彗星の羅針盤   作:もみじん

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最終話 鹿野紅葉:正義感

「おーい、紅葉大丈夫か?」

「え────?」

「えっ、て紅葉大丈夫か?」

私は気が付くと、更地となった森の茂みで仰向けなって寝転んでいた。

「冬島さん・・・・・・。

 ッ! 楓はッ!!」

先ほどまでの状況を思い出し、今最も私の中で重要なことを聞いた。

「大丈夫だよ、元の姿にちゃんと戻っている。

 紅葉が綺麗にアイツの情報が詰まっている核を破壊できたから、彼女自身には何も影響はない。」

それだけ聞いて、横で眠る彼女を見て只々安堵する。

「よくやったな、紅葉。」

背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「会長ッ!? 生きてらっしゃったんですか!?」

「勝手に殺すな、冬島さんに救われたんだ。」

「傷口が綺麗に抜けたからか、重症ではあるが命に別状はなかったよ。

 ────それと、黒崎の件だが・・・、済まない死力は尽くしたが────。」

「大丈夫です────。」

私は冬島さんがそのことを言い切る前に、強引に割に入った。

聞きたくない、というわけではない。

ただもうわかっていると自分に言い聞かせたいだけなのだ。

「なんと、あの怪物を押しとどめてしまうとは。

 流石ですね、皆さん。」

浅峰が淡々とこちらへと歩いてやってくる。

「お前、何しにここへやってきた────?」

冬島さんが私と会長を庇うように前へ出る。

「いや、貴方たちを見ていると全て丸く収まった様な雰囲気だったのでちょっとしたサプライズを────。」

浅峰はこの世界に"彼女"を呼んだように宙へ手を添えて、鍵を開けるように添えた手を手首を軸に回す。

すると、案の定異世界への入り口である黒円が現れる。

「紅葉君────、私は黒崎君を殺すといったのを覚えているかな?

 実はね、この世界での黒崎君は保険でしかなかったんだよ、私の目的は別の黒崎君が達成してくれた────。」

黒円から重力に身を任せ、倒れこむように落ちてくる人物。

「黒崎────!?」

目の前に落ちてきたのは紛れもない黒崎本人だ。

だが、私の知る彼とは少し違う。

その彼はもはや動く気力すらもない、目は開いているがその目には何も映っていない。

肌には潤いを全く感じなく、生きているとは到底思えない生命であると感じてしまう。

まるで────、植物人間の様だ。

「これが私の欲しかった色のない魂さ────。

 この彼はね、私と10歳の時に出逢ってそれからずっと私の"指示"に従い続けたんだ。

 勤勉だろう? 途中でおろそかにしたこの世界の彼とは違う────。」

「────なにが、言いたいの。」

私は前に居る冬島さんを追い越す勢いで浅峰へ詰め寄ろうとする。

しかし、それは冬島さんに呆気なく制止させられてしまう。

「怖い怖い、────様はこの世界の彼はお遊びなのさ。

 さっきも言ったが保険にしかすぎないんだよ。」

今、理解した。

コイツは────、保険の為だけに一人の人間の人生を弄んだんだ。

苛立ちと殺気が両方込みあがってくる。

「ストップ、紅葉。

 今始めたらあいつの思う壺だよ────。」

「いい判断だ、冬島。

 それが故に厄介、君の事もいつか壊しに来るよ。」

「言っとけ、"老人"。」

「ふふ、それでは私はここで消えるとするよ。」

そう言って浅峰は"生きていない"黒崎を抱え、黒円へと向かってゆく。

「逃がさないッ────!!」

私は咄嗟に悪意を右手で練ってから浅峰へと飛び出す。

コイツをもう好き勝手させるわけにはいかない。

絶対にここで終わらせる。

「だから早まるなって────。」

しかしここでも冬島さんが止めにかかる。

「逃がすつもりですかッ!? いくら冬島さんでもそれは納得できませんッ!」

「────」

グッと腕を掴まれて身動きが取れなくなる。

もう自分の力では振り払えない程だ。

私はむきになって暴れようとしたところ、冬島さんに耳打ちされる。

「────────────、────────。」

それを聞いた私は、抵抗を止め黒円の中に消え去る浅峰を送るしかなかった。

「冬島さん────、約束ですからね。」

「あぁ、もちのろんだよ。」

冬島さんはそう言って私の肩をポンッと叩き、この場を去っていった。

そしてそれに続くように私と会長も山を下り、帰路についた────。

 

それから一年が経った。

あの日以降、浅峰高校は廃校となるも私達は隣町の高校へと通うことになってその年はそこで会長たち3年生を見送った。

「もう"巻き込まれ"ないようにな────。」

「何言ってるんですか? 私そういうの跳ね飛ばすセンサーあるの知ってますよね?」

「そうだったな・・・、それじゃあ"またな"、紅葉。」

「────えぇ、会長もお元気で。」

会長との別れ際、たったそれだけの言葉を交わし、互いに背中を向けた。

 

私達が三年生になった年は本当に何事もなく平和に暮らしていた。

楓も普段通りになってこの前の出来事が嘘の様に思えてきた。

そんな中、少し変化があったことと言えば────。

「"お父さん"、これ見てッ!!」

まるで子供が親に何かを披露するかのように私はお父さんの目の前で悪意を両手に凝縮してみせた。

「────んなッ!!!」

私は"彼女"の遺言通り、お父さんに霊術、心意と覚えたことを沢山披露してみた。

するとお父さんは膝を落として、『遂に知ってしまったか────。』なんて悲しみのような嬉しさのようなよくわからない感想を頂いた。

それ以降、私はお父さんから様々な事を学んだ。

人為能力は霊術だけではないということ。

特質能力を持つ人間は変わったやつらばかりだということ。

私の体質である超常能力はやっぱり稀なものだということ。

この一年間で私の中の世界は大いに広がっていった────。

 

そして私達3年の卒業式が先ほど終わった。

長いようでやはり短かった。

というか学年の中盤に一気にいろんなことが起こり過ぎたためか、二年生の頃の記憶があの時の事しか覚えていない。

今日、浅峰市からたくさんの人が飛び立ってゆく。

でもまぁ、その中でも地元に残るものも居れば海外に行く者もいるらしい。

因みに楓はこの街に残るらしい。

何かあったらすぐ連絡するとありがちな別れ際のセリフを選んだのが最後の心の残りといったところか。

かくいう私はというと────。

「卒業おめでとう────、紅葉────。

 ていうか卒業しきってこんな長いもんだっけ?」

「こんなもんですよ? 冬島さん。」

「もうこの街に思い残すことはないかな?」

「そういう言い方だともう戻ってこないみたいじゃないですか。

 私長期休暇とかあったら絶対戻ってきますけど?」

「あら、残念。

 "ウチ"はそう言うのないんだよな────。」

「えぇ────、今さら言わないでくださいよ・・・。」

私は冬島さんの元へ行くこととなった。

『ウチに来れば、仕返しのチャンスはいくらでもある。』

そんなこと言われば、行かざる終えないだろう。

浅峰はまだこの世界のどこかに潜んでいる。

それに間違いなく普通に生活していれば今後あいつと会うことはないだろう。

そうなれば必然と普通ではない暮らしを求めるしかないんだ────。

目的としては勿論浅峰をぶっ飛ばすことだが、それだけでもない。

去年起こったブレ。

あれがこの世にもたらした影響は甚大だった。

一年経った今は以前の様な世界に戻りつつはあるものの、あの超常現象は人を変えた。

中にはあのブレの世界を好む集団も現れている。

それが間違っているとは言わない。

ただ、それらが起こす現象で傷つく人たちが大勢いる。

それは間違いだ。

私はそんな現象に苦しむ人達を1人でも多く助けたい。

あのブレを起こした当事者として私はそれらを見過ごすわけにはいかないのだ────。

「それじゃあ、行こうか紅葉。"東京"へ。」

「────」

私は無言で頷いて冬島さんの背中を追う。

2019年3月、私は東京へと旅立った。

「おっと、言い忘れてた。

 それとようこそ、"カルマ"へ────。」

 

◇◇◇おまけ1◇◇◇

 

2017年4月 ~東京・〇〇~

 

俺は気が付くと、よく見る景色を前に立ち呆けていた。

「ここって、渋谷だよな。

 スクランブル交差点だ────。」

先ほどまで浅峰邸に居たはずの俺は今、何故か今日本の中心にいる。

そして目の前に映る大きなビジョンには常識を逸脱した文面が映し出されていた。

『本日、あの有名ミュージシャンの早峰紫音さんに"◇◇提案"が行われましたッ!!

 早峰さんッ! 今のお気持ちはいかがでしょうか!?』

『いや────!! やっと私にも来たッ! といった感じですね。

 これで私も国のために"死ねます"ッ────。』

「なんだよ────、これ。」

こんなのはおかしい、ありえない。

日本で、いいや海外でだってこんなことは馬鹿げている。

"◇◇提案"、コイツはミュージシャンと言ってたから新曲の名前なのか?

だけどこいつは今、国の為に"死ねます"とか言ってたぞ。

「なにがどうなってんだよ────。」

 

今、黒崎孝文は少し変わった"世界"に居る。

それは何故か、黒崎孝文は────、平行世界召喚されたのだ。

この世界は"◇◇"が強制される世界。

黒崎孝文の"C"ルート攻略が始まる。

 

◇◇◇おまけ2◇◇◇

 

2019年6月 ~東京~

 

「────紅葉? ちょっと頼みたいことあんだけど。」

「なんですか!? 冬島さんッ!! もう雑用振るのやめてください!!」

東京にやってきてから数か月が経った。

しかし東京にやってきてからというもの私はずっとデスクで書類の整理をやらされていた。

「うん、紅葉もそろそろ雑用飽きてきたかなーって思ってさ、身体動かしたいだろう?

 ────この事件、ちょっと調べてくれない?」

冬島さんが私のデスクにとある新聞の記事を置く。

そろそろ休憩時間なので、その記事片手に横に位置するソファへと腰を掛ける。

「────冬島さん、なんですか、コレ。」

記事には物騒な見出しが記されていた。

 

『食人事件、生きる怪物が都心に現る!?』

 

「ん────、それさぁ、最近都心の方で夜な夜な起こってるんだよ。

 デマだと思ってスルーしてたけど、この間現場観て度肝抜いたよ、あれは────。」

「食人ってことは人が食べられてるってことですか?」

「────ん? まぁそんな感じかな。

 詳しくは調べてみてよ、最初の仕事にはちょうどいい機会だ。

 今の紅葉なら危険ではないと判断した、これも人助けだと思ってしっかり励みたまえよ────。」

そう言って冬島さんはコーヒーカップを片手に仮眠室へと入っていった。

あの人全然仕事してねーな。

最近よく言うダメ上司ってやつか。

────でもまぁ初めての本格的な仕事の為、自然と気合が入る。

そうして私は再び新聞の記事へと目を向けた────。




最終話になります。
読んでいただいた方がもし居れば、お疲れさまでした!
そしてありがとうございました!
ここまで好きで読んでいただけた玄人であれば、きっとこの先の物語も好きになってくれると思ってます。
次回作はいつになるかわかりませんが、しっかり面白い物語を書き込んで戻ってきます。
それまでまたいつか!

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