異世界の極道物語   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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第十四話 録郎VSリズ

 

 “セイヴ・ザ・クイーン”の鉄棘が録郎へと迫る。

 リズの踏み込みは激烈だったが、それ以上に特筆すべきは鉄棘が回転していたことだろう。

 突進の勢いとこの“回転”が組み合わさることでその威力は格段に跳ね上がる。

 それこそ(かす)りでもすれば、肉体の大部分を抉り取るだろう。

 ……それも食らえばの話であったが。

 それはあまりに直線的な攻撃であった為読みやすかった。録郎は鉄棘を寸でのところで上体を逸らして(かわ)す。

 そして、その状態のまま録郎はリズの(あご)目掛けて右拳を突き上げる。

 しかし――

 

「あ?」

 

 録郎は拳に伝わる硬い感触に短く声を漏らす。

 拳が顎に当たるよりも先に、リズは額を拳に打ち付けていたのだ。

 その威力の為に、リズの額からは血が滴る。

 だが、それを代償に本来刈り取られていたであろう意識をとどめておくことが出来た。

 

「食らえェ!」

 

 すかさずリズは“セイヴ・ザ・クイーン”を振り下ろす。

 

「チッ!」

 

 舌打ちをすると録郎は、地面を蹴り飛び上がる形で後方に逃げる。

 

「――アンタ、頭脳労働者(インテリ)じゃなかったのかよ。サルみてぇな喧嘩しやがって」

 

 着地すると録郎は忌々し気にリズを睨む。

 

「そういう君の方こそ良いパンチだ。お陰で頭がぼーっとするよ」

 

 髪をほどき、額を濡らす血と共にリズは前髪をかきあげる。

 

「よく分かったよ。君相手じゃ、本気は(ぬる)いって」

 

 そう言うとリズは身を(ひるがえ)し、自分の身長の十倍程の高さまで飛び上がる。

 

「ここからは殺しにいく」

 

 そう宣言したリズは空中にとどまったまま落ちてくることはなかった。

 

「驚いた。アンタ、飛べるのか」

 

 録郎は口笛を鳴らす。

 

「それはそうだ。十三騎士ともなれば、な」

 

 戦いを横で見守るルザリアの言葉だった。

 魔法の中でも空を飛ぶ魔法というのは高等技術に分類される。

 というのも人間の体は空を飛ぶようには設計されていないからだ。

 鳥が何故空を飛べるのか、その理由は複数あるがその一つに体が極めて軽く出来ているというものがある。

 つまり、人間が空を飛ぼうと思ったらまずそこをクリアしなければならないのである。

 これは転じて質量を軽減させる魔法の習得が大前提であるということだ。

 そして、体を限りなく軽くした状態で風を操作すれば理論上は飛行が可能ではあるが、一定の場所にとどまる場合の風の操作は極めて難しい。

 少しでも狂えば、落下して大怪我をするか、風に流されどこかに飛ばされるかのどちらかだ。

 それを戦いの中で息を吸うように行えるのは、ごく一握りの人間だけだろう。

 

「卑怯だとは思うが、近距離戦(クロスレンジ)では勝ちが見えなかったのでね。私の距離で戦わせて貰うぞ」

 

 リズは右手に装着した棺桶に左手を添え、録郎に向けて構える。

 そして――

 

発射(ファイア)!」

 

 棺桶の先端にあった鉄棘を録郎に向けて射出した。

 

「何っ!?」

 

 爆炎を伴い、流星のような速さで迫る鉄棘を録郎は横に飛んで躱す。

 地面に突き刺さった馬上槍のようなそれは深々とめり込み、その周囲に大きな窪みを作る。

 

「まだまだ行くぞ! そら、そら、そらァッ!」

 

 宣言通り鉄棘の射出は一回だけで終わらない。

 鉄棘の発生、爆発、射出――。

 この工程が全て一瞬で行われ、鉄棘が雨のように降り注ぐ。

 あちこちを走り回りながら、録郎はそれをよける。

 

「ちょこまかと動くなよォォォ!」

 

 鉄棘の雨は止むことはない。

 (かわ)し続ける録郎であったがその過程で鉄棘の軌道を読み違え、直撃の危機に瀕する。

録郎は左の裏拳でそれを落とすがその瞬間、手の甲に(いや)な痛みを覚える。

 

「……クソッ」

 

 手の骨に数ヶ所ヒビが入った。

 鍛えぬいた“極道”の拳は確かに魔法を割ることが出来る。

しかし、割れるのはあくまでも魔法。魔法を用いて作り出した物質を割ることは出来ないのである。

 ただの人よりは遥かに頑丈な録郎ではあるが、硬い鉄を殴って平然としていられるほどではなかった。

 しかし、かと言って走り回ってよけ続ければ、今度は録郎の体力に限界が来る。

 そもそもの問題として逃げ回っているだけでは勝てない。

 攻撃に転じるには、鉄棘を防ぎながら前に出るしかないのだ。

 

 ――何か武器(エモノ)があれば。

 

 そう思い、録郎は鉄棘を(かわ)しつつ辺りを探す。

 そこで目に留まったのが、我関せずとばかりに庭の手入れを続ける人形メイドだった。

 彼女の手には、木を剪定する為の(ハサミ)が握られていた。

 

「これ借りるぜ!」

 

 人形メイドに一直線に走り、それを左肘で砕くと使っていた鋏を奪い取る。

 

「そんなもので何をする気だ!」

 

 その隙を見逃さずリズは鉄棘を射出する。

 

「こうするんだよ!」

 

 録郎は鋏を逆手に持ち変えると、その鉄棘を両断した。

 

「何っ!?」

 

 ここがリズの邸宅である以上、そこにある物は全てリズの持ち物である。

 故に特殊な材質を用いた鋏があればそれを知らないなどということはあり得ないのだ。

 録郎が“セイヴ・ザ・クイーン”の(パイル)を切ったのは間違いなくただの鋏である。

 では、何故ただの鋏で刃こぼれを起こすことすらなく、より大きな鉄塊である弾を切断出来るのか。

 

「これが“逆十字の極道”の技量(ちから)か!」

 

 ――録郎が“極道”として極めた(ワザ)がそれだけの領域であるという他ない。

 

「行くぜェェェエエ!」

 

 咆哮を上げ、録郎は真っ直ぐリズに向かっていく。

 

「来い!」

 

 リズは無数の杭で録郎を迎え撃つ。

 それを見るや録郎は飛び上がる。

 直後に起きた出来事にリズは声を上げる。

 射出された弾を足場に、録郎がこちらに向かって来たのだ。

 自分に当たりそうな杭のみを斬り落としながら録郎は進行を止めない。

 

「ならばこれだ!」

 

 瞬間、リズは“セイヴ・ザ・クイーン”を捨てることを判断する。

 右腕に巻き付いた鎖を外し、“セイヴ・ザ・クイーン”そのものを投げつける。

 一見、捨て鉢な攻撃ではあったが、鉄棘の精製、それを射出する火薬の精製、さらにそれを着火する為の発炎と三種類の魔法を自動で発動させる機構を内蔵させるに辺り“セイヴ・ザ・クイーン”は超重量兵器となっていた。

 具体的に言えば一トン。

 それを投げつけるのは、単純だが絶大な破壊力を生む。

 しかし、録郎はそれすらも叩き落とし、リズへと肉薄する。

 放たれる蹴撃。それに対しリズは金属操作魔法を使い空気中の(ちり)を片っ端から集め手元に大雑把な形の戦槌(メイス)を作り出し、録郎の頭を殴打する。

 

「グッ……!」

「アガッ……!」

 

 二人は相打ちとなり、体を地面に勢いよく叩きつける。

 

「ハァァァァッ!」

 

 しかし、リズはそれでも立ち上がる。

 今度は地面からも金属をかき集め魔法で二本の剣を作り出しそれを握り、同じく立ち上がった録郎へと突撃する。

 左右の剣が録郎の首を刈り取らんと迫るが――

 

「――私の負けだ」

 

 録郎の持つ鋏の切っ先が薄皮一枚の所でピタリと止まっていた。

 これ以上踏み込めば死ぬ――そういった形での寸止めであった。

 両手に握った急ごしらえの剣がボロボロと崩れていく。

 

「……こっちも久々死ぬかと思ったけどな」

 

 頭を殴打された時の出血が目に()みるのを、録郎は感じていた。

 

「何を言う。そっちは本来頼りにしている武器がなかっただろう。こっちは存分に親しんだ武器を振るっていた。この差は大きい」

「お世辞が上手いねぇ。んで、どうなんだ? アンタから見て。色々話すに値する男なのかい?」

「――ああ」

 

 リズは大の字になって地面に倒れる。

 

「ちくしょー! 負けたー!」

 

 そして、子供のように悔しそうに叫んだ。

 

「お疲れ様、リズ」

 

 ルザリアはそんな彼女の傍に寄ってハンカチを差し出す。

 

「いやぁ、強かった。寄る年波っていうのもあったけど、単純にロッキーが強いのよ」

 

 ふんだくるようにハンカチを受け取るとリズはからからと笑いながら、べっとりと顔を濡らす汗と血を拭いた。

 

「……楽しそうなところ申し訳ないが、この惨状はどうするんだ」

 

 そんな彼女に水を差すようにルザリアが訊ねる。

 リズは改めて周りを見た。

 庭の至る所が陥没(かんぼつ)し、巻き込まれた無貌(むぼう)メイドの残骸が散らばっている。

 

「あー……知らね。明日、考える」

 

 その有様から目を背けるように、リズは立ち上がる。

 

「そんなことより、チャン僕の部屋行こ! チャン僕に勝ったご褒美! 知りたいこと全部教えてあげる!」

 

 そして、満面の笑みと共に録郎に手を差し出す。

 ――そんな話ではなかった筈だがと思いながらも、録郎は苦笑交じりにその手を取った。

 

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