それでは、どうぞ。
コツ コツ コツ コツ コツ コツ
「…………ねぇ、そろそろ教えてくれないかしら?」
「何をだい?」
「あんた達が『遺跡』って呼んでる場所よ。会話からして化物が闊歩するような場所なんでしょうけど、詳しくは知らないもの。」
「あぁ、そろそろ着くからね……今のうちに言っといても問題ないか。」
そう言って薄く笑ったイオリは足を一切止めずに話を続けた。エノクとリサはその後ろを早歩きで着いていく。二人の体格が子供であることも関係しているが、何よりもイオリの身長が二人の1.5倍近くあるため、必然的に歩幅に差ができる。
「と、言っても語ることなんて物はほとんどないよ。遺跡という呼び名の通り、古代の遺物が眠っている場所でね。時折内部調査を行ってるのさ。」
「ふぅん?」
「今から行く遺跡天使事務所は遺跡の調査を仕事にしてるんだよ。立地的にも仕事の内容的にも手練れじゃないと務まらないから、彼らの実力は相当だよ。」
「そんなに遺跡に眠っている物は魅力的なんですか?」
問いかけて来たエノクに対してイオリは顎に手を当てながら返答する。
「ふむ、……翼が持つ"特異点"に負けないどころか上回る技術が使われてたり、デメリットを少なくしてそのまま自分の強化を行えたり、といった感じだね。間違いなく価値がある物だよ。」
うっすらと笑うイオリは腰に差した刀の柄を撫でながら話を続ける。
「ただ、そんなものが置かれている場所が危険がないなんて美味しい話はない。遺跡を跋扈する化け物どもは遺跡で眠る餌に釣られた者達を狩ってるわけだよ。」
「へぇ………何だか僕らの知ってる物と似てますね。」
「ほぉ?」
エノクの言葉にイオリは興味深そうに笑みを浮かべなから顔だけ振り向く。
「遺跡にでも入った事があるのかい?」
「一応遺跡ではありましたし、強力な武器などは埋まってましたけど………僕らは『聖杯ダンジョン』って呼んでましたね。トゥメル、僻墓、ローラン、イズの碑…これらの名前に聞き覚えは?」
「教え子の一人にローランってヤツはいるが、他は知らないねぇ。」
「そのローランって奴心を病んでたりするのね。」
「…………………くはっ!」
突然リサから告げられた内容を理解した瞬間、イオリは吹き出した。
「あっははははは!なんだいいきなり!」
「別に?そのローランの遺跡に入るのに必要なのが"病めるローランの聖杯"だから。」
「そんな理由で勝手に病んでる事にされるのは流石に哀れだねえ………くっふはは。」
「堪えきれてませんよ。」
ただただ純粋に思った事を口に出しただけであるため、首を傾げているリサに対し、ツボに入ったのか笑いながら目尻に涙をうかべるイオリ。
「あー……久々に笑ったねぇ。」
ようやっと立ち直ったイオリは一回息を深く吐いたのち、そのまま歩き始める。
「そのうちあんたらもローランの奴に会うかもしれないね。その時はあいつに「またしばき倒しに行ってやる」っと伝えといてくれやしないかい?」
「構いませんが………どんな人か知りませんよ?」
「なぁに、全身黒なんだ、わっかりやすいと思うね。」
そう言ってケラケラと笑っていたイオリは不意に物音を感じとる。自分の物でも、二人の物でもない、その上人間でもないその音にイオリは呆れたような顔をする。
「やれやれ………外郭の化物は見境なしかい。自分の力が分かってないようだな。」
やれやれと言わんばかりに首を振るイオリは腰に差している刀を鞘ごとゆっくりと引き抜いた。丁度その時、足音の主が姿を現した。
「「「「ァァアアぁぁぁあAAAAAaaaaaaa…………。」」」」
「うっわ見た目交通事故起こしてるじゃない。」
「可愛そうに………もう少しマシな姿で生まれさせてあげても良かっただろうに………。」
「一番最初のコメントがそれで良いのかい?」
ボロボロの建物の間から出てきたのはいくつもの生物が重なり合っているような見た目をしたトーテムポールのような何かだった。複数縦に並んだ口からはうめき声しか発されていないが、横から生える何本もの細長い腕は明らかにこちらを狙う動作をしている。
「さて、どうする?さっきみたいに私が殺ってもいいが……どうせならあんたらの実力が見たいね。」
「「「「アアぁあ!」」」」シュバッ
「うるさいよ。」ドゴッ
痺れを切らしたトーテムポール擬きが腕を伸ばしてイオリを突き刺そうとするが、イオリは全ての腕を鞘に入ったままの刀で軽くいなしてついでと言わんばかりに胴体に一発蹴りを入れて後退させる。
「「「「あaAアAaアあ!?」」」」
「せっかちだね。そういう奴は嫌われるよ?で、殺ってくれるかい?」
「良いわよ。巨大な敵相手の秘儀の慣らしもしたかったところだし。」
そう言ってリサは虚空から禍々しい手袋とボロボロの歪な頭蓋骨を取り出す。
「どっちがいいかしらね?」
「………その見るからに呪われてそうな道具は何だい?」
「処刑人の手袋と呪詛溜まり。」
イオリからのしげしげとした目線を気にせずリサはそのまま右手に持った頭蓋骨……呪詛溜まりに力を溜め始めた。薄紫色の光が固まった後、ようやっと体勢を立て直したトーテムポールに向けて腕を振りかぶった。
「ほいっと。」
バシュッ!!
「あAッ!?」「「「あa!?アアあAaぁ!?」」」
「あ、効いてる効いてる…………ん?」
投げたされた光の塊は一直線にトーテムポールの真ん中辺りの顔にぶち当たる。その瞬間、光の塊は爆発し、周囲に呪詛をばらまいた。それをもろに食らったトーテムポールは吹き飛び、呪詛が体を蝕み始めた。その様子を観察していたリサはふと何かに気がつく。
「あぁAa…………。」シュゥゥ…
「「「アアあaaAァァあ!」」」
真ん中が黒い塵になって消えた後、そのまま消えずに残った部分が上下別れて活動し始めた。
「別の生物だったのね………うわっワシャワシャしてて気持ち悪ッ。」
「うーん……蜘蛛みたいだね。」
「呑気な事言ってないで手伝いなさいよ。」
「了解。」
後方のイオリの近くで観察していたエノクはリサからの呼び掛けに答えながら虚空から一本の斧を取り出し、一度確認するように振るった。柄等に包帯が巻かれ、重々しい雰囲気を漂わせる斧………獣狩りの斧を暫く振り回すエノクだったが、やがて一つの頷きと共に元トーテムポール擬きに向き直った。
「リサ、どっち殺ればいい?」
「ちっさい方。さっさと叩き潰して終わったら手伝って。」
「うん、ついでに脱け殻も試しとくよ。」パァァァァ
リサの言葉に頷くエノクが斧を振るうと、青白い光が獣狩りの斧に纏わりついた。よくよく見るとエノクの左手には何やら脱け殻らしき物が握られている。湿っているそれを虚空へと片付けるとエノクは2つに分かれたトーテムポール擬きのうちの小さい方へと駆け出した。
「ァァあ!アaAaaアぁァあ!」
こちらに突っ込んで来たことを察知したトーテムポール擬き(小)は自分の横から生えている長い手でエノクを叩き潰そうと手を伸ばす。高速道路を全速力で走る車と同じ位のスピードで迫るそれは、普通の人間であれば避けることも出来ずミンチになるだろう。しかしそれは相手が普通の人間である場合である。
「せいッ。」
ザバシュッ!!
「あAaァァaAッ!」
エノクは軽くステップで避けると自分の隣を陥没させたトーテムポール擬きの腕を容赦なく右手の斧で叩き切った。痛みに悶えるトーテムポール擬き。狩人相手に隙を見せた結果は言われなくとも分かるだろう。
ガインッ!!
「それじゃあ、死のうか?」
死である。
バキャバキャッ!!
金属音を響かせて斧を変形させ柄を身長以上の長さに伸ばしたエノクは、体を捻り、刃の部分を叩きつけるようにトーテムポール擬きに振り下ろす。まだ子供の体躯であるにも関わらず、その力は常軌を逸した物であり、防御が間に合わなかったトーテムポール擬きは断末魔を上げる暇もなく切り潰され、あっけなく命を消し飛ばされた。
「あ、これじゃあ効果があるか分からないなぁ……。」
一方、リサは何本もの腕が迫るなか、流れるような足さばきで攻撃を全て避けていた。
「「ァァアアァぁあAAAAァァAAaあッ!!」」
「弾幕薄いわよー。」
何度も何度も繰り返しリサを殴ろうとするトーテムポール擬きだったが、一向に当たる気配は無い。それどころがリサは時々煽るように話している。
「ん~……こんなところかしらね?」パンッ!
いい加減飽きたのか、リサは両手に血に濡れた手袋……処刑人の手袋をはめ、その手で拍手をする。するとそれに呼応するように手袋から赤黒いオーラが漏れ始めた。やがてそのオーラは形を固定し始め、最終的には10個ほどのおどろおどろしい頭蓋骨となり、ケタケタと顎を鳴らし始めた。
「行きなさい。」
シュアァァァァァァッ!
「「!!」」
リサの号令と共に頭蓋骨は不規則な動きでトーテムポール擬きに突っ込んで行く。先程の攻撃で触れたら死ぬ事を予感したトーテムポール擬きは自分の手で地面を押し飛び上がり、そのまま射撃線上から逃れようとする。
シュウァァァァァァァァッ!
ジュッ! ジュッ!
「「あAaァァあ!」」ボキッ
避け切れなかったのか、腕の一部に頭蓋骨が直撃する。しかしトーテムポール擬きは自分の胴体に影響が出る前に呪詛で汚染された腕を自分でへし折る。そのまま着地したトーテムポール擬きは何かを掲げるように構えているリサに対して襲いかかった。
「「ァァあアアaaAAぁ!!」」
「残念だけど、もう終わりよ。」
リサがそう呟くと、手を起点に遠い宙の景色が映し出され周りを覆うように白く光る球が現れた。リサの薄く開かれた目がトーテムポール擬きを捉えると掲げていた手をそのままその方向へと向ける。
「遥か彼方の星の爆発、耐えられるなら耐えてみなさい。」
パァァァァンッ!!
次の瞬間、リサの周りを漂っていた光球が一斉に動き出した。軌道を残すほどの速さで飛ぶ光球は、違いこそはあるものの全てトーテムポール擬きを仕留めようとする動きをしていた。その数およそ20個。全てが一個で人間一人を殺せるような威力を秘めている。
バシュッ! バキャッ! ゴギャッ!!
「「ァァあ!?アAAaぁ!!?」」
近づいた所でそんな凶弾が周りから囲むように迫ってきたら受け止められる訳もなく、トーテムポール擬きは次々と光球を食らっては削られ、吹き飛ばされ続けた。数十秒後、残っていたのはトーテムポール擬きを構成していたらしき外骨格の破片のみであった。それを確認したリサは自分の手を見つめて、確かめるように開いて閉じる。
「ヤーナム居たときより断然調子が良いわね…………あんなホーミング性能良かったかしら?」
リサがそんな疑問を抱いていると、後ろから拍手が聞こえてくる。音の主はイオリであった。
「見事なもんだね、予想以上だよ。」
「この程度、まだまだ肩慣らしよ。」
「ははっ!外郭でそんな事を言うのかい。育った場所がよっぽどの魔境みたいだね。」
「………否定はしないわ。」
満足げに笑うイオリはそのまま話を続ける。
「とりあえず、依頼主達とさっさと合流出来そうだね。」
「どういうことよ?」
「そりゃあ……ああ言うことさ。」
イオリが指を指した先には、武装する一つの集団がいた。全員が統一感のある服装をしているため、組織であることが伺える。しかし、その雰囲気にはどこか困惑が含まれているような様子だった。暫くすると、近くでガラシャの拳の整備をしていたエノクに気がついたのか集団の中の一人が話しかけていた。
「すまない、そこの君。」
「?何かご用ですか?」
「あぁ、ここら辺りで暴れまわっている化物がいるという話があってね、活動場所から近いから予め討伐しに来たのだが………何か知らないか?」
「化物…………あぁ、あれですか。」
「知っているのか!?」
エノクの言葉にその女性は即座に反応し、詰め寄った。
「教えてくれ、そいつはどこに行った?」
「あの世ですかね?」
「…………何?」
「こっちから出向く必要が無くなって有難い限りだよ。さ、とっとと………どうしたんだ?」
「あの女ァ………!私のエノクにあんなに近づきやがって………しばき倒してやろうかしらねェ…………!!」
「何を言ってるんだいアンタは。」
(この子ら、そういった関係だったんだねぇ………見てて飽きないよ。)
憎悪を膨らませるリサを見て、更に興味を引かれるイオリだった。
秘儀は全て原作の物よりも使い勝手が良くなって、かつ威力が上昇しています。ゲームでは無いので、使い方が限定されてないのもありますが、二人のステータスはカンストを超えた何かになっているためでもありますね。
処刑人の手袋みたいなものだったら、一度に展開できる数を増やせたり、そのホーミング性能を自由に調節できたり、といった感じです。