「ここは私が押さえる。だから、玲。お前は私に任せて先にいけ」
「そんな百姉さん!」
「もががががが」
「いいから早く行け。そう長くは持たない。頼む玲、お前があれを封印するんだ!」
「もがーもがーーーー!」
「分かりました。 私が──仙姉さんの保管してるあれらを全て封印します」
斎賀さん家は、初っぱなからクライマックスだった。
「いや、どういう状況だよこれ」
少し頭を整理しよう。俺こと、陽務楽郎は恋人たる斎賀玲さんのお家に招かれた。これはいい。そんなしょっちゅう、彼女の実家に招かれることがあるのか、という疑問はとっくに消去した。で、例のごとくお手伝いさんに、『こちらでお待ちください』されたら、なんか無駄に高度な争い──いや、多分内容はすげえ低レベルな気がしてるんだけど──が繰り広げられていた。
すげえや玲さん、走るときにも頭が全くぶれないんだ(現実逃避)
そして、どうしよう。頭を整理しても何がどうなってるか全く理解できない。誰か説明してほしい。
「聞こえますか婿殿──」
「婿じゃ(まだ)ないです」
こいつ、直接脳に!?と一瞬思ったが、そんなことはなく、単にずるずると人一人引きずっているだけの、座敷わら…………仙さんだった。え、引きずられてる次女たる百さんはどんな感情なの今。
「義弟殿。これは他意はない話なのですが」
「聞きたくないです」
このタイミングでの話しなんて、絶対にろくでもない内容しかあり得ねえだろ。
「殿方はビキニに目が無いと伺いました」
「誰から聞いたんだよそんなもん」
「夫です」
聞くんじゃなかったよ。誰だよ聞いたの。俺だよ。
「ということで」
「俺、めっちゃ帰りたいんですけど」
「何がとはいいませんが、玲の写真は」
「あっ、要らないです」
本人の同意無しは、普通にアウトだよ。
大体、見たかったら自力で頭下げて「見せてもらうし」
「──」(唐突に鼻血を垂らす長女)
「え」
「隙を見せたな」
ぐるりと円を書くように、下世ワラシが床に倒れた。即座に反撃のため、起き上がろうとしたのだろうが、そこを許すような斎賀(次女)ではなかったらしい。俺は何を言ってるんだろうか。
「ぐえ…………っ」
「ええ…………」
えぇ………………。
「まあ、なんだ。節度がある関係性なようで、安心した。後は私が処理するから、ゆっくり過ごしてくれ」
「処理て……」
今度は百さんが、長女を引きずって部屋から去っていった。
俺は考えることを止めた。
「お、お待たせしました楽郎君。そ、その、ゆ、ゆゆゆゆうはんも」
「夕飯?」
「はい。今晩は、鰹のたたきです」
玲さんの目はやけに澄んでいた。
「じゃあ、ご一緒しようかな」
「はい」
燃料が藁かどうかの確認はしなかった。