「最近、楽郎君が、付き合って欲しいってすぐに言うようになってきて、勘違いしないようにするのが大変なんです」
常連客である斎賀玲のその言葉を聞いて、ロックロール店主岩巻真奈は頭痛の気配を覚えて思わず米神を押さえる。
「真奈さん大丈夫ですか!?」
「大丈夫か、大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫じゃないけど、もう少し詳しく教えてくれる?」
心配そうな表情で顔を覗き込んでくる常連客に、再度催促する。するとようやく、玲は詳細を話し始めた。
◆
よく晴れた日だ。
ここ最近はどうやら日本列島全体を高気圧が覆っているそうで、まさに通学日和である。
今日の玲の勘働きは冴えに冴えていて、想い人である陽務楽郎とも一緒に登校することができた。
(ここ最近、調子が良い気がする……!)
「玲さん」
「ほぴゅ」
「ほぴゅ?」
しまった。少し油断してしまっていた。
「な、なんでも、ないです!」
「そっかあ」
へにゃりと彼が笑う。玲はその表情を見て、自分の顔がかなり熱くなっている自覚をした。
(最近の楽郎君は、少し、変かも)
今みたいに、笑うことが増えた。
「ところで、玲さん」
「ひょあい!」
そして、まさに今のように玲に向かってはにかみながら、話しかけてくることも増えた。後、心なしか。
(顔が赤くなってる、ことが多い気がする)
「玲さん、付き合って欲しい」
み。
しばし、思考停止。しかし数多の修羅場を乗り越えてきた玲には死角はない。
「今晩も、シャンフロですか? 良いですよ」
加えて、こんな感じの発言も多くなっている。玲が勘違いしたらどうするつもりなのだろうか。
「…………うん、シャンフロ」
そして、最後にがっかりしたような、安心したような複雑な表情になることも増えている。
◆
「ということなんです、真奈さん」
常連客の語りを聴いていて、真奈はなんかこう、涙が流れそうになってきた。
「楽郎君……哀れがすぎる…………」
「や、やっぱり、楽郎君は何か困っている事があるんですか!?」
そして、こっちの常連はやっぱり分かっていない。
ここで、真奈が端的に『告白されてんのよそれ』と答えることもできる。できるのだが、それはオトナとしてやってはいけないことだし、若干あのクソゲーハンターが自分で撒いた種でもあるのは間違い無いとも、思わなくもない。クソボケが感染してるし。
つまり、真奈にできるアドバイスは、一つしかなかった。
「玲ちゃん」
「はい」
「楽郎君にチューしなさい明日にでも」
「真奈さん!?」