「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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掃除屋達のセリフは適当にそれっぽくやってます。

原作でも解読出来るのがほんの一部という動物言語なんてわからないのです。



それでは本編どうぞ


掃除と依頼

エノクが放った大砲の弾は壁ごと向こう側にいた存在を吹き飛ばす。パラパラと壁の破片が舞う中、エノクは広げた穴に飛び込みそのまま隣にいた掃除屋を右手に持った獣肉断ちで叩き潰した。間髪入れず後ろから別の個体が襲いかかって来るが、振り下ろしの勢いを利用して体をひねり、そのまま下からかち上げる。かち上げられた掃除屋は後ろにいた個体を巻き込みながら吹き飛ばされていった。

 

「さて、どれぐらいいるのかな?」

 

既に獣肉断ちの刀身やエノクの狩装束の一部は赤く染まっており、相手の恐怖を呼び起こす。一切笑みを崩していないので尚更だ。しかし相対するのは一切の慈悲を持たぬ掃除屋である。相手の容姿に対する恐怖など持ち合わせていない。残っていた掃除屋達はそのままエノクに狙いを定めて手に持った刃を振るって来る。

 

「《加速》。」パキン

 

しかしその凶刃が当たる事は無く、素通りしてしまう。攻撃を外した者が周囲を見回そうとした瞬間、固まっていた何人かが胴から真っ二つになって息絶える。無事だった掃除屋がそこを見ると血塗られた千景を振り抜いたリサがいた。

 

「結局なんなのよコレ、血みたいだけど匂いは若干違うし。」

「………738937、37942894348。」

「ん~何言ってるのか分かんないの………よっ!

 

警戒してジリジリと近づく掃除屋にエヴェリンを撃ち込み、怯んだ隙に腹に千景を突き刺す。そして刺した掃除屋がなにかアクションを起こす前に斬り上げて始末した。

 

「案外脆いのね。」

「372!738954216!」

「バレバレよ?」

 

千景に付いた血を振るって落として鞘に戻したリサに後ろから襲いかかる影が一人。先程壁と共に吹き飛ばされた個体のようだ。しかし彼が上から振り下ろした刃は振り向かないまま避けられる。追撃を仕掛けようとした掃除屋はそこで永遠の眠りにつく。背後には大砲を発射して上半身を消し飛ばした犯人であるエノクが立っていた。全身が赤く染まっている。

 

「他は?」

「最初に飛ばした奴ら以外は終わったよ。」

「そ、じゃあこれでいい?」

 

そう言ったリサはよろよろと近づいてくる掃除屋達を他所に虚空から油壺と発火ヤスリを取り出し、発火ヤスリをエノクに渡す。

 

「うん、お願い。」

「了解よ…ほいっと。」

 

軽い調子で投げられた油壺は放物線を描いて、見事に掃除屋達に命中した。

 

「5372!?7372879599982763!「そろそろいいかい?」27!………73896422!?」

 

混乱する掃除屋達に話しかけるエノクの手にはメラメラと燃え盛る炎を纏った獣肉断ちが握られていた。

 

「さぁ、もうおしまいの時間だよ。」

 

若干後ずさる姿勢を見せる掃除屋達に対し、ニコニコと追い詰めるエノク、やがてしびれを切らした掃除屋の一人が動こうとするがその前にエノクが獣肉断ちを横に振るう。それに応えるように獣肉断ちから金属がぶつかり合うような音が聞こえた。

 

「7246328976278!!」

「はいはい、それじゃあ…………

 

 

体をひねり、獣肉断ちを持った右手を後ろに構えると力を溜める様に力み始める。それをチャンスだと感じた掃除屋達は一斉に襲いかかってくる。しかし、攻撃が届く前にエノクはその凶器を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

燃え尽きろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガウンッ!!!

 

残っていた掃除屋達は鞭のようにしなる獣肉断ちと炎によって原型を留めない程に壊れてしまった。

 

 

 

辺りには掃除屋だった物が燃える音が聞こえるのみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、意外となんとかなるものね。」

 

一仕事終えたと言わんばかりに伸びをするリサと適当な所に座って獣肉断ちの整備をしているエノク。辺りには未だに掃除屋達から出てきた液体が散らばっている。

 

「だって……正直最後らへんのヤーナムの市民の方が強かったし……ねぇ?」

「なんであの悪夢繰り返すほど相手が強くなったのかしら?」

「さぁ?」

 

二人揃って首をかしげるが、答えが出る気配はない。

 

「ま、いいわ。それよりさっさと移動しましょ。」

「ちょっと待ってて…………よし、不備は無しと。」

 

獣肉断ちの整備を終えて大砲と共に虚空にしまい、代わりにノコギリ鉈と短銃を取り出して腰に装備し立ち上がる。服に付いた埃をはらっているとふとエノクの動き止まる。

 

「誰ですか?」

 

そう言ってエノクは装備したばかりの獣狩りの短銃を影となっている方に構える。リサも無言でエヴェリンを構えており、少し殺気も出している。

 

「出てこないなら撃ちますよ?」

「…………………………。」

「「えい。」」

 

バンッ!!

 

「ッ!?チッ。」

 

躊躇なく銃弾を同時に発射する二人。その攻撃を避けるため、影に潜んでいた人物は姿を現す。顔は見えず髪の毛が黒いということしかわからない。目の辺りには琥珀色のゴーグルを着けており、頭には黒っぽい包帯の様なものが巻かれている。鱗のような黒いコートを羽織っており、手には不気味なハンマーが握られている。

 

「……………すまないが、こちらに手を出す意志は無い。」

「…どうやらそうみたいですね。」

「紛らわしいことするからこうなるのよ。」

 

二人は銃をおろす。男は少し冷や汗を流したようで、ため息をついていた。

 

「全く…そこまで躊躇いなく攻撃する奴はあまりいないぞ?………いや、外郭としては優しい方か。」

「即座に戦闘になるよりマシでしょう?」

「……………違いない。」

 

男は地面を見やる。そこには掃除屋との戦闘痕と液体があった。

 

「それが、あの厄介な掃除屋どもを一方的に蹂躙する小僧共だったら尚更だ。」

「お褒めに預かり光栄ですよ。」

 

皮肉を織り混ぜた会話をする男と純粋に喜ぶエノク。そして会話は互いの素性の話になる。

 

「で?質問なんだけど、あんた誰よ?」

「……………本名は教えられん。便利屋とでも呼んでくれ。」

「おや、都市の人ですか?」

「ああ、そういうお前らはなんだ?」

「エノクです。狩人をしてます。」

「リサ、同じく狩人よ。」

「狩人………そんな組織や二つ名聞いたこと無いが………。」

「こっちには僕らしか居ませんよ今はですけど。

「何か言ったか?」

「いいえ何も?」

 

小声で話した事を無かったことにするエノク。それはそれとして、話を続ける。

 

「あ、便利屋ということは依頼も出来るんですよね。少々手伝って欲しい事があるのですが……よろしいですか?」

「………内容と報酬による。」

「僕らは都市の中に入りたいんです。そこだけどうにかなりませんか?」

「かなり難しいな、近くまで連れて行く事は可能だが都市に入る時の手続きが複雑過ぎる。」

 

エノクの頼みは即座に切り捨てられる。

 

「ふむ……そこまでなんですか。」

「正直、都市から自分で出て帰った奴はともかく、外郭に住んでる奴が都市に入った事はほとんど無いと言ってもいい。お前らを荷物として入れる事は出来るかも知れんがおそらく途中の検査に引っ掛かってアウトだ。」

「………ねぇ、これ使えない?」

 

便利屋の言葉に頭をひねるエノクにリサが話しかける。その手には髑髏が握られていた。

 

「それって確か……。」

「《使者の贈り物》よ。これを使えば激しい動きさえしなければ小さい物に擬態できるわ。」

 

そう言ってリサが使者の贈り物を使うと、黒い霧に包まれ、最終的に使者と同じ姿になった。

 

『ほらね?』

「そっかそれなら狭いバッグとかにもはいれるね。」

「…………なんだそれは。」

 

名案だと喜ぶエノクをよそに、便利屋が若干引き気味に尋ねてくる。顔は見えないが、何となく顔を歪ませている雰囲気がある。

 

「僕ら狩人が《秘儀》と呼んでるものです。これの場合だと「使者に化ける」と言った効果があります。」

「ふむ………俺でも使える物はあるか?」

 

先程までの様子とは一転、便利屋は興味深そうに話し始めた。

 

「残念ながら……特殊な技能が必要になるので、実践で使えるレベルにはならないかと……。」

「報酬次第では受けようかと思ったが……。」

「なら武器はどう?」

 

いつの間にか変身を解いていたリサが虚空に手を入れる。そのまま探るような仕草をした後、パイルハンマーを取り出した。

 

「瞬間火力ならトップレベルよ。」

「それは…籠手、いやダガーか?かなり特殊な形をしているが……正直あまりそそられんな。」

 

便利屋は訝しげにパイルハンマーを受けとる。その声には疑いがありありと浮かんでいた。

 

「あぁ、これは仕掛け武器ですからね、真価は実践じゃないと分かりませんよ。」

「ほぅ?」

 

笑みを崩さないエノクはノコギリ鉈をしまい、自分用のパイルハンマーを取り出すと右腕に装着した。少なくとも子どもが身につけるような代物では無いため、なんともアンバランスな姿である。

 

「まずこれをこうします。」カギンッ!

 

そのまま刃を上に向け、ガッツポーズを取るように腕を振るうと少し飛び出していた刃が籠手の方へ音を立てて収納される。その後、腕をおろしたエノクは辺りをキョロキョロと見回す。

 

「えーっと……何かいい的は無いかな?」

 

少しの間悩んだエノクは、近くの壁に向かって歩きだす。突拍子の無い行動に疑問を持つ他二人だったが、エノクは気にせず目の前まで来た所で左手の指先を噛みきった。

 

「ここに…丸っと。」

 

そのまま自分の血で円を描くと少し離れて足を前後に広げる。腰を落とし、体をひねり、パイルハンマーを持った右腕を限界まで引き絞って力を溜め始めた。

 

「1、2の…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3ッ!!」

 

 

ズガンッ!!!

 

エノクが右腕を振りかぶって壁にパイルハンマーを叩きつけた瞬間、轟音と共に壁が爆発した。砂埃と煙が舞い、一時的に視界が悪くなるが、エノクは変形しダガーとなったパイルハンマーを振るって掻き消した。煙が晴れるとそこには印を付けた辺りを中心に見事に消し飛んだ壁の成れの果てがあった。それを確認したエノクは便利屋の方へ振り向いて可愛らしくニコッと笑う。

 

「お気に召しましたか?」

「……あぁ、報酬としては十分だ。」

 

少し呆気にとられていたが、エノクの言葉に対し少しワクワクしたような声色で返答する便利屋だった。




Lobotomy corporationをしてる人なら分かると思いますが、この便利屋さんは原作に出てくる《黒の便利屋》です。設定では彼の装備が外郭の化物を倒して手に入れた物だと書かれてたので外郭と都市を行き来しているのが分かります。どうせだったら絡ませちゃおうと思って出しました。
パイルハンマーのようにこれでもかとロマンを詰め込んだカッコいい武器が欲しい………欲しくない?

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