硝子の聖女~スケベ猿が薄幸美少女に転生した結果~   作:三上 一輝

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聖印

 

 聖印――それは、この世界における神の代理人にして統一王たる、神託王となり得る者に与えられた祝福である。

 その印が与えられる条件は不明確だが、印持ちの傾向として、体力・知力・魔力そして――意思力。そう言った能力に秀でている者が多い。

 つまり、この時期に産まれた子供で、頭角を現した子供には、聖なる印が刻まれている可能性が高い。

 

 

「ねぇ。クリスには聖印が刻まれていないの?」

 

 

 よって偶々二人きりで宿屋に居て(正確にはデザベアも居るが)、話しをしている時に、アレンの口から飛び出したその疑問は、当然だった。

 アレンからしてみれば、クリスを差し置いて他の人間に聖印も何も無いだろうと言う話だ。

 まあ、星落としだの、死者蘇生だのを見ている者からすれば、当たり前の感想だろう。

 しかし、とは言え――。

 

 

「無い、よ」

 

 

 ――無いものは、無い。

 

 

 自らの両手を、ひらひらとさせながら、クリスはアレンに答えた。

 晒された手の平と手の甲は、ただ只管に真っ白で柔らかいだけで、アレンの右手に刻まれているような印は、影も形も無い。

 

 

 

「うーん。手の甲以外に刻まれていたりしない?」

 

 

 

 しかしながら、聖印とは別に手の甲だけに刻まれる物ではない――まあ、そのパターン一番多いのは事実だが。

 腕や足。額や背中。極めて特殊な例としては瞳の中に浮かび上がった者も過去の資料から確認できるらしい。

 故に、クリス自身が気付いていないだけで、その身に聖なる印が刻まれているやも、と考えるのは飛躍した思考では無い筈だ。

 

 

 

「んー」

 

 

 

 そう言われて、クリスは考え込んだ。

 そもそも、アレンに見せた力は、後からこの世界にやって来た()が持って来た物であるが故に、この身に印が刻まれているという可能性は殆ど無いと思うのだが、と。

 さて、それをどう説明したものか、と暫し思考していたクリスだったが、直ぐに、ああ。簡単な解決方法があったな、と良い案を思いついた。

 

 

 

直接(・・)確認して貰えば(・・・・・・・)早い話か(・・・・)

 

 

 

 本当に自分が見逃していただけで、実は聖印が刻まれている可能性もあるのだから、と。

 そう思い立ったが吉日、クリスは早速行動を始めた。

 

 

 

「じゃ、あ。は、い」

 

 

 ものぐさな男性がやるように、クリスはガバッ、と乱雑に己が来ていたワンピースを脱ぎ捨てた。

 服によって隠されていた肢体と、エレノアに選んでもらった可愛らしい下着が惜しげもなくその場に晒される。

 クリスはあろうことか、下着にまで手を掛けて――

 

 

 

 

「わあああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 ――大慌てのアレンによって、その手を止められた。

 

 

 

「ど、どうして、服を脱ぐの!?」

 

 

 

「……?印、確認」

 

 

 

 自分の目だと、確認出来ない場所もあるんだから、先の話を確かめる意味でも、見てくれれば良い、とクリスは特に恥ずかしがりもせずに、アレンに体を見せつける。

 その言葉に顔を真っ赤に変えながらも、アレンは何とか反論する。

 

 

 

「だ、だから駄目だよ!女の子がそんなに簡単に肌をさらしちゃ!!と、とにかく早く服を着て――!!」

 

 

 

 そう言いつつも、その視線がクリスの姿を捉えて離さないのは、アレン君も男の子なのだと見逃してあげて欲しい。

 口で制止出来るだけでも立派な方だろう。

 

 

 

「むー」

 

 

 

 それに不満なのがクリスである。

 そんな言い方をされると、まるで自分がどこでも所構わず脱ぎだす露出狂か痴女の様では無いか!!と。

 確かに、人通りの多い街中でストリップさせられようが、羞恥どころか興奮しか覚えないクリスではあるが、表社会においては日本の法律や条例的倫理観は守っていく所存だ。

 誰彼構わず目の前で露出したりはしないのである。

 ただ、信頼できる人間を相手に、話の流れで脱げそうなチャンスは逃さないだけだ――――ッッ!! 

 取り合えず勘違いされては堪らないので、そこの所をクリスはキチンと伝える事にした――半裸のままに。

 

 

 

「アレン、君が、相手、だか、ら。特別、だよ?」

 

 

 

 尚、その特別な相手には、ルークやらエレノアやら、前世の家族・友人、それにこれから仲良くなるであろう相手も含まれているが、別にそこの所は敢えて言う必要もあるまい、と伝えなかった。

 

 

 

「うぁっ」

 

 

 

 小首を傾げて自らを見つめて来るクリスに、アレンの体が揺れる。

 頭も酩酊しているかの様にクラクラとしてきて、なんだかとても暑い。

 今更ながら部屋に二人きりだという事実が無性に気になって、脳内で何度もリフレインされ続ける。

 

 

 

 

「そ、それでも、だ、駄目だから……!服を着てくれっ」

 

 

 

 

「ちぇっ」

 

 

 

 そんな状態でも、アレンは必死に自制心を働かせた。

 絞りだすようなアレンの言葉に、クリスは脱ぎ捨てた服を着直した。

 尚、その際、アレンの瞳に残念そうな色が宿ったのもやはり見逃して上げて欲しい。

 

 

 

「まあ、でも。私に、聖、印。無い、と、思う、よ」

 

 

 

 アレンの事を揶揄っているんだか、天然でやっているんだか判別の付かないクリスがそんな風に締めくくる。

 余り悪く言いたくは無いのだが、客観的に見て自分の今の体に、世界の王様なんて大それた物に挑戦できる様な力は無く、別に隅々まで確認せずとも聖印など無いだろう、と。

 いや、正確に言えば、美貌というか、魅力というか的な才能は人の限界を超えちゃってる位にあるのだが、それが力になるのは、それを活かせる別の力を持っていた場合であり、単体だと寧ろ狙われるだけのご馳走でしか無いのである。

 

 

 

 

「…………クリスがそこまで言うのなら、確かにそうなのかも知れないね」

 

 

 

 再び疑えば、今度は真っ裸になられかねない、とアレンがクリスの言葉に同意を返した。

 そうなってしまえば、次は自分を止められる自信が無かったからである。

 

 

 

「いや、でもまあ。クリスは唯の聖印持ちに収まらない器の持ち主、って事なのかも知れないね」

 

 

 

 色々と心臓に負担がかかる様な、役得な様な時間を過ごしたアレンだったが、最終的にはそんな結論に至ったらしかった。

 

 

 

 ――その日の夜。

 

 

 

『で?結局、オマエ。聖印とやらは欲しかったのか?』

 

 

 

 アレンと話している時は特に何も言わずに静観していたデザベアが軽い調子でクリスへと話しかけた。

 その言葉に、クリスは少しだけ考え込んだ後、念話で答えを返す。

 

 

 

 

『んー。貰え、る、なら、欲しい、かな?』

 

 

 

 クリスのその答えに、デザベアは意外そうに目を見開いた。

 

 

 

『ほー。なんか珍しいな。オマエがそう言った権威的なモンを欲しがるなんて』

 

 

 

 不思議がるデザベアに対し、とても簡単な事だよ!とクリスは自分の考えを伝えた。

 

 

 

 

『だっ、て。【自主規制】に、印、刻ま、れ、たら。淫〇ん、みた、い、だか、らっっ!!』

 

 

 

『真面目に聞いた俺様が馬鹿だった』

 

 

 

『感、度、3000、倍――!!』

 

 

 

 

『タトゥーでも彫っとけ!!』

 

 

 

 

『え。プレ、イ、でも、なけ、れば、体、傷つけ、る、気、ない、けど』

 

 

 

 

 何言ってんの?と言わんばかりのクリス表情に、デザベアはイラッ、と来た。

 

 

 

『うるせぇ!変な所で常識人ぶるな!!それなら、シールでも貼っとけ――!!!!!』

 

 

 

 

『ナイ、ス、アイ、ディア!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 何時かやろう!!クリスはそう決意した。

 デザベアはふて寝をキメた。

 

 

 

 尚、同時刻――アレンとルークの部屋にて。

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ――!!!」

 

 

 

「アレン、どうし……………………いや、何でも無い」

 

 

 

 枕に顔を押し付けながら、ゴロゴロとベッドの上を転がりまくるアレンの奇行に対し、ルークは見ないフリをして上げていた。

 

 

 彼は、空気の読める大人なのである。

 

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