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東隊と王子隊はフィールドの端の方の雑居ビルで戦闘を開始した。
ビルを挟んで東隊の小荒井と奥寺、王子隊は王子と樫尾が射撃戦を繰り広げてお互い攻めあぐね、均衡が保たれているようにも見える。
だが、その戦闘の均衡は意図的に保たれていたのだ。
それは横島をおびき寄せるための罠。
そう、これは横島を罠に嵌めるための偽装戦闘と言っていいだろう。
この戦闘に横やりを入れるために現れた横島を、スナイパーの東とシューターの蔵内が仕留める、又は、戦闘を行っていた連中も踵を返し、横島を囲い込む作戦なのかもしれない。
東隊と王子隊は打ち合わせを行ったわけではない。
飽くまでも、各隊は独自で動いている。
東隊は王子隊を、王子隊は東隊の思考を読んで、お互いを利用し、横島を仕留める算段なのだ。
横島にはグラスホッパー迫撃砲と言う独自の遠中距離高火力攻撃手段を持っているが、東隊と王子隊が戦闘を行っているビルの位置は、ショッピングモールからでの砲撃ではダメージを与えにくい場所であった。横島が確実に両隊を仕留めるためには、ある程度近づく必要性がある。
横島がショッピングモールから、両隊のビル近辺に向かうには、ショッピングモールをぐるりと囲む大通りをグラスホッパーで飛び跳ねて行くにしろ、歩くにしろ渡らなければならない。
監視を行っている東や蔵内には容易に気づかれてしまうだろう。
東と王子はそこまで計算に入れ、今の位置での小競り合いを行っていた。
後は横島が現れるのを待つばかりだ。
当の横島はショッピングモールでとなにやら作業を行ってる最中に、両隊の戦闘に気が付き、戦闘場所を確認するためコソコソと屋上に上がり、状況を確認する。
「迅が言った通り、戦いが始まっちゃったか、しかもあの位置は砲撃が厳しいな」
『東さんと王子の事だ。お前の砲撃を考えて、戦っているだろう』
「東のおっさんとあのイケメンか~、おっさんは良いとして、イケメンは死すべし!」
『横島、両隊の勝負がつく前に、介入した方がいいんじゃないか?』
「別に両方潰さなくても、戦闘終わって勝った方と戦ってもいいんじゃね?結構実力は似た感じなんだろ?だったら、勝ったとしても結構なダメージを喰らってたら、やりやすいし」
『確かにそうだが、勝利した隊がそのままお前と戦わずに時間切れまで隠れてしまったら、最悪ポイント同点だ。そうなると総合ポイントが同じであろうと、新規参入の横島隊は順位が下になる。そうなるとB級上位に残れる可能性が低くなるぞ』
「はぁ、わかったって、折角これ作ったけど必要ないか、まあ、横やりは得意だし、行くしかないか」
横島はオペレーターの迅とこんなやり取りを行った後、何やら作っていた作業を途中にして、両隊が戦っている戦闘域へと向かったのだった。
東隊は、なかなか横島が現れない事に、東は訝し気に、隊員たちは焦り始める。
同じく、王子隊の監視役の蔵内も横島が現れない事に、もしかすると横島の接近を見落としたかもしれないと落ち着かない気分になるが、東隊の東が動いていない状況から、横島はまだ現れていないと判断し、幾分か落ち着きを取り戻す。
その頃会場では、横島の行動がスクリーンに大々的に映しだされていた
実況のゆりはその様子に言葉を少々詰まらせる。
「横島隊長は……その…東隊王子隊の戦闘域に接近しておりますが、両隊ともこれには気が付いていないでしょう。いや、気が付かなくて当然だと思います。私自身もランク戦マップにこのような場所があった事に、少々驚いております」
冬島も横島の様子に半笑いでこんなことを言う。
「俺も知らなかった。いや、仮想マップは実践さながらに訓練を行うために、町を忠実に模している。少し考えれば当然この場所が存在することはわかるが……」
冬島の言い回しから、横島は通常じゃ考えられない様な場所を現在移動していると。
太刀川も今までにない鋭い目つきで、スクリーンを注視していた。
「そう、いままでここを使った奴はいなかった。普通は考えないし、考えたとしても実行しないだろう。いくら仮想マップとトリオン体だからってな。だが、横島は平然とやりやがった。しかも何故か慣れてるのか、やたらと移動が速い」
太刀川の言い回しだと、今横島が移動している場所は、知っていても立ち入る事を躊躇するような場所の様だ。
「トラッパーにとっては絶好のシチュエーションだ。今からいいものが見れるかもしれない」
冬島は顎に手をやり、半笑い気味にこう言った。
「両隊には同情するしかないか……」
太刀川はそう言ってスクリーンに映し出されている横島を目を細め見据える。
囮を演出し戦闘を行っている王子はオペレーターの橘高羽矢に現状を確認する。
「羽矢さん、ヨコシマンはまだ現れてないですか?」
『蔵内君からは何も、東さんの方も動きは無いわ』
「もうそろそろ何らかの動きがあってもよさそうなものだけど、……このまま時間切れを待つつもりかな?それとも、何らかの策があるのか?何れにしろ同じ場所に居続けるのも危険かな……、羽矢さん、撤退ルートをお願いします」
『了解よ』
王子は近くでけん制攻撃を行っている樫尾に移動開始を指示しようとする。
「カシオ、東隊の射線が次に切れたら、一度下がって移動開……」
しかし、王子及び樫尾は予兆も無しにいきなり激しい爆発に巻き込まれ、ベイルアウト。
同時に隣のビルで対峙していた東隊の小荒井と奥寺も、ビル内部全体が大きく爆発を起こし、同じくベイルアウトする。
両隊が対峙していたビルと近隣の三棟のビルも、突然激しく内部爆発を起こしたのだ。
ビルの躯体を残し、窓は粉々に割れ、ビル内部は目茶苦茶に……
王子隊の蔵内は隣りのビルの屋上の物陰でショッピングモールを監視していたが、ビルの突然の内部爆発の爆風の余波で吹き飛ぶが、シールドを展開し、致命傷を何とか避ける。
東はマップ全体が見渡せる二つ隣りの高いビルの屋上で、ショッピングモールから現れるであろう横島と近接している王子隊の動向を探っていたため、ビルの爆発や爆風に巻き込まれる事は無かったが、流石に突然のビルの爆発に状況を把握しきれないでいた。
だが、ベイルアウトし飛んで行く4体の飛翔体を確認しながら、冷静にこの状況を確認する。
(ベイルアウトは4人、小荒井と奥寺と、王子隊は恐らく王子と樫尾だろう。見落しか?……ビルの突然の内部爆発……トリオン爆弾の設置か、と言う事は半径30m範囲に横島が潜んでいるという事か、しかも自らが爆発に巻き込まれない位置で……しかし、どうやって横島はこちらに近づいた?)
そう東が予想していた通り、横島は東隊と王子隊が戦闘していたビル周囲30m圏内に潜んでいたのだ。
東がこう予想していたのには理由がある。
トラッパーのトリガー スイッチボックスの性能が起因していた。
大型のノートパソコンのような形状をしているスイッチボックスを直接操作を行う事で、半径30m周囲にトリオン爆弾のトラップを任意の場所に遠隔設置出来るのだ。
横島が東隊と王子隊が偽装戦闘を行っている場所近隣に潜んでいると言ったのはこういった理由だからだ。
実際横島は、身を潜めてスイッチボックスを起動させ、直接操作を行い、戦闘を行っている両隊のビルに直接爆弾を一気に多量に設置し、爆発させたのだ。
一見、かなり有効で誰でも出来そうな簡便な作戦のように見えるが、既に戦闘が行われている領域ではリスクの方が高すぎて、普通は実行できない。
スイッチボックスを直接操作している間は、遠隔設置の設定は時間がかかり、本人はその間無防備となる。
しかも半径30mはシューターに見つかれば即撃ち抜かれ、アタッカーに見つかっても直ぐに距離を詰められて、落とされる距離だ。
自衛手段を殆ど持っていないトラッパーでは、リスクがあまりにも高いのだ。
普通は味方に守られつつ、戦闘が行われていない場所周囲や、味方支援の為に、じっくり戦術をたてながら行うものだ。
また、味方と敵が戦闘を行っている領域では、味方だけでなく自分も巻き込む可能性が高い。
敵や戦闘域に近づいて直接爆弾を設置するよう場合は、地形などがよっぽど有利な状況でないと普通は出来ない。
また、この半径30mという距離は、ランク戦のみの仕様だ。
本来なら、消費トリオン量に応じて、さらに遠くにも設置できる。
地形が予め決まっているランク戦では、地形データがあるため設置場所を確認しなくても細かく設定出来てしまうため、ランク戦では制限が掛けられていた。
その最たるものがワープだ。
ワープには更に目に見える場所という制限が掛けられている。
本来のワープはかなりの遠距離でも実施可能だ。
ボーダー本部防衛時にワープでかなり遠くの場所まで多数の隊員を送り込んでいる。
そんな事が出来てしまえば、ランク戦で有利な位置に隊員を送り放題となってしまう。
実際にはトリオン量も距離に応じて消費してしまうため、そう何度も実行は出来ないのだが、それでもかなり有利となり得てしまう。
因みにボーダー防衛戦時はボーダー本部のトリオンを使用していたため、本人のトリオンを消費せずに、多人数を遠方に送り込む事が出来た。
この事からも、東達は横島がワープで横やりを入れてくることはほぼ不可能だと踏んでいた。
しかしながら、横島好きな皆さんには横島がどうやって実行したのかは何となくお分かりだろう。
東や蔵内の警戒の目を避け、誰にも気づかれずに戦闘域に潜む事が出来た理由を……。
そう、横島は地下……下水を通ったのだ。
ショッピングモールの地下マンホールから下水道へ進み、さらに人がやっと寝転んで入れるぐらい狭い地下排水管に潜り込み、匍匐前進で王子隊と東隊が対峙しているビルの真下まで移動し、地下2メートルの排水管の中でスイッチボックスを起動し、両隊の戦闘域にトリオン爆弾を遠隔設置でばら撒いたのだ。
ランク戦マップに下水道や排水管まで作り込まれていた事自身、ボーダー隊員達には余り知られていなかった。
さらに、普通、汚物などが流れている下水道や排水管に潜り込むなど、誰も考えない。
いくら、トリオン体で構成されているマップで、実際に汚物などが流れていないと頭で理解していても、普通は実行しないだろう。
だが、横島の常識は違っていた。
そもそも下水道を使う事は、横島や元の世界の横島の上司である美神令子にとって常套手段である。
何かあったら、下水道に潜り込んで逃げていた。
本人も、命が助かるならうんこでも食べると豪語する人間である。
この程度の事は、横島にとって何ともない事だった。
東は、難を逃れた蔵内を発見しスナイプし1ポイントを得たが、横島が何処に潜んでいるか見当もつかず敗北を認め、その場を離れて自らベイルアウト。
こうして、波乱のランク戦は横島隊の圧勝に終わる。
横島隊は撃破ポイント7と勝利ポイント2の合計9ポイント獲得し、B級最終ランクが7位以上が確実となった。
その頃横島は、爆破の余波で排水管の一部が詰まり、身動きできずにいた。
「前にも後ろにも進めない、じ、迅、た、助けてーーーーーっ!!」
涙をチョチョ切らせ、情けない姿をさらしていた。
最後の最後にしまらない横島。
終わりに近づいてます。
次は三雲隊との模擬戦かな?