真剣でクリスの兄に恋しなさい! 作:トラックオジサン
「「模擬戦の復活?」」
「らしーんだわ。今日、学長から職員達に通達があったわけ」
パチンっと将棋の駒が叩きつけられる。
今日もだらけ部にてゆったりとした時間を過ごしている。
「驚いといてなんだが模擬戦とは?」
ノアは留学生の為、弁慶は途中転入の為、模擬戦が何なのかというのを知らない。
「ここ最近はそういうのやってないからねぇ…直江、説明よろしく」
「なんで俺が…模擬戦っていうのは簡単に言えば6チームで争われるチーム戦の事。まずは大将となる6人が登録、6人以上の場合は抽選になるかな、6人が決まったら一定期間を終えるとそれぞれ勧誘が出来るようになる」
「ちなみにそれの規模が大きくなると川神大戦ってデカい戦いになるが…まぁこっちは予算の都合上やることは早々ないんだけどな」
相変わらず面白そうな事を考える学園だな。
「こういう催しは何処の学園でもあるのかい?」
「いんや、多分うちの学園ぐらいじゃないの?特殊すぎでしょ」
やはりそうなのか…
「しかし何でまた模擬戦なんてものを復活させたんだい?」
「そりゃ今年はバラエティーに富んだ年だからねぇ。英雄のクローン、ドイツ組留学生、西の納豆小町、九鬼の末っ子って…改めて見ると凄いことになってんな」
確かに言われてみると凄い事なんだろうなと何となく思ってしまう。
西の納豆小町というのは弁慶達の後に転入してきた3Fの松永燕という女性の事だ。
大和くんが最初に接触したらしく中々掴みどころのない女性だ。
転入早々百代と校庭で決闘を行い実力を見せ、最後に自分の販売している納豆を宣伝するという事をやってみせた。
何でも納豆に繋げるのはどうかと思うがルックスとトークの良さで学園内にファンを増やしているようだ。
俺も色々と絡まれたが今では松永納豆を食べるまでとなった。
「んで?お前さんたちは興味ない?直江とかこういうの好きでしょ」
「私は主次第かな、基本的には主のいるチームに入ることになるだろうけど…めんどいなぁ」
「俺も興味はあるかな軍師としてどこまで出来るかっていうのは気になるけど右に同じく」
「だと思ったよ。だらけ部は優秀だねぇ」
「先生!ここにだらけ部の不良生徒がいます!」
大和くんが手を上げ私の事を指している。
だらけ部の不良とは?
「確かに…お前さんはどうするんだ?」
「誘われれば入るとは思うが…どうだろうな」
「ノア先輩なら引く手数多だと思いますよ?」
「基本的に生徒のイベントだろう?一応俺も生徒にはなるがどうしても年齢を気にしてしまうのだよ」
「でも東西交流戦は出てましたよね?」
「あれは違う学園だったからな。それに百代抜きで何処までやれるかも見てみたかったからな」
「と言う事は…」
「出たいってことだね。どうやら彼はだらけ部に相応しくないようだ」
「おや?いつの間にか魔女裁判に掛けられていたのか…それは困ったな…」
「先生!被告を魔女と断定しだらけ部からの追放を」
このままでは追い出されてしまうか…仕方がない…
「この手は使いたくなかったが…今日はつまみとなる物を作ってきたのだが、魔女と断定されては出せないな」
「被告は無罪!よって閉廷!」
手のひら返しが早いな…弁慶がだけど
「とまぁ、冗談はさておき…今日は何持ってきたの?この前のも美味しかったけど違うのがいいなぁ」
「今日はシンプルに燻製したソーセージにしてみたさ」
カバンからタッパー…俺の学園生活はこれでいいのか?と疑問に思いつつ取り出した。
「ほー…今日はシンプルだねぇ、美味しいのかい?」
「味見した時は問題なかったさ。ここに温めるオーブンなどあればよかったのだが」
「そこの茶いれる別室にあるんだなぁこれが」
なんて都合のいい部屋なんだ。
オーブンで少し温め差し出す。
「どれ…あんっ…うん、美味いなぁー、川神水が思わず進んでしまうよ」
「どれどれオジサンも一つ…うっめぇなぁ」
「んぐっ…うっま!」
「喜んでもらえたようで何よりだよ」
「ねぇねぇ、これってドイツに売ってんの?」
「いや?俺が作ったが?」
俺の発言を聞いてか三人が固まってしまう。
何か変な事言ってしまったか?
「え?ノア先輩が作ったんですか?」
「そうだが…おかしかったかね?」
「いやいや、普通ソーセージとか作んねぇから!」
「なんでまた作ったのさ?」
「この前弁慶に渡したオバツダがあるだろ?基本ディップで食べる物だからな。合う物をと考えたらパンがシンプルなんだがそれだと川神水に合わないだろ?」
「それでわざわざソーセージを作ったの?」
「市販の物でも良かったんだが、自分で作ったディップの味に合わせたかったからな」
「へぇ…わざわざ手作りしてくれたんだ」
「わざわざってほどでもないさ。向こうにいる時はたまに作ってたからな」
「何この子…完璧じゃない。オジサン負けそう…」
「ヒゲ先生元から負けてるよ…」
「言うなよ直江…って事は肉から作り出したってことか?」
「そうなるな。何処の肉を使っても一緒だと思うが一応ドイツの物で作りたかったから空輸してもらって取り寄せた肉で腸詰めして作らせてもらった」
「ってことはマジモンのドイツソーセージか!」
「一応少しではあるが味付けもしてあるからマスタードが無くても食べられるだろう」
「へぇ…それにしても…美味い!」
皆喜んでくれたようで何よりだ。
作ったかいがあるもんだ。
「じゃぁ俺も今日は持ってきたんで一つこれを進呈しよう!これだ!」
「ほう?これは見たことがないな…これは…」
「徳島産の竹ちくわ。天神館の長宗我部から送ってもらったんだ」
「どれ…んー…ちくわソムリエとして満点を出しておこう。川神水が進んでしまう!」
「だらけ部が本格的になっちまったな…オジサンも今度何か持ってくるか」
うん、大和くんが持ってきた物が美味いな。
「ちくわか…これは日本の酒に合いそうだな」
「フリードリヒは日本の酒も飲んでるのか?」
「一通りは…おつまみは考えてなかったから参考にさせてもらおう」
「あ、それならノア先輩、今度うちのクラスの熊ちゃん紹介しますよ。グルメ関係ではこの学園で熊ちゃん以上の人はいませんよ」
「是非頼む」
「フリードリヒ…お前さんは将来主夫にでもなるつもりか?」
「料理は遠征先でも使えるからな。レーションでも悪くないが一手間加えて少しでも美味くなるならそれに越したことはないだろ?」
「そりゃそーだけどよぉ、凝り過ぎじゃね?」
「美味い物を作ろうとしたら自然とこうなっただけさ」
「ねーねー!ノアが酒のつまみ使ったら味見させとくれ」
「ここに持ち込むとしよう。味見としても最適だろう」
「クリスとマルさんにしてもらえるんじゃ?」
「あの二人だと何でも美味いって言うからな…試しに不味く作った物を出しても美味いと言って食べてたからな」
「よーし!ノアが作ったものは私に食べさせる事、味見してやろう」
「それは川神水に合う食べ物限定かい?」
「いんや、私は何でも川神水に合わせてしまうから平気さ」
「なるほど、了解した。今度は松永納豆に合わせた物を作ってみるか」
「いいねーオジサンも楽しみだわ」
話を合わせて色々と作ることになってしまったな…
「ふぁ〜…なんだか眠くなってきちゃったよ…」
「オジサンも腹いっぱいだし、夜に備えて少し寝るか…」
「俺も少し横になろう…」
「3人は寝てるといい、俺は本を読んでるから適当な時間に起こしてやろう」
「あれ?ノア寝ないんだ?じゃー私が美味い飯くれた褒美を授けよう」
壁に寄りかかって座る俺の傍に弁慶が迫ってくる。
四つん這いで来たら下着が見えてしまわないか?
「ノアはそのままの体制ね。んでこうしてっと…」
足を伸ばし座っていると太ももあたりに弁慶が頭を置いてきた。
「あ〜…こりゃいい枕だ」
「褒美というのはこれか?」
「私に膝枕される権利をやろう。嬉しいだろう?」
「俺の足が痺れるかもしれないんだが…」
「まぁまぁ、そう言うなって…」
そう言って弁慶は目を閉じ眠りについてしまった。
今さら仕方がないかと諦めるとふと昔を思い出した。
クリスもこうして膝の上に頭を乗せて眠ってしまう事があったなと。
何故だが無性に懐かしくなりほとんど無意識だったと思うが弁慶の頭に手を置き撫でる。
弁慶も特に嫌な素振りも見せずに気持ちよさそうに眠っているので片手で本を捲りながら頭を撫で続けた。
いくらかの時間が過ぎると教室の扉が開かれた。
「ここにいたのか大和!っとノア兄様!?一体何を…」
「ここは本を読むのにとても最適な場所でね。クリスは大和くんに用事かい?」
「おっとそうだった。大和、これからF組とS組で対決があるんだが一緒にどうだ?」
顔を起こしクリスを見る大和くんの目は心底嫌そうな目をしていた。
「天気もいいし、ここでだらけてるよりは健康的だぞ」
「いや、俺はいいよ」
「しかしだな」
「俺はここでS組の弁慶の頭を抑えておく」
「兄様の膝の上で思い切り寝ているだけにしか、見えないんだが…」
「……あれも戦略なんだよ」
「むぅ、宇佐見先生からも「Zzz…Zzz」あぅ…寝てるのか…」
「俺に構わずクリスは対決に行ってくれ」
「しかしなぁ…軍師としてそれはどうなんだ?こう、アドバイスみたいな事を…ノア兄様からも言ってやってください」
こちらに矛先が向いてしまったか…仕方ない
「クリス、対決する競技は何で対決するんだい?」
「マラソンです」
「ふむ、ならば大和くんの力は必要ないんじゃないかい?」
「大和はF組の軍師ですよ?それにたまには体を動かした方が大和の為です!」
「マラソンに軍師の知略はいらないよね?それに大和くんは自分でちゃんと鍛錬はしているみたいだしね」
「しかし…」
「クリスが大和くんの事を考えて誘っているのも判る、しかし本人にやる気がないのに無理矢理にやらせてどうする?それはクリスの考えを押し付けてるだけになってしまうよ?」
「うぅ…ノア兄様はどちらの味方なのですか?」
「俺はクリスの兄であり、大和くんの友達だよ。どちらの味方でもないさ…こっちにおいでクリス」
不満げな顔を隠さずにクリスはこちらに向かってくる。
弁慶が寝ている逆の方に座るよう促すと静かに座った。
本を閉じ空いた手をクリスの頭の上に乗せ撫でる。
「クリスの良い所は真っ直ぐな所だね。兄として誇りに思うよ」
「えへへ…」
「しかし自分が正しいからと無理強いさせる事とは話が別だよ?」
「うっ…」
「クリスは前にあった出来事で学んだのだろう?」
「はい…」
「何も対決するのはこれが最後な訳でもないだろう?また対決する事がありどうしても大和くんが…軍師が必要ならば頼ればいい。今回のマラソンは軍師は必要ないし大和くんには合わなかっただけさ。必要な時にはクリスに力を貸してくれるよ」
「判りました…ごめんなさい…」
「素直に反省出来るのもクリスのいい所だね。さ、対決が始まるんだろう?私もクリスの走りを見に行かせてもらうさ」
「ノア兄様!来てくれるのですか?」
「たまにはクリスの頑張る姿を見るのもいいだろ?」
「はい!では早速行きましょう!」
「少し片付けてから行かせてもらうさ、必ず行くから先に行っててくれ」
するとクリスはスクッと立ち上がり急ぎ教室を出ていった。
先程の不満そうな顔はなく満足そうにしていた。
「という訳ですまないな弁慶、頭を上げてくれるかい?」
「ちぇっ…せっかくいい枕だったのに…」
「すまないね。また今度だ」
「まぁいいけどね。しかし意外だねぇ、ノアは妹に甘くないんだね」
「勘違いされやすいが俺はそこまで甘くないつもりだよ。父さんと部隊がクリスに対して甘すぎるからね。少しは厳しく言う人間は必要なのさ」
「ふーん…なんだか大変そうだねぇ」
「そうでもないさ。可愛い妹の為だと思えば苦労も感じないよ」
「本当にクリスの親父さんと会った後にノア先輩に会うと印象がまったく変わりますね」
「ちゃんと父さんの血は引いてるんだがね。母さんの血の方が濃いのかもしれないね」
弁慶が太ももから頭を離してくれたので立ち上がる。
「さて、俺は行くとするよ。約束を破ってしまうと拗ねてしまうからね」
「おつかれ様ですノア先輩。助かりました」
「適材適所を言ったまでに過ぎないよ。気にすることはないさ」
「おつー、また美味いつまみ待ってるよ」
皆に手を振り部屋を後にする。
さて、マラソンとはいえクリスが走ってる所を見ないと駄々をこねられそうだな。
少し早足でノアは校庭へ向かっていった。
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