「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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使者達は本来狩人とはギブアンドテイクの関係ですが、半分上位者になった影響と長い間関わってきたせいで二人に対してかなり甘くなってます。距離感の近いアイドルを推す感覚ですね。


狩人

「ん………なんだろうこれ?」

 

二人が眠って数時間後、エノクが目を覚まして起き上がる。かけた記憶のないブランケットを首をかしげながらぼんやりと見つめていると、横から何かにつつかれた。

 

「?…あ、使者くん。今日のファッションはその包帯かな?」

「!」グッ

「うん、よく似合ってるよ。あ、これ(ブランケット)ありがとう。」

 

嬉しそうなジェスチャーをする使者に微笑ましそうな笑みを送るエノクは、そのまま寝ているリサにブランケットをかけなおした。

 

「さて先ずは、と。」

 

そのままそこに座り込んだエノクは使者の方に向き直り、虚空から一本の注射器を取り出した。中には赤い輸血液がたっぷりと入っている。

 

「品質の確認はしとかないとね………あぁ、補充はどうすればいいかな?」

「ー」カキカキ バッ

「えっと…《こっちの生物の血からでも作れるから渡して欲しい》?……じゃあ、これから暫くはここら辺で素材集め(蹂躙)だね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……………エノク?」

 

エノクが所持品の確認をとり始めて10分ほど後、ゆっくりとリサが目を開いた。それに気が付いたエノクは振り返りながらリサに笑いかける。

 

「おはようリサ。」

「おはよエノク………ふぁあ。」

 

寝ぼけ眼のリサはあくびをしながら起き上がるとそのままエノクの方へ寄りかかる。肩に顎をのせてエノクの頭の隣に自分の頭を持ってきたリサは目の前に並べられた注射器と弾丸、火炎瓶等、お世話になっている道具を一瞥する。エノクも特に気にすること無く目線を戻した。

 

「もうやってたの?起こしてくれてもいいのに。」

「とても気持ちよさそうに寝てたからね。起こすのも申し訳なくて……かわいい寝顔だったよ?」

「むぅ、そんな事言っても騙されないわよ!」

「本心だよ。」

 

若干嬉しそうに頬を膨らませたリサだったが、気にせずエノクは装備の確認を続ける。特に反応しなかったエノクに少し残念そうな顔をするリサであった。しばらくするとエノクの隣に移動して、虚空から様々な物体を取り出し始める。その手には人骨の破片や痩せた獣の手らしきもの、挙げ句の果てにはよくわからない生物が握られていた。

 

「秘儀の確認もやるの?」

「流石にここではしないわよ。馬鹿みたいに騒がしくなるだろうし被害がこっちに来るやつも……あ、抜け殻いる?」

「ルドウイークさんの聖剣もあるけど…まぁ、一応ノコギリ鉈に使えるし持っておこうかな。」

 

軽く手渡しされたらのは何かの抜け殻の様なものだった。左手でそれを受け取ったエノクは右手にあらかじめ取り出して整備していたノコギリ鉈を握りしめる。そしてその鉈に対して念じるように抜け殻をなぞると鉈が不思議な光を纏い始めた。

 

「うん、問題ないみたいだね。」

「?この前、血晶石で炎攻撃出来るようにしてなかったっけ?」

「あぁ、それはこっち。」

 

そう言ってエノクは虚空に手を入れ、もう一つノコギリ鉈を取り出した。 

 

「予備として作ってたんだよ。」

「ふーん…あ、銃火器銃火器。」

 

納得した様子のリサは何かを思い出したかのように虚空へと両手を突っ込んだ。しばらくの間、まさぐるように動かした後に一気に引っ張り出す。そこには多種多様で、中には異常な形をした銃があった。

 

「よっこい……しょっと。」ガチャン!

「もう、ちゃんと丁寧に扱わないとすぐボロボロになっちゃうよ。」

「いいのいいの、鍛えたこれらはそんな柔じゃないから………相変わらず手に馴染むわねこのエヴェリン。」

 

エノクにたしなめられるもそれを流したリサは一本の銃を手に取ると、懐かしむ様にそれ(エヴェリン)を眺め始める。

 

「いつからだっけ、それを使い始めたの。」

「えーと、たしか丁度折り返し地点ぐらいからだったはずなんだけど……」

 

銃を片手に首をかしげるリサ。その最中、何処からか音が聞こえる。

 

ペタ   ペタ

  

「………………エノク。」

「恐らく………ここら辺に迷い込んだ化物かな?まぁ、足音からして一匹だろうけど。」

「じゃあ、さっさと狩っちゃいましょ。」

 

何かの足音に敏感に反応しリサは隣で作業を続けるエノクと一言二言話し合うとエヴェリンを持ったまま立ち上がる。その顔はとても好戦的な笑みを浮かべている。

 

「あ、試し切りしたいから僕も行くよ。あとこれ持っといて。」

 

確認作業を一通り終えたエノクがリサに一つの武器を投げ渡す。反射的に掴み取ったリサがその武器を見ると特殊な形をした刃が鈍く輝いた。

 

「これってアイリーンさんの?」

「うん、慈悲の刃。一時期使ってたでしょ?」

「そうだけど……ほいっと。」

 

ガキン  シュンシュン  ガキン

 

「……変形機構に問題は無いわね、じゃあ行くわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外郭の一角、ボロボロになったコンクリート製の家屋が建ち並ぶ中、一匹の化物が道を歩く。

 

「……………………グルルルルルル………。」

 

全身が血で濡れており、まだ乾ききっていないその狼のような化物は歩く跡に血を残しながら目をギラギラと光らせる。

 

 

 

 

「ふーん、濃い匂いだなぁって思ってたけど、やっぱり獲物を狩った後だったみたいだね。」

 

 

「!…グルァッ!!」

 

背後から聞こえた声に対して、即座に振り返り威嚇する化物。その目線の先には帽子を被り、マスクを上げたエノクがいた。突如沸いたように現れたエノクに警戒する化物だったが、相手が人間の子供であることを確認すると、少し口角を上げながら近づき始めた。

 

「……。」

「あ、もしかして僕を食べようとしてる?」

「ガアァァァッッ!!」

 

エノクが可愛らしく首をこてんと倒したところに飛びかかる化物。鋭い牙を持った大きな口をこれでもかと開き、食らいつく。しかし狙った筈の少年に攻撃が当たる事はなかった。

 

「狼さん、こっちだよ。」

 

一瞬動揺した化物だったがこちらに笑いかけて話すエノクを見つけると即座に襲いかかる。どうやら馬鹿にされていると感じたようで、目が見開かれ毛が逆立つ。

 

バクン!

「おっとと、危ないなぁ。」

 

しかしエノクは軽いバックステップで避け続ける。

 

「もう、やんちゃだなぁ。そんな子は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんと仕付けないと…………ねっ!」

 

「ガウンッ!?」

 

ある程度繰り返された攻防はエノクが左手で突っ込んできた化物の頭を殴った事で唐突に終わりを迎える。振り抜かれたエノクの手には穴の空いた鉄塊………ガラシャの拳がいつの間にか握られていた。化物は頭に食らった異常なまでの衝撃に思わず怯んでしまっている。

 

「あ、結構怯んでくれた。じゃあ、狩っ(殺し)ちゃおうかリサ(・・)。」

「待たせ過ぎよ!」

 

突如頭上から慈悲の刃を展開したリサが化物目掛けて突っ込んで来た。そしてそのまま二つに別れた刃を逆手持ちで構え、

 

「ふん!」

ザシュッ!

「グガッ!?」

 

そのまま化物の背中を刺し貫いた。その痛みに悶絶し、暴れだす化物だったがリサは化物の背中を蹴り、蜻蛉を切ってエノクの隣に着地し、そのままエノクと会話を始めた。

 

「もう、時間かかりすぎ!」

「ごめんね、体が鈍ってないか確認しながら誘導してたもんだから……。」

 

痛みでのたうち回る化物とは対照的に、二人の顔には明らかに余裕がある。

 

「他の武器の確認もしたいし、この子を仕留めようか。」

「むぅ………ちゃんと後で話するから。」

「グガッ…………グルルルル……。」

 

よろよろと立ち上がる化物の目には二人の子供が異常な存在にしか見えなくなっていた。だが化物自身のプライドが撤退を許さず、そのまま二人へ向かっていく。

 

「ガアァァァァァァッ!!!」

「よっと。」

「何よ、まだ元気じゃない。」

 

しかし途方もない時間悪夢の中で獣達を狩り続けた二人にその様なものが通用する筈もない。横にずれて避けたエノクはそのまま通り抜けた化物に対し、振り向きながら虚空から取り出したノコギリ鉈を展開し、攻撃を仕掛ける。

 

「大人しく狩られてね?」

バシュッ!!!

「グルガッ!?」

 

振り下ろされたノコギリ鉈は化物の脚を容赦無く潰した。最早化物には動くことすら儘ならない。

 

「ガウ…………ガ「眠りなさい。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

バン

 

 

 

ベシャ

 

慈悲の刃を仕舞ったリサがエヴェリンで化物の頭を撃ち抜き、命を奪う。しばらくそのまま警戒していた二人は、倒れ伏し息絶えた化物の亡骸に近づく。

 

「復活は無し……敵の影も無し……うん、出てきて良いよ。」

 

ノコギリ鉈に付いた化物の血を振るって落としたエノクは使者達を呼び出す。数秒後、その場に煙の渦が生まれて使者達が化物の死体を持って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、暫くはこんな感じの生活が続くかな。」

「…………マラソン?」

「そんな苦行じゃないよ。ノルマは1日一匹狩れたらいい位だし。」

 

訝しげに聞いてくるリサに思わず苦笑いになるエノクだった。




武器達は皆出すつもりです。ロマンが詰まった武器達の描写をしっかり頑張っていこうと思います。

ガラシャの拳の怯ませる力は原作より強めです。原作なら数瞬隙を作る位ですが、筋力99が思いっきり振り抜いたらここまでなりそうだなと思ったので。

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