「おぉ、近くで見ると中々壮大だね。」
烏達を駆逐して何日か過ぎた後、道中化物や殺人鬼と遭遇し、その都度薙ぎ倒しながら進み続けた結果、遂に都市と外郭を隔てる壁まで辿り着いた。遠くから汽笛の音が聞こえてくる。
「…………さっさと行くぞ。」
「はーい、所であの馬鹿見たいに速く動いている物体は何?」
「汽車だ。かなり昔からあの速度で走り続けている。」
「何故そんなものが?」
「さぁな、俺も知らん。」
そう言って便利屋はずんずんと先に進んでいく。二人も質問は後にして、便利屋の後ろについていった。
一時間ほどかけて、ようやく都市への入り口が見えてきた。かなり厳重な扉や兵器などが遠くからでも見受けられる。
「さて、そろそろ変装してもらうぞ。」
「あぁ、そうだ。一つ思ったんですけけど、これって使えませんか?」
エノクは虚空から少し前に拾ったカードを便利屋に見せる。
「これは………許可証か。何故お前が持っている?」
「拾いました。この資料と一緒にゴミ山の中にあったんです。」
「…………おおよそ、持ち主が死んでいるから使っても構わんだろうよ。」
「あ、じゃあ僕が化けたリサを隠し持って通ればいいんじゃないですか?」
「まぁ、そっちの方が楽だな。」
しばらく悩む様子の便利屋だったが、やがて二人の方へ向き直る。
「じゃあそれで行くぞ、お前は俺が拾ったただのガキのふりでもしてろ。」
「分かりました……あ、服は普通の方が良いですか?」
「あぁ、その方が危険視されにくくなるだろうな。」
便利屋の言葉を聞いたエノクは、指を鳴らし服装を狩装束からパーカーへと変化させた。
「さ、おいでリサ。」
「わーい。」パリン
再び使者の姿に変化したリサが差し出されたエノクの腕を伝い、服の中へ入って行った。暫くすると、首元からリサ(フードを被った使者)がひょこっと顔を出した。
『OKよ!さっさと入りましょ。』
「というわけで、都市の中までお願いします。」
「……………いつ突っ込もうか考えていたが、お前らは異次元に倉庫でも持ってるのか?」
「ただのインベントリですよ。夢に仕舞ってるだけです。」
訝しげな便利屋に笑って誤魔化すエノク。そう言ったやり取りをしていたその時、都市の方向から複数の足音が聞こえてきた。
「ん?あの方々は……。」
「……チッ、面倒な奴らが来やがった。」
足音を察知したエノクが呟いた事で便利屋もその方向を見る。その集団が便利屋の視界に入った瞬間、心底嫌そうな声を出した。しかしその集団は足を止めることなく二人の方へ近づいてきた。よくよく見ると全員が近未来的なフルアーマーを纏っている。
「おい、行くぞ。」
「あ、待ってください。あの人達は誰なんですか?」
「………R社の連中、あの装備からしてウサギチームだろうな。」
『ウサギ?物々しい見た目の割にずいぶんと可愛らしい名前なのね。』
「可愛い?ただの精神異常者の集まりだぞ。下手なフィクサーより質が悪い。」
「ふむ、そうなんですか。」
「絡まれると面倒だ、出来るだけ無視してろ。」
そう言って便利屋は無言で歩き出した。エノクもそれに習い、パーカーのポケットに手を入れて便利屋の後ろにぴったり着いて行った。リサは既にエノクの服の中に隠れている。
「…………………。」
「…………………。」
互いにすれ違う瞬間が訪れる。しかし互いに反応は無く、ただ無言で通り過ぎるだけで何もアクションは起こらない。
(………このままで済んで欲しいが。)
しかし便利屋の思いは届かず、最後尾の一人が便利屋とエノクに近づいてきた。
「おやおや、黒の便利屋さんじゃないですか~。こんな所で何を?」
「………別に、遠征から帰って来ただけだ。」
「じゃあ隣にいるガキはなんですかね~?新しいおもちゃですか~?」
「俺はお前らのように殺しに快楽を感じる変態じゃないんでな。こいつは今の依頼主だ。」
そう言って便利屋は親指でエノクのことを指す。エノクは静かに微笑んでいるだけだ。
「依頼主ぃ?あっはっは、そんなガキが依頼主だなんて、便利屋はいつから保育士になったんですか~?」
「………さっさと失せろ。頭を吹き飛ばされたくなければな。」イラァ
段々とイラついてきた便利屋の口調が喧嘩腰になってきた。しかし、話しかけてきたウサギチームの隊員は口を閉じる事はなく、他の隊員も遠巻きに話しながら見てるだけである。どうやら便利屋と隊員Aがどうなるか賭け事をしているようだ。
「ほら、保護者が罵倒されてるのに対してなんとか言ってみたらどうでちゅか~?」
「…………………。」
エノクにも絡む隊員Aだが、当の本人はガン無視して涼しい顔をして通り過ぎるようとする。
「あ?無視すんなよ。」
その態度にムカついたのか、隊員Aはエノクに向かって蹴りを入れようとする。しかし
サッ ヒョイッ
何度も当てようとするが当たる様子は一切無い。無駄に洗練されたステップで簡単に避けていた。
「クソガキがッ!避けんじゃねぇッ!」
痺れを切らして隊員Aが殴りかかってきた。普通の子供であれば最悪死んでしまうだろう。
「あ、じゃあ反撃しますね。」
しかしそこにいるのは
「うぐぉッ!?」
「おやすみなさい。」
そうして無理矢理作られた隙を利用してエノクは隊員Aの懐に入り込む。
ザチュンッ
「あ、思わず殺っちゃった。いけないいけない、攻撃されたら必ずパリィする癖治さないと。………服が汚れちゃったなぁ。」
『ちょっと!私がいること忘れないでよね!』
「あぁ、ごめん。」
遠くにいたウサギチームは固まっている。幼い子供がいきなり重装備の人間の体を素手で貫いて内臓を引きずり出したのだから当然である。間近でそれを見た便利屋はこの数日で慣れたのか、普通に頭を掻いてエノクに話しかける。
「あー……もう行くぞ。」
「?放置しててよいのでしょうか。」
「お前がやったことだろうが………あいつらが固まっている内にさっさと都市に入るぞ。」
そう言って便利屋はエノクの手を掴んでその場を去っていった。
「なぁこいつどうするよ。」
「どうもこうも………こいつもう死んでるだろ。」
「シャオラッ!俺の一人勝ちッ!」
「「ガキがあいつを殺す」なんて大穴予想出来るわけねぇだろうが!?」
狩人は攻撃して来た奴に対しては体が勝手に殺しに動くと思うんですよね。あの悪夢ではほぼ全員が敵として襲いかかって来ますから攻撃=殺す相手でしょうし。