いきなり道の真ん中を塞ぐように落ちてきたギルド会館の屋根。
それを見て当然のように驚いた近くにいた人々は、足を止めて騒ぎ立てた。
「……コイツは困った。ここまでデカい騒ぎを起こす気はなかったんだが」
ギルド会館の中では青天井を見上げながら、録郎が苦笑いを浮かべていた。
その手には
この短刀は極道にとってはポピュラーな武器の一つで、俗に“
「偶然とはいえ俺の魔法を防ぐとは。運が良い。褒めてやる」
部屋の奥に置かれたライティングデスクの前にいた銀髪の男が録郎に向かって拍手をしていた。
ギルド会館の屋根を吹き飛ばしたものはこの銀髪の男が放った魔法であった。
正確には録郎を狙って放ったものであったが、録郎は咄嗟に懐に忍ばせていた
「そりゃどうも」
と言いつつ録郎は銀髪の男をよく確認する。
年齢は二十代後半から三十代前半くらいで、瘦せ型の長身。底意地の悪さが顔に出ているといった印象を受ける。
また、着ている鎧が下の男達が着ているものより状態がよく、そもそもが上等そうな物であった。
「アンタが下の連中の
録郎は銀髪の男に訊ねた。
「いかにも。下の者たちの長はこの俺ギデオンだ」
「なるほど、ギデオンさんね。んじゃ、アンタにご質問なんだが今回の件に関しまして何かしら申し開きはございますかね?」
録郎の問いかけに、銀髪の男ギデオンはとぼけたような顔をする。
「俺たちが何か悪いことをしたか?」
「
怒号を上げると録郎はライティングデスクの方に視線を向けた。
その視線に耐え切れなくなったのか、ひぃと短く悲鳴を上げながら一人の男が顔を出す。
六十代くらいの金髪で小太りな、
“ファイブハンドレッド”の
「俺たちから
「フン。非国民風情が生意気なことを抜かす。俺たちはお前達がいうみかじめ料なんかよりも、よりリーズナブルな契約金を提示したまでのことだ。それが商売というものだろう」
「なっ!?」
録郎は絶句する。
確かにギデオンの理屈は正しいといえば正しいのだが、そもそもの問題として逆十字党が要求していたみかじめ料の額は決して高くない。
“ファイブハンドレッド”の経営規模を考えれば、それを払った上で
にも関わらず払わなかったのは、ひとえに
「そもそも魔法も使えない
そう言ってギデオンは右手を振るった。
その動きに合わせ、録郎は
キィーン……と、甲高い金属音が鳴り響く。
「フン、またも運の良いヤツめ! だが、俺の絶技は不可視の刃。風属性の魔法“ムステラ”! そう幸運は続かないぞ!」
したり顔でギデオンは語り、同じ魔法を録郎に放つ。
しかし、今度は
「なッ!?」
ギデオンは驚愕した。
一回、二回であれば偶然で片付くだろう。
しかし、それが三回ともなれば話は別だ。
――もしかして、見えているのか?
いや、そんな筈はないと、ギデオンはもう一度“ムステラ”を使おうとする。
だが、
「馬鹿の一つ覚えが!」
魔法を使うことは出来なかった。
ギデオンは自分に何が起こったのかよく分からなかった。
頭に割れるような痛みが走っている。
視界が赤く染まって見えづらい。
先程よりも目線の位置が低い。
辺りに正体不明の木片が散らばっている。
前を向くと“ファイブハンドレッド”の
そこまで行ってようやく、自分の頭がライティングデスクに叩きつけられ、その勢いでデスクが破壊されたということにギデオンは気が付いた。
恐るべきは録郎の速力である。
録郎とギデオンとの間には十メートルほどの距離があった筈だが、録郎はその距離を一瞬で詰めたということになる。
「だが、
ギデオンが説明した通り“ムステラ”は風を操作し収束させ刃にして放つ魔法である。
当然のことながら風は本来目には見えないものであり、
「簡単なことだ。魔法を使う時に手前ェの手元でうなりみてぇな風の音が聞こえた。景色も不自然に歪んでたしな。不思議なことでもなんでもねぇよ」
化け物だ、この男は――。
それを聞いたギデオンが録郎に対して抱いた感想がそれだった。
こんな相手に意地を張る方が馬鹿らしいという気持ちになり、
「……我々の負けだ。このギルドからは手を引く。迷惑をかけた」
全面的な降伏を申し出る。