それはさておき引き続き23区での話です。
プロムンの新作が楽しみです。今までの作品は都市の一部ぐらいしか語られませんでしたが、今度のLimbus Companyでは詳しく語られそうなんですよね。気になります。
それでは、どうぞ。
「ここ?」
「ええ、教えて貰ったのはここだけど……。」
エノクとリサは一つの店の前で立ち止まる。外観は近くに立ち並ぶ他の店と大差ないが、中は結構賑わっているようだった。リサは改めて依頼書を確認する。
「ここの店主が依頼者みたいよ?」
「じゃあ早速入ろうか。」
入り口でたむろする訳にもいかないため、二人はドアを開けて中に入った。ドアに備え付けられたベルが音を立てる。中はシックなカフェといった様子で、殆どの席が埋まっている。店内の様子を伺っていたエノクとリサだったが、一人の老人が近づいて話しかけてきた。
「そこの君達、どうしたんだい?」
「あ、すいません……店長の方はいらっしゃいますか?」
「ふむ、店長は私だが一体何用かな?」
黒いエプロンをつけた老人にリサは依頼書を見せる。
「依頼で来たのよ。」
「あぁ、そうだったか。じゃあ少し裏の方に来て貰えるかい?」
そう言って店主は近くの従業員用の扉の中に入って行く。二人は顔を見合わせた後、その後ろについて行った。
「さて、依頼についてだったか………まぁ私は仲介者でしかないからね。」
「?貴方が依頼したんじゃ無いの?」
「あぁ、君達に用事がある人はここにいるよ。」
店主の後をついて行きながら店の中を歩き、やがて一つの部屋に着いた。
「ここから先は私は関わらないから、後はよろしく頼むよ。」
そう言って店主はその場から離れる。こちらに意識を向けていないため、本当に関わる気が一切無いようだ。
「……まぁ、さっさと入ろうか。」
気を取り直したエノクは目の前の扉へノックする。扉の向こうから「どうぞ」と返事があったため、そのまま部屋の中に入るエノクとリサ。
「おや?お前さんらが依頼を受けたフィクサーかい?なんともまぁちっこい子達だねぇ。」
部屋の中のソファに座っていたのはウルフカットの白髪の女性だった。笑う口からは鮫のようなギザ歯が覗いており、身に纏うエプロンには赤い染みが出来ている。
「折角あの情報屋を介して依頼したって言うのに……ま、取り敢えず座りな。」
少し顔をしかめる女だったが、直ぐ様ワイルドな笑みに変えエノクとリサを座るよう催促する。二人は逆らうこと無く向かい側のソファに座った。
「貴女が依頼者ですか?」
「そうだと言えばそうだね。」
「何でわざわざそんな事を?」
「そりゃ、私がお尋ね者だからだよ。」
ニヤリと笑う女は話し始める。
「自己紹介でもしようじゃないか…………私はグレタだ。この格好で分かるかも知れないが、料理人をしているよ。」
「そうですか、僕はエノクです。」
「リサよ。」
「礼儀正しい奴は嫌いじゃないよ……………さて、お前さんらに頼みたい事なんだが……。」
ギザ歯を見せながら笑う女……グレタは勿体ぶるように言葉を止める。
「なんでしょう?」
「そう急かすんじゃない…そうだな、何か珍しい肉を持って来てはくれないかな。最近スランプ気味でね、このままでは「8人のシェフ」の名折れだよ。」
「「8人のシェフ」?」
「知らないのかい?」
聞き返して来たリサを少しばかり驚いた顔で見るグレタ。
「じゃあ都市の星は?分かるかい?」
「知らないわ。そもそも最近まで外郭に住んでたから都市の常識に疎いのよ。」
「あぁ、道理で平然としている訳か。私は優しいからな、この際だから教えてやるよ。」
グレタはソファに深く座り直すと足をくんで二人を見据える。
「まず都市災害は分かるか?」
「……確か本に書かれてましたね。協会が指定する怪事件のランク付けでしたっけ。」
「あ、そうそう思い出したわ。」
「勉強熱心だね。そのランク付けにも色々あってね、下からあらぬ噂・都市怪談・都市伝説・都市疾病・都市悪夢・都市の星…そして滅多にない不純物、と言った感じだよ。」
両手の指を一本ずつ立てて説明していくグレタは真面目に聞いている二人の様子を見て面白そうに笑っている。
「協会から公式案件として扱われるのは都市伝説からだが……「8人のシェフ」はさっき言った都市の星に属してるんだよ。」
「じゃあ貴女結構な優先殺害対象じゃないの?」
「そうだが?」
「へぇ、そうなんですか。」
グレタの返答に対して単純に納得した様子のエノクとリサ。グレタは特に大きな反応もしない二人を不思議そうな目で見つめる。
「…………なんだ、動揺しないね。お前さん達もフィクサーっていうなら私を捕まえようとはしないのかい?」
「だってまだ正式にフィクサーになったわけじゃないし。仮免よ。」
その言葉にグレタは一瞬目を丸くするが直ぐ様上を向いて耐えきれないように声を出して笑い始めた。
「あっはっはっはっ!それはそうだね確かにそうだ!まだ協会に従う義理はないな!」
「笑う所あるかしら?」
「そりゃ笑うだろう?一般人であれば恐れおののくのが普通な状態なのにお前さん達みたいな子供が大多数が化物と指定してる奴と正面から目を反らさず話し合ってるんだからな!」
愉快そうに笑うグレタはしばらくして目の縁から出た涙を拭い取ると話を続ける。
「いやぁ、笑った笑った。でだ、取り敢えず依頼は受けてくれるかい?」
「珍しい食材でしたっけ。」
「あぁそうさ……別にお前さん達が食材になるっていうのもありなんだが、どうだ?正直、豊潤な血の匂いがして興味がある。」
「遠慮しときますね。」「嫌よ。」
「それは残念、別に腕の一本位いいだろうに。」
「あはは…まぁ気に入って下さりそうな物なら今すぐに用意できますけど。」
「本当かい?ここで見せてもらっても?」
「ええ、いいですよ。」
そう言うとエノクは立ち上がり、虚空に両手を突っ込み何かを引っ張り出そうとし始めた。段々と出てきた物体は黒い羽毛に覆われている。
「よっこいしょっと。」
エノクの掛け声と共に床に音を立てながら落ちる物体。よくよく見ると嘴が見えることからこれが巨大な鳥であることが分かる。
「なんだい、これは?」
「外郭で狩った大烏です。」
「……………外郭産だと?」
直ぐ様グレタはエプロンのポケットからナイフを取り出すとそのまま烏丸の肉に突き立てた。スーっと皮ごと断ち切っている事からその切れ味は想像に難くないだろう。グレタは肉を一欠片切り出すと、そのまま生で口の中に入れる。
「………くくっ、最初は期待しちゃいなかったが、とんでもない当たりを引いたみたいだな。」
「お気に召したかしら?」
「あぁ、依頼は達成ということにしておくよ……欲を言えば、後何匹分か試作用に欲しいんだか、あるかい?しっかりと買い取るよ。」
「群れ一つ分狩ったから大量にあるわよ。」
「そいつはいい!ここの調理場借りて捌くから着いてきてくれるかい?」
「助かったよ、お陰で久々に良い仕事が出来そうだ。」
「お役に立てたなら何よりです。」
ホクホクとした顔をするグレタはがっしりと2人に握手してブンブンと上下に振る。
「なんなら今から振る舞ってやろうか?」
「嫌な予感がするから止めとくわ。この街で要注意人物になっている人に着いていくとか自殺行為だろうし、どうせ私達を食材にするの諦めて無いんでしょ?」
「ははっ、なんだこの短時間で私の事をちゃんと理解しているじゃないか。」
巨大な麻袋を担いだグレタはもう片方の手で依頼書を渡す。
「また外郭の生物を頼むかもしれないからその時は頼むよ。」
「ええ、依頼は他の方を介して行う形ですか?」
「あぁ、そうだね………一つ頼みがあるんだか。」
「なんでしょう?」
「やっぱお前さん達の血を少し分けてくれやしないかい?気になるんだよ味がね。」
「先程も言った通り断ります。」
「これで我慢してちょうだい。」
そう言うとリサは虚空から一つのガラス瓶を取り出す。コルクで栓をしたそれの中には赤黒い液体が入っており、嗅覚が鋭い者ならつんとした鉄の匂いを感じ取れるだろう。
「獣寄せのために使ってる血の酒よ、私は飲んだ事は無いけど。」
「へぇ、どれどれ。」
差し出された酒瓶を受け取り、歯でコルクを開けたグレタはそのまま直接赤黒い酒…匂いたつ血の酒を口に含んだ。
「……成る程、血は熟成させても良いわけか。」
「満足した?」
「あぁ、今回は諦めることにするさ。」
笑いながら堂々と次も狙う宣言をするグレタにため息をつくリサと苦笑いのエノクだった。
グレタさん(人間の姿)です。イメージとしてはワイルドで筋肉質な女性ですね。
この頃から「8人のシェフ」が都市の星なのかは分かりませんがリクエストもありましたし、出せそうなキャラクターは出したいと思ってるので出しました。
よくよく考えたらまだフィクサーにもなってないのにとんでもない縁が出来てるんですよね。自分でも書いててどうしてこうなったと思っております。止めませんが。
ちなみに二人は自由にワープポイントを置けるようになっているので、一度行った場所にはすぐに行けるようになります。目立たない路地裏とかが主な出口ですね。