マチカネフクキタルにシラオキ様として召喚されてしまった男のトレセン学園生活 作:木岡(もくおか)
「ふんにゃかハッピー……」
どこからか、謎の声が聞こえる。
「ふんにゃかハッピー……はんにゃかラッキー……」
その声は周囲に反響していて、どこかで聞いたことがあるような無いような――。
目を開けると、俺は真っ黒な空間にいた。ここがどこなのかは知らない。分からない。
でも、ただ真っ黒なだけじゃない。遠くに光が見える。
「ふんにゃかハッピー……はんにゃかラッキー……センキューシラオキ……」
そして、謎の声はその光の方から聞こえてきていた。
この場所は暗くて怖いけど、輝いて見える光からは暖かい感じがした。
だから、俺はもがき、泳ぐ形で必死に光の所へ向かった。
辿り着くとより強い光に包まれる、今度は白さで何も見えなくなるほど――。
「……スピリチュアルパワーが体中に集まってきています!今ならできる!シラオキ様、どうか私に力を!」
次の瞬間、俺は部屋に立っていて、目の前にはオレンジ色の髪をした女の子がいた。
「感じる!成功です!目の前からとてつもないスピリチュアルパワーが!」
うるさい……。眠りから覚めたような感覚がある頭が最初に思ったのはそれだった。
「シラオキ様!今度のレースどうすれば勝てるか、どうか私にお教えください…!」
目の前の少女はかなりの近距離で目を輝かせながら俺を見ている。
そんな少女からの言葉を一旦置いといて、俺の状況整理が始まる。全く理解が追い付かない。見たことが無い景色と、今までにない体験。俺は一体どうしてここにいるのか……。
寝て起きた感じがするけど、さっきまで俺は黒い空間にいた気がする。だけど、何だ黒い空間って……その空間を通ってここに来た……ということは空間移動か……ありえないだろそんなこと……ということはこれは夢……?
いや待て落ち着け。とりあえず受け入れよう。
じゃあ黒い空間で目を開ける前は……?
寝ていたんだっけ……いや……。
…………。
あ、そういえば……俺、死んだんじゃなかったっけ……。
「どうされたんですか?シラオキ様。さあ、早く!どうか私に!今日のレース……必勝のお告げを!」
それを思い出した俺は放心状態になった。記憶が繋がった。確かに自分が死んだ記憶がある。理由は交通事故だ。車に轢かれてしまって、血を流しながら道路の上で倒れた。徐々に痛みを感じなくなっていって、目の前が真っ暗になっていく。黒い空間で目を開ける前にある記憶はそれだ。
「んー?まさか失敗!?何も聞こえません……そんなっ、そんなはずは」
俺の精神状態をお構いなしに目の前にいる少女は奇声とも言える声を発していた。何なんだこの子は一体……。
ってあれ。まさかこの子はマチカネフクキタル!?ウマ娘の!?
良いにしろ悪いにしろ自分が置かれている状況を理解し始めた俺は、そこでようやく目の前の少女にピントを合わせた。そして気付く。その少女が愛してやまないウマ娘達、その一人であると――。
ウマ娘とは、競走馬を題材にした擬人化コンテンツである。名前の通り女の子しかいなくて、史実を元にしたクオリティの高いアニメとゲームは驚くほど人気がある。
俺も死ぬ前はそのウマ娘のファンであった。というか、今もファンである。目の前で見ると、死んだという事実が吹き飛んでしまうほどの。
「ふっふっふっ……分かりましたよシラオキ様。シラオキ様の存在は確かに感じる。けれど、私にお告げをくれないということはつまり……その必要が無いということですね。何故なら今日の私は大吉絶好調。運に身を任せれば負けはあり得ない!」
得意げに指を立てて話すフクキタル。勝負服を着ていて、制服風のデザインと招き猫のリュックがなんともかわいらしい。
「ってか。俺がシラオキ様?」
ここで目覚めてから初めて声を出す。しかし……。
「そうと分かれば、さっそく出発です。今日の金鯱賞。必ず勝ってみせます」
俺の声は聞こえてないようで、フクキタルは荷物をまとめ始めた。
「おーい。聞こえてる?」
「俺、君に聞きたいことがあるんだけど……」
さらに声をかけてみてもやはり反応が無い。不審に思った俺が自分の体を見てみると、俺の体は半透明状態で透けていた。
「行きましょうシラオキ様。私の勝利を見ていてください!」