「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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お待たせしました、今回から暫く、二人は任務中心で動いて行きます。まぁ





それでは、どうぞ。


初任務

「ほら、依頼終わらせたわよ。」

「書類はこちらです。ご確認ください。」

 

カルメン達と別れた後、2人は狩人の夢を経由して一番最初に訪れた22区のハナ協会支部を訪れていた。書類を差し出して来るエノクにファルは目を見開いている

 

「随分と早かったね……普通なら移動とかにもう少しかかって1ヶ月は必要になるだろうに。」

「色々とあるのよ、方法が。で、免許は発行して貰えるの?」

「うん、少し待ってて欲しいかな、今準備してくるから。」

「分かりました。」

 

 

 

 

 

「はい、これがフィクサー免許。身分証明書みたいな物だから無くさないようにね。」

「ええどうも。」

 

そう言ってファルは手に持った2枚のカードをそれぞれに渡す。エノクがそれを見ると、自分の名前と「9級」といった文字が書かれていた。

 

「結構単純なんですね。」

「この都市で個人情報丸々書いた物なんて持ってても無駄でしょ。」

「まぁ、そう言うことだよ。その免許証はハナ協会からしか発行出来ないようになっているから、自ずと身分証の役割になるんだ。」

 

ファルは苦笑いしながら話を変える。

 

「とまぁ、早速依頼があるんだけど……いいかな?」

「もう依頼?」

「最近ここら辺は人手不足でね、処理できない案件が溜まってるんだ。」

 

ファルはため息をつく。その様子から随分と疲れが溜まっていることが分かる。

 

「ハナ協会以外の組織が活発に動き出してね、それに伴って抗争が起きたりそれに巻き込まれたフィクサーが死んだり、人材か引き抜かれたり………休む暇が欲しいよ。只でさえ、シ協会の内部調査もあるって言うのに……。」

「管理職も大変ね。」

「………まぁ君たちに愚痴を言っても仕方がないね。それじゃあ頼んだよ。くれぐれも、組織に喧嘩を売らないように気をつけて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さて、次の仕事はっと。」

「随分と疲れてそうだね、ファル。」

「…………いたのなら声をかけてくださいよ。」

「おや、気づいていなかったのかな。なら鍛え直さなくちゃねぇ。」

「勘弁して下さい……。」

 

エノク達を見送り、一息ついたファルの元に一人の女性が現れる。紫色のコートを纏い、何本もの剣を携えたその女性を見たファルは少し嫌そうな顔をしかけるも、その感情を内側に押し留める。

 

「それで、何か御用ですかイオリさん?」

「ここの支部長に頼まれてた仕事を届けに来ただけ。ついでに知り合いを見つけたからからかいに来た。」

「冷やかしなら早急に用事を終わらせて帰って下さい。」

「冗談が通じないねぇ。」

 

両手を上げて降参の意を示す女性……イオリはクツクツと笑い、そのまま話題を変える。

 

「………所で、さっきあんたが相手していた子供は?」

「あぁ、エノクくんとリサちゃんですか。ついさっきフィクサーになったばかりの新人ですよ。子供にしては実力も含めて可笑しい部分がありますけど、結構真面目そうですよ。」

「ふぅん………ま、どうせ今は関係ないさね。それより、頼まれてた案件…「人差し指」の調査報告持ってきたから支部長の所まで通してくれるかい?」

「えぇ、分かってますよ、イオリさん。」

「他人行儀は止めな。」

「……………分かりましたよ師匠。」

 

 

 

 

 

 

「何渡されたの?」

「失せ人探しの手伝い。」

「…行方不明なんてよくある事じゃないの?」

「ヤーナムだとごく普通に闊歩してたし、都市でもこの間人拐いに会ったばかりだもんね。まぁこの依頼の捜索する相手結構多いみたいだから、何かトラブルでもあったんじゃないかな。」

「何処かで死んでなきゃ楽なんだけど。」

「一番面倒なのは組織ぐるみの抗争に巻き込まれる事だけどね。」

 

ため息をつくリサと困ったような笑みを浮かべるエノクはてくてくと裏路地を歩いて行く。その足は駅の方へ向いていた。

 

「行き先は?」

「21区だね。こないだ行った23区よりかは安全みたいだよ。」

「ふーん、なんで?」

「依頼主が治安維持組織だからだよ。ハナ協会とは違う、ツヴァイ協会って所。まぁ重要度が低いから僕らみたいな新人に依頼が来るんだろうけど……あと、別の事務所と合同みたいだよ」

 

その言葉を聞いて、リサはあからさまに顔をしかめる。

 

「よりにもよって合同……他の人との連携なんてエノク位としか出来ないのに……。面倒なの回って来たわね、迷い猫の捜索とかの方がまだましよ。」

「まぁね、ファルさん僕らの実力を理解してる節があるしこういった依頼を回してくれるんじゃ無いかな。」

「……あぁもううだうだ言ってても仕方ないわ。行ってから考えましょ。」

「うん、そうだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合同任務……ですか?」

「あぁ、ツヴァイ協会から回って来てな。最近この事務所の近くの区画で行方不明者が多くなってるとの事だ。それで、その調査にウチからお前ら三人を出すことにした。」

「はぁ……。」

 

今一ピンと来てないような声を出す青年は目の前で腕を組む男から呆れたような声色で話しかけられる。

 

「お前もフィクサーになって3年位だろう、そろそろ任務に慣れろ。確かにここら辺の治安は他の区と比べて安全なのだろうがそれでも平和ではないんだ。お前が誰かを殺す時だって来るだろう。」

「それは…そうですが。」

「この任務だって、完璧にこなせば評価が上がるかもしれん。上手くやれ、サン。」

「……………分かりました。」

 

少しぼんやりとした様子の青年……サンはそのまま所長の部屋を出て、受け取った依頼書を眺め思い悩みながら事務所にある休憩スペースのソファに腰かける。

 

「………行方不明者……任務……合同。」

 

一通り資料目を通したサンはため息をつく。

 

「荷が重いなぁ。」

「何の話よ。」

「もし良かったら聞かせてくれない?」

「え?あ、イサドラ、ジュリア。」

 

声をかけられたサンが振り返ると、ムスッとした顔をしたツインテールの少女……イサドラとフワッと笑う癖のある白い長髪の少女……ジュリアが立っていた。

 

「まーた怒られたの?いい加減仕事に慣れなさいよ。ビビりなのは昔っから変わらないわね。」

「あはは……。」

 

呆れたような言葉を発するイサドラに苦笑いを返すサン。すると、そのやり取りを暖かく見守っていたジュリアがサンの持っていた依頼書に気がつく。

 

「あら?それって……。」

「あ、あぁ、これの事?ついさっき所長に渡されてね…君達と一緒に依頼をこなして来いって言われたんだ。」

「私達も?」

 

突如指名が入った事に驚き、目を丸くするイサドラ。訪ねられたサンはうなずきながら続きを話す。

 

「うん、どうやら最近行方不明者が多くなってるみたいで……その調査を他の所のフィクサーと協力してやるみたいなんだ。」

「そういえばそんな噂があるとは聞いてたけど、まさか依頼になるとは思って無かったわねぇ。」

「……報酬はどれぐらい入るの?」

「ちょっと待って、そこは確認してなかったから…………えっ?」

「何?どうしたの」

 

いきなり固まったサンを怪訝に思いながらイサドラとジュリアはサンの横から依頼書を覗き込む。

 

「ん?合同任務?」

「あら、私達だけじゃなかったのね。」

「アンタ、もうちょっとちゃんと情報寄越しなさいよ。」

「……。」

 

イサドラが文句を言うも、サンは固まったままである。そろそろどついてやろうかとイサドラが腕を構えた所でジュリアから声がかかった。

 

「………ねぇイサドラちゃん、ここ見て。」

「?」

 

ひどく驚いた様子のジュリアにそう言われ、イサドラは依頼書の一番下を見る。

 

「…………うっそ!?私達の給料2ヶ月分より多い!?」

「そりゃあサンくんも固まるわね…。」

「………………はっ!?」

 

飛んでいた意識が戻って来たサンは呆然としながら先程所長と交わした会話を思い出す。

 

「確か……この依頼を完遂したら評価が上がる可能性があるって言ってたような………。」

「重要な事言い忘れてるんじゃ無いわよ!」

「あいたっ!?」

 

後から追加された情報の内容を理解したイサドラはサンの頭をひっぱたいた。叩かれたサンは謝りながら頭を擦っている。どうやらそれなりに痛かったらしい。

 

「それで、期限はいつからなのかしら?」

「ええっと……本格的に動くのは明日からで、今日は合同で動く事になる他のフィクサーと顔合わせしておいた方が良い………のかな?」

「私に聞かないでよ。だいたいアンタはねぇ……。」

「まぁまぁ……って、あら?」

 

未だに戸惑いが残るサンとその態度に苛ついているイサドラをジュリアが落ち着かせようとした時、不意にドアからノックが聞こえて来た。説教のように問い詰めるイサドラとそれに対して申し訳なさそうに笑いながら話を聞いているサンは気付いていないようで、仕方なくジュリアが対応しようとドアに近づいていく。

 

「はいはーい、今開けますね~。」

 

そう言ってジュリアは笑いながらドアを開ける。客の姿と見ようと目を開くが、目の前には誰もいない。不思議に思ったジュリアが周りを見渡そうとした時、ふと視界の下の端に誰かの頭が映った。そして前を向いて見下ろした所で、こちらを見上げるエノクとリサと目があった。

 

「……あら、君達、どうしたの?」

「すいません、ここが街灯事務所で合ってますか?」

「そうよ~、それで何かご用事かしら?誰かのお使い?」

 

ジュリアは少し高級そうなコートを纏う幼そうな子供に違和感を感じながらも、かがみながら優しい笑みを浮かべ、対応する。どうやら事務所に所属してる誰かの親族だと思っているようだ。しかし、そんなことを全く知らないリサは首を振って否定する。

 

「違うわ、依頼で来たフィクサーよ。」

「あら、そうなの?」

「はい、ここのフィクサーの方と合同で任務を行うと聞いてるので、」

「へぇ~、最近では幼い子でもフィクサーになれるのね。あ、入って入って。とりあえず座って話をしましょ?」

 

ポヤポヤとした空気を纏ったジュリアは、事実をそのまま受け止めて2人を事務所の中へ招いたのだった。




ファルさんの性格はSCP財団職員のグラス博士みたいな人だと思って下さい。つまるところ、その世界観に人格が合っていないと言える位優しい一般人(?)のような物です。

原作の中でもかなり善人寄りのサンと韓国版ツンデレのイサドラ、おっとり系お姉さんのジュリアの若手時代です。三人共、7、8級フィクサーなので、原作程の強さもありません。この状態だとヤーナムに放り込んでも数時間も持ちませんね。

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