「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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フィクサー

「……………やっと終わったか。」

「お待たせしてすいません。」

「あー、やっと都市ね。」

 

都市と外郭を隔てる関所の近く、裏路地の一角に便利屋が壁に背を預けて立っているところに手続きを終えたエノクが姿を現す。隣には、オレンジ色のワンピースを着たリサがいる。どうやら関所を出た瞬間に秘儀を解いたようだ。

 

「取り敢えず、契約はここまででいいか?」

「あ、もう一つお願いしたい事が………。」

「何だ。」

 

立ち去ろうとした便利屋を呼び止めたエノクは、そのまま虚空から資料を取り出す。数日前に通行証と共に拾ったハナ協会製の簡易的な都市の案内書である。

 

「僕らがフィクサーになるためにはどうしたらいいですか?」

「………まぁ、あんな戦闘力持ってる奴らからしたら丁度良い仕事だろうな……………報酬は。」

「パイルハンマーの替えの刃と手入れ道具でどう?」

「………いいだろう、ついてこい。」

 

そう言って便利屋は踵を返して歩き始める。エノクとリサは一瞬目を合わせると、てくてくと便利屋の後をついていった。

 

 

 

 

 

 

にゃ~ん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだ。」

「…………どこよここ。」

 

しばらく歩いた後、便利屋はとあるビルで立ち止まる。それに伴い後に続いていた二人も立ち止まり、そのまま上を見上げた。周りの他の建物と比べ、何とも重々しい雰囲気を醸し出しており、ここが如何に普通とは違う場所であるかが分かる。

 

「お前らが希望したフィクサーになる…………正しくはフィクサーを認定するハナ協会という組織のビルだ。あくまでもここは支部だか、ここら一帯のフィクサーの仕事を管理しているからな。権力はとんでもないから下手な騒ぎを起こすのはオススメしないぞ。」

「冗談言わないでよ。此方から喧嘩を売るのは依頼か素材集めの時の獣に対して位よ。」

「どうだか……。」

 

あまり信用してなさそうな声を出す便利屋。纏う雰囲気からも疑っているのがありありと感じる。エノクとリサは揃って左に目を反らした。それを見て便利屋はため息をつくと、そのままビルの中に入ってしまう。それを追いかけて二人もビルに入って行った。

 

「「わぁ。」」

「声を出すほどか?」

 

中は外に比べてかなり清潔に保たれており、元々いた外郭とは比べ物にならない程に綺麗である。もっとも、外郭にそんな場所があるとするなら、違法な研究をしている施設か狂気的なカルト集団の本拠地位だろう。しばらく周囲を見回すエノクとリサだったが、そこに一人の男性が便利屋に話しかけてくる。

 

「おや、ネグロさん。依頼は達成しましたか?」

 

その言葉に反応して便利屋……ネグロが振り向くと、そこにはスーツを着て資料らしき物を抱えた優男がいた。

 

「…あぁ、お前か。丁度今報告に向かおうとしていたところだ。」

「そうですか。ご無事で何よりです…………所でその子達は?」

 

そう言って優男はエノクとリサに目線を移動させる。その目には純粋な疑問が浮かんでいた。

 

「俺に外郭で依頼してきたガキだ。「都市までの案内とフィクサーになるまでの補助」だとよ。」

「護衛じゃなくて案内………ですか?」

 

便利屋……ネグロの言葉に若干困惑した目になる優男。

 

「エノクです。」

「リサよ、で、あんたは?」

「申し遅れました、私はここの受付をしているファルと言います…君たち二人はフィクサーになりたいってことでいいのかな?」

 

二人の軽い自己紹介に返事をする優男……ファルは苦笑いをしながら尋ねる。

 

「ええ、それが一番手っ取り早いでしょ?」

「うーん……でもなぁ、君たちみたいな子供だとどうしてもなぁ。」

「何か問題でもあるんですか?」

 

エノクの言葉に困った顔をするファル。しばらく悩むように目を閉じて、やがて二人に考えを告げた。

 

「いやぁ、フィクサーって言うのはほとんど危険と隣り合わせだからね。子供がやる仕事じゃないと思うよ、うん。中には…………まぁ、人殺しの依頼もあるわけだし、なんだったら、ここのお手伝いでもいいんだよ?」

「遠慮しとくわ。私達は血生臭い方が慣れてるもの。」

「えぇ、書類仕事よりも殺人とかそういう事を繰り返してましたから。」

「…………………………………外郭ってそんなに物騒なのかい?」

「外郭が物騒なのは間違い無いが、そいつらがそれ以上のとんでもない例外なだけだ。」

 

自分が躊躇った内容を迷い無く選んだ二人に思わず宇宙猫になるファル。それを見かねたネグロがフォローらしき発言をする。

 

「例外……ですか?」

「ただのガキが外郭の化物を銃で仕留めたり、俺を拘束したり、R社の連中の喧嘩を買って反撃一発で殺せるわけないだろう。」

「?………?…?」

 

フォローではなく捕捉だった。更なる宇宙へと飛び立ったファルはしばらく動きそうにない。その隙に二人はネグロの隣に行き、気になっていることを尋ねる。

 

「ネグロさんネグロさん。」

「名前で呼ぶな………なんだ?」

「何故掃除屋の事は言わなかったの?」

「あぁ………都市では掃除屋の事を口に出すのは余り推奨しない。裏が深すぎる。場合によっては消されるんでな。」

(医療教会じみてるなぁ。)

(闇しか感じない。)

 

その言葉に納得するエノクとリサ。あの街を取り巻いていた色々かこの世界の情勢と似ているように感じた二人は若干げんなりとする。その様子に疑問を持つネグロだったが、最早二人の事を理解することを諦めているため、気にせずファルを戻す作業を始めた。

 

「…………………?」

「おい、いい加減戻ってこい。」バシッ

「いだっ!?」

 

作業といっても一回ぶっ叩くだけの簡単な仕事である。痛みにより現実へと戻ってきたファルは叩かれた頭を押さえながら文句を言う。

 

「いってて……ちょっと私の扱いが雑すぎません?」

「反応しないお前が悪い。」

「うぅ……ネグロさん、さっき言ってた事は真実なんですね?」

「下らない嘘を言う趣味は無いんでな。じゃ、確かに伝えたぞ。」

「またもしもの時は依頼させていただきますね?」

「ハン、その時まで生きてたらな。」

 

取りつく島もないネグロに肩を落とすファル。そのままネグロはエノクと言葉を交わし、階段で別の階へ行った。どうやら報告に向かうようだ。ようやく姿勢を正したファルは二人に尋ねる。

 

「じゃあ、二人はフィクサーになるって事で手続きをして良いんだね?」

「えぇ、よろしくお願いします。」

「うん、わかったよ……あ、そうそう。」

 

ファルが何かを思い出したかのように手に持った書類の中から一枚の紙を二人に見せる。そこにはフィクサーの許可証を発行する手順や階級について書かれていた。

 

「取り敢えず、応接室で話をしようか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から簡単な説明をするから、一応渡しとくね。」

 

ファルにそう言われ、二人は資料に目を通す。

 

「まずフィクサーについてだね。治安維持や探し物………あと人殺しも依頼であれば何でも行う何でも屋って感じだよ。所属している事務所とか翼によって種類は変わるけど、大体はその組織が受けた依頼をこなすのが一般的だね。」

「組織…………ファルさん、組織に所属せずに依頼を、とかは無理ですか?」

「?可能だよ。ネグロさんも組織に所属せず活動してる方の人だからね……でも……。」

「でも?」

「最初は軽い仕事しかないから収入も少ないよ?生活も安定もしないだろうし、やっぱり最初は事務所とかに所属しておくのがオススメだよ?」

 

ファルの表情からは二人に対する心配がひしひしと伝わってくる。しかしリサはそんな物気にせず話を続ける。

 

「別にいいわ、私達二人での活動は今までと変わらないし。むしろ余り組織っていうのを信用してないから。」

「…………その歳で一体どんな人生を歩んで来たのかい?」

「向かってくる奴らを殺すために文字通り死んでもやっただけですよ?」

「詳しく聞いたら発狂しそうだから止めとくよ。」

「賢明な方は好きですよ。」

 

ニコニコと笑うエノクと普通に資料を見ているリサに若干冷や汗を流すファル。見た目こそ美少年と美少女だが、抱えているものがそこらの人間とは格が違う事を仕事で培った勘で悟り、避けるのであった。

 

「……話を戻そうか。じゃあ次は試験についてだね。」

「「試験?」」

 

二人は揃って首をかしげる。どうやら、簡単に話は終わらないらしい。

 

 

 




黒の便利屋の名前である「ネグロ」は完全に捏造です。
スペイン語で「黒」という意味です。安直ですかね?
後、職員のファル君は完全にオリジナルです。恐らくこの後もちょくちょく出てきます。名前?パッションです。

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