硝子の聖女~スケベ猿が薄幸美少女に転生した結果~   作:三上 一輝

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019 目指せ聖女!…………おい、待て。何だそのルビは?????

 

 ニフトの襲撃事件より1ヶ月の時間が経過した。

 時間経過によって生じた変化を挙げると、まずルークが今度こそ次の街への移動を開始した。

 色々とありすぎて、事件直後も数週間はヒュアロスの街に留まっていたルークだったが、流石にずっとは居られない、という事である。

 そうした次第で現在、アレンとエレノアと3人暮らしであるクリスであった。

 

*****

 

 ――街の中を1人の少女が歩いている。

 その足取りは軽やかに、されど同時に密やかに。

 別に我が物顔で道の真ん中を闊歩している訳でも、周囲の迷惑も考えず大声で叫びながら練り歩いている訳でも、或いは人の目を悪い意味で惹きつける奇抜な格好をしている訳でも無い。

 言ってしまえば普通に歩いている、ただそれだけ。人の注目を浴びる要素など欠片も無い。

 ……だというのに、少女は街の視線を独り占めにして集めていた。

 

 

 一体何故そんな事に?その少女に何らかの特殊性があるのか?と聞かれれば、答えは有る。だって。

 

 

 ――少女は美しかった。

 

 ただ、それだけ。それ以上の言葉を使う必要性が無い程に、只々美しい。

 美、と言う言葉が、意識と実態を持って、この世に降臨したのなら、きっとこうなるのだろう、と断言できるほどの美しさ。

 

 

 あらゆる穢れから解き放たれたかのような純白の長髪は、陽の光を受けて燦々と煌めき、まるで、頭上に天使の輪が、背に天使の羽が生えているかの様!

 目に浮かぶ赤い瞳は、どこまでも深く妖しげで、その瞳に見つめられれば、それがほんの僅かな時間であろうとも、意識が遠い場所に連れていかれてしまう気がする。

 顔の造形の精工さなど最早語るまでも無く、例え歴史に名を残した芸術家の技術の粋を集めて彼女の彫像を作ったとて、そこにある美を1割再現できるかどうか。

 体格は凡そ10代中盤くらいといった所か、仮にこれで10に届くかどうかの年齢であるのなら、相当発育が良いと言えるだろう。

 着ている服装は至って平凡なワンピースであったが、彼女が着る事で天上の法衣も斯くやとばかりに引き立てられていた。

 

 人とはここまで美しく成れるものなのかと思わんばかりの、美の極点がそこにあった。

 

 

 そんな、少女が街を歩いていれば、周囲の男の視線を集めるのは、火を見るよりも明らかで、道行く男の誰も彼もが、少女を認識した瞬間に惚けた様に足を止めていた。

 中には女性の連れが居る男性も存在したが、何一つ抗う事が出来ずに少女に注目してしまっていた。

 だがそれによって諍いが起きる様子は無かった。

 

 

 何故なら、女性すら(・・・・)見惚れて(・・・・)いたからである(・・・・・・・)

 

 

 

 そしてその事実は少女の美が、人間的領域を踏み越えている物である事を示していた。

 

 

 別に女性に限らず、人は自分の能力を上回るものを見せつけられると、それがどれだけ自分より優れていたとしても嫉妬をするもの。

 それ自体は決して恥ずかしい事では無いし、正常な感情の動きだと言える――無論、自分の身を滅ぼさない程度なら、と前提条件は付くが。

 寧ろ、全く何も感じない方が、向上心やプライドに欠けるとすら言えるだろう。

 

 ただ、それは飽くまで同じ人間の範疇に収まる能力に対しての話だ。

 

 如何な力自慢とて墜落する隕石を砕こうと思うか?

 駆け足に自信があっても吹きすさぶ竜巻と並走出来るか?

 

 それらと同じく、どれほど自分の美しさに自信がある女性だとて、例えば遥か高い山の頂からの景色や、澄んだ大海原の景色と言った大自然と、自らを比べるだろうか?

 

 勿論、する筈も無い。

 冗談ならば兎も角、真面目に勝っただ、負けただと言う様なら、周りから頭の可笑しい人扱いされるだろう。

 よって、少女の美とは最早そう言う領域。

 

 

 連れの男の視線を奪われた女が、屈辱に身を震わせるでも、嫉妬で拗ねるのでもなく、「凄い物見たね!」と隣の男と朗らかに談笑しているのだから、言葉も無い。

 

 

 老若男女、それこそ絶対に道を譲りそうにない厳つい男とて、少女の歩みを邪魔しないように、恭しく道を空ける。

 別に少女が何らかの命令や威圧感を出している訳では決してなく。

 敢えて言うのなら、綺麗な花が沢山咲き誇った花畑、だろうか。

 余程、捻くれた人物でも無ければ、花を踏みつけつつその真ん中を横断などしないだろう。

 これは、つまりそういう事。

 

 

 さあ、そんな可憐な少女は一体今、何を思って道を歩いているのだろうか――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(皆、離れる所為で【自主規制】の観察がやり難いじゃん!!!!!!!!!)

 

 

 ――ええ。はい。

 何時ものクリスちゃんです。

 

 

 

*****

 

 ――何もしていないのにこうなった。

 

 

 クリスとしてはそう言うしかない。

 

 

 何もしていないのに○○になったというのはね……、何かした大嘘吐きの言葉なんですよ……。と全国のカスタマーサービスにお勤めの方々は言うだろうが、今回に関して言えば、本当に大した事はしていなかった。

 

 まず例えば肉付きや体格だが、アレン達と同じく過度に贅沢な訳でも無い一般的な食事を取っていただけなのだが、それだけで欠食児童その物だったクリスの肉体はすくすくと育っていった。

 その時点ではまだ、「お肉が付きやすい体なのかな?」程度の感想だったのだが、ある程度均整がとれた体になるまでは速攻で肉が付いた癖に、その後はどれだけ食べても胸以外は欠片も太らなくなっていた。

 

 これには流石の能天気人間クリスも「ええっ……?」となっていた程である。

 

 

 髪や肌に関しても同様で、健康的に過ごしているだけで、どんどん艶と張りが増していき、じゃあスキンケアとか効果無いのか、と言えばそんな事も無く、エレノアが使っている化粧品やら何やら使おうものなら次の日に髪や肌が光り輝いたかと思わんほどに調子良くなった。

 エレノアの呆気にとられた「うそぉ……」という言葉は今もクリスの耳に残っている。

 

 しかも、何が不味いって、美しさが一定以上を超えた段階で、彼女の意思に反して、魅了や魅惑的な力が流れ出すようになってしまったのである。

 ある日突然、自分を見た人間が老若男女問わず鼻血を噴き出して傅いてくる様は、流石のクリスをして「ふぁっ!??????」と成らざるを得なかった。

 しかもこの魅了、人から人に飛沫感染どころか存在感染していくらしく、1人クリスに魅了された人間が出ると、後はクリス本人が居なくとも感染者が倍々ゲームで膨れ上がっていく様だった。

 多分、何もしなかったら数か月以内に世界全員が感染していた。

 

 

 歩く新型ウイルスか何か?

 

 

 これは流石に不味い、と大慌てで血反吐を吐きながら治療した後、自分の力を必死に抑えている次第である。

 今のクリスの状態を普通の人間で例えるのなら、呼吸を殆どしない様に我慢している状態であった。

 それでも、先ほどの様に周りの目線を惹きつけまくるのだから、大概おかしいと言わざるを得ないだろう。

 

 しかも、だ。

 クリス自身が、洗脳やら魅了と言った人の意思を捻じ曲げる力をまっっっっっっっったく欲しいと思っていない為、この程度(・・・・)で済んでいるのだ。

 もしもクリスにそれらの力を使う気が、ほんの僅か、刹那ほどでも存在していたら、多分数秒以内に世界の全てがクリスの恋の奴隷に堕ちる。

 

 

 ……気軽に世界征服完了しないで頂けますか?????

 

 

 

 今の体になった事で、基本ゴミみたいに弱くなっているクリスだが、こと魅力関係に関してのみは、魂と肉体が変な相乗効果を発揮してヤベー事になっていた。

 しかし、それが役に立っているのかと言えば、先程述べたように唯でさえ悪い体調の中、自分の力を必要以上に抑えなくてはならなくて、デメリットにしかなっていないのが、辛い所である。

 

 

 

 そんなこんなで、色んな人の脳を自動で破壊する兵器と化したクリスだが、街を歩きつつ、人目の少ない広場へと辿り着いた。

 気持ち良さげに吹いた風が、白い髪を靡かせる。

 その様は風を受けている奴の内面さえ考えなければとても絵になっていて、もし見物人が入れば雑に心を奪われていただろうが、幸いにも犠牲者は居なかった。

 

 

「――――ベア、さん」

 

 

「応」

 

 

 クリスの呟くような問いかけに、デザベアが応える。

 態々こんな所まで、クリスが出かけてきたのは、デザベアと話をするためであった。

 別に話自体は念話を使えば、どこだろうとバレずに出来る。

 ……出来るが、大事な話はやはり口で喋りながらしたい、と言うのがクリスの思いだった。

 

 

「それにしても、最近は随分幸せそうじゃねえか」

 

 

 しかしながら、話の口火を切ったのはデザベアの方だった。

 獣の牙を震わせて、笑いながらクリスに話を投げかける。 

 

 

「う、ん。そう、だね」

 

 

 元の世界での家族や友人の事は忘れていないし、忘れる気もない。

 しかしアレン達は自分に非常に良くしてくれて、そういった意味で自分は幸せだとクリスは断言できる。

 

 

「――だけど、心に引っ掛かる点がある、と」

 

 

「………………」

 

 

 或いは、このまま安寧に浸り続けても、誰も何も言わないだろう。

 別にこの世界でクリスが何かを果たさなければならない責任がある訳でも無い。

 けれどもしかし、喉に刺さった魚の小骨の様に、クリスの心に引っ掛かる物があるのだ。

 

 

「あ、の。ニフ、ト?さん、の言って、いた、こと」

 

 

「やっぱり奴、か。だが敵だろう?」

 

 

「う、ん」

 

 

 基本、他人に怒気や敵意を余り抱かないクリスではあるが、そう言った感情が無い訳ではない。

 友人であるアレンにあんな真似をされれば、普通に怒るし、許せないとも思う。

 けれども何故か、ニフトに対してはそんな思いが余り湧いてこないのだ。

 寧ろ――

 

 

 

「でも。――救い、たい。思う。」

 

 

「ふぅん。その気持ちは分からんが、奴の行動に色々な疑問点があるってのと――この世界に、なにかある(・・・・・)ってのは同感ではあるな」

 

 

 襲撃時のニフトの態度や言動からして、あれが唯ニフト個人が怨恨や浅い考えで動いていただけには到底思えないのだ。

 背後に――より詳細に言えば、この世界に巨大なナニカが蠢いている。

 そう思わざるを得ない。

 色々と感覚で探って半分くらいは(・・・・・・)察しているが(・・・・・・)、クリスとしては放っておけない、とそう思う。

 

 

「だか、ら。あの、人が、言って、いた、こと。やって、みたい。思、う」

 

 

「人の希望を集める立場云々って奴か」

 

 

 皆を救ってくれる気があるのなら、どうか人の希望を集める立場になって欲しい、ニフトはそう言った。

 普通に考えれば敵の言うことなんて信用するに能わないのかも知れないが、クリスにはあの言葉が、なんとか自分の為に絞り出してくれた言葉であり、罠では無い様に思えるのだ。

 だから、それを目指してみても良い、そう感じる。

 

 

「――ま、良いんじゃねえの」

 

 

「ベア、さん!」

 

 

「お前ならなんとなくそう言うかもって思ってたしな。なに、乗りかかった船だ、俺様も今更降りやしねえよ。……いや、降りたくても降りられないんだが」

 

 

 何時になく殊勝なデザベアの言葉だが、珍しくそこに他意は無い。

 一般的な道徳観念なぞ、豚にでも食わせとけと思っている彼だが、だからこそ自分のルールにはよく従う。

 今更クリスを邪魔するのなら、そもそもニフトとの戦いの時に助けなければ良かっただけの話であり、だからこそ今の所はクリスに何もする気は無かった。

 デザベアの肯定を受けてクリスの顔が綻んだ。

 その喜びのまま、彼女は此処に宣言する。

 アレンたちから色々と話を聞いて、ピッタリな物を見つけたのだ!

 

 

「だか、ら。私、成る、よ!人の、夢を、集め、る、存在――」

 

 

 そうそれは祈りと希望をその一身に集める存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――(オナ)(ペ○ト)、に!!!!!!」

 

 

 

「そうか、やはり聖女に――――あんだって?????????????????」

 

 

 

「オナペ○ト!!」

 

 

 キリッ、とキメ顔でクリスは宣言した。

 言っている内容は最低だった。

 

 

「アレン達から、聖女云々について聞いてたよな?それを目指すんじゃないのか????」

 

 

「う、ん。そう、だよ?」

 

 

「じゃあなんで?????????????????」

 

 

 何だコイツイカれてやがんのか?デザベアはそう思った。

 割と今更である。

 

 

「聖、女、って、良く、分かん、ない、けど。アイ、ドル、みたい、な、物、でしょ?」

 

 

「いや、違うと思うが……。だとしても何故オナペ○トなんて話に……?」

 

 

 

「え?だって、アイ、ドル、って、年、頃の、異性の、子供を。性に、目覚め、させ、る、物で、しょ?」

 

 

 

「なんて事言いやがるッッ――!?」

 

 

「私も、嘗て、は、アイ、ドルが、夢、だった。でも、友達の、女の子、に、自分、その子、がファンの、アイ、ドル、グループ、にピッ、タリ、思わ、ない?聞い、たら、何日、か話、聞いて、くれ、なく、なった」

 

 

 クリスに悲しき過去――。

 

 

「でも、今なら、大丈、夫!きっと、全ての、子供の、(下半身に)夢を、与え、られ、るっ――!!」 

 

 

 世の年頃の男子を精通させて行け。

 

 

「定期的に頭おかしくなるの止めて貰って良いスか?」

 

 

「一番、搾りっ――!!」

 

 

「クソみたいなセクハラ発言を止めろ!!――もっと、こう……。あんだろ?傷ついたり悲しんでいる人を救うだとか!!!!」

 

 

「それ、は。やって、当然、の、前提、条、件、では?」

 

 

 

「急に真面目になんなや!!!!!!!!!!」

 

 

 

「ずっと、真面、目、だけ、ど?」

 

 

 至って普通の救済を為す気はクリスにもあった。

 遍く人々の希望と夢を守り叶えて、平和にしたい、と。

 ただ、その上でエッチな事を考える余裕があるのが更なる平和って事だよね!!!!!って真面目に思っているだけで。

 

 

 聖人と性人を同時に出さないで貰えますか????

 

 

「大、丈夫。ベア、さん。私、分かっ、てる!」

 

 

「絶対何も分かってないと思うが、なんだ。言ってみろ」

 

 

「――ガチ、エロは、駄目、だと」

 

 

「はい、分かってない!分かって無いよ~~~~」

 

 

「姫、騎士、には、姫、騎士の。娼、婦には、娼、婦の。エロ、がある」

 

 

 クリスは語る――別に聞かれてもいないのに。

 エロにはその人の立場に応じたエロがあるのだ、と。

 多分イメクラとかそんな感じ。

 

 

「聖、女に求め、られ、るの、は。清純、さ!よって、理想、は――」

 

 

 敢えて一般的なイメージより離していくという【外し】と言う技術があるにはある。

 しかし、正道あってこその邪道。ここは王道を行くべきだとクリスは決めていた。

 クリスのドスケベIQ180以上の頭脳が、此処に答えを導き出す!!

 

 

「――少年、漫、画の、お色気、枠っっ!!!!!!!」

 

 

 数多の男の子を精通に導いた偉大な作品達こそ、自分が目指すものだと、クリスは決意した。

 

 

「取り敢えず全ての聖女やアイドルに謝ったほうが良いと思う」

 

 

 悪魔が聖女の擁護をしているとか言う異常事態を起こすな。

 

 

「Iで、いちごで、トラ、ブって、いく!!!!」

 

 

「話聞けや」

 

 

「先生、方。その、節は、愚息が、お世話に、なり、まし、た――!!」

 

 

「お前の下事情なぞ聞きたくない!!!!!!」

 

 

「あや○し、トラ○、アン、グル。異世界、より、応援、して、おり、ますっ!!」

 

 

「丁度、お前もTSしたことだしな――ってうるせぇわ!!!!!」

 

 

 日本の男の子達の性的嗜好はきっと神が壊してくれるから、異世界の男の子達は私が導かなくては。クリスは天命に身を震わせた。

 

 

「どう?ベア、さん!これが、私の、決意!!!!!!!」

 

 

「………………………………取り敢えず」

 

 

「取り、敢え、ず?」

 

 

「やっぱあの時死んどきゃ良かったんだよ、テメェはヨォオオオオオオオオオオ」

 

 

「どう、して!?」

 

 

 目を丸くしてビックリするクリスと切れるデザベア。

 

 

 これから1人と1匹の旅路がどうなるかは分からないが、しかし騒がしくなる事だけは確実だった、

 

 

 

 

 

――――第一章 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この後は幕間的な短い話を挟みつつ、2章以降の話を練ってきます……。
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