「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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今回の話の内容は少しbloodborneの考察が入ってます。







それでは、どうぞ。


赤子

裏路地の中でも人通りの多い場所を歩くエノクとリサ。リサの左手には袋が提げられており、右手で袋の中身であろうドーナツが握られている。リサは狐色に揚げられ、砂糖がほどよくまぶされたドーナツにかぶりついた。よく味わっているリサは自然と頬を緩ませる。

 

「はぐっ……むぐ………美味しいわねこれ。あの店で買って正解だったわね。」

「僕にも一つ頂戴。」

「はい、自由に選んで。」

「ありがと。」

 

リサが差し出した袋の中をまさぐるエノク。中から取り出したのはチョコレートでコーティングされた物だ。

 

「はぐっ……………甘いなぁ。」

「当たり前でしょ?」

「そうだけど、あまりこういう物を食べて来れなかったからね。感動というか……何とも言えない気持ちになるんだよ。」

「………確かに、外郭はそもそもだし、ヤーナムでもそんなの無かったし………人形さんが出してくれるクッキー位じゃなかったっけ。」

「今更だけどなんでクッキーとかあったんだろうね。」

 

しみじみとドーナツを頬張る二人は、大通りから反れた小道の方へと足を進める。ドーナツを食べ終えた二人はそのまま歩いて行き、人気のない所に着いた。

 

「使者くん達、出て来ていいよ。」

ワラワラ ワラワラ

「はい差し入れの焼き菓子、仲良く食べてね。」

グッ!!

 

使者から喜びのジェスチャーとサムズアップを返されたエノクは微笑ましげに手に抱えていた荷物(菓子)を渡す。荷物(菓子)を受け取った使者達は地面に潜って行ったが、渦は未だに残っている。

 

「そういえば、次の依頼って何処だっけ?」

「んーと……12区だって。22区の北側。」

「じゃあ電車よりこっちの方が早いかな?」

 

エノクはそう言うとそのまま渦に向かって飛び込んだ。本来であれば地面に当たる筈だが、エノクの体はそのまま渦の中に入って行った。

 

「ま、ここに出口をセットしておいた方が便利ね。」

 

独り言を呟いたリサは周りを見回した後、後を追うように渦の中へ入って行った。そこに残ったのは、常人には見えない渦のみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま人形さん。」

「お土産もあるわよ。」

「お帰りなさい狩人様方、お客様がお見えになっていますよ。」

「「お客様?」」

「俺の事だ。」

 

"人形"の言葉に首をかしげる二人に声がかかる。落ち着いた男の声だ。エノクとリサが声の主を探すと、家へと続く階段に一人の男が座っているのを見つけた。ヨレヨレのコートを羽織い、目には包帯が巻かれている。

 

「漁村ぶりだな。」

「お久しぶりですね、シモンさん。」

「久しぶり……ドーナツいる?」

「………折角だ、頂こう。話したい事もあるしな。」

 

 

 

 

 

 

工房の一角、テーブルの上に置かれた皿には、多種多様な焼き菓子が積まれていた。それぞれ椅子に座りながら"人形"が入れた紅茶を飲む三人はテーブルを挟んで向き合う。

 

「……中々、美味いじゃないか。こんな風に何かを楽しむのはひどく久しい気がするな。」

「うちの人形さんを舐めないでよ。まだヤーナムがあった頃から上手だったんだから。どんどん腕前も上がってたし。」

 

ふふん、と胸を張りながらどや顔をしているリサ。隣に控えている"人形"は少し恥ずかしそうにもじもじしている。その様子を見てクツクツと笑う男……シモンは手に持ったティーカップの中身を飲み干し、そのままカップをソーサーの上に乗せた。

 

カチャ

「………ふぅ。」

「いかがでしたか?異国の焼き菓子は。」

「美味かった………本当に。」

 

一息ついたシモンはエノクからの問いにしみじみと答える。その姿はどこか上の空で、何かを思い出そうとしているようにも見える。

 

「どうしたの?」

「………いや、俺が狩人になる前の事を思い出そうとしたんだがな……もう自分の中に残っているものは殆ど無いんだよ。」

 

少し悲しそうに笑うシモンは視線を上げ、遠い場所を見つめる。空は夜明けの最中のようで、薄暗くも明るい。

 

「結局、残っていたのは狩人の悪夢の事だけだ……………改めて礼を言わせてくれ。」

「?いきなりどうしたの?」

「お前らに遺した言葉の事だ。あの時の記憶は何故かしっかりと残っているからな……子供相手に頼む事じゃないだろうに。」

 

向き直ったシモンの言葉にエノクは納得したような顔をする。

 

「悪夢を終わらせる事ですか。でしたら礼には及びませんよ、僕らの目指した本当の目覚めを迎える為に必要な事だったんですから。」

「それでもだ。お前らのお陰であの悪夢にいた狩人達は解放されたんだ。終わらない悪夢からも………あの英雄様の言っていた導きからもな。」

「買いかぶり過ぎよ。私達は赤子をあるべき場所に還しただけなんだから。」

 

何度も礼を言うシモンに若干戸惑っている様子のエノクとリサだった。

 

「それにしても………ほんと奇妙な場所だったわねあの悪夢の世界。」

「それについては俺に聞かれても詳しくは答えられん。俺も知りたい位だ。」

「………まぁ、あくまでも「狩人の悪夢」っていうのは外側だけの話ですから。」

「ほう?」

 

シモンはエノクの言葉に純粋に疑問を持つ。

 

「どういう事だ?」

「貴方の倒れた後の事ですよ。漁村の先に悪夢の主がいたんです。」

「……漁村の奴らが言っていた「老いた赤子」って奴か?」

「それとは少し違う………いや、どうなんだろう?」

「あの黒い靄の方じゃないの?胎盤ぶんまわして暴れた方よりもでっかいナメクジの腹の上から海を見て佇んでいた奴殺した時の方がなんか夢に変化があった気がするし。」

「あぁ、あっちか。」

「気になる単語が次々と出てくるな。」

 

シモンはいまいち話に着いてこれていない様子で頬を掻いている。エノクとリサも何から話したら良いのか迷っているようだ。

 

「まぁ、あくまでも僕らの考えなんで合ってるかは分かりませんけど………聞きます?」

「あぁ、頼む。」

 

エノクは一度咳払いをすると口を開く。

 

「まず……「狩人の悪夢」というのがどういった場所なのかなんですね。そもそも夢とはなんでしょうか?」

「………生物が見る非現実。」

「ええ、その通りです。ですが僕ら狩人があの悪夢に存在出来た理由はなんでしょうか?」

「わからん。」

「…ヤーナムでは夢と現実が繋げられていたのよ。実際、あの漁村の海を見たら水底にヤーナムの街が見えたんだから。」

「何?……それは単純に映っていた訳じゃないのか?」

「ええ、しっかりとそこにあったんです。というか、僕らがヤーナムを歩いていた時、一回空から変な生物が降って来たんですよ。」

「それがどうした?」

「ここらでは見たこと無い貝殻だなぁって思ってたんですけど……よくよく思い出したら漁村にいたあの貝モドキだったんです。」

「つまるところ…なんだ、漁村から落っこちて来たって言うのか。」

「恐らくは。それに、あの夢の主も多分狩人に縁が深い物でしょうし。」

 

一度言葉を切り、紅茶を飲み干して喉を潤したエノクは顎に手を当てて考えながら話を続ける。

 

「シモンさん、もうわかってるんじゃ無いですか?漁村の小屋で息絶えた時、僕らに話してたでしょう。」

「……………あぁ、言われて思い出した。医療教会の事だろう?」

「ええ、あの場所の主は恐らく漁村の住人が言っていた赤子です。そして医療教会は地下の遺跡から聖遺物を持ち帰り、それを元に血の医療を完成させました。」

「ねぇ知ってる?その地下の遺跡には漁村で捨てられていた鯨の骨があったのよ?」

「……はぁ…全く、本当に医療教会はやらかしてくれたな。何が聖遺物だ。神の赤子を素材にして(・・・・・・・・・・)作り上げた医療なんぞろくなものでもないだろうに。」

「あの街では「遺跡の発掘作業の果てに見つけた」なんて美談にされてましたけど、やった事は神の墓暴きですからね。その結果があのヤーナムですよ。」

「ま、医療教会の原型だったビルゲンワース……というかローレンスの一派がそんな事知るわけ無いんだけど。」

 

同じタイミングでため息をつく三人。人形はいそいそと新しく紅茶を注いでいる。

 

「結局の所、あの夢はあの赤子が見続けた夢だったのよ。生まれる事無く、輸血液の素材にされたけどね。だからこそ輸血液を使って赤子の一部を体内に入れた狩人は赤子の夢でもある狩人の悪夢に存在できたのよ。」

「ふむ……成る程。」

「一応、ちゃんと最後に赤子の魂を現実を引っ張って正しく生まれ(目覚め)させてから介錯したので、もう悪夢は起こりませんよ。」

 

 

 

 

 

 

「………一つ気になったんだが、なぜ君達がそこまで知っている?まともに残っている資料など無かっただろうに。」

「何百回も繰り返せば、自然と分かるようになりますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方はこれからどうされるんですか?」

「………さぁな、適当にさ迷ってるだけだ。やることも、やれることも無いからな。」

「だったら一度、ヤーナムを見て回ってはいかがですか?夢に囚われていたものは全て解放してしまったので、残っているのは建物位でしょうけど、幽霊みたいな形で歩き回れると思いますよ。」

「…………検討しておこう。」

 

その言葉と共にシモンは立ち上がる。

 

「邪魔をしたな。」

「あら、もう帰るの?」

「あぁ、久しぶりに人間らしい事が出来て満足だ。」

 

そう告げたシモンは家を出で行こうとする。

 

「そう、また会いましょ。」

「今度は別のお菓子も用意しておきますね。」

「………………………あぁ、また来る。」

 

リサとエノクから投げ掛けられた言葉に驚いたのか暫く止まっていたシモンは、軽く笑って再開の口約束をする。

 

 

そのままシモンは狩人の夢を去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不思議な物だね、こうやってあの人達と落ち着いて言葉を交わせるなんて。」

「次は誰が来るのかしら。」

 

そう言ってリサは残り一つのマドレーヌを頬張る。じゃんけんに負けてマドレーヌを譲ったエノクは最後となった依頼書を見ていた。

 

「……あれ?これ……。」

 

暫く依頼書を眺めていたエノクは何か違和感に気が付いたようだっだ。片割れの様子を不思議に思ったリサはエノクに尋ねる。

 

「どうかしたの?」

「いや、今まで12区って所だけ見てたけど………これ集合場所はまさに巣の中みたいだよ。」

「巣の住人が依頼?」

「うん、12区の巣の中にある施設……図書館だって。」

 

リサはエノクが持っている依頼書を横から覗き込む。上から流し読んでいたリサはふと、依頼者名を書くところで目を止める。

 

「ええっと、依頼者はっと…………「C」?」




Bloodborneはネタが多い上に複雑怪奇すぎて本筋がどれか忘れそうになりますね。

個人的には、大昔漁村だった場所が地下遺跡になったと思ってます。

"元々はゴースを奉っていた村で、それに応じたゴースも次元を越えて住み込んでいたけど、赤子(後継ぎ)を産む前にゴースが死んでしまったため赤子の魂はゴースの中で夢を見て、肉体は老いてしまった。そして加護を受けていた村民達はその加護が転じてしまい化け物と化してしまった。そうしてそのうち滅び、遺跡となった所で未だに残っていたゴースの遺体からまだ生きていた赤子がローレンス達に持って行かれて素材になったが、赤子の夢だけは残ったままだった。"

みたいな感じですかね。色んな所の記事を漁って考えた物なので拙いかも知れませんが、どのみち救いようがないのは確かですね。獣を狩る教会の狩人達はその血を受け入れた時点で遅かれ早かれ獣になることは確定してたんですから。

あと、ゴースの遺児と悪夢の主がいた砂浜からヤーナムが見えたのは、元々ゴースがいた場所が現実(ヤーナム)から観測出来ないが、こちらから見ることと干渉することが出来る場所だからだと思います。黒い靄を倒した後のナレーションにあった「海に還る」というのも、悪夢の主の力が海(現実)にあるヤーナムに降り注ぐ(干渉する)ということでしょうし。
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