それでは、どうぞ
「夢………成る程、その角度から進めるのもありか。」
「そうなの。あの子達がヒントをくれたのよ。」
そう言ってカルメンがエノクとリサを指差す。二人は丁度試験管の箱詰めが終わった所だったのか、段ボールをテープで留めている作業をしており、話題がこっちに来たのを察して振り返った。
「何か用?」
「何でもないわ。」
「そう……あ、これはどこに持ってけばいい?」
「その試験管は~…あっちに纏めて置いといて貰える?」
「分かったわ……っと。」
リサは一息で自分の半分はある高さの段ボールを持ち上げる。中身がガラスで詰まっているため、その重さは相当な筈だが、リサは何でも無いような顔で運んでいる。
「よいしょと。」ヒョイッ
後ろでは何やら重そうな機械を片手で持ち上げるエノクがいた。明らかに鉄の箱なのだが、ふらつく所か余裕でスタスタと歩いている。その光景をアインは訝しげに見ていた。
「……………身体強化手術でも受けたのか?」
「んー、その可能性は………いやでもあり得るかも。」
アインの言葉に頭を悩ませるカルメン。そこに一通りの仕事を終えたエノクとリサがとてとてと歩いて来た。
「頼まれたことは大体終わりましたよ。」
「ありがとね………ねぇちょっと聞きたい事があるんだけど、良いかしら。」
「?えぇ、構いませんよ。」
「そう、じゃあ率直に聞くけど貴女達って何処かで手術とか受けたことある?」
「いきなり何よ。」
カルメンは質問に対してジト目になるリサに、慌てて補足を付け足す。
「あ、ごめんなさい。単純に何処にそんな力があるのか気になったの。」
「……………見たところ、変な体つきをしてるわけでもなさそうだからな、どういった仕組みがあるのか。」
「そう言うこと………んー、手術って言われてもねぇ。」
「一回だけならありますよ。」
思い出そうと頭を捻るリサの隣でエノクが答える。
「え、なんだったっけ。」
「ほら、一番最初に輸血されたじゃないか。一応僕らが狩人になったのあれが原因だし。」
「あ~………確かにそうね。」
「輸血?刺青じゃなくて?」
「何故そこで刺青が出てくるのかしりませんが、先程話した血の医療みたいなものですよ。」
「………………翼については知ってるか。」
おもむろにアインが問いかける。質問の意図がよく分からない二人は首をかしげるが、自己流に解釈して返事をする。
「特殊な技術の特許を持つ会社だと言うことは知ってますが、もしや刺青と何か関係が?」
「…………元々翼の技術で特許があったが頭に潰されてそれが無くなった。今では自由に使われている身体強化技術だ。他にも義体があるが…………正直輸血で行う身体強化など聞いたことが無い。」
「そりゃそうよ。この都市とは全く違う場所で開発されたんだし、なんだったらその技術を知ってるのも今では私達だけなんだから。」
「何?」
「別に驚くことでもないでしょ。私達は暇潰しの為に残った資料を漁ってたから知ってるけど、その医療が流行ってた所はもう無い所か滅んでるし。」
「…………そうか。」
「あ、言っとくけど資料は渡さないからね。」
「……………~~♪。」
リサから指を指されながら言われたカルメンはそっぽを向いて口笛を吹き始めた。どうやら図星だったらしい。
「ま、そう言うことよ。納得した?」
「………何もしてないと言われるよりも現実的だからな。」
「さぁて、ここの片付けも終わったし、次は私の家に来て貰える?」
「どこにあるの?」
「近くの住宅街だけど、まぁ見ればわかるわ。あ、アインも引っ越しの準備しといてね。」
「……………ああ。」
「ここが私の住んでるマンションよ。」
「ふーん、中々良いとこ住んでるじゃない。」
「そう?」
「外郭住みだった僕らからしたら巣のなかは何処も良いところに当てはまりますからね。」
「あっ…うん。」
時々挟まれる外郭ジョークをあまり笑うことが出来ないカルメンだったが、2人はそんなこと気にせずスタスタと歩く。カルメンもそれに慌てて着いていった。
「…………………うわぁ。」
「…………………その、なんというか、趣がありますね。」
ゴッチャァ
「あー…………うん、実を言うと私家事が苦手なんだよね。」
「見ればわかるわよ。何をどうしたら廃墟になってた医療室より汚くなるのよ……………。」
「あはは………耳が痛いなぁ。」
カルメンが住んでいる部屋に案内された2人は目の前の光景に思わず言葉を漏らす。様々な物が所狭しと並んでおり、ほぼほぼ部屋が埋まっていた。よく見ると、何かの研究資料も見受けられる。
「ゴミが無いだけましだと思えばいいよ………これが全部ゴミだった場合は虫との格闘になりそうだったからね。」
「私基本的に片付けとか整理整頓とかつい後回しにしちゃうから………気づけばこんなことに。」
「こんなに資料いる?」
「正直研究データのメモリにもうバックアップ取ってるからいらない……。」
「目を反らすな。」
ため息をつきながら先頭を歩くリサは足元に落ちている紙を一枚拾い上げる。
「というか、自分の部屋がこの有り様でなんであの研究室は片付いてたのよ。」
「その~……アインが来るまではここと似たような感じだったんだけど、「整理した方が作業しやすい」って言ってパパッとやってくれて………。」
「あの人中々器用ですね。」
「結構な超人だから……まぁ致命的な弱点があるけど。」
「弱点?」
「うん………………
とんでもなく非力で私に力負けするの。」
「へぇ、まぁヒョロヒョロだったものね。」
「リサ、アインさんに失礼だよ。」
割と失礼な会話をしながらリビングに差し掛かる一行。エノクはふと横を見ると、視界に入ったものを告げる。
「キッチンは大分整理されてるんですね。」
「ホント、ここまで出来るなら部屋の掃除もすれば良いのに。」
「だってそもそも使って無いから。」
「「…………はい?」」
「さっきも言ったけど……私家事が苦手なの。」
「それがどうし……………あんた料理も出来ないの?」
「基本は外食で済ませてます……………あとアインの手料理………。」
「もうあの男と結婚しなさいよ。めちゃくちゃ世話になってるじゃない。」
「…………ッ!」
呆れたようなリサの言葉にカルメンは何かが降りてきたような顔をする。
「そうか、その手が…………。」
「………これ私余計な事言った感じ?」
「もしもの場合はアインさんに謝る準備しとこうね。」
その場でぶつぶつと何かを呟き始めたカルメンから目を反らし、2人は散らばった資料を片付け始めた。
数十分後、散らばっていた紙束は見事に纏められ、何箱かの段ボールに詰められていた。申し訳程度に備え付けられていた家具や寝具も、綺麗に整備されている。途中で戻って来たカルメンは額に流れる汗を腕で拭いながら笑う。
「あー………久々にこんな綺麗な部屋見たわ。」
「貴女の所持品これで全部?」
そう言ってリサはとある方向を指差す。そこには資料の詰まった段ボールとは別の箱が4つほど積まれていた。横にはスーツケースもある。
「うん、私の荷物はそんだけ。家具とかは元々備え付けだから、あるのは服とかだけよ。」
「そう、じゃあ運ぶわね。」
「?そこは宅急便でたの……。」
「そぉい。」
カルメンが何かを言う前に、リサは段ボールを軽く持ち上げて虚空の中に放り込んだ。
「エノク~手伝って~。」
「うん。」
「………ちょっと待って?」
静止の声がかかるも、構わず遠慮なく虚空へと放り投げる2人。最終的にスーツケースを除いて、持っていく荷物が片付いてしまった。
「あとはこの箱達を捨てるだけですね。」ヒョイッ
「下に確かゴミ捨て場があったからさっさと運んじゃいましょ。」ヒョイッ
そのままエノクとリサはは軽い調子で紙がぎゅうぎゅうに詰まった段ボールを纏めた持ち上げると、てくてくと外に出ていった。ほぼ空っぽになった部屋の中で呆然と立っているカルメンは一つ呟く。
「………………もう気にしないでいいや。」
何故かは知りませんが。カルメンは生活能力が糞雑魚になりました。ゴミは放置しませんが整理整頓をしないタイプなので、汚いというよりも散らかってると言った方が正しいですね。代わりにアインは家事も完璧にこなせるハイスペックコミュ障になりました
個人的なイメージなんですけど、カルメンとアインって頭が良いって所以外は正反対だと思うんですよ。性格しかり、コミュ力しかり。
アインの身体能力がゴミの理由?趣味です。