「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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試験に関しては完全なオリジナル設定です。




「あぁ、今ある依頼の中から幾つかピックアップしてそれをこなすっていうのがフィクサーになる試験みたいなものだよ。普通はスカウトだったり、事務所を通して証明書を発行するんだけど、所属する組織が無い場合は協会が力を試すことになってるんだ。」

 

そう言ってファルは数枚の紙を机の上に置き、二人の方へと寄越してくる。その内の一枚を掴み取ったリサは内容を読み上げた。

 

「えーっと何々?……「迷い猫の捜索」?こんなのもあるのね。もっと血生臭い物しか無いかと思ってた。」

「フィクサーは要するに何でも屋だからね、依頼の種類も豊富だよ。例えばこれとか。」

「「護衛任務」………成る程ねぇ、そう言う仕事は信頼出来る実力がある人が選ばれるって訳ね………………で、さっきから気になってたんだけど。」

 

リサは隣に座るエノクをジト目で見つめる。それに気がついたエノクはこてん、と首をかしげた。その腕には何かが抱えられている。

 

「なんで猫抱えてんのよ。」

「みゃ~お」

「ここに入る前に懐かれたからだけど?」

 

エノクの腕に収まっていた首輪を着けた灰色の猫はゴロゴロと喉を鳴らす。すっかりとお気に入りの場所になっているようだ。エノクがパーカーの袖を少し余らせて振るうと、手にじゃれついて来た。それに満足したエノクは猫をワシャワシャと撫で回す。

 

「よーしよしよし、結構おとなしい子だね。」

「……………。」プクー

 

それを見つめるリサはエノクに撫でられる猫に対して若干羨ましそうな目線を向け、頬を膨らませている。そこにファルが少々驚いた様子で話しかけて来た。

 

「うわぁ、その子丁度君達に出した依頼の子じゃ無いかな?」

「へ?」

「…………あ、ホントだ。」

 

エノクが先程リサが手に取った依頼書を覗き込むと、そこに添付された写真には今抱えている猫が写っていた。首輪の色や形まで一緒である。

 

「じゃあ丁度良かった、一つ目達成ですね。」

「まぁ、うん、そうだね。」

 

そのままニコニコと笑いながら猫を両手で持ち上げて差し出すエノクとその猫を苦笑いで受けとるファル。

 

「それじゃ、これで説明は終わりだよ。あと4件もこの調子でね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言われたものの……何からやったらいいのかしら?」

「期限も長いし、取り敢えず時間がかからなそうな物からやっていこうよ。これとか。」

 

数分後、二人は依頼書を見ながら裏路地を歩く。エノクはリサが持つ依頼書の中から一枚を取り出してリサに見せるように持ち変える。そこには「運搬の人手」と書かれていた。

 

「ん~、ま、いいわ。今日はそれを終わらせて寝る場所をさがしましょう。」

「そうだね………何処か良さそうな場所は無いかな?」

「……というか、一回狩人の夢に行っちゃえば良いんじゃない?。」

「なるほどその手があったか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、二週間ぶり位に狩人の夢に帰ってきた訳なんだけど……。」

「おや、私が居ては何か不都合な事でもあったのかな?」

「…………何故ここにいらっしやるんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリアさん?」

 

狩人の夢へと帰って来た二人は、本来ここにいる筈の無い人物が当然のように居座っていることに驚きが隠せない。その様子を見てクツクツと上品に笑う女性……マリアは口を開いた。

 

「少しばかり特殊な事情でね。私も詳しくは知らないのだけれど、原因はわかっているよ。」

「……十中八九僕らでしょうね。恐らくヤーナムの街全体の夢を僕らの分以外全部覚ましたからでしょう。」

「あぁ、成る程、そういう事だったのか。」

 

マリアは合点が行ったような声を出す。

 

「恐らく君達二人との縁のお陰だろう。元々悪夢の中の存在になっていた私だから早々にこの場所(夢の中)に来れたのだろうな。」

「縁?何よそれ。」

「私を殺したじゃないか、それも何十回もだ。流石にそれほど殺し合いをしていたら深い縁もできるだろう?」

 

そう言って二人に笑いかけるマリア。しかしエノクとリサはそれどころではない。

 

「貴女、記憶があるの!?」

「いいや?朧気な感覚があるだけだよ。君達二人を殺したり、君達に殺されたり。もっとも、ちゃんとした記憶が残っているのは最後だけだが。」

「……僕らの夢に入った事で少しばかり記憶が僕ら寄りになったんでしょう。あの悪夢を繰り返していた頃は、記憶を保持している人は僕ら以外見かけませんでしたし。」

 

エノクの考察を聞いて、マリアはふむ、と考え始めるが、やがて頭をふってエノクとリサに背中を向ける。

 

「まぁいい、もう私は夢の中にしか存在出来ないんだ。難しく考える必要も無いだろう。もう少ししたら他の者達もここを訪れるようになると思うが?」

「あぁ、マリアさんが来れたんなら他の人も来れるわよね……ま、いいか。」

「そうだとも、少なくとも悪事を働こうにもここは君達の領域だ。ある程度来る者の選定はできるだろう?それと一つ尋ねたい事がある。」

「「?」」

 

マリアの言葉に二人揃って首をかしげるエノクとリサ。マリアは先程からこちらに声をかけようか迷ってオロオロしていた"人形"の元へ近づいていった。

 

「この者は何なのだ?ただの人形かと思っていたが、明確な意識があるように見える。それこそ人間のようにな。」

「最初から僕らの旅路を手伝ってくれた人形さんです。」

「人形さん久しぶり、宣言通り会いに来たわ。遅くなってごめんなさい。」

 

リサが話しかけたことで少し安心した様子の"人形"は口を開いた。

 

「狩人様方、良い目覚めは迎えられましたか?」

「えぇ、少なくともあの街よりもまし………とは言えないけど、人間らしく生きる事は出来そうよ。」

「そうですか……それは良かったです。」

 

そう言って"人形"は嬉しそうに笑う。今までの道のりの中で見たことの無い程の表情の変化に、二人は驚きを顔に出す。

 

「貴女、いつの間にそんな表情豊かになったの?」

「私にも正確な事は分かりませんが……恐らく狩人様方がこの夢の主導権を握られた際に、私という存在が独立した影響で人に近くなったのかと思います。」

「そう………なのかしら?」

「僕らも今の状態が詳しく分かっているわけじゃ無いからなぁ……。」

「感動の再開は終わったかな?」

 

いつの間にか"人形"の隣まで近づいていたマリアが顎に手を当てながらまじまじと"人形"を見詰めている。その後、"人形"の顎に手を添えて自分の方へ向ける……所詮「顎クイ」と呼ばれる行動を行った。

 

「人形と二人に呼ばれていたが本当に出来が良い……ふむ、なんだか私に似ているな。」

「?」

「うわっ……顔面偏差値高っ」

「どうしたのリサ?」

 

似たような美女二人が向かい合っている光景を前にして思わずリサの口から感想が溢れる。

 

「人形と言うからには製作者がいるのだろうが……君たち二人ではないよな?」

「ええ、私達が狩人になる前からいたみたいよ。」

「まぁそうだろうな……しかし、そうだとすると考えられるのは………我が師のゲールm「あーそこら辺はシラナイワ―(棒)」「全く持ってワカリマセンネー(棒)」?まぁ気にすることでもないか。」

 

祖父のように慕っていた人物の名誉の為に全力で話を反らすリサとエノクだった。ひとまず納得した様子のマリアは一度"人形"から離れると、再びエノクとリサに向き直る。

 

「それで、ここには彼女とあの奇妙な小人しかいないようだが少しばかり殺風景じゃないか?ここが君達の夢だとするのなら、もう少し具合も変えられるだろうに。」

 

そう言って辺りを見回すマリア。エノクとリサにとっては見慣れた狩人の夢……工房等がある家や墓がぽつんとあるのみで外は雲海と静かな花畑が広がるだけである。しかしエノクは静かに首を横に振ると、口を開く。

 

「…確かに出来ますが、僕らはここが気に入っているんです。」

「ほう?」

「元々の持ち主であるあの人にとって、ここ(狩人の夢)は牢獄のようなものだったと思いますが、あの街を駆け抜けた僕らにとっては唯一安心できた場所なんです。………全てを継いで夢を終わらせた後だとしても。」

「………成る程、余計な心配だったか。」

 

エノクの言葉に軽く笑ったマリアはそのまま踵を返し、家へと向かって行く。

 

「どうせなら、どんなものがあるのか案内してくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィ……

「案内と言っても……大したものなんて無いわよ?」

「構わないさ。」

 

家のドアをゆっくりと開けたリサはそのまま中に入って行き、それに続くようにエノク、マリア、"人形"が入って来た。マリアは仕切りに感心したように周りの棚を見つめている。

 

「中々綺麗に整理されているじゃないか。」

「そう?元々かなり本とかが散乱しててエノクと一緒に軽く整理と掃除はしてたからある程度は整ってるけど、あくまでもそこまでだし。」

「ふむ、確かにあまり間取りを考えて無い家具の配置だな。」

「実際余り景観を考えて無いですからね。」

 

三人の目線の先には祭壇の近くに置かれたソファがあった。

 

「精神的に疲れた時とかよくあそこで横になってたわ。」

「いつの間にかあそこにあったんですよね。」

「不思議な事もあるのだな……いや、夢であるなら今更か。」

「そーそー、気にするだけ無駄よ。」

 

そう言ってリサはソファの近くまで歩いて行くと、ぴょんと跳んでソファに腰かけた。足を揺らすリサは自分の隣をぽんぽんと叩いてエノクを呼ぶ。それに応えるようにエノクがリサの隣に座ると、そのまま二人揃ってソファの背もたれへと寄りかかった。

 

「ふぃ~……安心する。」

「仲が良いんだな。」

「そりゃそうよ、ずっと一緒にいたんだもの。ね、エノク。」

「うん、そうだね………一応人前だよ?」

 

猫のようにエノクにこすりつけて来るリサの頭を優しい手つきで撫でたエノク。その顔は少し困ったような表情だった。それを見ていたマリアは腕を組んでクツクツと愉快そうに、かつ上品に笑っていた。

 

「どうされました?」

「ん?ああ、気にさわったなら申し訳ない。少しばかり意外でね。」

「意外、ですか?」

 

そう聞き返したエノクにマリアは答えた。

 

「私の記憶にあるのはあの場所で戦った君達だけだからね。そうやって互いに甘えたりする姿は少し珍しいと思ったんだよ。後は……安心かな。」

 

マリアは少し悲しそうに笑いながら話を続ける。

 

「あの街で子供が子供らしく生きられる事など出来なかったからね……出来る事ならあの子にはもっと人間らしい生き方をして欲しかったよ。」

「あの子…アデラインさんですか?」

「ああ、こんな私を慕ってくれた可愛い子供だよ。今でも思ってしまうんだ、「もしあの子がまともに生きられたら」ってね………まぁ、もうとっくの昔に手遅れになったんだが。」

「なら覚えて置けば良いじゃない。」

 

エノクに甘えていたリサが会話に入ってくる。マリアはリサが発した言葉に疑問符を浮かべていた。

 

「覚える?」

「ええ、そうよ。死んだ人が完全な死を迎えるのは全ての人間に忘れ去られた時なのよ?彼女をしっかりと覚えているのは貴女だけなんだからくよくよしてないでシャキッとしなさい。」

「しかし私は既に……。」

「死んでるからっていうのは承知の上よ。私達がヤーナムに来た時点で貴女は死んでたわけだし。けど、あの子を愛するのに関係あることじゃ無いのよ。それとも、誰かを愛するのに理由が必要?」

 

リサはそう言いながらエノクの腕に自分の腕を絡ませる。リサの不適な笑みとは対照的に、マリアはぽかんと呆けた顔をしていた。しかし暫くすると意識が戻って来たのか柔らかく笑った。

 

「………………まぁ、そうだな、その通りだ。私が患者達の…子供達の事を覚えてやらなくてはいけないな。」

 

そのままマリアは踵を返して外に歩いていく。

 

「あら、どうしたの?」

「そろそろお暇しようかと思ったからね。ありがとう、来てよかったよ。」

 

そのまま外に出たマリア。二人が立ち上がって窓から外を見ても、その姿はもうどこにも無かった。

 

「あれま、帰った?」

「恐らくまた来ると思うよ。その時は、お茶でもしよう。」

「…それもそうね。」

 

二人はまたソファに座ると、リサは今までずっと傍に立っていた"人形"に声をかける。

 

「ほら、貴女もこっち来なさい。」

「えっと……よろしいのでしょうか?」

「いいからいいから。」

 

一度立ち上がって"人形"の手を引いて再び座ったリサ。"人形"は戸惑いながらも言われた通りにリサの隣に座る。

 

「じゃあ、少し寝ましょうか。」

「そうだね……お休みリサ、人形さん。」

 

そのままエノクとリサは互いに寄りかかって寝てしまった。固く結ばれた手は離れる気配は無い。"人形"は現状に戸惑いながらも胸中が少し暖かいのを感じて心地よさを感じていた。

 

(…狩人様方の眠る姿、もう少し見ておきましょう。)

 

目を閉じて互いに身を寄せ合う二人にどこからか持ってきたブランケットをかけると、そのまま自分も身を寄せて暫く二人を観察したのち、目を閉じて眠り始めた。




前回からエノクに一切手を動かす描写がなかった理由は猫ちゃんを抱えていたからです。
もし依頼が犬とかであれば二人は即座に断ってました。狩人であれば、基本的に動物嫌いになりますからね。エノクは割りと天然なので、恨みのある動物以外は人並みに好きです。但し烏とイッヌは駆除対象になります。リサは動物よりエノク派です。


テレレレッテッテッテー
\人形ちゃんが人間に近づいた!/

本来、狩人の夢に自由に入れるのは主人公だけですが、ブラボのNPC達の遺志が二人の中に残っているためそれをたどって夢に来れるようになってます。そのうち色々な人出しますね。

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