「イイコちゃんだよなあ」
「はあ?」
移動教室で通りがかった教室の前で、偶然遭遇した恋人こと、斎賀玲さんとのやりとりを一通り見ていた雑菌福耳ピアス野郎が、ワケがわからんことを言い出した。
「誰が」
「お前だよ、お前。最も爆殺したい男ランキング一位の陽務楽郎のことだよ」
「なんだよそのランキング」
こんなにも品行方正に生きてるのに、爆殺される謂れはない。あっち、というか幕末なら話は別だが。そういえば、最近新しい三次元屈折天誅っていうのが開発されたって、京極の奴が言ってたなあ。三次元屈折ってどういうことだよ。幕末物理学会に顔をそろそろ出すべきか。
「逆に聞くけど、斎賀さんと付き合って、恨まれないとでも思うのか?」
「そんなこと言われても」
確かに。玲さんが、モテることは知っている。元々から、そうなんだろうな、ということは気づいてはいたけど、お付き合い──つまるところ、彼氏と呼ばれる存在になってから、そのことがよくよくわかるようになった。具体的にはお付き合いをしていてなお、告白されているらしい。
つまりだ。
「天誅、するか」
「なに考えてんのお前!?」
なにってあれだよ、あれ。
不埒な輩は、しっかり誅しないといけないって、金魚鉢の鮫アヴェンジャーズ達が実証してたしな……って、いてえ!
「なにすんだよこら」
「こっちの台詞だよ。焦点あってねえし、二十七分割とか意味がわからないことを、いきなり呟くな!」
声になってたか。それもこれも、俺じゃなく天が悪いし、今の状況ではイイコちゃんとか言い出した雑ピが悪い。そこで、ようやく思い出した。
「それで、なんで俺がイイコちゃんになるんだよ」
「話ちゃんと戻るのか……」
なぜか呆れた顔になる雑ピ。お前が言い出したんだろうが。
「自覚ねえの?」
「自覚?」
言われても、身に覚えがない。
「陽務は、そういう奴だよなあ」
雑ピが露骨にため息をついた。
ムカついたので雑菌アクセサリーを引っ張る。
「やめほよ! ひょういふとこだぞほ前! 絶対、斎賀さんの前でそんなことしねえじゃん!」
「当たり前だろ」
玲さんは、こんなことをせざるを得ないようなことしないし。
「この際だから言うけど、お前斎賀さんと話してるとき、ワントーン声が高くなってるし、口調も違うからな」
「え?」
そうなの?そんなはずは。
「陽務が斎賀さんの前であからまさに様子が違うと思う人ー!」
いつの間にか、教室についていたらしい。合流したクラスメイト達が、何事かといった様子で雑ピのことを見て、説明を受けたら、少なくともその場の全員が手を上げた。
「ええ……」
「あからさまだよね」
「恋ってすごいなって思うよね」
「玲ちゃんは言わずもがなだけど、陽務も明らかに目が開くし。 しゃべってる時って」
「「「コロセ……コロセ…………」」」
なんだろう、すげえ恥ずかしい。
「「「「「コロセ……コロセ……コロス……コロス」」」
生暖かい目が、非常にいたたまれない。
「「「ハリツケ……ハリツケ!!!」」」
そのせいか、浮遊感まで覚えて…………ちげえわ!これに関しては、本当に俺が持ち上げられてる!
「離せテメーらあああああ!」
「裁判やろうぜ」
「じゃあ俺、死刑執行人やる」
「じゃあ俺、電気椅子持ってくる」
「竹でできたノコギリ作ってくる」
「いやじゃああああああ!」