彗星の羅針盤   作:もみじん

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こんばんは!
第9話です。宜しくお願いします。


第9話 悪循羅刹①

メールに記載があったパスワードを使用し、『管理』のアプリを開く。

 

すると起動音と共に、アプリの全貌を明らかになる。

 

「な、なに・・・? これ。」

 

最初は、困惑からはじまった。

 

『管理』アプリが起動すると、画面上には再びアプリが羅列されている。

 

その中でも、目が引かれる項目がいくつか並んでいた。

 

「個人・・・。」

 

私自身の情報でも記載があるのだろうか、と軽い気持ちで『個人』のアプリを開く。

 

暫しのロードを経て、画面が遷移する。

 

そこに現れたのは、私自身の情報、なんて軽い"モノ"ではなく・・・。

 

「な、なによ、これ・・・。」

 

二度目の困惑が生まれる。

 

途端、背筋から生命の綱をなぞられるような感覚に陥り、ゾッとする。

 

それと合わせ、罪悪感にも見舞わられ、頭の中がギクシャクとする。

 

画面に映し出されていたのは、恐らく学校に在籍する全生徒の名簿だった。

 

今のご時世、"アレ"がだれで、どこにいるかさえわかってしまえば、一個人の情報を搔き集めるなんてそう難しいことではない。

 

それが個人の"名前"や"年齢"ならなおさらだ。

 

しかし、今画面に映る名簿は、その度をはるかに超えていた。

 

住んでいる住所は愚か、好きな人、嫌いな人、起床時間、睡眠時間、趣味など他にも沢山、"私"の知らない"私"の事まで記されていた。

 

まるで、物語の登場人物であるかのように・・・。

 

そのキャラシートとも呼べるものが、生徒全員分あるのだろうと悟る。

 

その瞬間、身に覚えのない吐き気に見舞われる。

 

ふと、指が好奇心で動く。

 

この世界には、『知っていいこと』、『知ってはいけないこと』、『知るべきであること』、『知るべきではないこと』が存在する。

 

『知っていいこと』と、『知るべきであること』は、生きていく中で、自然的と自身の周りへと集まってくるものなのだ。

 

よって、『知っていいこと』を知っていても、『知るべきであること』を知っていても、どちらとも人生というレールには、一切不具合を起こさない。

 

しかし、『知ってはいけないこと』を知り、『知るべきでないこと』を知った場合、どうだろうか。

 

レールは容認していない事象に影響を及ぼされ、不具合が起こることを余儀なくされる。

 

それは、進むべき"本来"のレールを外れ、また"別"のレールへと向かっていくことを示す。

 

今ここで、この瞬間、鹿野紅葉の下に敷かれたレールは、大きく分岐する。

 

指が好奇心で、動き続けている。

 

怖い、怖い、怖い、怖い。

 

誰かに背後から、狩られてしまいそう。

 

怖い、怖い。

 

私の望む普通の日常は、もう訪れない。

 

私の脳が思考するとき、"コレ"が必ず過ぎるだろう。

 

私の嫌いな人は"■ ■"、貴方の嫌いな人は"■ ■"。

 

彼女の嫌いなことは"■ ■"、彼の嫌いなことは"■ ■"。

 

本来、知るべきでなかったものが脳裏を巡る。

 

今も巡り、巡り続けている。

 

あいつの趣味、あいつの嫌いなこと、休みの日にすること、最近親しい友人、家族との友好関係、"トラウマ"。

 

指が意思を持って、動く。

 

名前、橘楓(タチバナ カエデ)。

 

「・・・」

 

好きなこと、『読書・勉強からファッション・メイクへ変更』、────修正完了。

 

事実だ。

 

最近親しい友人、『鹿野紅葉から佐々木日美子へ変更』、────修正完了。

 

知りたくもない。

 

家族との友好関係、『家族は存在しない』、────修正なし。

 

知らない、知らない。

 

「・・・・・・・」

 

心の中に、ぽっかりと穴が開く。

 

指が勝手に動き出す。

 

名前、鹿野紅葉(カノ モミジ)。

 

嫌いな人、『佐々木日美子』、『橘楓』。

 

合っているが、合ってない。

 

好きな人、『橘楓』。

 

合っている。

 

趣味、口癖、性格、できること、できないこと、家族構成、将来の夢、"トラウマ"。

 

合っている、合っていない、合ってない、合ってない、あっていない、合っていない、合ってない、あっていない、────合ってる。

 

再び、指が勝手に動き出す。

 

名前、黒崎孝文(クロサキ タカフミ)。

 

好きなこと、『■ ■』、修正なし。

 

嫌いなこと、『■ ■』、修正なし。

 

趣味、口癖、性格、できること、できないこと、家族構成、将来の夢、トラウマ。

 

修正なし修正なし修正なし修正なし修正なし修正なし修正なし修正なし修正なし────。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

補足、実験体No348────。

 

ガチャリ、と音がした。

 

「ただいまー、帰ったぞー、紅葉。」

 

朦朧とする中、その声を境に意識が覚醒する。

 

一体、いつまでこうやっていたのだろう。

 

時刻は既に夜の22時を回っていた。

 

そうか、パパが帰ってきたのか。

 

今の時間帯と一階からの物音を理由に、そう解釈する。

 

「疲れたー。」

 

家に帰ってきたのが、18時過ぎだったので、大体3時間程ぶっ通しで、本来知る必要のない情報を頭の中に詰め込んでいっていた。

 

罪悪感などという気持ちは、とうに消え去っている。

 

今"アレ"を見て、私は只々胸が苦しい。

 

本当は自分に意思というものが存在しないのでは、と疑いたくなって、何度も何度も心が締め付けられる。

 

ただ一方で、そのたびに奥歯を噛みしめる自分も存在するということ。

 

去年の冬休み前から起こり始めた橘楓の変化、それに常々、佐々木日美子という人間が関わっているという事実。

 

私はそれらの根拠という名のピースを搔き集め、一つの"仮定"を作り上げる。

 

『もし、佐々木日美子が"意図的"に他者のレールに入り込み、行く先を変えていたとしたら。』

 

『そして、もし、そのレールの行く道を変えた先が、決められた"役"を演じるために創り上げられた、"創造物"の成れの果てだとしたら。』

 

それは"人間"と呼べるのだろうか。

 

その"人間"に思考は、意思は存在するのだろうか。

 

その"人間"は"悪意"を持ち得ているのだろうか・・・。

 

────ふと、興味が沸いてしまう。

 

しかし、今わかっている確かなことがある。

 

仮に佐々木日美子が意図的に、そんなことをしているのであれば、それは"悪"だ。

 

私自身、"悪"の定義などまだ明確に定まっていなくとも、直感で、経験でわかる。

 

あいつから"悪意"が湧き出る理由も、条件も必要なカードも全て揃った。

 

次、あいつに会ったら今までの行動の理由を聞く。

 

もし仮に、彼女からの返答が今までの行動を全て肯定するようなら、私は自分自身で"悪"を浄化する。




読んでいただきありがとうございました!
次回でお会いしましょう
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