彗星の羅針盤   作:もみじん

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第23話 ブレ:一日目③

冬島が私を試すように煽ってくる。

 

時折ホラホラと油断した構えを見せて私からの攻撃を誘っているのか。

 

「来ないならこっちから行くぞ?」

 

ふわりとした雰囲気から一変し、冬島は勢いよく突進してくる。

 

私は危機感を感じ取り、後方へ飛ぶ。

 

迫ってくる黒い影。

 

後方へと飛ぶ飛距離が甘かったせいか、ズンッと冬島が振りかぶった拳を突いてきた。

 

当たる・・・。

 

避けることは叶わず、攻撃を受け入れようと心が準備した途端。

 

「なーんて、冗談、冗談。

 初対面で普通殴りかかるか? 警戒心が強いのは御立派だが強すぎると知らないうちに周りも跳ね返すぞ?」

 

冬島は語尾に音符マークを携える様な陽気なテンションで攻撃を制止させる。

 

「この際だから教えておいてやるけど、悪意でモノを見極めようなんて弱いやつにしか通用しないぞ?

 強いやつらは悪意なんて出し入れも自由なんだから。

 まぁ第一自分の悪意を視える人が居るー、なんてことを知っている人の方が少ないけどね。」

 

「・・・貴方も私が視えてるの知ってるんですか?」

 

浅峰と言い、今までパパ以外に隠してきたことが今日だけでも二人に気が付かれた。

 

会長はそこまでは理解していないようなのでノーカン。

 

「ん────? あぁ、君のお父さんから聞いたんだけど。。。」

 

よし、もうパパには隠し事は一切言わないことにしよう。

 

「パ・・・、お父さんとは知り合いなんですか?」

 

「パパで別に良くない? 誰も笑わないでしょ。」

 

「ほっといてください! 私の気持ちの問題なんですッ!!」

 

「パパと知り合いねー、まぁそうだね。

 仲間というわけでもないけど、敵ってわけでもないんだよね。

 いい感じに協力者ってとこかな?」

 

私は正直言うとパパが普段何してるか全く知らない、というか教えてくれなかった。

 

普段から帰りは遅いけど、たまに平日の昼間から家で飲んだくれてる人なので働いていないのでは? とも思った時期もある。

 

ただどうやら収入はあるようでそのおかげで私は高校生にまで上がれたのだ。

 

浅峰もパパのことを知っているようだったし、本当にあの人なにやってんだろ。

 

「まぁまぁ互いに全くの赤の他人ってわけでもないんだしさ、仲良くやろうや。」

 

冬島は手を伸ばしてくる。

 

普段であれば悪意を出す人とは基本的に一切かかわらないのだが、この人の寝坊助みたいな顔をみているとその警戒心も段々と薄れていってしまった。

 

私はその手に答えるように渋々手を差し出した。

 

◇◇◇◇◇

 

「ん、それじゃあ早速だけど本題に入ろうか。

 今起きている事、そして今日俺が君を呼び出した理由・・・。」

 

冬島"さん"は改まって話を進める。

 

「さっきも聞いたことだけど、今起きている現象。

 ぶっちゃけるとね、紛れもない君達のせいなんだよね。」

 

そう指をさしながら指摘された。

 

「む、それは会長から言われてなんとなく気が付いてました。。。」

 

「そう、奏太朗はなんて?」

 

「別の世界の私"鹿野紅葉"が私と同じ世界に居たことによって起きた不具合、ブレって言ってました。」

 

「なんだ、一応説明してたのかあいつ。

 そうこの超常現象の名は"ブレ"。まぁ勝手に俺たちがそう呼んでるだけなんだけどね。

 現象ランクはSSランク、ちなみ地震とか台風とかいう自然災害はみんなFランク、要は最低ランクに位置してる。

 基本ランクはどのジャンルでも高ければ高いほど決まった基準より大きい物になるわけなんだが、現象ランクの基準は"人の壊れ具合"で決まる。」

 

「"人の壊れ具体"とは、簡単に言うと人であるかどうかという事かな。

 そういった基準の場合、自然災害では人は人として"死ぬ"場合がほとんどだ。それがFランク。

 ただFランクよりランクが上がっていくとそれは人として死ぬことはできなくなっていく。」

 

「人としてって、なんか怪物になったりでもするんですか?」

 

先補から冬島さんのたとえが悪いのかわからないが私はそんな風にしか想像できない。

 

「アハハ! それ笑える。

 まぁ確かにそれもある意味、人ではないわけだから人として生きていけないという判断になるかもな。

 ただブレはそんな甘いもんじゃない。」

 

腹を抱えられながら笑われた。

 

「いいか? ブレというのは人を徐々に壊していく。

 ブレが起こっている間は全てが異常なんだ。誰しも全員が普通だと感じる事は起こり得ないだろう。」

 

冬島さんはそういうが、私はそうは思えない。

 

今の所私の故郷に異常は感じられない。

 

この学校だってそうだ、私が通っていたまんま。

 

勿論私の家だったところも変わりなくあるだろう。

 

「徐々に、だ。

 今は普通かもしれない。ただブレの被害を受けたこの世界も分岐し始めるんだ。それは元の世界も例外ではない。

 そうやってブレの被害にあった世界はすべて崩壊していったのを俺は何度も見てきた。

 ただ、それはすべて対処が遅れた結果だ、まだこの世界は間に合う。」

 

「具体的にどうすればブレを終わらせられるんですか?」

 

ブレの先に起こることとは私は想像もできないが、崩壊してしまうというならばそれを止めるほかない。

 

「・・・」

 

冬島は押し黙る、何か躊躇しているようにも見える。

 

「・・・ブレを終わらせる方法は、紅葉。

 君がこの場で死ぬことになればすぐにでも世界は元通りになるだろうな。」

 

「なッ・・・」

 

思いもよらぬ提案に絶句する。

 

冬島さんは私が死ねば世界は元通りになると今言った。

 

そんなことを急に言われて、はいわかりましたと覚悟が収まるわけもなく・・・。

 

「そんなの・・・。」

 

自分でもわかっている答え。

 

正直に言おう、私は世界の為に自分の命を投げることはないしないだろう。

 

それがもし誰かの為だったのならもう少し熟考していたかもしれないが、それが世界となると何故か規模が大きくなるのに私の中で"浅く"なってしまっていた。

 

「ほ、他に案は────。」

 

だからそんな私の中の浅はかな世界を命を投げうってまで救う気はない。

 

「うん、やっぱり死にたくはないよね。

 俺だって同じ立場なら絶対に嫌だもん。

 勿論あるよ、別の方法。」

 

冬島は同情するように更なる選択肢を開示する。

 

「要は今回のブレは君たち"鹿野紅葉"が同時に同じ世界に存在してしまったことが原因で起きた不具合なわけだから、単純にそのバグの要因をこの世界から排除すればいいんだ。

 だからさっき俺は君が死んだらブレが終わるって言ったわけ。」

 

そこまで聞いて私はどうすればブレが終わるのかを理解した。

 

「つまり君が生きたままこのブレを終わらせるには、こっちに来たもう一人の"鹿野紅葉"を殺すしかないッ!!」

 

ズバリッと冬島は人差し指を天に掲げ、そう告白したのだった。

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