モンスターハンター〜伝説の邂逅〜   作:奇稲田姫

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はぁ、ようやく…………書けました。

失踪してません!


2.EX

「"ハアアァァァァっ!!!!"」

 

 

 

ズガァァァァァン!!!!

 

 

 

イノシマの持つ盾斧(チャージアックス)が超出力属性解放斬りによって派手にビン爆発を起こす。

ちょっかいをかけていた商隊も自分に歯向かおうとしてくる愚かな人間の姿も見失ってエリア中央で無防備に佇むリオレウス亜種の胴に吸い込まれるようにヒットした。

ただ、完全に無防備というわけでもなくイノシマが近づいたことでその存在に気づいて咆哮を放とうとしたのだが、その行動よりもイノシマが盾斧を思い切り叩きつける方が早かった。

 

リオレウス亜種が思わず仰け反る。

 

その隙を逃すことなくイノシマの後ろからヤクモとイズモが左右から勢いよく飛び出し、それぞれ自分の太刀を引き抜いた。

 

「鬼人薬、使います!!」

 

「わかった!」

 

ヤクモは抜刀しながらポーチに手を突っ込んでその中から赤い液体の入った小瓶を取り出して親指で器用にコルク栓を抜くと一気に中身を煽る。

 

食べると一時的に筋力が増加しそれに伴って武器による攻撃力も増加する希少なアイテムである怪力の種と、その効果を長時間持続させるためより粘性の高い増強剤によって効果は据え置きで効果時間をより長く持続させられる薬である鬼人薬。

生産コストは相応にかかるもののその効果は絶大だった。

筋力強化もとい攻撃力増強は手数が同じなら単純に狩猟時間の短縮に直結する。

狩りが長引けば長引く程失敗のリスクが大きくなる状況では多少コストがかかったとしても使用しない手は無い。

ちょうどイノシマに渡した鬼人薬の効果も切れる頃合だ、ここいらでもう一度効果をかけ直しておく方がいいだろう。

 

視線を自分とは逆側に回り込んでいるイズモに向けると肯定の意味を持って彼女は無言で頷いた。

それからすぐに視線を目標へ切り替えるとヤクモよりも数テンポ早くリオレウス亜種に切り込んだ。

続いてヤクモも太刀を構えてリオレウス亜種の左側面へ走り込む。

 

そしてリオレウス亜種の体勢が整わないうちにヤクモとイズモの両者が同時に左右側面から縦斬りを2回、突き、斬り上げまで連続で斬撃を放ち、最後に斬り払いで後退する。

さらに完全な側面と言うよりかはすこし正面よりから斬りつけていたイズモは加えてもう一度ステップでさらに距離を取った。

 

直後、リオレウス亜種がなんの前触れもなく突進を開始する。

 

狙いは…………

 

「ちっ、私か!」

 

「イズモさん!!」

 

リオレウス亜種の突進を横っ飛びで回避し、その後の尻尾の振り回し、連続噛み付きをギリギリで体を逃がしながら一撃一撃見切りの斬撃を加えていくイズモも僅かに眉を寄せている様子。

 

「私はっ!大丈夫だ!ヤクモ!貴君は背面に回れ!イノシマ!君は出来るだけリオレウス亜種の動きを見ながらっ!?………………っ!」

 

リオレウス亜種の追撃を横っ飛びで避けつつイズモが舌打ちをする。

 

「こうも激しいと、会話をする暇さえないな!ヤクモは理解したか!それからイノシマ!こいつから目を離すなよ!もう一度貴君の一撃を脳天に打ち込む!」

 

「はい!!」

 

「"承知!で、ありますっ!!"」

 

イズモからの指示に両者それぞれの返答を返し、即座に動き出す。

ヤクモは必死に攻撃を捌き続けるイズモを視界の端から外さないようにリオレウス亜種を中心に反時計回りに旋回しながら背後へ回り、逆にイノシマはゆっくりと武器を構えながら動きつつ追撃の準備を始めた。

 

その直後。

 

 

 

 

 

グオオォォォォァァァァァアアア!!!!!

 

 

 

 

 

イズモの一撃によってリオレウス亜種が一瞬だけ怯む、と同時に大きくのけぞってから咆哮(バインドボイス)へ。

 

「しまっ…………っ!!」

 

唐突な状況変化に思わずイズモが声を上げるが、それよりもリオレウス亜種が咆哮を放つ方が僅かに早かった。

蒼火竜の絶叫が湿地帯に立ち込める空気を揺らし、その威力故に至近距離で影響を受けるイズモが渋い顔で耳を塞いだ。

おかげでイズモの動きが止まる。

 

硬直が解ける頃にはすでにリオレウス亜種は人間1人程度なら上半身を丸まると飲み込んでしまえるほどの大顎でイズモに噛み付こうとしていた。

 

イズモの硬直はまだ完全には解けきっていない。

背後に回るために動き出していたヤクモもバインドボイスの影響で足は止まってしまっている。

 

「これは……」

 

呟くようにイズモが言葉を漏らした。

 

そんな彼女に狙いを定めていたリオレウス亜種の噛み付きが迫る。

 

しかし。

 

 

「"イズモ殿!目を瞑るであります!!"」

 

 

イズモ達から少し離れた位置から放たれたイノシマの叫びとほとんど同時のタイミングでイズモとリオレウス亜種の僅かな間に閃光玉が割り込んだ。

これに気づいたイズモは反射的に目を瞑り、ほとんど同時のタイミングで割り込んだ閃光玉の外殻が弾け飛ぶ。

本日何度目かの閃光が周囲へ振りまかれる。

間髪のところでリオレウス亜種の両目を閃光が焼き、不意打ち気味に放たれたことによって思わず頭を上に揺らしながらリオレウス亜種が怯んで数歩後ずさった。

その一瞬の隙を突くように今度はイノシマが鉄蟲糸技の「形態変形前進」によってイズモとリオレウス亜種の間に割り込む。

そして片手剣形態から斧形態へ変形させた《シュラフカッツェ》で上に振られた顎へ追撃の切り上げを見舞う。

下から頭部を切り上げたことでリオレウス亜種のバランスを大きく崩す。

 

これによって大きな隙が生まれた。

 

さらに追い討ちだと言わんばかりにリオレウス亜種は頭を大きく上に振り上げた状態で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「"今であります!イズモ殿!ヤクモ殿!"」

 

「ナイスタイミングだイノシマ。礼は後で言わせて貰うぞ」

 

「承りました!イノシマさん!」

 

麻痺によって痙攣するリオレウス亜種に向けてイズモとヤクモが気刃を纏いながら肉薄し、その体重を支えている2本の脚へ抜刀居合の照準を合わせる。

イズモは正面から右翼側へ走り込みながら右足へ、そしてヤクモは左翼側から左足へ向けて。

2人の携える太刀が同時に動く。

 

「一閃必中!流水揺らぐ蜃気(しんき)(まぼろば)が如し!!居合抜刀…………」

 

イズモの『ファントムミラージュ』の刃が揺らぎながら背景に溶けていく。

 

「いきます!居合抜刀…………」

 

ヤクモの『たまのをの絶刀の斬振』に飛沫が浮かび怪しく光を反射する。

 

 

 

「「気刃斬りっ!!」」

 

 

そして両者の刃がほとんど同時にリオレウス亜種の足を捉えた。

 

 

ズバン!

ガキン!

 

 

「……っ」

 

 

斬撃音と子気味良い金属音を残してバランスを崩してなおかつ両脚への気刃斬りによる斬撃をまともに受けたリオレウス亜種の体が大きく傾き右脚から崩れ落ちる。

 

グオオァァ!!

 

それでもなお蒼空の主はブレスを吐こうと口元から炎をこぼす。

 

「こ、これでもまだ…………なのですか……はぁはぁ」

 

「いや、大丈夫だ。安心したまえ」

 

イズモはそう言い終わるとヤクモへ向けてすぐに後退するようにハンドサインを送る。

それに従って疲労の溜まった全身にムチを打ってバックステップで距離を取るのとほとんど同時のタイミングだった。

 

 

 

 

 

"はああぁぁぁ!!!!全力全開っ!!超出力属性解放斬りィ!!!"

 

 

 

 

 

重厚な機械音に猛々しい叫びを響かせたイノシマが盾斧(チャージアックス)をリオレウス亜種の脳天へ向けて思い切り叩き付けた。

盾斧内部に蓄積された榴弾ビンが勢いよく弾けて斧が叩きつけられた場所を中心に連続して爆発が起こる。

 

この一撃にはここまで激しい抵抗を見せていたリオレウス亜種も流石に耐えることは出来なかったようだ。

爆発が収まったのとともに弱々しく声を発しながらまるで張り詰めていた糸がプツリと切れたように体の力が抜けていき、ドスンと力なく地面に崩れ落ちた。

 

「………………」

 

「…………もう、動かないでくれたまえよ……」

 

「"手応えはありましたから……な"」

 

倒れても少しの間は武器を構え、警戒体勢でリオレウス亜種を睨みつけていた3人もリオレウス亜種が完全に動きを止めていることを確認すると大きくため息を着きながらそれぞれの武器を納刀しその場で膝を着いた。

 

 

 

 

リオレウス亜種、討伐完了。

 

 

 

依頼は達成されたのだ。

 

 

 

 

緊張の糸がプツリと切れてしまって疲れが一気に押し寄せてきたのか、イノシマは地面がぬかるんでいることすら忘れてその場で大の字になって寝転がってしまった。

鬼人薬使用による疲労感が一気にのしかかってきたのだろう。

 

「"はぁ、はぁ…………"」

 

「イノシマ、あまりこのような場所で女性がそのような大胆な格好で寝転がるものでは無いぞ。もう少し気品を持ちたまえ」

 

「"し、しかしでありますが…………はぁ……"」

 

「それに、助けてもらった礼をしてなかったな。なにか望みはあるかな?飲み代位は喜んで出そう。それとも武器か防具の新調の方が良いかな?」

 

「"あ、はは、はぁ……当然のことをした迄でありますからなぁ。お礼なんていらないでありますよ。ただ、どうしてもと言うのであれば………………お腹ペコペコなのでご飯食べたいであります〜"」

 

「ふむ、心得た」

 

ヤクモも袴に泥が着くことなどお構い無しに両膝を着いて荒い呼吸を繰り返していた。

 

「はぁ……はぁ…………っ」

 

イズモとイノシマが依頼達成を互いに称えあっている最中。

ヤクモは一つだけどうにも煮え切らないものがあった。

 

それは、リオレウス亜種に膝をつかせイズモと同時に放った居合抜刀気刃斬りについて。

 

あの時、結果だけを見るのであれば両脚同時にダメージを与えたおかげでリオレウス亜種のバランスを大きく崩すことに成功したと言える。しかし、ヤクモの太刀を握る手に走った衝撃はリオレウス亜種の甲殻を斬り裂いた感触ではなく………………()()()()()()だった。

 

ガキンと金属音のような音を響かせて自分の刃は甲殻によって弾かれていた。

 

あそこまで大きくリオレウス亜種の体を揺らせたのは得てしてイズモの一撃によるものが大半を占めていることだろう。

ヤクモの一撃はダメージの蓄積された体を勢いよく棒で叩いたことでその衝撃によってバランスを崩す手助けをしたに過ぎない。

 

その証拠に、イズモが切りつけた右足の方はヤクモの刃を弾いた甲殻がまるでバターであるかのように綺麗に切り裂かれており、その切り口も無駄なダメージが一切無く鮮やかな一文字(いちもんじ)を描いていた。

 

「……はぁはぁ……(まだまだ私は……)……はぁ……ふぅ」

 

大きく深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がり軽く袴に着いた泥を落としていく。

 

「ヤクモ、疲労の方は大丈夫かな?君には前半戦後半戦とフルで活動させてしまったからな。ドンドルマへ帰投したら君にもなにかご馳走しようじゃないか」

 

「はぁはぁ……ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」

 

「あっとそれから、私とイノシマも少し回復してきたところでな、周囲を警戒しておくから君からリオレウス亜種の剥ぎ取りを済ませたまえ。ギルドには連絡入れたから亡骸の回収は任せておいていい」

 

「い、いいのですか?」

 

「無論だ。今回の狩りで1番の功労者だからな。遠慮はするな」

 

「ですが……」

 

「"いいのでありますよ。オイラ達は後でも大丈夫でありますから"」

 

「ほら、イノシマもこう言っている。人の好意は素直に受け取っておきたまえよ。ほら」

 

さらに食い下がろうとしたヤクモをふと手で制したイズモがヤクモの身体をくるりと反転させてリオレウス亜種の方へ向かせ、ぽんと背中を押した。

 

「今回の依頼の成功は貴君の作戦あってこそだ。もっと胸を張りたまえ」

 

その言葉に押されヤクモは小さく頷いてざっとリオレウス亜種の方へあらためて向き直った。

 

そしてリオレウス亜種の亡骸へ向けて両手を合わせ、感謝と敬意を込めて頭を下げる。

 

「どうか安らかに…………素材、ありがたく使わせていただきます」

 

いつもの儀式のようなものを終え、腰から解体用のナイフを抜いて手早く亡骸を解体していき素材を選別し、必要最低限の素材だけをポーチにしまい込む。

そして、もう一度手を合わせて剥ぎ取りの順番を次のイノシマへ明け渡した。

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

無事に剥ぎ取り作業を終えてベースキャンプに戻ってきた3人は少しの休息を取った後、手早く片付けて帰投の準備に取り掛かる。

 

3人ともやはり手馴れているおかげで片付けは直ぐに終わり、帰りの迎えを待つだけとなった。

 

 

 

 

 

 

そんな時にはやはり気は緩むというもの。

 

 

 

 

 

 

「"ふぅ、流石に……疲れ"……ましたな」

 

狩猟が終わりを告げたことで気が緩んだのか、不意にイノシマがブルファンゴの頭部を模したヘルムを脱いだ。

声色をも変声機による電子音声から落ち着きのある澄んだ声が漏れ出す。

 

だがそれによる問題は他にあった。

その内から出てきたその顔を見た瞬間…………………………ヤクモの思考は完全に停止することになる。

 

「ほう、これはこれはかなりの美人じゃないか。何故そのようなヘルムをしているのか不思議でならないな」

 

サラリと鮮やかな銀髪は肩のラインよりも少し長めに切りそろえられており、左側に流すようにピンで止められた前髪は少し長めの横髪と相まってより優美な印象を植え付けた。

恐らく元々は長かったであろう髪をヘルムに収まるように切り揃えた様子。毛先は微妙に外側へ跳ねており、くっきりと穏やかそうなアイラインと口元の雰囲気は大方先程まで声高らかに盾斧(チャージアックス)を振り回してたハンターだとは似ても似つかない整った顔立ちをしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………………?どうしました?ヤクモ殿…………………………はっ!?あ、いや、これは………………その」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ………………あ………………あな、たは……」

 

 

 

そんな空いた口が塞がらない様子のヤクモに腕を組みながら不思議そうに疑問符を浮かべるイズモがヤクモとヘルムを脱いだイノシマを交互に見比べて首を傾げた。

 

「ん?貴君(ヤクモ)の知り合いかい?」

 

「…………し、知り合いもなにも……」

 

「?」

 

「……この方は…………」

 

「ヤ、ヤクモちゃ……ヤクモさんそれ以上は……………………」

 

「この方は、あの西シュレイド地方を統べるシュレイド王朝正当血統家系にして現在第1王位継承権を所持している王族の御子息様………………」

 

「なっ!!?」

 

「………………エリスティール・シュトルムベルク第1王女殿下、御本人にあられます」

 

「……」

 

開いた口が塞がらないというのはまさにこの事で、あまりのカミングアウトに流石のイズモも驚愕の表情と共にとんがりボウシが僅かにズレた。

 

恐らく今日1番の衝撃なのは間違いないだろう。

それはヤクモも同じなのだから。

 

「あ、ははは…………ご、ごきげんよう」

 

苦笑いを浮かべながら先程までとは打って変わって上品に手を振る王女殿下を他所に、ようやく頭のフリーズが解消されたヤクモとイズモがほとんど同時に土下座をする。

 

 

 

 

 

「今までの無礼の数々本当に申し訳ありませんでした!!」

「王女殿下とは露知らず数多なる非礼、誠心誠意ここに謝罪する!!」

 

 

 

 

 

「え、えぇっ!?」

 

イノシマ(王女殿下)が驚くのも無理はないとは思うが、それはヤクモとイズモからしても同じだった。

まさかどうして、見た目も奇抜なブルファンゴヘルムを装備し、ましてや盾斧(チャージアックス)などといった『上品』とはほぼ対極にあるような武器を軽々と振り回すハンターの正体がシュレイド王朝の王女殿下であると誰が想像できるだろうか。

居たのならば聞いてみたいところである。

 

そんな時、頭を地面に着けたまま本気で焦っているらしいイズモが声のボリュームを落としてヤクモにだけ聴こえるように怒鳴った。

 

「おいヤクモ、聞いてないぞ!どうして王女殿下がこんなところにおられる!」

 

「わ、私に聞かないでください!私が聞きたいくらいなのですから!」

 

「知らないで済むことか!?結構色々言ってしまったぞ!」

 

「私だって同じようなものです!!」

 

「あ………………あの、その、どうか顔を上げてください」

 

「はい!」

「はい!」

 

そんなやり取りを交わしている2人に向かってイノシマ、もといエリスティールが困惑した声で2人へ声をかけた。

 

「た、確かに私はそうといえばそうなんですけど…………でも、今はただの1ハンターですよ。身分なんて関係ないです。ですので今までと同じで結構ですから」

 

「いやいや流石にそういう訳には……」

 

「わ、私がいいと言っているので良いのです!」

 

「…………」

 

「も、もう!ヤクモちゃんは知らない仲じゃないですのに!」

 

「まっ、ヤクモ!?貴君は彼女と知り合いなのかい!?」

 

続けて告げられる衝撃の事実にイズモがヤクモの両肩を掴んで軽く揺する。

そんなイズモからヤクモは溜息をつきながら視線を軽く外に流した。

 

「……えぇまぁ。エリス…………王女殿下とは幼少期にシュレイド地方に越してすぐの頃にお付き合いしていた仲なんです。とは言いましても当時は彼女の身分のことなどは知らずお付き合いしていました。ですので知ったのもそれからしばらく経ってからなのです。当時共に行動していたあの女の子が王女殿下であったという事実は…………」

 

「運命の糸…………とでもいうべきなのかなヤクモとイノシマ…………いやエリスティール殿下との繋がりは」

 

「はい。あの時からヤクモちゃんはハンターになるって言っていましたね。懐かしいです」

 

「恥ずかしいので言わないでください」

 

「いいことじゃないですか。それに、あの時からですよ」

 

「何がですか?」

 

ヤクモが小さく首を傾げる。

それを見たエリスティールが口元に手を当てながら上品に笑う。

 

「私もハンターの道を志すようになったのは、です」

 

「はぁ……」

 

「同じハンターになればもっとヤクモちゃんのお役に立てるのではないかと思いまして」

 

その一言を聞いた瞬間、何故か嬉しさよりも先に片手で頭を抱えて大きくため息をこぼしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

そうこうしているうちに帰りの荷馬車が到着し、手早く荷物を積み込むがそれが終わる頃には既に太陽は西の地平線付近で沈みかけており、あたりの空も茜掛かって来ていた。

 

夜間の移動はリスクが伴うため出発は早朝となり、モンスターの目撃報告の少ない場所で野宿をすることになった。

 

焚き火を囲み、食事を終えて夜も更けてきたところでヤクモが話を切り出した。

 

「……あの、イズモさん」

 

「ん〜?何かなヤクモ、こんがり肉だけじゃ足りなかったかな?それじゃあ携帯食料の残りがあったからそれを…………」

 

パチパチと弾ける焚き火の薪を木の枝で続きながらもう片方の手でポーチの中をゴソゴソと漁り始めるイズモにため息を漏らす。

 

「空腹感はありません」

 

「おや、そうかい?ならどうしたのかね?」

 

「いえ、その…………」

 

今考えていたことを伝えようとしておもわずくちごもってしまう。

 

エリスティールはよっぽど疲れが溜まっていたのだろう頭をヤクモの肩にもたれ掛けながらすーすーと静かな寝息を立てている。

 

「ふむ。そうだな、今君が考えていることを当ててあげよう」

 

「?どういう…………」

 

「『なぜあなたの太刀筋と自分の太刀筋はこんなにも違うのか』かな?当たっているかい?」

 

「…………」

 

図星をつかれて思わず瞠目してしまう。

 

「くくく。その反応を見るに、図星かな」

 

「…………はい」

 

素直に返すとイズモは面白そうに笑いながら素直だなと言いつつ、火の中から木の枝を離すと軽く左右に振った。

 

「何単純なことさ。私の武器と貴君の武器。切れ味に差がある」

 

「切れ味」

 

「そう。切れ味…………………………も一つの理由なのだが。実はもう1つ重要なことがあるのだよ」

 

そういうとイズモは視線を焚き火からヤクモの方へ向ける。

 

「わかるかい?」

 

「重要なこと………………経験値でしょうか」

 

ヤクモの答えに満足そうにイズモは頷く。

 

「正解。太刀という武器はそれほどまでに奥が深いのなのだよ。微妙な力の入れ具合のミス、抜刀のタイミングの僅かな遅れ、刃がくい込む時の角度の多少のズレであったとしてもモンスターに与えるダメージは天と地ほどの差ができてしまう武器だ」

 

「それは、心得ております」

 

「うむ。そしてその絶妙な力加減や抜刀の合わせ方、刃の当て方は一朝一夕で身につくものでは無い。長い時間をかけて体に覚えさせていく技術であるわけだ」

 

「おっしゃる通りです」

 

「つまり、私は太刀を触っている時間が貴君よりも長いのだよ。故にその時間の長さが実力として現れているだけだ。貴君だってこの先私と同じだけの時間を太刀(コレ)と共に過ごしていれば自然と身についてくるさ。焦ることは無い」

 

「………………」

 

「まだ不満かね?」

 

「いえ、そうではなく」

 

「さっきも言ったが、焦ることは無い。貴君のペースで身につけて行ってくれたまえよ」

 

そういうとイズモは再び視線を焚き火の方へ落とした。

そんな彼女につられてヤクモも視線を1度焚き火の方へ移してからもう一度イズモの方へ向ける。

 

そして

 

 

 

「私のペースで。理解致しました。太刀という武器の扱い方。それを理解した上で………………イズモさん、あなたにお願いしたいことがあります」

 

 

 

「弟子は取らない主義なんだ、私は」

 

「そこをなんとか」

 

「断る」

 

即答で断られ一気に肩の力が抜けてしまう。

 

「…………」

 

()()()()()()()、と言っただろう?」

 

「はい。ですので目標、つまり具体的な到達点を明確にしておきたいのです」

 

「初めから到達点(ピリオド)を決めてしまえば成長は出来ん」

 

「しかしその先のことを今の段階で考えられるほど実力が伴っていないのが現状ですので。先へ進むにしてもステップというものがあります」

 

「……なぜ私にこだわる?太刀使いなら他にも沢山いるだろう?」

 

「それは……」

 

「それは?」

 

イズモが視線を上げる。

その瞳をまっすぐと見つめ返して自身の言葉を伝える。

 

 

 

「……イズモさんの太刀筋が今まで見てきた太刀使いの方達の中で最も綺麗だったから、です」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、イズモは驚いたように瞠目した後ケラケラと笑いだした。

 

「わ、笑うこと……なのでしょうか……」

 

「はははは、あぁ、これが笑わずにいられるか」

 

「……む、私の本心です」

 

「あぁ、済まない、バカにしているわけじゃないんだ。だからそんな怖い顔を向けないでおくれよ」

 

「……ではなぜ」

 

「いや、貴君も太刀使いなんだなと改めて思っただけだ。すまない。くくく、そうだ。太刀を使う者はそうでなくてはならない」

 

一通り肩を震わせて笑いこけ、イズモが一息つく。

 

「どういうことですか?」

 

「そうだな。さっきまで実力だの経験だの色々垂れてきたが、太刀使いとしての道を歩むに当たって最も大切なことがあるのだよ」

 

「大切なこと、ですか」

 

「あぁ、そうだ。それはな。太刀という武器に泥臭さを求めない、ということだ。いかに優雅にいかに美しくいかにスマートに立ち回るか、それが最も大切なのだよ。その追求の過程にあるのが先程の経験と実力なのだ。だからそこに『美』を求めることが出来ない者のほとんどは太刀に向いてないのさ。まぁ100%という訳じゃないがね。その点でいえば貴君は適任だ」

 

そう言い終わるとイズモはヤクモの隣にストンと腰を下ろし、笑みを浮かべながらヤクモの頭をポンポンと軽く叩いた。

 

「前言を撤回しよう」

 

「!そ、それって」

 

「あぁ、弟子として認める」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

こうしてヤクモはイズモの元に弟子として付き、同時に所属を古流観測所へと移した。

 

古流観測所の依頼をこなしつつイズモの元で太刀を学び、同時に新人育成のための教官としての草鞋も履くことになっていく。

 

当初はイズモの弟子として所属を古龍観測所へ移したと同時に教官としての依頼はキャンセルする予定だったが、イズモの指示で行うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、イズモの元に弟子入りしてからだいたいひと月が経とうとしていた頃。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンドルマ訓練所。

 

 

 

 

「……吾輩に変わって現地訓練を指導してくれることになった新しい教官を紹介する。入れ」

 

扉の中からクロオビ教官の声が聞こえ、入室の指示が下る。

1度大きく深呼吸をしてから扉を数回ノック。

それからゆっくりと引き戸を開く。

 

カラカラと独特の音を響かせて扉が開くと部屋の中にいた生徒全員の視線がこちらへ集中するのがわかる。

 

 

 

「失礼致します」

 

 

 

一言声をかけて一礼。それから入室し壇上へ向かう。

そして、集まった生徒たちへ向けてもう一度ぺこりとお辞儀をする。

 

「紹介しよう。これからお前たちの教官となる『ヤクモ・ミナシノ』だ」

 

クロオビ教官の紹介を受けて自分も自己紹介に移る。

 

「ご紹介に預かりました。『ヤクモ』と申します。皆様が立派なハンターとなれますよう尽力致しますので、どうかよろしくお願い致します」

 

 

 

それから再度頭を下げる。

 

 

 

イズモの弟子としての生活と並行した教官としての生活がここから始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

自身を磨き、そして次世代のハンターを育てる。

 

 

使命成就のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

終着点は数多、しかしその全ては幾重にも重なり合って一人の若き乙女を中心とした物語として紡がれていくことになる。

 

 

それはまさに、『八雲』のごとく…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話【八雲立つ】 終幕

→ヤクモ・ミナシノの新人教育 前編




水蓧 八雲の章ここに完結。

ここで出した設定はそのうちどっかで使うかもしれません………………たぶん?
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