったがタイミングばっちりの狙撃だった。
それをあっさりと空中で避けられる様を見て、あのタイミングで避けられるのであれば、威力は低いがより弾速が速いライトニングで無ければ横島を捉える事が出来ないのではないかと考えたのだ。
ユズルが狙撃体勢をとっている位置から横島までの距離は30mもない。
横島は一心不乱にブラジャーを物色し、ユズルに気が付いていない。
ほぼ、必中距離だ。
ユズルはライトニングの引き金を引き、銃口からトリオン弾が発射される。
だが……
「へッークッション!!」
横島は盛大にくしゃみをし頭を下げたところに、イーグレットの弾は通過していく。
偶然なのか、ギャグ補正が働いたのか、はたまた横島は気が付いてそのような行為に出たのか不明だが、事実としてユズルの狙撃を避けたのだ。
「あれ?……何か通ったような……」
横島は狙撃に気が付いたのか、辺りを見渡す。
「な……!?」
ユズルはその光景に思わず驚きの声が漏れる。
当然だろう。スナイパーにとって30mは必中距離なのだ。
シールドで防がれるのはともかく、避けられるなど想定外も良い所だ。
だが、それも一瞬である。
ユズルは気持ちを切り替え、横島に追撃を行う。
ライトニングは一発づつの装填式ではないため、速射性に優れており、次弾発射までの間隔は他のスナイパートリガーに比べ圧倒的に短い。
「げっ!!おわっ!?ぬわっち!?」
それでも横島は下着コーナーの中を駆け巡りながら、トンでも変態回避でユズルのライトニングの弾をすべて回避して見せる。
だが、下着コーナー目掛けてメテオラによる範囲攻撃が飛んできた。
「ほげ~っ!!」
横島は慌てて下着コーナーから空中ダイブをして逃げ出す。
「ユズル、お待たせ」
尋の擲弾銃による攻撃だ。
「……すみません。避けられました」
「気にすんな」
「良いって良いって、ここからが本番、横島くんを見失わないようにしないとね」
影浦と尋がユズルと合流。
『おめーら、横島を追い込むぞ!ゾエ、今から指示出す場所にぶっ放せ!ユズルは横島をけん制だ!カゲはサイドエフェクトで、横島を追尾できるか!?』
光からの指示が飛ぶ。
「さっきから、何にも感じねー。彼奴の意識はこっちに向いてねーか、東のおっさんと空閑と同じで、感情を押し殺して戦えるって事かだ。どっちにしろ面白れ―奴だ」
影浦は自分のサイドエフェクトが封じられてるかもしれない状況なのだが、とこか楽し気だ。
「カゲのサイドエフェクトに引っかからないのは厄介だよね。って、もうあんなところに、横島くん足速すぎない?」
尋は横島の足の速さに舌を巻き、次々とメテオラを射出させる。
「ゾエ、あそこに撃て、あそこで先回りをしてやる」
「はいよっと」
影浦は横島の逃走ルートになりそうな場所に射撃するように要求する。
横島のトラップ回避のためだ。
メテオラによる射撃によって、安全確保し、そこで横島を待ち受けるつもりの様だ。
『気バレよゾエ、なんにしろ横島の奴はこの状況じゃ、中長距離の攻撃手段はねーんだ。ジャンジャン撃て!』
光はノリノリでゾエに指示をする。
ランク戦開始からそれ程時間が経っていない今の時間帯なら、横島のグラスホッパー迫撃砲による射撃は無いと踏んでの指示だ。
グラスホッパー迫撃砲は、材料を見つけ現地で作成しなくてはならないため、準備に時間がかかるからだ。
「そんじゃ、景気よく行こうかな」
尋は擲弾銃でメテオラをフロアのあちらこちらへと広範囲に放つ。
一見適当にメテオラを放ってように見えるが、横島がフロアの奥側や階段やエスカレーター方面に逃げないように考えながら放っている。
尋はその図体に似合わず細かい所まで気が付き、大雑把で攻撃的な影浦や天才肌のユズル、自由奔放なオペレーターの光と曲者たちを裏から支え、実質尋がこの隊をまとめていると言っても過言ではなかった。
「ぎょえーーーーっ!!ちょ、ちょっと待った――――!!」
涙をちょちょ切らせながら、尋のメテオラとユズルの狙撃を何とか避けていたが、このまま避け続けてもじり貧である。
少し前に戻り、解説席のゆりの実況では……。
「影浦隊スナイパーの絵馬ユズル隊員が横島隊長を捕捉した模様、その横島隊長は無警戒にほぼ棒立ち状態、気づいていない模様。これはいけません」
横島が下着コーナーでブラジャーを物色している後ろ姿を捕捉するユズルの姿が画面に映し出されていた。
「まずいな、横島はこの周囲にトラップをしかけていない、この距離では流石に……」
冬島だけではなく、ゆりや観客席の隊員達の誰もが、横島が風前の灯火であると感じていた。
「30m、必中距離だな。普通だったら絵馬の一撃で終わりだ。普通だったらな……」
太刀川もこの一撃で終わるだろうと予想するが、意味深い言葉を残す。
そして……。
横島は後ろから絵馬ユズルに近距離狙撃をされるが、大きなくしゃみをして、弾丸を避けたのだ。
「横島隊長、絵馬隊員の狙撃をくしゃみをして避けた?……こ、これは偶然なのでしょうか?更に絵馬隊員は追撃を行うが、狙撃に気が付いた横島隊長は奇妙な体捌きでそれらを全て避けきりました」
実況のゆりは横島がユズルの必中距離の狙撃をくしゃみをして避けた事に驚き、一瞬言葉を詰まらせるが、解説を続ける。
「くしゃみ?偶然か?いやそれにしても……」
「冬島さん、あれは偶然じゃない。横島の奴、絵馬が狙っていた事を完全に気が付いていた。撃つタイミングすらもそうだ。そうじゃないとあれは避けられない。カゲと同じような感知系のサイドエフェクトを持っていると見た方がいい」
太刀川は鋭い目つきで、映像上の横島の動きを追いながら、そう断言する。
太刀川が断言した通り、横島はユズルの動きが分かっていたのだ。
横島は霊能力を抑えた状態でも、近距離であれば周囲の動きを自然に感知してしまう。
必中距離だと思われたユズルの狙撃は横島の感知範囲内だったため、横島にバレてしまい避けられる結果となった。
これが100m以上離れていれば、結果は違っていたのかもしれない。
「太刀川、横島のサイドエフェクトは噂では女性のスリーサイズが分かるとかいう奴じゃないのか?」
「ブラフですよ。オペレーターにあの迅だ。ああいうふざけた噂を流し、実力を隠すとか、いかにも彼奴らしいやり口じゃないですか」
太刀川は迅が正攻法だけでなく、時にはブラフを使いながら戦うスタイルを見てきている。
この前太刀川と迅が戦った際も、迅はブラックトリガー風刃の性質や使用回数を太刀川に誤解させて勝利しているのだ。
だが、今回のスリーサイズが分かるサイドエフェクトの噂を流したのは迅ではない。
横島がガロプラのウェン・ソーを絡めとるために使ったブラフだったのだが、何時の間にかそのブラフが独り歩きし、ボーダー中に広まってしまったのだ。
普段の横島のスケベ行動が、そんなとんでもないサイドエフェクトでも、あの横島だったらあり得るのではないかと思わせてしまったのが要因だろう。
「確かにな」
冬島もこの太刀川の意見には同意のようだ。
「それだけじゃない。動きが普通じゃない。あの距離の狙撃を先読みしてシールドで防ぐのはまだわかる。狙撃が来るのが分かっていても『避ける』のは厳しい。しかも後ろからの狙撃はほぼ無理だろう。まあ、俺以外は」
太刀川は最後のこの言葉を言いたかったのだろうが、解説通り30mの距離の狙撃、しかも既に狙撃体勢に入ってるスナイパーから狙われて、最速のライトニングでの狙撃を体捌きだけで避けるのは不可能とされるものだった。
解説の間でも横島は飛んでも回避でユズルの狙撃と尋のメテオラを避け続けていた。
だが……、
無様に逃げ惑う横島の姿が突如として消えたのだった。
横島くんはどこに?