◆春風モーニング
ひんやりとした空気を肌で感じて、斎賀玲は目を覚ます。カーテンが大きくたなびいて、風が吹き込んで、それと同時に朝がきたことを玲に知らせる。
(そうだった)
日中の気温もだんだんと高くなってきていて、すっかり寝室にも熱がこもるようになってしまった。だから昨夜は、窓を開けて眠ろう、と恋人と話をしたのだった。
玲はごろんと寝返りをうつ。すぐそばに、彼の顔があった。
そういう関係になって、そういうことをするようになって。共に暮らすようになった。
だから、この関係性になってすぐの頃と違って、恋人の──陽務楽郎の顔がすぐ近くにあっても、じっくり鑑賞できる程度の余裕ができてきた。
(まつげに、ほこりがついてる)
そっと手を触れる。慎重に慎重に手を近づける。
その時に、ふわりと大きく風が吹き込んできた。
ピクリと、楽郎の目蓋が震える。
ゆっくりと、彼の目が開いていく。
「おはようございます、楽郎君」
「おはよ、玲さん」
まだまだ眠たそうな声。
コツンと、額がぶつかってくる。
「どうしました?」
「んー、幸せだなって」
「ぴょっ!?」
◆暴食アクアリウム
※モブ視点
私は今、水族館にいるんだけど。
「れい──、これ食べたことある?」
「クマノミは流石に……。 もしかして……らく──君はあるんですか…………?」
「ある」
さっきから、隣から聞こえてくるカップルの会話が物騒過ぎる。
いや、別に物騒ということはなくて単にお魚さんを食べたことがあるかどうかという、一般日本人ならば誰しもする会話ではあるのだけれど。場所が場所なので、お魚さんにとっては相当に恐ろしい話題だろう、多分。
「あ、でもこっちは、昔──」
熱帯の海、と書かれたコーナーなので泳いでいるお魚さん達はかなり幻想的だ。
ただ、隣のカップルが幻想を破壊というか食し尽くしてるだけで。
カノジョさんの方──多分デートだろうからカノジョであってると思うけど──が指したのは、青色のお魚さん。映画にもなっていたことがある、このコーナーでも人気の魚だ。壁の説明文には、観賞用として人気、と書いてあった。
「祖父が目の前で捌いて泣いたことは覚えています」
祖父ぅ!ド○ーさんを幼子の前で捌いたのか。
「あー、やっぱりあったんだそういうの」
「──ろう君も?」
「親──がタツノオトシゴを目の前でカラリと」
「魚って、フライになればおいしくいただけますよね…………」
どういう家庭で育ったのこの二人。
ある意味でお似合いなのだろうけど。
名も知らぬカップルは、一言二言交わしてから、別の展示へと向かっていった。
心なしかお魚さん達も、あの二人が去ってから生き生きとしてる気がする。あっ、跳ねた。
偶然、本当に偶然なんだけど。もう一度、あの暴食カップルに遭遇した。場所は、この水族館の売りでもある、マナティーの展示コーナーで。
先程のように、仲良くお話ししているのだが。
いやいや、まさかね、まさかマナティーまで食べたことあるなんてことは。