硝子の聖女~スケベ猿が薄幸美少女に転生した結果~   作:三上 一輝

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011 奇跡の代価

 その時クリスに襲いかかってきた感覚を一言で表すのならば苦痛であったが、しかしその程度で片付けて良いレベルの代物では全く無かった。

 敢えて例を挙げるとするのなら、体温が血液すら蒸発する100度以上になり、全身の骨と言う骨が粉々に砕け、スピリタスを10本位一気飲みさせられ、その状態でマラソン・自転車・水泳、全てが100kmのトライアスロンをやらされた感じだろうか。

 途轍もない熱さと激痛と吐き気と倦怠感のオンパレード。

 常人ならば失神――いや、苦しすぎて気を失う事すら出来ない苦痛だろう。

 しかも、それが底では無く、刻一刻と苦痛が増してきていた。

 

 

「――――んっ」

 

 

耐えられる(・・・・・)けど……)

 

 

 しかしクリスは唯の気合だけでその苦痛を耐えていた。

 何かしか自分の身に発生している異常の原因を知っているらしいデザベアが、耐えるしか無いと言っていたので取り敢えず耐えている。

 常人であれば最悪、発狂死すらしかねない苦しみの津波を、根性論だけで耐え凌ぐその姿は成程確かに精神力の怪物、超越者の名に恥じない。

 とは言え、耐えられるからといって問題無く受け入れられるかと言えば、それはまた別の問題だろう。

 SMプレイのM役は好きなクリスだが、別に普通に過ごしている時に痛いのは好きでは無い。

 これでもし周りに困っている人とかが居たのなら、自分の痛みとか知ったことでは無いと動き出すクリスだが、そうで無いなら流石に勘弁してほしかった。

 

 

「どうしたの、クリス?」

 

 出来る限り心配を掛けない様に耐えてはいるが、それでも多少は様子が可笑しくなっているクリスに、アレンが心配そうに疑問を投げかけた。

 ルークもその様子をしっかりと伺っている。

 

「あの、ごめん、なさい。少し、疲れて、しまった、みたい、です。今日は、もう、休ん、でも、良い、ですか?」

 

 滅多に弱音を吐かないクリスの言葉に、ルークが優しく答えを返す。

 

「初めてで、あれ程の魔法を使ったんだ。疲れるのも無理はないさ。遠慮することは無いからしっかりと休むと良い。良ければ、俺が借りている宿屋の部屋を貸すが」

 

「そこ、まで、迷惑、を掛け、られ、ない、ので。大丈、夫。です。少し、休め、ば、回復、する、思い、ます」

 

 有難い気遣いではあったが、自分の身に何が起きているのかをデザベアに聞かなければならない以上、お世話にはなれなかった。

 

「……そうか。それならせめて2人で家まで送っていこう。ああ、それに少し待っていてくれ」

 

 そうしてクリスはルークとアレンに連れられて自分の家に戻ってきたわけだが、その帰路の途中に、ルークがクッションや毛布など、クリスが良く休める様な寝具の代わりになる物を買い与えてくれた。

 

「あり、がと、ござい、ます」

 

「そんなに高い物でも無いから気にしなくて良い。ああ、綺麗な水を此処に置いておくから、喉が渇いたらきちんと飲むんだぞ?」

 

「は、い」

 

 

「ねぇ、クリス。本当に大丈夫?」

 

 

「大丈、夫、だよ!アレン、君。大分、良く、なって、きた、から」

 

 そう言ってクリスは全然大丈夫!というのを証明する様に、アレンに対して微笑みを浮かべた。

 因みに体調は良くなる所か悪化の一途を辿っており、現在は全身のあらゆる所に五寸釘を打ち込まれているかの様な激痛が体を襲っている最中である。

 

「明日は俺たちの方から迎えに来るから、調子が悪いままだったら遠慮しないで言ってね!!」

 

「う、ん。また、明日」

 

 そうして2人は家を去っていった――かの様に見えたが。

 

『もう少し耐えろよ、外で2人とも様子を伺ってる』

 

 デザベアからの注意喚起がクリスに飛ぶ。

 クリスが本当に無理をしていないのか、しっかりと気にしてくれているのだろう。

 その気遣いが嬉しくて、クリスはもっと頑張って耐えよう!と気持ちを新たにした。

 そして時間にして凡そ20分近くが経過しただろうか。

 

 

『良し。もう我慢しなくていいぞ』

 

 デザベアから許しがでた、その途端。

 

「こほっ!けほっ!!かふっ!ぁぐ、ぅうっ!!ぅえっっ!!」

 

 歯止めが一気に壊れたかのように、クリスの口から大量の咳と苦悶の声が漏れ出した。

 

「ぉぇっ!」

 

 しかもそれだけでは無い。

 何とか折角貰った毛布などを汚さない様に地面に向かう事は出来たが、大量の吐き気を抑える事が出来ずに、クリスは嘔吐をしてしまった。

 

 

 ………………いや、違う。

 そうしてクリスの口から出て来たのは、赤黒く鉄の錆びた臭いのする液体で、つまりこれは嘔吐では無く、吐血だった。

 

「ごぼっ!ごほっ!」

 

 止まる事の無い大量の吐血は、誰か他の人間が目撃していたのなら、クリスに死神の迎えがやって来たと確信する様な光景であったが、しかしデザベアの考えは異なるようだった。

 

『まあ、それなりに休みさえすれば、全快するかは微妙だが、キチンと回復する筈だ。説明はその時にしてやるから寝れる様になったら寝とけ』

 

 

 クリスは何度も吐血を繰り返し、漸く気を失うことが出来たのは天高く昇っていた日が、地面に沈み始めた時だった。

 

 

*****

 

 

「んっ」

 

 

『起きたか』

 

 

 外は暗く、未だ深夜の時間帯。

 デザベアの目算通り天に召されること無く、クリスはしっかりと目を覚ました。

 そしてクリスは恐る恐る自分の体調を確かめる。

 多分熱が40度以上あって、息をするだけで体に激痛が走る。そんなコンディションだった。

 

 

(言われた通り、とっても体調が良くなった!!)

 

 

 つまり何時もより(・・・・・)少し悪い程度(・・・・・・)の体調なので(・・・・・・)何も問題はない(・・・・・・・)

 これなら話を集中して聴けるから良かった~♪、とクリスは安心して胸をなでおろした。

 

 

「それで、私、一体、どう、なって、たの?」

 

 

『ああ、一から説明してやるからよく聴いてろよ?いいか、先ずはだな――』

 

 

 そうしてデザベアは、話の前提条件。

 クリスが奇跡の魂【超越者】である事を説明した。

 

 

「超、越、者?ん~~~?」

 

 

『なんだ、何か納得がいかないか?』

 

 

 自分が特別な魂だというデザベアの説明からして、どうにもクリスにはイマイチ実感が湧かなかった。

 だがまあ仮にそれが真実だとして話を進めるのなら、それはそれで看過できない当然すぎる新たな疑問が湧いてくる。

 

 

「じゃあ、何で、こんな、成った、の?」

 

 

 曰く、他より優秀な魂であると言うのなら、先ほどまでの自分の様は可笑しいだろう、とクリスが至極真っ当な考えを口にした。

 あれでは特別に優れているのでは無く、特別に貧弱であると言うべきだろう。

 その疑問に対してデザベアは、突然の不調の理由も含めた原因をアッサリと言い放った。

 

 

『――器と中身が釣り合ってねぇんだよ』

 

 

「うつわ、と、なか、み?」

 

 

 それこそお前の不調の原因だ、とデザベアはそう断言した。

 

 

『ああ、さっきの大きな異常だけの話じゃねぇぜ?お前がこの世界に来てからの、体の不調全ての原因だ。要はその体が不健康な事は、体調の悪さに何の関係も無かったんだよ。というか寧ろその所為で俺様まで勘違いさせられてたぜ。例え至って健康な人間の体に入っていたとしても、お前は同じように糞みたいな体調になってたはずだ』 

 

 

「そう、なの?」

 

 

『普通の人間の肉体に、規格外の魂が入れられている。重要なのはその1点だけだ』

 

 

 いや、まあ入れたの俺様なんだけど。とデザベアは口には出さず心中で呟いた。

 

 

『小さなコップの中から海が――いいや、宇宙(うみ)が発生した様なもんさ。想像してみろよ?一体どうなるのか』

 

 

「………………」

 

 

 ……それは、もう。コップが割れるだとかそんなレベルの問題では無いだろう。

 その瞬間にコップは原子すら残さず消滅するに決まってる。

 しかしだとすると、またしても当然の疑問が発生した。

 デザベアの説明には穴がある。

 物理的な穴ならなんか興奮するクリスだが、説明の穴はただ気になるだけだった。

 

 

「じゃあ、私、何で、生き、てる、の?」

 

 

 デザベアの話が正しいのなら、自分はとっくのとうに爆発四散している筈だ。クリスはそう思った。

 そりゃあそうである。

 無論、少し考えれば当たり前の疑問であるので、それに対する回答をデザベアは当然用意していた。

 

 

『それはな。お前自身の力のお陰だよ』

 

 

「私の、力???」

 

 

 なんのこっちゃ、と頭上に疑問符を浮かべるクリスにデザベアが詳細な説明を始めた。

 

 

『良いか?お前がアッサリと馬鹿デカい炎の魔法を使えたように、【超越者】ってのは普通の人間が努力して行う様な事をアッサリと実現できる。何故ならお前たちの1歩は、他の奴らの何千万、何億万歩をも凌駕するのだから』

 

 

 だがな?とデザベアは話を続ける。

 

 

『【超越者】が全知全能にすら思えるのは、飽くまで地を這う虫けらから見た場合だ。同格域同士での尺度なら、当然それぞれに、得意な事・苦手な事が存在する』

 

 

「得意、な、こと――」

 

 

『そう。それこそお前を超越者に至らせているもの。願いの根源。お前自身の本質だ。まあ少なくともお前の本質は、誰かと争って、ドンパチがどうのこうのってことでは無いのは確かだな、その位は少し見てれば分かる』

 

 

 クリスのこれまでの行動と考えを見れば、その本質、その願いが誰かを傷つけ、奪おうとする物で無い事は一目瞭然だろう。

 廃呪(カタラ)に対してだけは何故か異様な攻撃性を発生させていたが、あれは飽くまで特殊な例外と見るべきだ。

 

 

「私、の、本、質……」

 

 

 そもそもの話、自分の本質、願いなど考えるまでも無く決まっている、クリスは自信を持ってその答え(・・)を力強く発声した。

 

 

 

「エッチ、な、事!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

『――ではねぇ』

 

 

 

「えぇっ!????????????????????????」

 

 

 今世紀最大の仰天。驚愕のどんでん返しに、クリスは大きく目を見開いた。

 え?????自分の本質、性欲じゃなかったんスか?????と驚きで一杯だった。

 

 

『一見、そう見えるのも、その思考に至るのも、俺様としても同意しかないが、だけどキチンと考えれば不正解だってのは分かる。いいか、性欲こそが本質で、何よりの願いなら、お前はとっくに、誰彼見境の無い史上最悪のレイパーと化している筈だろ?質問だが、お前は誰かを傷つけてでも自分の性欲を満たしたいのか?』

 

 

「ううん」

 

 

 それは確かに違う。

 他の誰かが傷つくことの方が嫌だ、とクリスは一瞬の迷いすら無くそう回答した。

 

 え?それにしては嫌がるデザベアにSMプレイを強要していただろって?

 

 …………いくらお人好しのクリスでも、家族や友人と引き離されて天涯孤独の身にされた事を全く怒ってない訳ではないので。

 

『それが答えだ。それがお前の一番の願いだったら、多分前の世界の時点で――いやまあ、これは良いか。とにかく、お前の本質は性欲じゃねぇよ。無論とは言っても異常に過ぎるから、願いの源泉から零れ落ちた物である事は確かだがな』

 

 

「じゃあ、私、には、何も、分か、らない…………」

 

 

『性欲以外に自分の本質だと思う物を考えつかねぇのかよ……。お前の頭の中にはエロい事しか無いのかよ』

 

 

「う、ん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

『自慢げに断言するような事じゃ無いんだが???????????????』

 

 

 隙あらば脇道に逸れていくのを止めろ、とデザベアは溜息を吐いた。

 

 

『話を続けるぞ。飽くまで俺の予想だが、お前の本質は――』

 

 

 そこまで口に出してデザベアは言葉を止めた。

 何故なら、デザベアの予想するクリスの本質は、彼にとっては余り面白い物では無かったから。

 

 

「私、の、本、質は?」

 

 

 

『…………生命(いのち)に対する愛情だろ』

 

 

 

「――ぁ」

 

 

 デザベアのその言葉は、クリスの胸の中にストン、と収まりよく落ちた。

 まるで巨大なジグソーパズルの最後の1ピースが埋まったかの様な爽快感。

 

 

 ――そうだ。自分は生命(いのち)が大好きなのだ。

 

 誰も彼もが輝いて見えて、愛いのだ。

 だから好きなのだ。生命を育んだり、愛を確かめる行為が。

 

 その思いが自分の中にある一番だと、今ならクリスは迷いなく断言出来た。

 

 

「ぁ。でも」

 

 

『ん?』

 

 

 それが自分の本質だと語るデザベアの言葉に、異議は全く無いが、ちょっとした疑問があるとクリスは思った。

 

 

「機〇、姦、とか、も興味、ある、けど……」

 

 

 生命関係ないじゃん!とクリスは思った。

 

 

 コイツ、なんて疑問を口に出しやがるッッ――!!

 

 

 

『それは、願いとか本質とか関係無しに、お前がドスケベなだけだろう』

 

 

「成、程。そっ、か~~。納、得~。」

 

 

 

 成程じゃないが???????????

 

 

 そっかーじゃないが!??????????

 

 

 納得じゃないが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

『コホン。また話が逸れたな。まあ此処で重要なのは、お前の本質がそう言ったものだとするのなら、お前の得意な事も自ずと予想が付くって事だ』

 

 

「それ、って?」

 

 

『浄化や、祝福。そして恐らく――――治癒』

 

 

「治、癒」

 

 

『時系列順に最初から説明して行くか。まずは現代に居た時。お前は自分の力に目覚めてはいない状態だった』

 

 まあ俺様を喚べた以上、時折影響が漏れ出してはいたんだろうが、とデザベアは補足した。

 

『そして俺様の手によりこの世界に魂を送られ、その影響でお前は覚醒()ざめた。……完全に目覚めたのは俺様が呪い――じゃなくて加護を掛けた後だろう。そうじゃなきゃ、あそこまで簡単にかからんからな』

 

 此処まではこれまでの話の纏めであり、重要なのは此処からだ。

 

『そして小さな器の中に、規格外の魂が誕生する。当然器たる肉体は直ぐに消し飛びかけて――しかしそこでお前の力が待ったをかけた』

 

 

「それ、が、治癒?」

 

 

『ああ。かつて無い危機に、恐らくお前の祈りは全力で駆動した。死んでたまるか、壊してなるものか!ってな。結果、お前は壊れて弾け飛ぶ器に、規格外の治癒を掛け続け、それで発生したのが均衡、だ』

 

 

「均、衡」

 

 

『お前の魂の影響で壊れようとする器と、それを治そうとする力。それによって発生した生と死の天秤は、ギリギリ生の側へと傾いていた』

 

 かつてデザベアが疑問に感じた、肉体の健康状態の割にクリスが元気だった事に対する疑問の答えも、それだ。 

 

『ただ、そのバランスは本当にギリギリも、ギリギリ。表面張力で耐えているだけで、今にも中身が零れそうなグラスが如し、だ』

 

 ほんの少しでも刺激が生ずれば、中身の()が溢れ出す。

 そんな危うい状態が今のクリスであるのだ、とデザベアは語った。

 

『そして魔法や超常的な力の使用は、その刺激足り得てしまった、と。それがお前の身に起こった出来事だよ』

 

 天秤が、死の側へと傾いた。

 言ってしまえばそれだけの話しだ。

 

『それにしても勿体ねぇ。器に治癒なんか間に合わなければ良かったのに』

 

 

「酷、い!」

 

 

 死ねばよかった、とでも言うのか!とぷんすか怒るクリスに、勘違いだ、とデザベアが答える。

 

 

『ああ、そういう意味じゃねぇよ…………いや、俺様としては別に、変なことになる前に死んでくれてても良かったな』

 

 

「やっぱ、り、酷い!!」

 

 

『ああ、だから違ぇって。死んでくれても一向に構わなかったが、今の言葉の意味はそういう意味じゃねぇよ』

 

 

「じゃあ、どう、いう、意味?」

 

 

『【超越者】なら肉体が滅びて魂だけの状態でも生存出来ただろうし、上手く行けばそこから新たな肉体を形作る事だって可能だったはずだ。そうすりゃ、今みたいなややこしい制限がかからずに、お前は好きなように力を振る舞えたはずだ』

 

 だと言うのに、やれやれ、とデザベアは首を振る。

 

『それをお前。変に、壊れて治して、壊れて治してを繰り返したせいで、肉体と魂が完全に混じり合っちまってるじゃねぇか』

 

「それ、何か、問題、なの?」

 

『要は今の俺様とお前の関係と似たようなものが、お前の魂と体で発生してるのさ。本来だったら同等域の存在に殺されでもしない限り不老不死な筈の奇跡の魂が、小さな肉の檻に完全に取り込まれてる。ああつまり、肉体が死ねば魂も死ぬって訳だ』

 

「それ、は」

 

 クリスが少し深く考え込んだ。

 

『お、流石にショックか?そりゃあそうだろうな。折角魔法を使えて万々歳って時にこの様だもんなァ!!』

 

 

「い、や。肉の、檻、って、言葉、なん、だか、エッチ、だな、って」

 

 

『やっぱ死ねよ、テメェ!!!!』

 

 

 ブチギレたデザベアに、言い訳するようにクリスが話す。

 

 

「いや、だって、元から、魔法、使え、る。思っ、て、無か、った、し」

 

 

『……まあ、それもそうか』

 

 魔法なんてお伽噺の中にしか存在しない科学社会で生きてきたクリスだ。

 元々自分がそんな力を使えるなんて思ったことは無い。

 此方の世界にやって来てからも、デザベアに才能が無いと言われていたので、そういうものか、としか思っていなかったのだ。

 

 

 使えないと思っていて。

 でも何故か使えそうになって。

 やっぱり使えなかった。

 

 始まりと結論だけを取り出してシンプルに考えれば、使えないと思っていた物が、やっぱり使えなかった、と言うだけの話で、特にショックを受ける内容でも無かった。

 と、言うよりショックと言うのなら、これまで問題なく出来ていた事が出来なくなった事――つまりは元気に走り回る事すら出来ないと分かった時の方が、余程ショックであった。

 

 

「まあ、でも。力、づく、で、アレン、君、助け、られ、ないの、だけ、は、残念」

 

 何か凄い力を自分が使えたのだとしたら、まだるっこしい事をしなくても自分で直接アレン君の母親を助けることが出来たかも知れないのに、とクリスがこの件で残念に思うとしたら精々その位である。

 

 

「それ、で。結局、私、これ、から、どう、すれば、良いん、だろ、う」

 

 

『魔法は使えると思うなよ、って位だな』

 

 

「あの、それ。結局、昨日、までと、同じ、では?」

 

 

 何か、色々と衝撃的な事実が分かった!!的な雰囲気を醸し出していたが、無駄に遠回りしただけで、結論的に、これまでの生活と何も変わらないのでは?とクリスは思った。

 

 気づいてしまいましたか……。その事に……。

 

 

「…………………………」

 

『…………………………』

 

「もう、1回。寝よ、っかな」

 

『寝坊すんなよー』

 

「はー、い!」

 

 

 ええ、つまり。何も変わらないのである。クリスの動きは。

 360度回って結局元の位置に戻っただけだったのだ……。

 

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