「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

22 / 57
エノクとリサは基本仕事じゃない時は狩装束ではなく、普通の服を愛用してます。まだ低級フィクサーにもなってませんから、あまりにもきっちりとしていると逆に怪しまれますからね。



それでは、どうぞ。


23区

ざわざわと止まない喧騒、常に漂う料理の匂い、大通りを二人揃って歩くエノクとリサは物珍しそうに周りをキョロキョロと見回しながら進んでいた。

 

「賑わってるわね。」

「うん、それに色んな匂いが混ざってすごい事になってるね。」

「……何かお腹空いてきたし、ちょうど良さそうな店あるかしら。」

 

腹の辺りを擦りながら周りの店の看板を見ようとするリサだったが、人混みの中にいるため上手く情報を読み取る事が出来ない。次第に苛つき始めたリサの様子を見て、エノクはリサの手を繋いで歩き始めた。リサの方へ振り返ったエノクはニコッと優しく笑い、話しかけた。

 

「取り敢えず、人混みを抜けよう。それからゆっくりご飯を食べる場所を探そ?」

「…それもそうね。依頼の場所も調べないといけないし。」

 

機嫌が戻って来たリサと共に、エノクは人混みを掻き分けて更に街の中心へと向かって行った。

 

「…………ねぇリサ。」

「分かってるわよ、二人位かしら?」

「恐らくね。」

 

後ろからついて来る存在を警戒しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのガキどもが人の少ない所に入ったら眠らせるぞ。」

「わかってるっての。」

 

ターゲットにに気づかれていると知らずに尾行を続ける二人組。口元を隠し、目立たない格好をしている男達は隠し持っている凶器に手を掛けて、チャンスを今か今かと待っていた。

 

「向こう行くぞ。折角の上物だ、あんまり傷を着けるなよ。」

「ヒヒッ、あんな高く売れそうな商品に傷なんてつけたくてもつけれねぇよ。」

「はっ、違いない。」

 

下卑た笑みをマスクの下で浮かべていた男達だったが、少し時間が経つと片方の男が違和感に気付く。

 

「おい、あのガキどもは?」

「は?んなもんそこに……。」

 

もう一人が相方の言葉に答えながら前を見るとターゲットだった二人が見当たらない。

 

「あ?何処行きやがったッ!」

 

いつの間にか視界から子供が消えて動揺する男だったが、すぐさま探し直し脇道に入ろうとしている二人の後ろ姿を見つける。思ったよりもチャンスが速く来たことに機嫌を治したのか、再び笑みを浮かべて歩く速度を上げる。そして人混みを抜けて子供二人が入って行った脇道にたどり着く。そのまま路地裏へと入ると一気に人の気配が無くなった。

 

「さぁて、あのガキどもはどこかなぁ?」

「さっさと終わらすぞ、早く金が欲しい………だが、あぁ、うまそうだったな。報酬として要求してみようぜ。」

「お、いいなそれ!」

 

そう言いながら男達は懐から凶器を取り出し、握り直す。その顔には明らかな余裕がある。人拐いの報酬を想像し、心が弾んでいるのだろう。どんどんと路地裏の奥へと入り込んで行く。通りの喧騒も聞こえないぐらいには遠くなった所で、男達はターゲットを見つけ、声をかけた。

 

「なぁ!そこの坊主とお嬢ちゃん!こんなとこでなにをやってるんだ?」

「どちら様でしょうか?」

「なぁに、ただの親切なお兄さんだよ。」

「どっちかって言うとおじさんじゃないの?」

「んなっ!?」

「ブフッ!」

 

話しかけた方の男はリサの生意気と取れるような発言に固まり、相方は吹き出している。ちなみにリサは罵倒の意味を込めてないため純粋に思った事を言っているだけである。

 

「こんの……こっちが優しくしてやってるっつうのによぉ!」

「別に頼んで無いんだけど。」

「僕ら行く場所があるので行っていいですか?」

「糞ガキどもがぁ!」

「落ち着け、さっさと仕留めようぜ?」

 

こちらを何とも思っていないような態度をされ、怒りが頂点に登りそうな男だったが、笑っている相方が凶器を構えるのを見て改めて向き直る。

 

「というわけで、大人しく捕まってくれ。」

「はぁ?なんであんた達に従わないといけないのよ。」

「状況が分かってないのか?これを見てみろ。」

 

今だに余裕綽々と言った様子の二人に対し、威嚇するように鈍器で地面を割る男。そのまま凶器を振り上げてエノクとリサの方へ向ける。

 

「今のお前らは哀れな獲物で俺達はそれを追い詰める狩人なんだ。さっさと諦めてくれたら、苦痛は最小限で済むぞ?」

 

エノクとリサはその言葉を聞いた瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ブフッ!」」

 

同時に吹き出した。

 

「アッハハハ!」

「リサ……ダメだよ…人を笑ったら………ククッ。」

「あー…あー……お腹痛い。」

 

突如狂ったかのように笑い始めたエノクとリサに気味悪さを感じ、思わず後ろに下がってしまう男達。怯んでしまったことを恥だと感じたのか、片方の男が食って掛かる。

 

「てめぇら…何がそんなに可笑しい!」

「フフッ………いやはや、何ともふざけた事を抜かす方々だなと思いまして。」

「馬鹿にすんじゃねぇ!」

 

そう言って男は鈍器を振りかざし、二人へと躍りかかった。端から見たら完全に獲物を追い詰めた肉食動物だ。

 

「貴方達が狩人?冗談もほどほどにしときなさいよ。」

 

しかし二人は獲物となる草食動物などではない。

 

私達が狩る側よ(・・・・・・・)。」

 

ドシュッ

 

襲いかかった男の背中から細い腕が突き出る。男が何が起きたか認識する前にその腕はそのまま臓物を引きずり出しながら男の体を引き裂いた。一瞬で男は死ぬ一歩手前の状態まで追い詰められていた。痛みに耐えきれず倒れ伏した男は自分を無表情で見下ろすリサに気が付く。

 

「ヒッ!?く、来るな「死になさい。」」パンッ

 

体を引きずり逃げようとする男だったが、殺そうとしてきた相手にリサが容赦をする筈もなく、そのまま頭を撃ち抜かれて絶命した。そのままリサは腕についた血を振るって落とし、もう一人の男の方へ顔を向ける。

 

「ッ!」

「あら、どうしたの?私達を狩るんじゃ無かったの?」

「クソッタレ!お前みたいな化物相手にやってられるか!」ダッ

「あ、逃げた。」

 

もう片方の男は死んだ相方には目もくれず、踵を返してリサから逃げだした。しかしリサはその場に留まっており、動く気配もない。

 

「まぁ構わないけど、ここ一本道よ?」

 

 

ビリビリ バチッ

 

「?…なんだこの音?」

 

バチッ ビリビリビリビリ

 

「ッ!?近づいて来てやがる!?あいつか!?」

 

男は後ろを伺うも、そこにいるのは退屈そうにあくびをするリサだけ(・・)だった。

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリ

 

「ッ!もう一人はッ!」

「てい。」ガンッ

「うがっ!?」バチッ!

 

突如上から現れたエノクが右手に持った青い雷光を纏うメイス……トニトルスを男の頭に振り下ろす。鉄の質量と電気の衝撃で簡単に男は倒れてしまう。

 

「あっ…がっ「大人しくしててください、聞きたい事がありますから。」……ぎっ。」

 

痺れているものの何とか立ち上がろうとした男だったが、すぐさまエノクが背中を踏みつけ拘束する。雷光のエンチャントが切れてただの鉄塊になったトニトルスを頭に押し当てながらエノクは話し始める。

 

「さて、何から聞きましょうか……そうですね、何故貴方達は僕らを追っていたんですか?」

「………金になるから。」

「成る程、僕らを商品にしようとしていたと。じゃあ次の質問です。」

 

エノクは足に更に力を込め、逃がさないようにする。男から苦悶の声が聞こえて来るが、気にせず続けた。

 

「何の用途ですか?」

「……質問の意図が分からんな。」

「言い方を変えましょう。先程おっしゃっていた「うまそう」というのはどう言った意味なのでしょうか。」

「聞こえてたのか………。」

「最初っから聞こえてましたよ。むしろ、あんなバレバレな尾行でよくこの仕事を続けたられましたね?」

「はっ、うるせぇよ化物が。一応この道のプロだぞ。」

 

皮肉を織り混ぜて話す男だったが、額には汗が流れている。目に焦りが浮かんでいるのもあり、それが冷や汗であることが分かる。

 

「で、質問の解答は?」

「………あんた、余所者か。なら、この場所の事も詳しく知らないだろうな……………答えは簡単だ、食うためだよ。」

「へぇ?」

 

エノクは眉をひそめる。

 

「この23区はほとんどがグルメ通りなんだよ。ここにいる奴らは皆美味い飯を求めてる。料理人もより美味い飯を作ろうとしている。」

「それと僕らに何の関係が?」

「決まってるだろ、人間の子供は美味いからだよ。」

「あぁ……合点が行きました。だから貴方達の持っている武器が包丁なんですね。」

 

一連の出来事の理由がわかったエノクはため息をつきながら右手に持ったトニトルスをしまい、代わりに一つの瓶を虚空から取り出す。そこには青い液体が入っており、エノクは蓋を開けて傾けた。

 

「まぁ、関係無いですね。ありがとうございました。」

 

液体がちょうど男の頭に当たる。するとその直後に男の意識が落ちてしまった。

 

「エノク~、終わった?」

「うん、そろそろ行こっか。」

「ちょ~っと待ってくれない?そこの可愛い子達。」

 

待ちくたびれた様子のリサに応えるエノクだったが、そこに若い女性の声がかかる。こちらに危害を加える意志が無いのがわかっている二人が大通りの方向を向くと、血に濡れた白いコックコートを身につけた白髪の女子と無愛想な表情をした男がいた。こちらをキラキラとした目で見ている女子はずんずんとこちらに近づいて来る。

 

「ねぇねぇ、そこで倒れてる奴って持ってっていい?」

「………別にいらないからいいけど?」

「ホント?やった!新鮮な食材ゲット!ジャック~。運ぶの手伝って~。」

「あぁそうだなピエール。」

「どうせ持ってくならあれも持ってってよ。」

 

いそいそと意識の無い男を袋に詰めていく二人……ジャックとピエールはリサが指を指した方向を見る。そこには先程リサによって内臓をぶちまけられ、絶命した男がいた。

 

「あ~今まで美味しそうな匂いがしてると思ったらそこからの出てたのね。」

「他に殴られた形跡が無い見事な捌き方だな。見習いたい物だ……試作用に持って帰るか。」

「で、あんたらも拐い屋?」

「いえ?私達は料理人よ。まだ駆け出しだけど店だって持ってるのよ!「ピエールのミートパイ」ってね!」

 

リサからの問いに胸を張って答えるピエール。

 

「でも材料こいつらでしょ?」

「?当たり前じゃない、人間は最高の食材よ!」

「ならいいわ、私食人趣味無いし。」

「ちょっと!人間を食べるのを異常みたいに言わないでよ!」

「別に貴女を否定してる訳じゃないわよ。ただ血とかは飲むものじゃなくて打ち込む物だからもったいないだけ。それにねぇ……。」

「それに?」

「私が一番美味しいと感じるのはエノクだけよ!」

「なっ!?」

 

リサがビシッと指を突きつけながら告げた言葉にピエールが衝撃を受けたような顔をする。男子二人は揃って端から見守っているだけなので止まる様子は無い。ピエールは考察するかのように話し始める。

 

「食材に必要なのは調理ではないとでも言うの……!?」

「そうよ!何かを食べる時に必要なのはそこに感情がどれだけこもっているかなのよ!事実私がエノクの血を舐めた時、体に走った衝撃は感じたことの無かった物だったわ!」

「なっ……たった一回舐めただけで!?」

 

そのまま話が盛り上がり始めた女子達をよそに、エノクとジャックは死体の収集をしていた。何とも言えない笑顔でジャックを手伝っているエノクをジャックはニヤニヤしながら見ている。

 

「中々恋人から愛されてるな。」

「まぁ、はい、否定はしません。」

 

 

「エノクの○○○が××××して私に△△△△△しながらの時なんだけどね、それはもう凄かったわ。」

「え!?あの子と貴女が□□□□!?」

 

 

「リ~サ~?」

「ぷっ…ククッ、最近の子供は何とも進んでいるんだな。」

「………後でお仕置きしなくちゃね。」

 

凄みのある笑みを浮かべながらエノクはリサの方向を向いている。ジャックは吹き出しているが次の矛先は彼である。

 

 

「確かにジャックと□□□□してた時に舐めたーーの味は忘れ難い美味さだったけど……。」

「ね?納得できるでしょ。」

「くっ!確かに貴女の言うとおりね!」

 

 

「…………………。」

「今の気分はいかがですか?」ニコォ

「………なんでこんな目に。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい話合いだった……新しい料理方法が沢山湧いて来たわ。」

「ええこちらこそ、有意義な時間だったわ。」

 

がっしりと握手を交わすリサとピエール。それを離れた所で見ているエノクとジャックは死んだ目でその光景を見ていた。

 

「あ、そうそうこの場所知ってる?」

「ん~?どれどれ?………あぁ、ここなら向こうの道を真っ直ぐ進めば着くわよ。」

「そう、ありがと。」

「ジャック~!行くわよ!」

「……………あぁ。」

 

ルンルン気分のピエールの隣でため息をつくジャック。二人が歩いて行く後ろ姿を見送ったリサは肩をポンと叩かれる。

 

「何よエノク?」

「ちょっとお話………いやお仕置きの時間だよ?」

 

そう言うと、エノクはリサを壁に押さえつけ、顔の横に手を叩きつけた。いわゆる壁ドンである。

 

「ちょ、エノク!?」

「僕はね?リサとの営みは他の人にあまり知られたくないんだよ。」

「いいじゃない!別に減るものじゃないんだし!イチャイチャしたという事実を話す相手がいるから共感して欲しいのよ!」

「でもリサも知ってるでしょ?「秘密は甘いもの」だって。僕はね、その時のリサの様子は僕だけのものにしたいんだ。」

 

そう言ってエノクはリサの頬に触れる。その手つきは優しく、とても大事な物を触るようだった。リサはいきなり妖艶な笑みを浮かべたエノクを見て焦りだす。

 

「ちょ、ちょっと待って?」

「ん?これに拒否権なんてあると思うかい?」

「これから気を付け……んむっ!?」

 

そのままエノクはリサの唇を奪う。しばらくの間、舌を絡ませ合う音が二人以外いない路地裏に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、ようやく顔を離したエノクとリサの舌には唾液で出来た糸が垂れていた。余裕そうなエノクとは対象的に、リサは頬を紅潮させ息が荒くなっている。いつもの強気そうな性格は鳴りを潜め、しおらしくなってエノクの次の行動を待っていた。その様子を見たエノクは笑みを深める。

 

「これでまた秘密が増えたね?」

「うん…………。」

「今度はばらさないように気を付けてね?」

「うん…………。」

「それじゃあ、そろそろ行こう。」

 

次の瞬間にはエノクはいつもの優しい笑みを浮かべてリサを解放していた。解放されたリサは「あっ………。」と物欲しそうな声を出すものの、エノクはそのまま歩き始めた。

 

「…………………。」

「あ、そうだ。」

「?」

 

エノクは立ち止まり、リサの方へ振り向く。その顔は先程の妖艶な笑みが浮かんでいる。

 

「次やったら…………しばらくお預けだからね?」

「ッ!!」

「フフッ…………さ、早く行こうか。」

 

いまだに立ち止まったままのリサの手を引いてエノクは歩きだす。行き先の店はまだ見えなかった。




はい、ミートパイのお二人です。時間軸的には図書館に来る10年前位を想定しているのでピエールはまだ未成年ですし、ジャックも同じ位です。まだ「ピエールのミートパイ」を開いたばかりの頃ですね。かなりカップル感の強い感じになってしまいましたが、原作でも相方が死ぬと「自分一人じゃ意味が無い」と言った意味合いの事を言っていたのであながち間違いでも無いのかなと。

二人の関係は基本的にリサが引っ張り回してエノクがそれに優しく笑いながらついて行くような感じですけど、時々現れるエノク様はガン攻めでリサの情緒を破壊していきます。エノク様が表面になるとリサは一切勝てません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。