硝子の聖女~スケベ猿が薄幸美少女に転生した結果~   作:三上 一輝

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012 お義母さん!息子さんとお兄さんとお義母さん自身を私に下さい!!!

 衝撃的事実が発覚したような、と思ったらそうでも無かったような、そんな1日。

 

 取り敢えずその翌日に、殺人事件の現場みたいになっていた家の中を、クリスはなんやかんやして上手い事片づけた。

 

 

 なんやかんやとは一体何か?と聞かれれば、なんやかんやは、なんやかんやなのですが!!

 

 ……まあ、地面を掘り返して埋めたり、そこに泥水をまき散らしたりとか、その辺だ。

 

 

 そうやって、やって来たアレンやルークの視線を誤魔化しつつも、日常生活に戻ったクリスだったが。

 予想通りと言うべきか。驚愕の事実が判明した割に、その後の生活が特に何か変わることも無く、至って普通の日々が流れて行き始めた。

 自分の正体がどうだこうだと言われて、それを自覚したとしても、クリスとしてはそもそも昔から自分の気持ちに正直に生きて来たので、今更何か態度が変わる訳も無いのだ。

 

 

 まあ精々その間にあった事と言えば、魔法の使用や練習の誘いは遠慮願いつつ、アレン君の特訓時の応援係になっていたくらいか。

 それはもう、がんばれ♥がんばれ♥と、必死に応援していた次第のクリスである。

 

 後ついでに、【廃呪(カタラ)】を見る度に、

 「これらの存在、要る??????????」とか

 「全部、全部消し飛ばしたいんですけど!!!!!!!!」とか

 やっぱり何故だかイライラしていた訳だが、理由も定かでは無いし、魔法も使う訳にもいかないし、で何がどうなる訳でも無かった。

 

 

 そうしてもう本当に、特別何かある訳でも無く、幾日もの時が経過した次第であった。

 

 

 

*****

 

 

「あ、あの……ク、クリス?今日は、その……。伯父さん以外に、その……。クリスに、会いたいって人が、い、いるんだけど……」

 

 

 固まっている。緊張している。張りつめている。

 その日、邂逅一番からアレンの様子が、誰がどう見ても可笑しかった。

 明らかに緊張が目に見えて、体がカチコチに固まっている。

 その様子を見ているルークなんかは、仕方が無いな、と苦笑していた。

 

 

(固くなるのは、筋肉と息子(意味深)だけでいいのに……)

 

 

 クリスはそう思った。

 そのところてんみたいに柔らかい思考も、もう少し固くするべきでは?

 

 

 

「会い、たい、人?全、然、大丈、夫、だよ?」

 

 

 様子が可笑しいとは言え、アレンが変な人物を紹介するとも思えない。クリスは何ら躊躇なく快諾した。

 というよりも、そもそも仮にそこら辺に居る脂ぎったエロ親父を紹介されたとしても、問題ない所か、寧ろバッチ来い!な無敵の人がクリスである。

 つまり、実質的にはノーリスク――!!

 

 

 

「そ、そう?それじゃあ、お母様――んんっ!!母さん!」

 

 

 そのアレンの言葉を合図に、会話を隠れて聞いていたのだろう、物陰からピョコッ、と可愛らしく、もの凄い美少女(・・)が現れた。

 現代人の魂を持つクリスに対し、存分にファンタジー世界らしさを感じさせてくれる、無理矢理染めた物では無い自然で綺麗な真紅の長髪。

 たおやかでかつお淑やかそうで、それでいて悪戯気に微笑むその姿はとても魅力的で。

 実際道行く男の視線を欲しいがままにしている。

 着ている服は普通の物で、特に高いアクセサリーを身に着けている訳でも無いのに、少女からはどこか【気品】の様な物が漂ってきていて、まるでどこかの貴族のお嬢様が、お忍びで街に繰り出したかの様だった。

 

 

 

「初めまして!貴方がクリス?私はエレノア。エレノア・ルヴィニって言うの。宜しくね?」

 

 

 

「私、は、クリ、ス、です!よろ、しく、お願、い、しま、す!!」

 

 

 

 子供のクリスが相手だからか、赤髪の美少女は元気で朗らかに自己紹介をした。

 エレノア・ルヴィニ――つまりはアレンの母親である。

 

 

 もしも、彼女に見惚れた通行人の男たちが、この自己紹介の意味を正しく理解したら、その瞬間、!?と、彼らの頭上に大きな感嘆符と疑問符が同時に浮かび上がる事だろう。

 主に、これで一児の母?これで経産婦だと!?と言った意味で。

 

 

 実の兄であるルークは、しっかりと30歳前後に見えるし、彼女自身、結婚して1子を設けているので、前田利家された(隠語)訳でも無ければ、それなりの年齢である筈なのだが…………。

 見えない。全くそうは見えない。

 現代社会的な見方で言い表せば、女子高生くらいの歳にしか見えない。

 或いは若い女子大生くらいには何とか見えるかもしれないが、どちらにせよティーンであり、然して変わりは無いだろう。

 

 クリスは衝撃的なその事実(実は1児の母)を踏まえた上で、一体何を思い何を為すのか(定型文)。

 

 

(とってもムラムラします!!!!!!)

 

 

 ――馬鹿な。コイツ、無敵か!?

 

 クリスにとってこの世のあらゆる出来事はシンプルに2つに分類出来る。

 つまり、ムラムラするか、しないのか、である。

 分かりますか???私には分かりません!!!

 

 

「それにしても酷いわ。アレンもお兄様も私に秘密で、こんな可愛らしいお友達と仲良くしているのだもの!」

 

 

 そう言ってエレノアは、およよ、とわざとらしく悲しむ真似をする。

 下手な人間がやったらダダ滑りするが、顔の良いエレノアがやると、とても可愛らしく様になっていた。

 ――これが、圧倒的顔面偏差値の暴力!

 

 ルークの方は、それを見てもやれやれ、と首を横に振るだけだったが、どうやらアレンの方には効果覿面であったらしく、その体がぎこちなく動き、態度に焦りが見え出した。

 

 

「ち、違っ。別に、そんなつもりじゃ……」

 

「ねえ。アレン?」

 

 先ほどまでのはしゃいだ可愛らしい声では無く、落ち着いた綺麗な声がエレノアの口から出て来た。

 同時に警戒する猫の様にアレンの背筋がピーン!と伸びる。

 

 

「な、何?か、母さん」

 

 

「確かにあまり人とは関わらない様に、とは言ったけれども。だからと言ってそれでも出来た大切なお友達の苦境を、それを理由に見逃せ、なんて私は教えて無いわよ?」

 

 

「ぁ、ぅっ……」

 

 固まるアレンに、エレノアは優しく微笑んだ。

 

 

「なーんてね。私に対しては秘密にしていたようだけど、お兄様の手を借りて、キチンと仲良くしていた様なので花丸を上げましょう!でも単純に仲間外れにされてて、お母さんは悲しいのです……」

 

 

 そう言うとエレノアは、背の小さなクリスと視線を合わせるように、クリスの前でしゃがみ込んだ。

 

 

「だから私とも仲良くしてくれるかしら?」

 

 

 とても優し気な匂いがした。

 どこか安心感を誘うような、そんな匂いだ。

 

 

「は、い!!仲、良し、嬉、しい、です」

 

 

「良い子ね」

 

 

 そう言ってエレノアは、クリスの髪をその綺麗な指で、優しく梳いた。

 その行動に、クリスの心がポっ、となる。

 見えますか?これが異世界名物のナデポという奴です――。

 いや、お前がされる側なんかい!

 

 

 そのナデポの破壊力と、目の前で屈まれたことによって、より強調されるエレノアの胸囲(きょうい)の戦闘力(誤字に非ず)にクリスの心はとても弾んだ。

 

 

「ママぁ………………」

 

 

(ハッ!?口が勝手に――!?)

 

 

 感じていけッッ――母性!!

 クリスにとって父親や母親は、前世の両親だけである。

 だがパパ(意味深)やママ(意味深)は幾ら居たって良い、それが世の中――!!とそう思っていた。

 先生、それは違うと思います!

 

 

 元の高校生の体でやってたらギリギリアウトの通報コースだったが、今のクリスなら、なんかこう……。親の温もりを知らない孤児が初めて母性を感じた的な感動のシーンに見えない事も無い。

 だからだろうか、エレノアは優し気な表情を顔に浮かべた。 

 

 

「あらあら、可愛らしい子供がもう1人出来てしまったわ」

 

 

 くすくす、と楽し気に笑ってエレノアは冗談交じりで、クリスを胸で軽く抱きしめた。

 胸で!!そう胸でですよ!!!!!!

 

 見た目からは余り分からないが、クリスのテンションが凄まじい勢いで上昇したのを、近くで観察していたデザベアは察した。

 

 

『テンション上げまくってんじゃねぇよ……』

 

 

 

(だってベアさん!!おっぱいが!!!!!!!!!!!!!!)

 

 

 クリスの気分は正に大航海時代。

 母性と言う名の大海原に、お宝を求めて船を浮かべて漕ぎ出し始めた気持ちだった。

 探せ!そこ(おっぱい)に全てを置いてきた――!!

 

 

(これが……。ワン〇ース――?)  *違います

 

 

(これが……。男性にとっての天国(エデン)――?) *諸説ある

 

 

(だったら実は自分はもう既に死んでいて、天に召されていた――?) ♰成仏して、どうぞ♰

 

 

 大変が変態な事に――じゃなくて変態が大変な事に……。

 猿に勝手に餌をやってはいけません。動物園でのマナーですよエレノアさん!!分かっていますか?????

 

 

 テンションの上がりまくったクリスは一旦置いておくとして、今のクリスの身なりは大分汚く、臭いだって酷い物で、貴族のご令嬢であれば近寄りすらしたく無い筈なのだが……。

 しかし、そんなクリスを抱きとめるエレノアは、僅かに顔を顰めることすら1度たりともしていなかった。

 やけに緊張しているアレンの様子も含め、見た目通りの可憐なだけのご婦人、と言う訳では無いのかもしれない。

 

 

 少しの時間と共に、エレノアはクリスを抱きとめていた手を放し、クリスにとっての黄金時間(ゴールデンタイム)は終わりを告げた。

 

 

「それでね?今日は少しお兄様からお話があるの。ね?お兄様」

 

 

「?」 

 

 

 エレノアを紹介されるだけかと思っていたが、何か他に用件があったらしい、とクリスは察する。

 妹に促された形で、ルークがその口を開いた。

 

 

「知っての通り、俺たちはこれまで色んな街を転々としてきたんだが。そろそろ腰を落ち着けようと言う話になってな。信頼できる友人がいる街に、近々移動しようと思うんだ」

 

 

「え」

 

 

 それではお別れ、と言う事なのだろうか……と、悲しくなって、しゅん、としかけたクリスだったが、どうやらルークの話には続きがある様だった。

 

 

 

「小さいが良い街さ。――それで、クリス。良ければ君も一緒に来ないか?」

 

 

「…………」

 

 

 ――それは、つまり。

 

 

「子供1人を追加で養う程度の甲斐性は、俺でもあるんでな。もし俺と暮らすのが嫌なら、その街の教会を紹介したって良い。そこの神父も俺の友人で、気の良い奴だから安心してくれ」

 

 

 そういう事なのだろう。

 

 

「折角仲良くなれたのに、直ぐにお別れなんて寂しいわ。それに――アレンとも長く友達でいてあげて欲しいもの」

 

 

 そう言って優しい瞳でクリスを見つめるエレノアは、恐らくルークやアレンから事前にクリスの情報を聴いているのだろう。

 まず間違いなく、親から見捨てられて独りぼっちになっている、という事を。

 

 

「その、クリス。俺もクリスと別れ離れになるのは寂しいな」

 

 

 アレンも意を決して、自分も折角出来た友人と、別れたくないという本心を曝け出した。

 

 

 

「アレン、君」

 

 

 クリスとしては普通に嬉しい提案だ。

 嘗ての家族や友人などと、もう二度と会えなくなった中で、新しく出来た仲の良い人たち。

 出来る事なら離れたく無いと、心の底からそう思う。

 受けて良いだろうか、とクリスは不安げに横目でデザベアの方へ視線を向けたのだが――

 

 

『フィーーーーーーーーーーーッシュ!!!!!!!!!これで身の安全を確保だぜ!!!!あ゛~物事が思い通りに運ぶと空気が美味いなぁああああ!!!!Foo~~~♪♪♪』

 

 

 

 ――そこにはテンションを爆上げしたデザベアの姿が!!

 

 

 

(………………………………受けて問題ないみたいだけど、コイツは後で〆る。絶対に、絶対にだ!!)

 

 

 こんな優しい人たちを、釣った魚に見立ててんじゃねーぞ、と。

 女、クリス。デザベアに対し、怒りの全身シェイクを決意。

 奸佞邪智の悪魔が異世界でリバースするまで後、数時間――!!

 

 

「お、願い、して、も、良い、です、か?」

 

 

「!ああ。勿論。こちらから言い出したことだ、二言なんてないさ」

 

 

「クリス。良かった!」

 

 

「アレン、君。ルーク、さん。エレ、ノア、さん。本当、に、あり、がと、う」

 

 

「ふふっ。どういたしまして!」

 

 

 やさしいせかい。

 

 

 これがアニメであれば、感動的なEDソングが開始して、エンドクレジットが流れ始めている様な雰囲気の中、クリスはふと、思った。

 

 

 

(このまま他の街に移動するなら、結局警戒していた事件は起こらないのかな)

 

 それとも移動した後の街で起こるのか?

 或いは嘗てデザベアが説明した、ゲームにはあったが現実には起こらない展開、と言う奴だったのかも知れない。

 例えば主人公の戦う理由を補強しようとして、母親を失う展開を入れたとか。

 そうだ。きっとそういう事だ。

 そう、クリスは考えて――

 

 

「ああ、そう言えば。その前準備の為に、俺だけ先にその街に行ってくるから、少しの間(・・・・)お別れになるな(・・・・・・・)

 

 

「――――」

 

 ――ルークのその発言に、表情を凍らせた。

 

 

 先ほどまで確かに存在していて感じていた筈の、柔らかく温かな空気が、今のクリスにはやけに冷たく、身を刺すようにしか感じられ無くなっていた。

 

 

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