「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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明けましておめでとうございます(遅)

今後とも更新はチマチマと続けて行くので、どうぞよろしくお願いいたします。





それでは、どうぞ。


人差し指

「じゃあまず一つ目から………貴方はこの惨状に関係ありますか?」

 

威圧を含めた自己紹介を終えたエノクは一度肩を掴んでいた手を放し、薄く目を開いて微笑みかけながら質問し始めた。

 

「……僕は、関係無い。巻き込まれそうになっただけ…………。」

「そうですか、では次です。何故ここに居るんですか?」

「何故って………。」

 

息を詰まらせながら答えるヤン。その表情は焦りと畏怖に染まっている。しかしエノクはそれを気にすること無く更に畳み掛ける。

 

「だって貴方、僕らがあの人達を弔っていた時に逃げれたでしょう?犯人では無いのならここに留まる理由なんて無い筈ですが。」

「っ!……それは。」

 

エノクの質問にヤンは目を泳がせ、手を握り締める。すると背後から近づいていたリサがその手からはみ出していた物を掠め取った。

 

ヒョイッ

「あ…………。」

 

隙を突かれたヤンはか細い声を出すが、それをよそにリサは掠め取った物を観察する。

 

「……ふーん?何か書かれてるわね。」

「か、返して……。」

「何々………『明日の13時、現在地の隣の区画の路地裏で待機しろ』?」

 

リサが奪い取ったのは細い紙のような何かだった。一瞬怪訝な顔をするリサは内容を読むと、そのままヒラヒラと紙を揺らしながらヤンへと問いかける。

 

「で、何よこれ。」

「そ、それは……。」

「あんたがここに居るのに関係してるんでしょ?今13時過ぎ位だもの、この内容と同じ事してるじゃない。」

「………………………。」

「「…………………。」」

 

黙り込んだヤンをエノクはにっこりと笑って、リサはジト目で見つめ続ける。やがて観念したのか、ヤンは口を開いた。

 

「…………指令なんだ。」

「「指令?」」

 

絞り出すように出された言葉に二人は揃って首を傾げる。ヤンは自分を抱き締めるような姿勢になった後、顔を反らしながらぼそぼそと話を続ける。

 

「僕に出された"人差し指"の指令………その指令がこれなんだ。」

「人差し指……確かファルさんが溢した愚痴でそんな名前が出てたような………。」

「んで、その指令とやらに律儀に従ってるのは何で?」

「………それが、保護を受ける条件だし、指令は僕らを導いてくれるから。」

「……………あっそ。」

「成る程………ん?」

 

エノクが顎に手を当て考え始めた所で何かを察知したように振り返る。興味を無くしていたリサも気づいたのか、凪いだ表情でそちらを見る。ヤンは二人して突如動き出した事に驚いたのか、一瞬体をビクッと震わせた。

 

「ど、とうしたの………?」

「誰か来たみたいね。」

「でもおかしいな、あの人達の報告で調査に来るには早すぎるし、なにより人数が一人だ。」

 

少しばかり警戒度を上げる二人。何がなんだかよく分かっていないヤンだったが、やがて一人分の革靴で歩くような足音が耳に入って来た。段々と近づいているその足音の主は、路地裏の影から姿を現した。

 

「………ヤン・ヴィスモクだな?」

 

そこにいたのはスーツの上に白いローブを羽織った女だった。女はヤンの存在を確認するとスタスタと歩み寄って行く。そしてエノクとリサに目もくれず、ヤンの前に立つと右手を差し出した。その手には先程リサが掠め取った紙擬きと同じ物が握られていた。

 

「新しい指令だ。」

「あ、はい……『血を拭き取れ』?」

 

渡された指令を読んだヤンは、ちらりと隣の惨状を見て顔を青ざめさせる。

 

「まさか………。」

「ふーん?」

「成る程成る程。」

「うわっ!?」

 

いつの間にか隣から覗き込んでいたエノクとリサにびびって声を上げるヤン。それを気にすることなく二人は目の前にいる女に話しかける。

 

「ねぇ、少し聞きたいんだけど。」

「……………なんだ貴様ら。」

「あ、只の通りすがりの一般狩人なのでお気になさらず。それで、この言葉ってどういう風に解釈すれば良いんですかね?」

「え、えっとどういう?」

 

戸惑いを隠せない様子のヤンは自分の右隣にいるエノクに問いかける。

 

「貴方がこれから行う仕事についてですよ。この指令とか言うのかなり大雑把なんで内容は解釈次第なんじゃないですか?」

「え?いやでも指令は………。」

「じゃあ貴方、今からこの惨状どうにか出来るの?」

「うぐっ………。」

 

反論しようとするも、言葉が出てこないヤン。先程想像して青ざめたばっかりなのだから当然である。

 

「だけど、指令は絶対だから………。」

「そこを何とかする努力をするんですよ………では改めて質問です。」

 

エノクは再び女の方に向き直る。

 

「この指令?に示されてる血についてなんですけど、指定はあります?」

「………さてな、私はこの指令を渡しに来ただけだ。そこまでは知らん。」

「そうですか。」

「知りたいのなら代行者に聞け……………あと、部外者は黙っていろ。」

「おや、こわいこわい。」

「ふん…。」

 

そう言って女は踵を返して何処かへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

女が去った後、その場で呆然と突っ立っていたヤンにエノクが話しかける。

 

「さて、取り敢えずは答えを貰いました。後は貴方どうするかですよ?」

「え?」

「全部やらなくて良いんですよ。」

「え?え?なんで………。」

「?だってその指令にも、あの人の会話の中にも、この惨状を明確に指し示す言葉なんて一個も無いじゃないですか。それに…………ほら。」

 

エノクは戸惑いを隠せないヤンの側にしゃがみこむと、そのズボンの裾を摘まむ。そこを見ると、血がべっとりと付いており、靴も血によって赤色に染まっている。

 

「恐らく、この惨状の余波を受けたんでしょう。これも立派な血ですよ?ましてやこっちの血を拭き取れなんて………無茶ぶりにも程があるでしょう?まだ『死体をぐちゃぐちゃにしろ』の方が楽ですよ。」

「…………でも、もし違ったら……殺される……。」

「ぶっちゃけなるようになれですよ。あんな風に生きたまま苦痛を伴って人形にされるより代行者とやらに一撃で仕留めてもらう方がよっぽど良心的でしょう?」

 

こてんと首をかしげながら少し自分より背の高いヤンを見上げる。笑みを浮かべてはいるがその目にはどす黒い闇が垣間見える。息を飲むヤンとそれをニコニコと見つめるエノク、ついでにそろそろヤンに嫉妬心を抱き始めて来て不機嫌になっているリサだったが、不意にエノクが纏っていた不穏なオーラが霧散する。

 

「まぁ、貴方の人生に口出しする気はありませんよ。今のはあくまでも僕の感想ですからね。」

「そう……なんだ……。」

「はい、そうですとも。それと、ここから逃げるならそろそろですよ?複数の足跡が近づいて来ているので、もしかしたら捕まってしまうかもですね。」

 

クスクスと口に手を当てて笑うエノクの言葉にハッとするヤン。その後、急いでその場を離れようとするヤンはふと足を止めて振り返る。

 

「………色々とありがとう。」

「いえいえ、大したことはしてませんよ。あとついでにアドバイスです。」

「アドバイス?」

「といっても単純なことですよ。自分の意思を忘れないで下さい。誰かに流されるようになった人間は、獣以下ですからね?」

「……うん、わかった。」

「ではこれを持って早く行ってください。僕は弁護出来ませんので。」ポイッ

「へ?あわわっ!?」

 

ヤンはエノクが投げ渡して来た物を慌てて両手で受け止める。しっかりと握り締めた物は布に包まれた2つの何か、片方は古びた包帯、もう片方は血塗られた黒い布だった。

 

「これは………。」

「選別のナイフです。黒い方は毒が仕込んであるので、いざという時に使って下さい。」

 

少しの間、戸惑いながら手に持ったナイフ二本を見つめるヤンだったが、やがて胸に抱え持つとそのまま一度礼をして走り去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよし、と。」

「………良かったの?」

 

エノクが満足したような表情をしていると、リサが隣で腕を組みながら問いかける。

 

「あのナイフ、結構思い入れがあるでしょ?誰であろうとある程度ダメージが通るようにエノクが研いでた奴。」

「ん~……まぁあの人なら渡していいかなって思っただけだよ。」

「……随分と肩入れするのね、妬けるわぁ……。」

「男にまで嫉妬しないの。」

 

憎悪のオーラを纏うリサだったが、エノクが頭を撫で始めた事で次第に治まって行き、満面の笑みを浮かべた。

 

「むふぅ………。」

「落ち着いた?」

「うん……でも、何であいつに渡したの?」

 

今度は純粋な問いかけをしてきたリサに対し、エノクが返したのは困ったような笑みだった。そのままヤンが去って行った方向を物悲しそうに見つめるエノクは口を開く。

 

「まぁ…うん、なんというか、あの人達の事を思い出してね。」

「あの人達?」

「……何回繰り返しても死んでいった人達だよ。まるで決まっていたかのように僕らの手を通り抜けて行った命………最終的に夢として終わらせたからそれが救いになっていればいいけど。」

 

その言葉を聞いたリサはエノクに優しい表情を向ける。それに気づいたエノクは恥ずかしそうにはにかむと、話を続けた。

 

「まぁ……だから理不尽にあってる彼を少しでも救いたいと思っただけだよ。」

「成る程……ま、納得しておくわ。」 

「あはは……さて、帰って来た皆さんを迎えようか。」

 

そして2人は集団の足音がする方向へと踵を返す。

 

「………所で、上にいるあいつはどうするの?さっきからずっとこっち見てるけど。」

「…………危害を加えて来ない限り放置でいいよ。まぁ、手を出してくる敵であるなら…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「全力で捻り潰すだけだよ。/ね。」」

 

自分達を見つめる視線の主に濃密な殺気を送りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………末恐ろしい子供も居たものだな。こちらが何かアクションを起こそうとする瞬間にだけ殺気を飛ばして来るとは………お陰で作る途中だった人形がなす術もなく倒されてしまった。全く、忌々しい…………やはり、無理矢理形を変えるとろくな事にならんな。」

 

エノク達がいる場所の頭上……周りに立ち並ぶアパートや店の屋上から見下ろす影が一つ。はためく黄土色のコートのポケットに手を入れて佇む男は険しい表情でエノクとリサを睨む。しばらくして、男は踵を返してその場を離れる。

 

「…………ここももう潮時だな。実験場所を別の所に変えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

待っててくれ………まだ時間はかかるが、必ずお前を生き返らせてやる。」

 

男………ゼホンはそう呟きながら表情を引き締めた。




\ヤンはスローイングナイフと毒ナイフを手に入れた/

ちなみにこのスローイングナイフはエノクの手によって改造され、より頑丈かつ鋭利になっており、使い回しが出来ますし威力も普通の物に比べ、格段にアップしています。殺ろうと思えば巨大カラスぐらいなら一撃で仕留められますね。
個人的に好きなキャラクターなので、結構待遇がよくなるかも知れませんが、ご了承下さい。

ゼホンさんは、まだローランに恨みを抱く前の段階ですね。
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