硝子の聖女~スケベ猿が薄幸美少女に転生した結果~   作:三上 一輝

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第一章幕間
湯上り珍騒動


 

 

 

 アレンの脳味噌が破壊された入浴の直後。

 

 アレン達が借りている宿屋の部屋の中。

 エレノアが大慌てで買って来た女物の服を着て、クリスが楽し気に佇んでいた。

 着ている服はサイズが大きめで丈が余っていたが、クリスの体の正確なサイズをエレノアは知らないので、万が一にも着れない事が無い様にある程度大きめの物を買って来たから仕方が無いだろう。

 

 

 尚、エレノアが衣服を買いに行っている間のクリスだが、タオル一丁で部屋の中に居させる訳には行かないと、再び風呂にinさせられていた――無論、全裸など論外である。

 そうして一先ず、すっぽんぽんお化けからクラスチェンジを果たしたクリスの事を、呆然とした表情でエレノアとルークが、真っ赤っかで上の空な様子でアレンが見つめていた。

 

 

 ――美少女だ。

 美少女なのである。

 だってもう体が光り輝いている。LED化工事完了済みなのだ。

 これはもう美少女でしか無かった。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「なん、だろ?この、空、気」

 

 

 無言。痛いほどの静寂が部屋の中に溢れている。

 もはや、頭がクラクラと熱に浮かされているアレンを除けば、エレノアもルークも何を喋って良いのか分からないような状態だった。

 だからクリスが代わりに喋りかける事にした。

 

 

 

「え、と。2人、とも。アレン、君、と、同じ、勘、違い、です、か?」

 

  

「……う」

 

 

「それは……」

 

 

 

 こんな変な空気になるって事は2人とも、自分の現在の性別の事を勘違いしていたのだろう、とクリスは推察した。

 気まずげに目を逸らす2人だが、この場合の沈黙は肯定と同様だ。

 

 

 男か女か分からない容姿であったクリスの性別をアレンが男と判断し、残る2人に同性の友人だと紹介した。

 だからと言って性別を勘違いするか?と思うかも知れないが、君って性別どっち?と聞くのはそれはそれでアレであるし、クリスの行動の端々から少年っぽさを感じられたと言うのもある。

 クリスの中の人を思えばそれは正解であり、アレンを含めた3人の事を鋭いと言って良いか、鈍いと言って良いかは微妙な所だった。

 

 

 と言うかだ!

 ただ単純に男と女を勘違いしていただけであったのなら、ここまでの空気にはならないのだ。

 もし、孤児スタイルのまま女児であると判明していたのなら、驚きはせども皆冷静に対応しただろう。

 いや、その場合でもアレン君の心は持っていかれるやも知れないが、残る2人はそれを微笑まし気に見る筈だ。

 

 

 だと言うのに、変態の変態が余りに変態的過ぎた。

 

 

 芋虫が蝶に、どころでは無い。

 芋虫が鳳凰になったかの如き変化である。

 

 

 ホラーかな??? 

 

 

 

「その、ゴメンね。クリスちゃん?」

 

 

 

「ああ、俺も気遣いが足りなかったようだ」

 

 

 

「気に、して、無い、から、大、丈夫、です!」

 

 

  

 クリスからしてみれば今の自分は男でもあり女でもある様な状態であったので、どちらとして扱われようが別段文句は無かった。

 ぶっちゃけ、親から貰った体を失った事自体は悲しんでいるクリスだが、女になった事は、どうでも良かった。

 嬉しがるのでもなく、嫌がるのでもなく、どちらでも良いのである。

 何故なら、男であっても、女であってもクリスの取る行動に大した変化は無い。

 勿論、相手の迷惑にならない様に性別に応じた気遣いなどはするから、そう言った意味での変化はあるのだが、しかし本質的な所――クリス自身の感情は何も変わらない。   

  

 

 TS物の醍醐味その1、性別が変化したことによる感情の変化。をガン無視していく奴なのでTS物に自慢ニキに謝ってほしい。

 ただし、TS物の醍醐味その2、元々の性別が同じ相手への距離感の近さ、に関してはアレン君に存分に味わって貰った次第である。

 

 

 

(それにしても、そんなに判り難かったかな)

 

 

 別に気にしてはいないが、そんなに間違えられているのがクリスとしては不思議だった。

 子供や老人、赤ん坊やらひよこの性別なんて、見ればその瞬間に判別出来るだろうに、と。

 

 

 

 ひよこ鑑定士にでもなれば良いのでは????  

 

 

 

「それにしても……。クリスちゃん?駄目よ、女の子がみだりに肌を晒しちゃ」

 

 

 エレノアが告げた言葉に、クリスでは無くアレンがビクゥッッ!!と背を震わせる。

 気分はさながら、死刑執行を待つ囚人だった。

 

 

「確かに、子供の頃に男の子に混ざって遊びたくなる気持ちは分かるし、別にそれが悪い事だとは言わないわ。でも、大きく成ってきたら、分別はつけなければいけませんよ」

 

 

 

 それは差別ではなく、区別である。

 

 

 エレノアも子供の頃は、女の子同士遊ぶよりも男の子に混じって遊んでいた性質である。

 だから、女の子は女の子らしくしなさい!だなんて事を言う気は毛頭無い。

 それに、クリスやアレン位の年頃なら男女が同じ様にしていても、ギリギリセーフではあるだろう。

 

 

 ……がっ!……ダメッ!!……今回は別ッッ!!!!……認められないッッッッ!!!!!!

 

 

 だって顔がッ。顔が余りに良すぎるのだ!!なんか光っているのだ。

 こんなん、この距離感で放り出したら、秒で修羅場が起きてしまうっっ!?っとそんな具合にエレノアは嘗てない戦慄に身を震わせていた。

 

 

 

「でも、友達と、お風呂、楽しい」

 

 

 

「それなら、私と入りましょう。ね?」

 

 

 

 息子(アレン)の自制心が死ぬ。

 クリスを放っておいた場合の、もはや確定された未来とすら思える光景を避けるべく、エレノアは言葉を発した。

 …………正直、もう既に遅いような気がしないでも無いのだが。

 

 

 

「うー、ん」

 

 

 対するクリスとしてはエレノアの提案自体は嬉しい物である。

 おっパイ!おっパイ!!のうっほほ~~~いだ。

 

 

 だがクリスとしては前にも言ったが、自分自身的には男女どちらに対する壁が無くとも、一応元々男であった以上、肉体が女になったからと言って、それで女性とスキンシップ取り放題!!と言うのは気が引けるのだ。

 よってクリスは返答に些か困っていた。

 

 

 

 その配慮をアレン君にもしてあげて欲しかったですね……。

 

 

 

(あ!逆に丁度いいかな?)

 

 

 どうしたものか、と悩んでいたクリスだが妙案を思いつき、自分の頭の上で電球がピコン!と点灯するのを感じた。

 そもそも、クリスとしては自分が元々男であった事を隠す気など大して無いのだ。

 普通そういうのって隠そうとするものでは……?と思うのが普通の考えだろうが、クリスの思考は基本アレだ。

 別に声高々に吹聴する気は無いが、厄介な呪いさえなければ親しい人たちには包み隠さず話していただろう。

 だからこの話の流れは寧ろ僥倖。

 女の子になった事を正確には伝えられずとも、それっぽい話をしておこう!とクリスは考えた。

 

 

 

 止めてくれないか!君がそうやって香車みたいに真っ直ぐにしか動かないせいで、呪いだ加護だをかける便利キャラにさせられたデザベアさんがいるんだぞ!!

 

 

「あ、の!!」

 

 

「ん、どうしたの」

 

 

「私、男、の子、として、育て、られ、ました!!」

 

 

「え?」

 

 

 そういう事にしておくのが、言える範囲では一番真実に近いだろう、とクリスは思った。

 聞いていた3人は驚くと同時に、それで男の子っぽく感じたのか……、と納得も覚えた。

 

 

「それは……。あんまり良くはないわね」

 

 

 自分たちも性別を勘違いしていた手前、言い難い所ではあるのだが、それでも親としてそれはどうなのだ、とクリスの生みの親に怒りを向けるエレノア。

 冤罪ではあるが……まあ、元から死にかけの子供を捨てて出て行く親なので構わないだろう。

 

 

「だか、ら。そう、言う、風に、扱、って、くれる、と、嬉しい、です!!」

 

 

「そうね」

 

 

 エレノアは微笑んだ。

 

 

「駄目よ」

 

 

「え」

 

 

 目は笑っていなかった。  

 

 

「だけど」

 

 

「駄目よ」

 

 

「あの……」

 

 

「駄目です」

 

 

「で」

 

 

「駄目」

 

 

「…………………………はぃ」

 

 

 取り付く島も無かった。当たり前である。

 

 

「さ、いい子だからね?」

 

 

「わーい」

 

 しょぼんとするクリスをエレノアが優しく撫でる。

 それだけで、クリスの機嫌は簡単に直った。

 自分の髪やら肌やらが優しく撫でられるのを、クリスはむふーと堪能する。

 

 

「凄くサラサラっ、凄くもちもちっっ。これが、これが若さ――!?ちょっと体を洗っただけでこれなら、本気を出したら一体どれほどの――!?」

 

 

 それはそうと、エレノアはエレノアで更なる衝撃を受けていた。

 どうして1時間も経たない時間でこんなになるの?????と頭の中が疑問符で一杯である。

 

 

「いや、変貌と言う意味ではお前も人の事を言えた義理では――」

 

 

 

「お・に・い・さ・ま??????????」

 

 

 ルークは黙った、然もあらん。

 そうして、呆然としながらクリスを撫でまわしていた、エレノアだが、ある事に気が付いた。

 

 

「あれ?クリスちゃん?熱がありそうだわ」

 

 

 先ほど死にかけたばかりのクリスの体調は最悪である。

 しかし、とは言っても気力を色欲で満たして平然と動いていたためクリス自身、自分の体調が悪い事を言われて思い出したくらいであるのだが。

 だけども、丁度いいからこれも伝えとくか、とクリスは口を動かした。

 

 

 

「えと、私。持って、る、力の、影、響。体、弱い、ので、この、位、良く、あり、ます。だから、気に、しない、で、下、さい」

 

 

「クリス、それって……」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 

 脳味噌がやられていたアレンが、真面目な雰囲気により復活した。

 ニフトとの戦いを直接見ていたアレンは元より、意識を失っていた2人も、クリスの力が規格外極まる事はアレンから聞き及んでいるため知っている。

 ルークはその片鱗を一度見ているし、エレノアもこれまで散々悩まされて来た自分の体調の悪さが欠片も残らず消え失せている。

 よってどちらも、アレンの話を疑いはしなかった。 

 故に、クリス自身が言う通り、クリスの体調は早々にどうにか出来る物では無いのかも知れないな、と3人とも思う。

 

 

 

「それでも一度は――これから癒手(いやして)に見て貰いに行きましょう?それでも分からなければ、クリスちゃんの話に納得するから」

 

 

 

 だからと言って、自分たちの恩人が苦しんでいるのに対し、何も行動しないのを是とはしたくない。

 エレノアの発言は、そんな思いから口に出た物だった。

 そしてそう言った思いやりをクリスは無下にしない。

 

 

 

「わか、り、ました!」

 

 

 無駄になる可能性が高いとは思いつつも、一度くらい見て貰っても良いだろう、と了承する。

 

 

 

「ん、良い子ね。戻ってきたら、皆で一緒に暮らしましょうね?」

 

 

「は、い!」

 

 

 

 そう言えば、そもそもそんな話だった、と思い出すクリス。

 そこでふと、疑問が生じた。

 

 

 

「部屋、ルーク、さん、と一緒、です、か?」

 

 

 本来は、別の街に移動する予定だったルークだが、あんな事があった以上暫くはこの街にいるだろう。

 そして元々アレンとエレノアで一室、ルークが一室と部屋を取っていたので、単純に考えればルークの所にクリスが入る形になるだろう。

 

 

「いや、それは――」

 

 

 

「わ・た・し・と!!寝ましょうね。クリスちゃん」

 

 

 

「…………異論は無いが、兄を信用しろ……。」

 

 

 妹から勢いよく否定されて、少ししょんぼり、とするルーク。

 いや別にエレノアも兄を信頼していない訳ではないのだが、先ほどまでのクリスの様子を見ていれば、兄とは言えども異性に任せられる気はしなかった。

 後、息子(アレン)の脳味噌が更に破壊されかねない。

 

 

 

「ルーク、さんが、別の、街、行った、後は、3人、一緒?」

 

 

 元はその予定だった。だがしかし……。

 

 

 

「…………………………………………………………………………アレンはそろそろ、1人でも大丈夫だから」

 

 

 絞りだされた母の言葉に、アレンがブンブン!!!!とそれはもう勢い良く首を縦に振る。

 クリスと一緒の部屋で生活するなんて事になったら、多分自分は3日も持たずに心臓が爆発して死ぬ。

 そんな、嘗てない危機感がアレンにそうさせたのだ。

 

 尚、チラッ、と、でも残念だな、と思ってしまい、煩悩退散!とヘッドバンキングさながらに頭を振るアレンを、エレノアとルークはせめてもの情けで見ない振りをしてあげていた。

 …………だけど肝心要のクリスは、ア゛レ゛ン゛く゛ん゛か゛わ゛い゛い゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛と観察している。

 

 

 お前の所為やぞ。

 

 

 

 因みに、その日の夜の感想について、変態は「柔ら、かかっ、た!」等と供述しており、警察としては余罪を追及していく方向である。

 

 

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