硝子の聖女~スケベ猿が薄幸美少女に転生した結果~   作:三上 一輝

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設定回?です。

最初にデザベアがごちゃごちゃ言っているのは、作者の別の作品からそのまま持ってきた設定で(コチラの作品では)そんなに重要な設定でも無いので、あんまり気にしなくて大丈夫です。


06 デザベア先生の世界講座とクリスちゃんのガバガバ原作知識

「何だ、何だ。お前も結構やるじゃないか」

 

 空中にぷかぷかと浮かぶデザベアは、先ほどまでの不貞腐れた態度が何のその、ニヤニヤと意地の悪い笑みを顔に浮かべて、非常にご満悦だった。

 

「なに、が?」

 

「何って?あのアレンって餓鬼の事だよ!!良く重要人物と繋がりを持った!上手くやったじゃぁないか!!」

 

 この世界を元にしたゲームの主人公。

 デザベアはアレンがどんな人間か知りもしないし、これから聞き出す所だが、しかし主役に抜擢される以上、何かしら英雄めいた点があるのだとは推察出来る。

 そう言った人物に擦り寄って、甘い汁を頂戴する。

 金も健康も、一般人が持っているであろう大抵の物は何も持っていない小汚いスラム生まれの餓鬼が、厳しい異世界で生き抜くには?と言う疑問に対する回答としては、満点に近かった。

 難点として擦り寄った人物が抱えている問題に巻き込まれやすくなる、というものがあるが、クリスは元々(デザベアの所為で)大きな事件に巻き込まれやすい運命に成ってしまっているので、実質ノーリスクと言って良い。

 兎に角、閉塞していた己の人生に一筋の光明が差したようで、デザベアの気分は実に上々であった。

 

「そう、いう、つもり、じゃ、ない、けど!!」

 

 対称的に一気に不機嫌に成ったのはクリスだ。

 何故なら彼女にそんな意図は一切存在しなかったからだ。

 クリスがアレンと友人に成りたかった理由に、相手が主人公で目覚ましい活躍をするから、何て(よこしま)な打算は無く、そこにあったのは可愛らしいショタとお友達になりたいっっ!!!!!と言う純粋な――

 

 純粋。

 純粋……?

 じゅん……す……い?。

 ………………………………………………………………。

 純粋にいやらしい気持ちだけだ!!!

 

 打算の方がまだマシなのでは???????

 

「まぁ、まぁ、そう怒るなって。普通に仲良く成りたい、とは思っているんだろ?」

 

「それ、は、そう」

 

 主役だから仲良くしたいなんて思いは無いが、逆に主役だから距離を置きたい、だなんて考えもまた、クリスには存在しない。

 色欲云々はさておいても、クリスにとって人と仲良く成る事は、大好きな事であったし、そうして出来た友達には出来る限りの親切をしたい、とも思っている。

 

「それならそれで良いんだよ!お前さんに出来た新しいオトモダチは、ちょっと運命の激流に流されやすい奴で、だから力に成ってやりたい!って思うだろ?」

 

「う、ん」

 

「そうしてお前が相手を助けて、相手もお前を助けてくれる。オトモダチってのはそういうもんだろ?嗚呼!仲良きことは美しきかな!!」

 

「うーん?」

 

 何となく詭弁ではぐらかされている様な感じがする。クリスはそう思った。

 それは言っている事は正しくとも、それを述べているデザベアに打算的な感情が見え隠れするからだろう。

 まあしかし、言っている事は正しいので、クリスとしては粛々と自分の倫理観に従って仲良くするまでの事だ。

 

「それと、だ!!こう成って来るなら、お前に色々説明することと、質問することがある」

 

「何?」

 

「まあこの世界自体の事やら、お前が持っている知識なんかについて、だな」

 

「?」

 

「まずこの世界が、お前の世界でゲームに成っているのは何故かっていう話と、それに関連する注意事項だな。まあ前にも言ったが、そもそもお前がそのゲームとやらを大して知らない様だから、そんなに意味の無い話では有るんだが……。まあ全く気にならない訳でも無いだろ?」

 

「ま、あ」

 

 形式的にはゲームの世界に転生!と言う形のクリスだが、そのゲームの知識を殆ど持っていない所為で、感覚としては唯の異世界転生に近く、今までは特に気に留めることもなかった。

 しかし目の前に、その物語の登場人物が現れた、とあっては、それで相手に対する対応を変える気はサラサラ無くとも、一体どういう事なのか気になるのが人の性と言うもの。

 

「とは言っても、実はそんなに難しい話じゃあ無い。世の中には、別の世界で起こる・起きた事件の内容を観測出来る。そんな能力を持った奴が結構な数居るんだ」

 

「他の、世界、知れる?」

 

「まあ知れるって言っても、大多数はそんな詳細に、映像か何かとして受信出来る訳でも無く、頭の中にふっ、とアイディアとして湧き出るみたいな感じで、自分たちが別の世界を観測しているなんて風には、露とも思っていないんだがな。だから、そいつらの中には、その受信した情報を元に物語を作ったりする奴も居る」

 

「そう、なの!?」

 

「ああ。だから世の中に存在する【物語】の中には、他の世界で実際に起った出来事を記した物ってのが、実は結構存在する――勿論、全部が全部じゃねぇけどな?だからそうだな……。例えば今この瞬間、俺様たちの事を観測している存在も、どこかの世界には居るかもな?」

 

「びっ、くり!!」

 

 冗談めかして笑うデザベアの発言に、クリスはふと気になって頭上を見上げた。

 其処にはボロボロの屋根しか見えず、当然他の物は見えなかった。

 

「ま、此処らへんの詳しい事は、さして重要じゃねえ。鶏が先か、卵が先か。この場合が、世界が先で、物語は後だ、って言うのだけを覚えとけば良い」

 

「わか、った」

 

「で、だ。問題はそれによって発生する注意事項だ。言ってしまえば当たり前の話ではあるんだが、勘違いしているとエライ目に遭うからな」

 

 世界が先に存在することによって発生する注意事項。デザベアは、その具体例を幾つか挙げ始めた。

 

「例えば、この世界を元にしたゲームに、特定の手順を取ることでキャラを無敵化出来るバグがあったとしよう。だけどこの世界で同じ手順を取った所で、そんな事は起きない」

 

「当たり、前、では?」

 

 現実的に考えればそれはそうだろう。

 クリスの言葉に、デザベアも深く頷いた。

 

「そ。当たり前の話だ。要は、ゲームでは〇〇出来たから、コチラでも出来る筈!何て風には思い込むなよって事だ」

 

「うん、他にも、あるの?」

 

「応。今のは飽くまでちょっとした注意で、本当に重要なのはこっちの方だ。そもそもゲーム――というか【物語】の知識自体が其処まで信用できる物でも無い。って話なんだよ」

 

「良く、分から、ない」

 

 この世界にやって来た直後もデザベアが、そんな話をしていた様な気がするが、いまいちキチンとした理解には至っていなかった。

 

「何、少しずつ整理していけば単純な話だ。まず先程も言ったがな、別の世界で起こった出来事を観測出来るって言っても、詳細かつ完璧に知ることが出来る!なんて奴は余程の例外を除いて居ないんだ。大概は途切れ途切れ、歯抜けの情報をふと思い付くだけ、とそんな感じだ」

 

「あんまり、当て、なら、ない?」

 

「そういう事。それに其処から更に、その物語を世に出す奴の都合も入ってくる訳だ」

 

「都合?」

 

「これも先程言ったが、大抵の奴は自分が別の世界を観測している、何て事に全く気が付いて無くて、それが自分の頭から出たアイディアだと思っている。そしてソレを【物語】として世に出そうとするのなら出来るだけ(・・・・・)面白くしよう(・・・・・・)と頭を捻る(・・・・・)訳だ(・・)

 

 それが問題なのだ、とデザベアは続ける。

 

「例えば陰惨なバッドエンドの事件を観測した奴が居るとしよう。そいつはそのままじゃ一般受けしないと考えて、色々とその物語に自分なりの解釈を加えてハッピーエンドにした上で、世に発表する訳だ!さて、この場合物語の元となった世界でも、発生する事件がハッピーエンドに成ると思うか?」

 

「なら、無い?」

 

「大正解!世界が先で、物語が後な以上、物語に新たな要素を付け加えた所で、世界には何の影響もない――当然の話だな?だがしかし、例えばその物語の読者の1人が、元となった世界に転生したとしよう。その場合、彼はこう思うわけだ。この世界は、ハッピーエンドの大団円で終わった物語の世界だから安心だな。ってね!」

 

 すると、どうなるか。とデザベアは大仰な動作と共に答えを言い放つ。

 

「嗚呼哀れ。彼は陰惨なバッドエンドに巻き込まれて死んでしまいましたとさ。とこんな感じに成るわけだ」

 

「怖、い!」

 

「纏めれば、お前たちが見る他の世界の出来事を元にした物語ってのは、唯でさえ歯抜けの知識に、更に作者の独自改変が入った情報、って事だ」

 

 だから、完全に信用しきれる情報では無い。とデザベアは再三言っている訳である。

 

「だけどその上で聞くが、お前の持つ所謂【原作知識】ってのを、ここで纏めて言って貰う」

 

「さっき、までの、聞くと、怖い、けど」

 

「少し大げさに驚かしたが、まあ全部が全部役に立たない、って訳でもねぇからな。実際に【主人公】の役割だったアレン何某が居た以上、お前が知っている程度の大雑把な知識は比較的参考になる筈だから、ここで聞いておく」

 

 プレイしている最中で他のゲーム(18禁)に浮気した所為で、殆ど無いクリスの原作知識。

 だが逆にその程度の知識しかもっていない方が、下手に変な思い込みをしないかもな、とデザベアは笑う。

 

「まあゲームの知識を隅々まで知った上で、何が役に立って、何が役に立たないかって検証出来るのが理想なんだけどな。とはいえ知識があり過ぎると、どうしても先入観が入るから、実際そう上手くはいかねぇ」

 

「そう、だね」

 

 原作知識だ、未来の知識だのと言った重要な情報は、どうしても持っている人間の目を曇らせる。

 言わば、バイアスがかかるという奴である。

 

「で、実際お前はどの程度の知識を持っているんだ?」

 

「えっと、ね。まず、あらすじ!後、公式、サイトに、あった、PVと、キャラの、紹介!最後に、ゲームの、序盤、だけ」

 

「本当に殆ど知らねえんだな……。まあいいや、それを教えてくれ」

 

 うん、と返事をして、クリスはゲーム知識を語っていく。

 

「まずね!この、世界、剣と、魔法の、ファン、タジー!!」

 

 タイトルはブレイジングファンダジアである、と此処までは前にも1度言っている。

 

「それで、主人公、アレン君!結構、偉い、貴族の、子供、だった」

 

「ほー。だった、って事は勘当か何かされた訳か?」

 

「アレン君、呪わ、れた、みたい。それが、原因で、家、居られなく、なった」

 

「……呪い?」

 

「左手、黒い、ウロコ、生えてる。ドラゴン、みたいに。後、黒い、炎、使う。そういう、人、【呪い憑き】いう、らしい」

 

「ああ、それであの腕か」

 

 アレンの包帯が巻かれた左手を思い出して、デザベアは納得したように呟いた。

 

「上手く喋れないお前の代わりに纏めると、だ。体が異形化する現象が【呪い憑き】。貴族のアレンは、その呪い憑きに成っちまった所為で家を追い出されたって事でいいな」

 

「うん」

 

「貴種流離譚って奴だな。よし、続けてくれ」

 

「えと。アレン君、成長。王を、決める、戦い、巻き、込まれる、らしい」

 

「――あん?」

 

 自分はそこまでやってはいないけど、と語るクリスの言葉にデザベアが大きな反応を示す。

 

「王を決める戦いってのは、どういう意味だ?国が荒れて、跡継ぎ候補の王子同士の勢力争いに巻き込まれるって事か?それとも――文字通り(・・・・)の意味か?」

 

 デザベアの言葉に、クリスはえーと、えーと、と頭を悩ませながら記憶の海に深く潜る。

 そして実際にその場面までプレイしていなくとも、あらすじやPVなどから推察できる情報で答えを導き出す。

 

「多分、言葉、そのまま。勝つと(・・・)王様(・・)成れる(・・・)戦い(・・)

 

「――へえ」

 

「えと。えと。アレン、君。右手に、証、ある。他にも、体の、どこかに、証、ある人、一杯。その人達、戦う、100年、1度?勝つと、神様(・・)に、認め、られる、らしい。王様、成れる!!」

 

「そう言えばあの餓鬼右手も隠してやがったな……。それにしても、()ねぇ。本当の意味での神かは知らんが、まあ納得だ」

 

 通常、王なんて権力の象徴に、唯の切った張ったで成れる訳も無い。

 だがそれは、科学知識で発展した所謂現代社会的思考においての話だ。

 そう言った世界においては、人間のスペック差などほぼ無い――とまで言うのは言い過ぎだが、力が強い人間でも殴って山を消し飛ばすことなど出来ないし、頭が良い人間だって、スパコンより早く計算など出来ないだろう。

 だから国のトップに成れる方法など凡そ相場が決まっていて、しかしそこに【魔法】やら、【超常存在】が絡んでくると話は別だった。

 例えば、国のトップが守護神を笑わせる事で、一定期間の平和と繁栄が約束される――そんな世界があったとしよう。

 その世界での王様を決める方法はお笑いグランプリになる筈だ。

 現代社会から見れば、それはギャグに見える光景だろうが、やっている当人たちにとっては至って真面目で道理の通った方法だろう。

 

「100年に1度、神の名のもとに王を決める戦いが繰り広げられる世界。そんな世界の中で、尊ばれるべき戦いの証と、虐げられる呪いを持った少年による貴種流離譚、ってか?大体煮詰まって来たな」

 

 右手に祝いを、左手に呪いを。そんなアレンの境遇を聞いたデザベアは、成程いかにも(・・・・)だな、と笑った。

 

「うん。大体、そんな、感じ――」

 

 自分が覚えている事を大体伝え終わって、まだ他に伝え忘れが無かったかな?と記憶をもう一度深く思い返していたクリスの元々悪い顔色が、更に青くなった。

 

「オイ。何か思い出したのか?」

 

「だ、だめ。死、死ん、じゃう!!アレン、君の、お母、さん!!」

 

「…………取り敢えず、詳しく話せよ。対応はそれからだ」

 

 下手をすれば、このままアレンを探して町まで出て行きかねない剣幕のクリスに、デザベアが待ったをかけた。

 それを聞いて、多少冷静さが戻ったクリスが、思い出した情報を整理して語りだす。

 

「アレン、君。貴族の、家、出て、いかされた。でも、1人で、じゃない。お母、さんと、一緒!その後、アレン、君、お母、さん、それと、お母、さんの、お兄、さん。3人で、旅を、するの!!」

 

「それが、お前がプレイしていたゲームの序盤なのか?」

 

「うん!でも、思い、出した!あらすじ、書いて、あった。アレン、君。王を、決める、戦い、参加、する理由、子供の、時、殺、された、お母、さんの、敵、探す、為、だって!!」

 

「……成程な。お前自身は、その母親とやらが殺されるシーンをプレイした訳では無いんだな?」

 

「う、ん」

 

 だからこそ、思い出すのが遅れてしまったのだ、とクリスは頷いた。

 でも……と話を続ける。

 

「ゲーム、止めた、シーン。アレン、君の、おじさん、用事で、一旦、故郷に、戻った。だから、多分、その後……」

 

「ん。確かにそれはきな臭いな」

 

 母親が子供の頃に殺された、と言った設定があるゲームで、その母親と旅をしているシーンが序盤にあるのならば、その章の終わりは十中八九、母親が殺される場面だろう。

 そしてそんな中、頼れる保護者の1人が居なくなる状況が発生したのなら――そこが、()の起こるタイミングと見て、まあ凡そ7、8割方は間違いあるまい。

 

「取り敢えずそのタイミングで、あの餓鬼の母親が殺されると仮定しよう。で、お前はどうしたいんだ?」

 

「助、ける!!」

 

「そう言うと思ったよ。それで、方法は?」

 

「説明、して、警戒、して、貰う!!」

 

 貧弱極まり無いクリスが、何か出来る事と言えば、それは話す事だけだ。

 故に、現実的な考えではあるのだが……。

 

「まあ、そんな所だろうな。――勿論、却下だ」

 

「なん、で!?」

 

 クリスが唱えた案をデザベアが、ピシャリ、とにべも無く切り捨てる。

 更に、呆れたようにやれやれ、と首を振った。

 

「まず、そもそもお前。前世の知識を他人に話せないのを忘れてねぇか?」 

 

「あ」

 

 クリスは基本的に自分が異世界に転生したことや、前世の知識などを他人に伝えられないようになる、呪いがかけられている。

 デザベア相手に対してだけは、極めて強い繋がりがある為、その呪いの例外となっていたので、逆にその事実について忘却してしまっていた。

 

「まあ、前世でプレイしたゲームの知識云々は喋らずに、予知か予言か何かを得たという事にすれば、ギリギリ伝えられないことも無いだろうが……」

 

「それ、なら!!」

 

「信じられる訳がねぇだろうが」

 

 そもそもの話。とデザベアは断言した。

 

「仮に前世知識を話せる状態だったとしても、だ。スラム住まいの小汚い餓鬼が、私、未来の出来事を知っていて、これから貴方のお母さんが殺されちゃうの、ウフフ。ってか?馬鹿か、そんなもん(未来の知識)持ってるなら、御大層な予言をかます前に、テメェの境遇をマトモにしてみろ、って話しだろう」

 

「うぅ」

 

 簡単に言えば、説得力が無さ過ぎる。

 魔法なんてものが存在する世界なのだから、厳かで神秘的な予言者などが言えば、信じられる可能性が無い訳でも無いだろう。しかし今のクリスの現状では到底…………。

 

「まず間違いなく一笑に付されるし、最悪質の悪い悪戯だと思われる。そうなっちまえば、もう終わりだ。お前の言葉は何も届かなくなる」

 

「…………」

 

 先ほども似たような事を言ったが、人間1度でも先入観・バイアスを持ってしまうと、それが解ける事は中々に無い。

 だから、クリスの言ったことが悪質な悪戯だと判断されれば、大きく信用を失ってしまうだろう。

 そしてそうなれば、アレンの母親が殺される事件までに挽回は難しいだろう。

 

「まあもしも、ゲームの知識をもっと沢山持っていて、かつそれがこの世界においても正しい物であったのなら、話はまた別だったんだが……。お前の持っている【原作知識】はもう終わりだろ?」

 

「……う、ん」

 

 生まれも育ちもスラムの子供が、本来ならば知り得ないであろう知識を数多く持っていたのであれば、それを上手く用い限定的ではあるが、自分が未来の知識を持っている事に、説得力を出せた可能性はある。

 だが残念ながら、クリスが持っているカードだけで、他人をそこまで納得させるのは極めて難しいと言って良い。

 

「だから、次にあの餓鬼と会った時に、直ぐに事件の事を話すなんて、馬鹿な事はしてくれるなよ?」

 

「……わか、った」

 

 残念ながらデザベアの言っている事はド正論以外の何物でも無く、クリスはそれに頷くより他に無かった。

 

「まあ。となると、取れる手段は限られてくる」

 

「!!何か、良い、案。有るの?」

 

 これがチェスや将棋であれば王手(チェック)が掛かっているような状況で、未だどうにかしようが有ると言うのか?

 クリスは期待と共にデザベアの話の続きを待った。

 

「良い案、と言うよりは、消去法で残る案でしかないがな。先ずどんな事件・事故が起こるにせよ、俺様たちが力づくで止めるってのは不可能だ」

 

 それが出来れば話は一番早いが、階段を上るのすら激しい運動に入る不健康幼女と、魔法少女物のマスコットみたいな体に成っている絞り滓悪魔の2人に、力で物事を解決するのは難しい。

 

「俺様の力が全快していれば、どんな相手だろうが2秒でぶち殺してやるし、どんな事故だって完璧に止めてやるんだが……。まあそれは置いておこう」

 

 その場合(力が回復している)、デザベアはアレンを助ける事に力を貸さないので、本当に意味の無い仮定である。

 

「だからお前(クリス)が何か出来るとすれば、精々が話だけだっていう考えは間違いじゃねぇ」

 

「でも、駄目、なんで、しょ?」

 

「ああ。残念ながらお前の話の内容(・・)が信じられることは無いだろう。信じさせるに足る材料が無い。口八丁で真実に出鱈目を混ぜて騙して動かすってのは無しでは無いが……そもそもお前が予測した時期に事件が本当に起こるとは限らないからな。1度外せば終わりな以上リスクが大きい。――故にここは正攻法だ」

 

「正、攻、法?」

 

「ずばり信頼(・・)を得る事だ」

 

「信、頼」

 

「まあ言ってしまえば、極々普通で真っ当な手段だ。お前の話は信じられなくとも、お前自身の事は信頼出来る。故にそのお前が不安がっているのなら、それを解消するのに多少は面倒な事をしてみても良いだろう――とそんな信頼関係を築ければ良い」

 

 デザベアが言っている通り、それは極めてマトモな解決手段だった。

 

「おお!でも、間に、合う、かな?」

 

「急がば回れ、ってお前の国の諺では言うんだろ?あの餓鬼の母親が殺される事件が、本当に発生するのか、起きるとしても何時なのか。それすら未だ不明確なんだ。最終的に他の手段を取るとしても、先ずは正攻法で挑むべきだろう」

 

 悪魔らしからぬ真っ当な助言は、デザベア自身の命も懸かっているからに他ならない。

 これがもし自分の身に無関係な場合であれば、一見すれば上手く行くような、それでいて実は大きな落とし穴があるような案でも出していた所だ。

 

「つま、り。小っ、ちゃな、男の、子と。仲良く、なろう、大、作戦!!!!」

 

「……………………いや、間違ってはいねーけど。もう少し別の言い方があんだろ」

 

 ――ショタの信頼を得よう大作戦の始まりである。

 お巡りさん、こっちです!!!!

 

 

 

 

 

 

 

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