もしもゼオンが魔界でガッシュと会っていたら   作:ちゃんどらー

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いつもありがとうございます。


第五十一話:守りを貫く姿に

 

 人間と魔物は違う生物である。

 意思疎通も出来るし触れ合うこともできて、感情を持っているという点でも同じ。

 

 例えどれだけ心が通い合っていようとも……遺伝子レベルの違いがある。

 その事実がある限り、例えどれだけ大きな想いがあっても超えられない壁が存在する。

 

 ウォンレイとリィエンは過去、ガッシュによって助けられたことがあった。

 魔物であるからと親から仲を引き裂かれ、ウォンレイ自身もそれでいいと心に蓋をして想いを断ち切ろうとした。

 

 しかしてリィエンの想いは止まらず……ガッシュと清麿の助けもあって二人は晴れて想いを通じ合わせることが出来たのだ。

 

 今は田舎で畑仕事をしながら二人で仲良く暮らしていたのだが、清麿達に助けが必要だと聞いて駆け参じた次第。

 

 穏やかな日々がずっと続けばいいと願っていても、魔物であるウォンレイは王を決める戦いという運命から抗えない。

 リィエンとの穏やかな暮らしが続けば続く程に、いつかは魔界へ帰らなければならない事実に打ちひしがれる。

 

 ずっとリィエンを幸せに出来たら、どれほどいいことだろうか。

 それが出来ないと知っている彼の苦悩はどれほど大きいだろうか。

 このままではダメだと自分から言わなければならなかったリィエンの心は、どれだけ悲痛に引き裂かれただろうか。

 

 故に、彼は覚悟を心に打ちたてた。

 

――守る王という、私の目指すその姿を……リィエンの心に焼き付けておけるように。

 

 決して引くことのない彼は……皆を守る為に両の手を広げる。

 しかしてその背には逃げ傷はつかない。

 彼が敵に背を向けることなどないのだから……。

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 棍による攻撃の範囲は、当然のことだが拳よりも数倍広い。

 一点に集中される威力は高く、速度が加わることでソレは何倍にも増す。

 

 ツァオロンは少し驚いていた。

 

 ゴウ・エルドと術の出力が同じであったことで互いに弾き合ったこともあるが、棍が最も威力を持つ距離を避けてしっかりと懐に踏み込んできたのだ。

 武人であっても長物相手に踏み込むというのは生半可な覚悟で出来ることではなく、己が傷つくことも厭わないか、よほどの実力が伴っていなければなり得ない。

 

 ニィと歯を見せて笑うツァオロンは片手で突きを続けつつ体勢を整え、同じようにこちらを睨んでいるウォンレイに向けて次の動作へと移った。

 

「ガンズ・エルド!」

「ガンズ・バウレン!」

 

 距離を取れば有利。それを理解して撃たれた相手の術はエネルギーを拳に乗せるモノ。

 ガンズの効果で速度と連射性が上がっているのだが、それも互角に打ち合えた。

 

――なるほど……拳の方が動作が早いところを“互角”か。

 

 ウォンレイもそれに気づいて少しの焦りを見せていた。

 

 棍を引いて出す動作よりも拳の方が速いはずなのだ。それなのに互角ということは……ツァオロンの方に余裕があり、速度も出せているということ。

 僅かな差、しかして決定的な実力差。ツァオロンが積んできた功夫が勝った証左に他ならない。

 

 バチン、と大きな音を上げて打ち合いが強制的に終わらせられる。

 弾いたのはツァオロンの方。

 

 膠着しては面白くないと、棍を旋回させて拳に沿わせたのだ。

 互いの術のエネルギーだけが相殺され、棍だけがウォンレイの腕を滑って行く。

 

「っ!!」

「シッ!!!」

 

 棍術の基本は突き、そして回転を加えた打撃である。

 突き出しつつあった右手をそのままに身体を支点とし、回転して逆方向へと棍を展開。ウォンレイにとって、棍と触れ合っていた腕とは逆から急に攻撃が来たカタチとなる。防御をしようと腕を引きかけた硬直を狙われて、上体を逸らして避けようと歯を食いしばる。

 

 それもまた……ツァオロンにとっては読み筋。

 

「ハッ!!」

「ぐっ!!!」

 

 支点は崩れていない。敵が体勢を崩したのならそれが好機。回転を続けて、そのまま振り上げるカタチで棍を回せばウォンレイに一撃が当たる。

 変幻自在の棍の動きによってどんな状況にも対応できる。術だけでないからこそ、ツァオロンは1000年前の優勝候補として挙げられていたのだ。

 

「エルド!」

「セウシル!」

 

 すかさず棍の攻撃力を術で底上げされ、そのまま連撃が行われることが予測された。

 しかしながら唱えられた横槍――セウシルによってウォンレイの身体はすっぽりと覆われ、ツァオロンの棍はセウシルと打つだけとなる。

 

「フン……」

 

 にやりと笑いながら鼻を鳴らす。まるで気にしていないと。

 ガガガガガ、と。工事の機械のような音を立てながらツァオロンは棍でセウシルへと攻撃を叩き込み始める。

 

「う、うそ……」

 

 ティオから漏れた驚愕が宙に滲む。

 立ち上がったウォンレイが見たのは……一点へと集中された棍の攻撃が、セウシルにヒビを入れ砕き始めた所だった。

 

 エルドは初級の術。それならばセウシルで防御すれば防げるはずなのだ。

 いつもならそうだった。ギガノ級であっても防げるように心の力はいつも以上に込めている。間違いなくウォンレイを守ると強く意識して撃ったセウシルだ。

 

「心を細くせよ、雨垂れのみが石を穿つ……ってか」

 

 玄宗が楽し気に言葉を紡ぐ。

 

 幾重もの水滴が、いつか石に穴を空ける。そんな例えの心持を表す言葉。

 武人であるツァオロンの集中力ははかるまでもなく、その心は今研ぎ澄まされている。

 玄宗が拳でヒビを入れたバリアならば、自分はエルドで破壊してみせるという、パートナーに対しての意地を見せた行動。

 

 玄宗に出来て己に出来ないなどと……そんなことはツァオロンのプライドが許さなかった。

 

 ガラスの割れるような音が響いてセウシルが砕け散る。

 そのまま……ツァオロンの棍はウォンレイに襲い行く。

 

「ゴウ・バウレン!!」

 

 迎え撃つことを選択したウォンレイに、リィエンが強化術を唱える。

 バウレンは腕を強化し、ゴウ・バウレンはより強化しつつエネルギーを乗せるのだ。エルドであれば対応できる。ギアをもう一つ上げられたとて対処できるだろう。

 しかし……。

 

「“アラドム・ゴウエルド”!!!」

 

 棍の先へとエネルギーが集まる。先ほどまでとは違う呪文に、ウォンレイが目を見開く。

 棍の強化は行われている。その禍々しいエネルギー量は先ほどの比ではない。

 

――これは、まずい……っ。

 

 どんな効果があるのか、どんな威力があるのか。

 魔物同士の戦いでは術の予測も必須。ウォンレイはツァオロンの術の効果を見切れなかった。

 

 せめて、と。ウォンレイは渾身の力で棍へ突きを放った。

 拡散するタイプの術であれば後ろを守る為に防御に移るところだが、それは棍にだけ込められた術。

 ならばと、攻撃こそ最大の防御になると信じて彼は攻勢に出た。

 

 瞬間――爆発が起こる。

 

「ぐぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

 大きな爆炎を伴った攻撃は、ウォンレイを壁の端まで吹き飛ばす。

 

「ウォンレイ!!」

 

 突きの動作のままウォンレイの飛ばされた先を見るツァオロンは、油断なく構えを解かず。

 

「クックッ、新しいのが読めるからと使ってみたら……爆発しやがった」

「オレの溜め込んだ鬱憤が溢れ出たのかもな。だが、あのカスのように爆発の術というのが気に喰わない」

「あー、使うのやめとくか」

「そうしろ。逆にイラつく」

 

 新術と、敵はそう言った。

 

「せ、千年前の魔物が、新しい術を覚えるの?」

 

 顔を青褪めさせた恵とティオ。

 信じがたいことではあるが敵は新しい術さえ覚えるという。

 じわじわと絶望が深く染まる。

 

 煙の晴れた先、ウォンレイが血を流しながら立っていた。

 

「お……オォォォオオオッ!」

「……っ。レドルクッ!」

 

 ギラリとツァオロン達を睨みつけたウォンレイは、気合いと共に吠えた。

 呼応するようにリィエンが脚への強化術を唱える。

 

「エルド!」

「シッ!」

 

 速度で翻弄出来るようにとステップを刻むウォンレイに対しても、鍛え抜かれた眼によってツァオロンは攻撃へと対応する。

 棍を上手く使っていなすツァオロンは、数度の受け流しと共に言葉を投げ渡す。

 

「ダメージが残っているようだな。動きが鈍っているぞ」

「……それがどうした」

「バウレンッ!」

 

 術の乗った拳を棍の動きだけで逸らした。わざとツァオロンが組みあうように体勢を持って行ってにらみ合う。

 

「貴様の力はそんなモノで限界か? オレはまだ全力すら出していないというのに。この程度なら……次で終わらせてやるぞ、ウォンレイッ」

 

 食い足りないと、彼は言う。溜めに溜めた渇望が満たされるにはお前では足りないと言い放つ。

 言葉と共に弾き飛ばし、ツァオロンは棍を大きく構えた。飛ばされながらも体勢を崩さなかったウォンレイは掌を獰猛な獣の爪に見立てて構えを取った。

 

 玄宗の持つ本が極大の光を湛えた。来る、とリィエンもウォンレイも感じ取った。

 

 唱える術は互いに最大のモノだと理解を置く。引ける状況ではなく、避けられる状態でもない。

 

 ツァオロンは真正面から叩き潰すことを選び……玄宗は己と似たような心に満足げに笑った。

 

「ラオウ・ディバウレン!!!」

「ザオウ・ギルエルド!!!」

 

 ウォンレイから放たれた大きな虎は、その爪を以って目の前の敵を引き裂かんとし。

 

 ツァオロンから放たれた海の怪物は、その刃を以って敵を蹂躙せんと突き進む。

 

 硬直は数秒。込められた心の力は確かに大きい。

 

「く……お願いある……もう少しだから……ウォンレイ……」

 

 ツァオロン達の放った術の強大さを理解してリィエンから漏れた言葉。

 大きなダメージを負ったウォンレイは、気力だけで術を支えている。飛びそうになる意識を保ちながらも、心に打ちたてた覚悟の柱によって目の前の敵を睨みつけて叫ぶ。

 限界を超えて力を出さねば勝てぬ相手だから、ウォンレイは限界のその先を絞り出す。

 

「オォォォォォオオオオオオ!!!」

 

 だけれども、故に……ツァオロンは……

 

「ハハッ! ハハハハハハハ!!!」

 

 楽し気に、満足そうに、子供のように笑い始める。

 同時に術の力が増していく。

 

 千年の渇望は深く渦巻き続けた。

 理解を同じくするパートナーを得たことでソレは昇華した。

 倒したい好敵手への苛立ちが……その魔物に未来を望ませた。

 

 難敵こそが必要で。

 強敵こそが愛おしい。

 

 武を極めようと道を進む者達が必ず得て来た心。そして千年の暗闇を晴らしてくれる光。

 立ちふさがる壁を超えることこそが、彼に未来を見せてくれるのだ。

 

「共に越えるぞ!!!!! ザオウ!!!!」

 

 術と共に突き進むことを決めたツァオロンは、棍と共に跳び込む。

 ウォンレイの術を真正面から打ち破ることを決めて纏ったエネルギーは計り知れず、数秒の後に圧し始めた。

 

 ガリガリと嫌な音を出し始めた術の先端が……数秒の後にラオウ・ディバウレンの爪を突き破る。

 

「ハハハハハッ! 食い破れェッ!!!!!」

 

 そのまま術の顔へと突進して……バシュウと大きな音を立ててラオウ・ディバウレンは打ち破られた。

 

「な……ラオウ・ディバウレンが……」

「負けた……!?」

 

 ウォンレイとリィエンの驚愕する声。宙に居るツァオロンは天井を蹴って向きを変えた。

 ツァオロンの術は続いている。怪我の差もあり、力の差があった。例え心では負けていなくとも……力量の差を埋めるには足りなかった。

 

「いい術だったッ! 戦えたことに感謝するぞ、ウォンレイ!」

 

 突進はボロボロのウォンレイに向けて。手を抜くことなどツァオロンはしない。

 リィエンを守るように手を広げたウォンレイを見て、ツァオロンはさらに笑う。

 

「折れずに立ちふさがるか! 理解は出来ないが敬意を抱くぞ、その曲げない心意気に!! さらばだ!!!」

 

 威力の弱まった術でも、きっと本を燃やせてしまうだろう。

 

 目を瞑ることなく迫りくる術を見据えるウォンレイは……ふ、と小さく笑った。

 

「マ・セシルド!!!」

 

 大きなその盾は、ザオウ・ギルエルドの角の先端から消滅させていく。

 

 心の力を最大限にまで高めているティオと恵の二人が、ウォンレイとリィエンの前に躍り出たのだ。

 

「これ以上、好きにはさせないんだからッ!!」

「邪魔をするな女ァ!!!」

 

 ウォンレイとリィエンを必ず守ると叫ぶティオと、ウォンレイとの決着に水を差されたツァオロンの怒りの声が混じる。

 

 マ・セシルドは威力が弱まった敵の術を受けながらヒビが入り始める。これほどなのかと驚愕しつつ、恵はさらに心の力を込めて盾の補強に力を注いだ。

 阻まれたザオウ・ギルエルドは……ツァオロンの苛立ちに呼応するように口を大きく開けた。

 

 噛みついたのは消滅の効果を持つ中心部でなく、外の枠。

 重機による工事のような音を立てて、マ・セシルドを消そうとツァオロンの術がさらに出力を上げた。

 

「必ず、護るんだからッ!!! あたしは!!! あたしたちは!!! あんたたちなんかに!!! 負けないッ!!!」

 

 悲痛に思える程の叫びに、ツァオロンがすっと目を細める。

 

 それは苛立ちとは違い、少しだけの穏やかさを持っていた。

 

「玄宗――ッ!!」

「あいよ……“フェイ・エルド”」

 

 不意に消えた大きな術。

 続いて唱えられたのは新しい術。

 棍を回して飛び、盾を越えたツァオロンがティオの前へと来て……そのまま棍で恵共々弾き飛ばした。

 

「キャァッ!!!!」

「ふん……やるな、女。少しは認めてやろう」

 

 称賛を送りつつ、ボロボロながらも飛ばされた二人を受け止めたウォンレイを見てにやりと笑う。

 

「大丈夫か?」

「ええ……でもごめん、助けに入るのが遅れて」

「いいんだ。助かったよ二人共。キミたちが居なければ負けていた」

「……っ」

 

 もっと自分達に出来たことがなかったのかと思うティオと恵に向けて、ウォンレイは優しい笑みを浮かべて言う。

 

 ぐ……と唇を噛んだ恵が涙目になりながらティオの方を向いた。

 

「ティオ……すぐに回復をっ」

「うん! お願い、恵!」

「全力で……ウォンレイを助けるの。もっと、もっと……強くっ」

 

 本が再び大きな光を放ち始める。

 救いたいという願い。傷ついたものを思いやる優しい心が溢れる。

 そんな彼女達の行いには、ツァオロンは何も邪魔する気がないらしく。

 

「待ってやるのか?」

「対処できなかったあいつらが悪いとはいっても、こんな簡単に決着がついたら拍子抜けだ」

「カカッ、出来ること全部やらせて勝つつもりだな、お前?」

「この程度で負けるならオレはパムーンにもデモルトにも勝てない。敵は強ければ強い方がいい、お前好みだろう?」

「いいねぇ。そいつは好きだ。大好きだ。ならオレも……負けねぇように手伝ってやんよ」

「月の石で心の力を回復しておけ。まだあいつらは何かしてくる、絶対に」

「ああ、オレもそう思うぜ。ズルくせぇがお前の全力が出せなくなっちゃつまんねぇだろうからな」

 

 魔本をより上手く使うには人間の想いが重要だ。

 それを理解している玄宗に……油断も慢心も無い。

 

 武を極めるとは、心を鍛え抜いた証である。

 

 来る日も来る日も修行に明け暮れ、身体に掛かる膨大な負荷を耐え抜き、弱気に膝を付きそうになる度に奮い立ち、堕落に沈むことなく邁進してきた。

 

 ツァオロンの術が負けるということは、玄宗の積み上げてきた功夫が否定されると同時に、玄宗の渇望が弱いということに他ならない。

 そんなモノは認められない。玄宗は絶対に許さない。

 

 故に大きく。より大きくと本が光を放ち始めた。

 

「サイフォジオ!!」

 

 ティオと恵から術が放たれる。リィエンとウォンレイが受けるその術の効果は心と身体の回復。

 くるくると羽が廻って瞬く間にウォンレイの傷が回復していった。

 

 なるほどなと呟いたツァオロンは嬉しさに口を釣り上げる。

 

「いい……いいな、お前ら。肉弾戦では役に立ちそうにないが、やはり足手まといではないらしい」

「……第二ラウンドといこう、ツァオロン」

「くっくっくっ、お前が絶望に頭を垂れるまで、何度でも潰してやるぞ……ウォンレイ!!」

 

 ズシリと、また互いに構えを取った。

 

「私が頭を下げることなどないさ……私の後ろには、傷つけてはならない人がいるのだから!!」

 

 声と同時に動き出した二人に、また強化の術が唱えられる。

 

 二度目の衝突は実力が明らかになったからこそさらに激しく。

 

 満足するまで繰り返されるであろう戦闘を予測して、玄宗は一人、心の中で呟いた。

 

 

 

――もったいねぇな……オレにとっても新しいおもちゃが出来そうだってのによ。

 

 

 契約があるから、仕方のないことだと首を振る。

 

 

――この後のコト(・・・・・・)が無けりゃこいつらと此処で存分に打ち合えたってのに……うざってぇ。

 

 

 せめて、と。

 苛立つ気持ちを本に込めつつ、ツァオロンの戦いがより面白くなるようにと願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○△○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かに、静かに。

 一歩一歩と少女の姿をした彼が歩いて行く。

 

 ゼオンの歩みは普段と比べて遥かに遅い。冷や汗を浮かべ、息も僅かに乱れ、青褪めた顔からその不調の大きさが伺えた。

 

 額に薄く光る呪いの刻印が伝えているのは、最愛の弟がかなり近くに存在しているということ。

 

 最下層から階段を進めば進む程ひどくなっていった呪いの症状により、多くの体力を消費させられてしまった彼に、デュフォーはため息をついて言葉を掛けた。

 

「少し休むか」

「いい。このくらい……ちょうど慣れてきた所だ……」

 

 片手で額を抑えながら言う。

 強がりだと“答え”が出てもデュフォーは助けることは無い。

 

 デュフォーにツボを圧して貰えば忌まわしい呪いの効果は軽減できる。

 座標移動も出来るだろう。デュフォーを背負うカタチで移動も出来るかもしれない。

 

 万全を期すならばそうすべきだが、しかしゼオンはそうしなかった。

 

 出来なかった……というのが正しい。

 

「この忌々しい呪いに対して、“最高の答えを見つける為”には、呪いの苦痛を受けるオレの変化を……見届けてこそ、そう言ったのは……お前だ」

「……」

 

 呪いの効果を無視して無理やりの座標移動を行い遺跡内部に突入したゼオンと、一度か二度ならば座標移動も出来ると“答え”を出していたデュフォーにとってイレギュラーな事態が起きた。

 

 ゾフィスが張っていた罠は確かにゼオンにとって難なく突破出来たのだが……座標移動を封じるための魔力干渉罠の効果が呪いの魔力阻害に反応し、ゼオンが受ける呪いの苦痛を引き上げてしまったのだ。

 

 最下層ならばガッシュとの距離が離れていたからそこまでは出ていなかった。

 しかし階段を上がるにつれて前よりも明らかに異常を放ち始めた呪いに対して“答え”を出したのが今の現状。

 

 ゼオンが受けたイレギュラーな呪いの反応。そしてそれを見てデュフォーが得た“答え”によって、呪いの解析は一気に進んだ。

 

 答えを出す者(アンサートーカー)は多くの情報を取り入れれば取り入れる程に“答え”の精度や質を望むように変化させることがある。

 

 ゼオンに掛かっている呪いへの最も適切な対処法も、呪いが齎している効果や呪いが何によって干渉されることがあるかをより深く知れば、新たな“答え”として提示されることもあるのだ。

 

 

 ゾフィスが狙ったわけでは決してないのは分かりきっているが、今回はある意味で運が悪く、ある意味で運が良かったと言えよう。

 

 

 故にゼオンは呪いによる痛苦を自らすすんで受けることを是とし、遺跡の外に出て進むでなく己の脚で目的への道を進むことを選んだ。

 

 

 歩みは遅いが、それでも進む。

 今やっと到達した地点こそガッシュが居る場所と同階層。呪いの効果が一番きつくなり始める場所である。

 

 歯を噛みしめて耐えるゼオンの肩を……そっと、デュフォーが引き寄せた。

 

「此処まででいい。これ以上は無理しなくていい。“答え”は……出た」

 

 求めていたモノは得たとデュフォーが言う。

 真っ青な顔をしながらも、多くの冷や汗を浮かべて荒い息を吐きながらも、ゼオンは笑った。

 

「……出来るんだな?」

「ああ、これで“時間制とはいえお前が望む結果が出せるようになる”」

「必要なモノは?」

「魔力防御に掛けては最強の竜が居て、魔力伝達に関しては順応性の高い毛皮を持つお前の友達が居るから準備出来るだろう」

 

 ぐ、とデュフォーがゼオンのツボを圧す。

 抱きかかえるように膝の上に乗せて、前にしていたように座らせた。

 

 荒くなっていた呼吸が少しずつ、少しずつ落ち着いて行く。

 

「一番の課題がこんなことで達成されるとは思わなかったな」

「ガッシュに近付く機会が少ないこともあったが、呪いの異常反応が見れたのは大きい。それに呪いの“副次効果”も答えとして出た。コレは単純にお前の邪魔だけをしているわけじゃないらしい」

「……なんだと?」

 

 唐突な情報に声をささくれ立てたゼオンは振り返ろうとしたが今は体勢を変えることは出来ず。

 小さく呻いてから、抱きかかえられたままで彼は続きを聞く。

 

「お前とガッシュが双子だからこそこの呪いは意味を持つ。まだ“その時”にならなければ不明瞭なことは多いが、オレが必ず有効活用してやるから安心しろ」

 

 魔力の乱れが落ち着いて、思考が明瞭に回りだす。

 デュフォーがそれ以上語らないなら今はまだ本腰を入れて話すことではないのだろう。

 何に集中して思考を回すべきかを配慮しているのだとゼオンは理解する。

 

「……後で話せ」

「ああ。落ち着いたか」

「おかげ様でな。ガッシュ達はどうだ?」

 

 小まめな現状把握は戦場での必須事項。盤面がどう動いているかを知れるデュフォーが居るからこそ、ではあるが。

 

「パムーンと交戦を開始した。Drナゾナゾ達はベルギム、ウォンレイ達はツァオロンと交戦中だ」

「戦況は?」

「三つとも圧されている」

「……」

 

 少しだけ思考し、ゼオンはふるふると首を振る。

 

「助けに行ってはならない。そうだろう?」

「ガッシュに関してだけ最悪の場合は遠距離から術での援護をするが基本は不干渉でいく。他の魔物達も自分達で乗り越えられなければこの先での成長は見込めないからな。付け焼刃でツボ圧しや呼吸法を教えるよりも、今のあいつらがその場で乗り越えることを願うしかない」

「ならオレ達はやはり別行動か」

「ああ……ガッシュ達が上手くやってくれたとしても、こればかりはオレ達がどうにかするしかない」

「……今は何処に?」

「ゾフィスが最終調整をしているようだ。マインドコントロール装置の近く、デモルトを部屋の付近で護衛に回している」

 

 その情報に、ゼオンは大きく舌打ちをついた。

 

「よりにもよってか」

「今の呪いに冒されているお前の状態でデモルトとゾフィス、そして残りの奴らを相手にするには少し分が悪い」

「分かっている。オレ以外の魔物達の心と思考能力の成長の為にもマインドコントロール装置を壊すのはガッシュ達。そう決めた以上はデモルトとも戦えない」

 

 遺跡に対してゼオンが極大の術を放てば装置は壊せる。それをしない理由があるから彼らはしない。出来ない。

 

「ブラゴとシェリーは?」

「現状は遺跡の外で数体の魔物と戦闘中だな。あいつらが来るのはもう少し掛かるだろう」

「そうか……出来ることは?」

「優先して行くべき場所はゾフィスの研究室。答えを出す者(アンサートーカー)で答えが出るといっても、より多くの答えを出せるようにするにはオレの思考の幅も広げておきたい」

「分かった」

 

 ならばやることは決まったと、デュフォーのカバンの中をごそごそと漁りだしたゼオンは中からあるモノを取り出す。

 

 ブリと、コントローラーだった。

 

「お前はオレのツボを圧しておけ。時間が惜しいからこれで行くぞ」

「……」

 

 キュイーンと音を出して起動したブリジェットがエンジンを暖め始める。

 少しだけ目が輝いているような顔のゼオンに、デュフォーはジトりと目を向けた。

 

「別にお前が操縦しなくてもオート操作も出来るしコーラルQに遠隔操作させることも出来るが」

「うるさい。即時対応するにはこれが一番だ」

 

 もう何を言っても無駄だと、デュフォーには答えが出ている。

 

「さあ、乗れ」

 

 暖機の終わったブリを指さしゼオンが笑う。

 

 仕方ないなとため息を吐いたデュフォーは、全ての状況に答えを出しながらゼオンの言う通りに従った。

 

 

 

 

 

 出て来た答えに焦ることなく。

 

 ゼオンに負担を掛けないように、少しだけ情報を閉ざした。

 

 

(Drナゾナゾの本に……そうか……)

 

 

 望みを優先して何を手放すかを、デュフォーはゼオンに伝えなかった。

 

 

 

 

 全てを知れることが、少しだけ苦しかった。

 

 

 

 

 

 

 




読んで頂きありがとうございます。


ツァオロンにもいくつか術の追加。
アラドム・ゴウエルドは原作でのあの人の術のエルド版です。
ツァオロンとウォンレイの戦闘が上手くかけてたらよいのですが……

ゾフィスくん、実はいい仕事をしていたけれどもデュフォーくんが居るので……。


ガッシュ2で博士が出てきましたね。とても楽しみです。
これからも楽しんで読んで頂けたら幸いです。

下記の内で好きな魔物は誰ですか?

  • リーヤ
  • リオウ
  • ザルチム
  • ファンゴ
  • カルディオ
  • チェリッシュ
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総合評価:23171/評価:8.98/完結:48話/更新日時:2019年11月12日(火) 20:00 小説情報

知り得たか?フハイの賢老、クヴァールを(本編完結)(作者:月光好き)(原作:葬送のフリーレン)

▼「腐敗の賢老クヴァール、80年前にこの地で悪逆の限りを尽くした魔族です」▼【不敗】の賢老?……とんでもない強キャラなんだろうな。▼そんな勘違いをしたまま死亡し、なぜかクヴァール本人になってしまった元人間。▼彼の格を落とさぬため、今日も今日とて必死に研鑽をし続けるのであった。▼※勢い100%、着地点を考えていないのでライブ感で物語が進みます。▼


総合評価:29170/評価:8.85/連載:20話/更新日時:2026年01月11日(日) 18:10 小説情報


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