どちらも遅々として進まないので、息抜きに書きました。めずらしくほのぼの。
提督が風邪を引いた。
私の提督は、海軍の提督としての仕事は適当にして、陸で傭兵を兼業している。艦載機よりも大きい人型の兵器に乗って、あっちへこっちへと飛び回りながら小銭を稼いでいるらしい。本当かどうかは知らないが。
さて、前置きはこれくらいにしておいて。「傭兵稼業も提督稼業も身体が命」と言うのが提督の談だが、その提督がまさか風邪をひいて寝こむなんて全く思ってなかった。練度を高めるため、という理由で秘書艦を勤めている私も、おそらくは提督本人もだろう。私の前に秘書艦を勤めていて、結婚(仮)を理由に前線から離れた軽空母の隼鷹は気付いていたようだが……いや。ひょっとすると彼女が夜遅くまで酒盛りに付きあわせたのが原因かもしれない。昨夜はこの季節にしては寒く、しかし昼間はかなり暑かったため薄着であったから、身体が冷えたのだろう。隼鷹共々熱を出し、布団を並べて横になっていた。比叡が『今がチャンス……』とかいいながらカレーを作ろうとしていたが、胃腸が弱っているのにカレーはないだろうと鈴谷に止められていた。そもそもあいつのカレーは、カレーですらない。まずく作るほうが難しいと言われるカレーをどうしてああもひどく作れるのか。謎だ。
そういうわけで、仕方なく私が厨房を借りて梅粥を作っている。少し冷めてしまった米を沸騰した湯に放り込んで、米がお湯を吸ってふやけてかさが増えてきたら、梅干しの種を取り除き果肉だけにしたものを細かく刻み、放り込んでかき回す。梅干しの赤色と白米の白色とが交じり合い美しいコントラストを描き、さらにすっぱそうな梅干しの香りが花をくすぐる。そういえば自分もまだ食事を摂っていなかった。後で鳳翔さんに頼んで作ってもらおう、時間帯的には駆逐艦の子と一緒になるが、まあ偶にはいいかもしれない。
鍋を火から外して、レンゲで一口分すくい、味見をする。
「熱っ……うん。まあ、こんなものか」
舌の先を火傷したが、味は分かった。まずくもなく、それほど美味くもなく。材料は米と梅干しだけだから、味を表現するなら濃い薄いか、だろうか。まあ、妥当なところ。初めて作ったにしては良く出来た方だと思う。保存食としてなんとなく作ったはいいものの、食べることもなかった梅干しがこんなところで活躍するとは思わなかった。
とりあえず食べられないものではないので、鍋の中身を器に移し替えてお盆に乗せて、レンゲも刺して。口を冷やすための水も、ポットに入れて、コップも二つ用意して。それも盆に乗せて、あとは持っていくだけ。鳳翔さんに礼を言って厨房を出て行く。
板貼りの廊下をお盆を持って静かに歩く。すれ違う駆逐艦たちにぶつかりそうになる度に盆を持ち上げて回避する。廊下を走るんじゃない、と心のなかで叱っておく。口に出して叱るのは、他の誰かがやってくれるだろう。伊勢……はダメか。あいつはむしろ一緒に走り回りそうだ。
そして、それほどの時間も置かずに提督の寝室へと到着した。盆を片手で持ち扉をノックする。
「誰だ?」
「日向です。おかゆを作ってきました。入ってもいいでしょうか」
「ああ、すまないな……入ってくれ」
「失礼します」
ドアを開いて部屋に入る。目に入ったのは散らばった布団の上で寝る着衣の乱れた隼鷹と、その横で困った顔をしている提督。どういう状況かは、なんとなくわかった。
「病気なんだろう? 暖かくしてないとダメじゃないか」
「待て待て誤解だ話せば分かる」
「わかってる。隼鷹の寝相が悪くて布団から蹴りだされたんだろう?」
「……そのとおりだ」
「食べ終わった頃に、器をとりにまた戻って来るよ。隼鷹も起こして、二人で食べてくれ」
「お前は?」
「私はいつも通り鳳翔さんに作ってもらうさ。体調を崩してないからね。じゃあ、お大事に」
用事は済んだので、さっさと私も昼食を取ろう。提督とまだ寝ている隼鷹に背を向けて、部屋のドアに手をかける。
「ありがとう、日向」
「……どういたしまして、提督」
振り返りはしないが、少し、頬が緩んだ気がした。
提督の職業は、提督兼レイヴンです。陸の上なら誰にも負けませんが、海に出ると沈みます。メインブースターがいかれます。