それでは、どうぞ。
「今回はわざわざお越しいただきありがとうございます。私はファンフェイシーと申します。」
「依頼なんだ、しっかりとやることはやるよ。」
イオリはエノクと会話をしていた灰髪の人物……ファンフェイシーに自身の身分を明かし、そのまま事務所へと案内されていた。周りには武装したフィクサーが辺りを警戒しながら歩いていた。
「それで、どうしてこんな依頼を出したんだい?あんたらの実力だったらそこらの化物なら負けはしないだろう?」
「詳しくは事務所の中でお話しますが……どうにも分からないんです。現状、分かっているのは何人かが行方不明となったということだけで………。」
「ふぅん?一人になったところを食われた訳では無いのかい?」
「………いいえ、その者達が行方を眩ませたのは他の隊員達と共に行動していた時なのです。」
沈痛な表情を浮かべるファンフェイシーは言いずらそうにしながらも話を続けた。
「その上、消える直前まで会話をしていた者までいたのですが…………。」
「何の突拍子も無く消えたってことかい?誰も気づかずに?」
「………はい、その通りです。」
「…………そうかい、少しばかり探すのに手間がかかりそうだねぇ。」
少し面倒そうな表情を見せるイオリだったが、不意に自分の後をついてくる二人に話しかけた。
「あんたらはどう思う?」
「……………………あ、はい、なんでしょう。」
しかし当の二人は揃って遠くを見つめていた。遅れて反応したエノクにイオリは呆れたような声色になる。
「おいおい、しっかりしてくれないかねぇ?」
「少し気配を感じたのよ、いるわね。」
「?それはどういうk「来たぞッ!化物だッ!」何ッ!?」
反論するように告げられたリサの言葉に反応したファンフェイシーだったが突如周りにいたフィクサーの一人が叫んだ事でそちらに意識が向いた。それに習い、エノクとリサ、イオリがそちらに目線を向けるとそこには人の3倍はありそうな巨大な蜘蛛のような生物がこちらを狙うように見つめていた。しかし蜘蛛と呼ぶにはあまりにも異形である。人間のような瞳は優に30は超えている上、二重になっている口には剣のように鋭く、長い牙が並んでいた。
「くっ!よりにもよってこいつかッ!!」
「どうしますか!」
「焦るなッ!攻撃は出来るだけヘイトを分散して避けろ!」
苛立ちを隠せないファンフェイシーがフィクサー達に指示を飛ばしていると、背後にいたイオリから話しかけられる。
「手伝ってやろうか?さっさと事務所に向かいたいものからね。」
「ありがとうございます!……ですが、先にあの子供達を避難させてからでも………。」
「おや、あの子達がお邪魔かい?」
「…………確かに実力は底知れないですが、さすがにこの怪物の相手をさせるわけには………。」
「そうかい。ま、あんたはそういう人間っぽいからねぇ……………あ、そうそう。」
「?」
「あの子ら、もう武器構えて化物に突っ込んでるよ。」
「……………はぁッ!?」
「ぐッ!?」ガキンッ!!
化物の周りを取り囲んでいたフィクサー達だったが、そのうちの一人が攻撃に耐えきれず武器を手放してしまった。
「しまッ!?」
「おいッ!そっから早く逃げろッ!!」
「ッ!?」
攻撃を受けた反動か、痺れが取れずその場で動けない男に他のフィクサーから警告が飛んでくる。その言葉の通り、化物は自分の足を振り上げ、鋭い鉤爪を男へ突き刺そうと構えていた。男は急いで回避しようとするが、痛みで体が上手く動かせない。
「ッ!クソッタレ!!」
悪態をつく男だったが既に鉤爪は目の前まで迫っていた。体にかするだけでも消し飛ばされそうな一撃が男を直撃しようとしたその時、
「よいしょっと。」カチッ
緊迫した状況にはとても似合わない緩い掛け声と共に何かの起動音がしたかと思うと
バシュゥッ!!
男の目の前まで迫っていた化物の脚が突如爆発し、消し飛んだ。
「?………!?」
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ………。」
「なら良いです。ほら、武器を拾って立って下さい。全てを庇いきる事は………出来ないわけではないですが、少々骨が折れるの……でっ。」
一瞬の出来事に困惑することしか出来ない男に対し、エノクは右手で巨大な機械仕掛けの槌を振り抜いた姿勢を解きながら話しかけ、手を差しのべて男を引っ張り立たせた。
「………感謝する。」
「大丈夫です、そういうのは………。」ガキンッ
ニコニコと笑うエノクは一部が赤熱している槌……爆発金槌を一振りし、仕掛けを起動させる。それにともない、爆発金槌は徐々に熱を帯び始めた。今にも爆発しそうなその槌をエノクは背後から襲いかかろうとしている化物目掛けて振り抜いた。
バシュゥッ!!
「Graaaaaa!!」
「後からですよ?」
先程と同じような爆発が今度は化物の本体に直撃する。爆発の衝撃と熱で怯んだ化物は数歩後ずさった。
「ふんッ。」
ザシュッ!!
「Gruaa!?」
その隙にいつの間にか肉薄していたリサは手に持ったレイピアと刀を組み合わせたような武器……落葉を振るい、化物の一部を削ぎ落とす。続けざまに体を捻りながら落葉の上下の刃を分離させ、短剣となった方を化物の体に突き刺した。
ドシュッ!
「Grara!」ブォンッ!!
化物もやられっぱなしではいられなかったのか、何本もある脚の内、3本でリサを刺し貫こうと動かした。
「へぇ?さっきのトーテムポール擬きより骨がありそうね?」
しかしリサは刺した短剣を握り直し、それと同時に化物の体を足場にしながら引き抜いた。そのまま化物を蹴って離脱したリサには外傷は無く、化物の攻撃はむなしく空振った。
「さぁて、どうしようかしらね?」
「ん~、殴る?」ガキンッ
「そうね、そっちが手っ取り早いわね。」ジャキンッ
「おいおい、私の分も残しておくれよ。いい加減、鈍ってしょうがない。」
「あ、イオリさんもやります?」
再び武器を構える二人の隣をイオリはなんでもないかのように通りすぎ、そのままこちらを威嚇する化物へと歩いていく。そこに警戒などは一切無く、ただ当然のような顔で腰に差した刀を引き抜いた。
「さっきの奴らであんた達の実力の程度がわかったからねぇ。今度はこっちの番だろう?」
「…………そう、じゃあお手並み拝見ってことで。」キンッ
リサは構えを解くと、二つに分かれた落葉を再びひとつに戻す。エノクも爆発金槌の熱の仕掛けを解除するため、一度地面に叩きつけて爆発させていた。
「さてと………じゃあかかってきな。大丈夫さ、お前程度の実力で私に勝てるわけないんだからねぇ。」
「…………Graaaaaa!!」
自分が馬鹿にされていることを本能的に察知した化物は怒り狂った様子で駆け出し、イオリを噛み殺そうと口を大きく開いた。
「……………へぇ?自分の実力も分からないようだねぇ?そんなんでよくこの場所で生きて行けたね………いや、もしかしてお前さん生まれたばかりかい?ま、
隙だらけなのは頂けないね。」
ザシュッ!!
しかしイオリは一切動揺すること無く一歩後ろに下がって噛みつきを回避した直後、抜いていた刀を振るう。紫色の残像が残るレベルの速さの一刀は化物の肉を容易く切り裂き、ついでに脚を数本切り飛ばした。
「Gra!?」
「おや、体に傷を付けられたのは初めてかい?良かったね、ひとつ経験が増えたじゃあないか。」
「Gu………ruaaaa………。」
脚を欠損させられるどころか体を軽く切り裂かれることなど無かった化物は人間に対して初めて恐怖の感情を抱く。目の前で対峙する人間は自分よりも遥かに小さい筈なのに、自分が補食される側に立っているような感覚に陥る。まるで蛇に睨まれた蛙のように体が動かない化物は無意識の内にそう理解した。が、自分よりも何倍も小さい生物にこれ以上良いようにされているわけにはいかないと体を震わせた化物は力を溜め始めた。
「ん?何してんのあいつ。」
リサが疑問を口に出した次の瞬間、
ガパッ
バシュッ!!
化物は口を開き、ひとつの光球を吐き出した。光球は猛スピードでイオリへと迫っていく。そこに込められたエネルギーは並大抵のものを吹き飛ばしそうだ。それを見たイオリはニヤリと笑う。
「中々面白い事が出来るじゃないか。」
そう言い放ったイオリは背負っていた大剣の柄を右手で掴むとそのまま光球に合わせるように振るった。その結果、光球はあっさりと弾かれ、地面とぶつかり爆発した。イオリは無傷である。
「ただ威力もスピードもまだまだだねぇ?次生まれて来るときはもう少し良い体を貰えるように祈っておきな。」
「G……Graaaaaa!!」
自暴自棄になったのか化物は口を先程よりも大きく開き、地面ごとイオリを喰らおうと飛び上がった。しかし相手は特色、都市の最強格の一人である。
サシュッ……
「残念だったね。」
イオリ左手に持った刀を振り上げただけで化物の体を真っ二つに裂いた。そのままイオリへと向かってくる骸となった化物だったが、その体がイオリに触れる事はなく、そのまま体を沈めたのだった。
「ま、こんなところかね。じゃあさっさと事務所に案内してくれないかい?」
「は、はい!」
返り血も一滴もついていない刀を納めたイオリは、呆然とこちらを見ているファンフェイシーに話しかける。意識が戻ってきたファンフェイシーは慌てて周りに指示を飛ばし、そのまま案内を始めた。それをよそに、エノクとリサはイオリへと話しかける。
「貴女が隠してたせいで今一実力がよく分かんなかったけど、なによ、外郭の化物程度なら余裕じゃない。お陰で出番がなかったわ。」
「見事な一太刀でした。」
「世辞は止めな。あんたらだってこんなの余裕だろう?」
「否定はしません。」
「改めまして、この事務所の所長代理のファンフェイシーです。所長は現在遺跡での調査を取り仕切っているので、私が対応させていただきます。」
「あぁ、よろしく頼むよ。」
数十分後、遺跡天使事務所の応接室にてイオリとファンフェイシーが向かい合って座っていた。間に置かれた机の上には資料が置かれている。
「それで?その行方を眩ませた奴らについてもっと詳しい情報はあるのかい?」
「はい、まず前提としては、必ず遺跡以外の場所で起きてますね。」
「ってことは遺跡のオーパーツの仕業じゃあないのかね。もしかしたら遺跡の外に散らばった物の可能性はあるが………まぁ、それだったら近くにいた奴らもまとめて消えてるだろう。」
「一応その可能性を考えて捜索はしたのですが、そういった装備の反応は一切ありませんでした。それに先程も申した通り、存在が消えたように突然認識出来なくなっているため、生物の可能性も低いかと………。」
「完全な透明化は出来ても音と存在は消せないから、その線は薄い……か。中々詰んでるね。」
「あ、そうだ。」
イオリとファンフェイシーの会話に突然エノクが入って来る。
「一つ言い忘れてた事があったんでした。」
「へぇ、なんだい?」
「単純な事ですよ。あの時、別にもう一体位の気配を感じたんですよね。ほら、目玉だらけの蜘蛛みたいなの殺したとき。」
「何?」
エノクの言葉にファンフェイシーは訝しげな表情になり、続けざまに尋ねた。
「どういう事だ?あの場には、他の敵対生物など居なかった筈だが……。」
「あぁ、それはさっきまでは向こうがこちらに危害を加える気が無かったからですよ?ずっとこちらを観察する視線を寄越してましたけど。それに「大変です!」バンッ!
エノクが続きを話そうとした時、突如事務所のドアが勢い良く開け放たれ、少女の大声が聞こえた。ドアを開けた三つ編みの少女は息を切らしながら口を開く。
「ファ、ファンさん………新しい行方不明者が………。」
「本当か!?場所はッ!」
「そ、それが………この事務所の目の前で……………!」
「……………………は?」
女子の言葉に一瞬呆けた顔を見せるファンフェイシー。しかし頭を振るい、状況を聞き出そうと女子に詰め寄った。
「………ブランカ、詳しく教えてくれ。」
「は、はい………。」
「その必要は無いわよ。」
少女……ブランカが口を開こうとした所でいつの間にか後ろにいたリサが遮った。ブランカは気配を感じていなかったため、軽い悲鳴を上げている。ファンフェイシーはその言葉の真意を確かめるために静かに尋ねた。
「どういう意味だ。」
「どういうも何もさっき外見てたら、黒幕らしき奴がこの事務所に張り付いてたわよ?」
「は?」「え?」
「さ、行きましょエノク。
どうやら
「了解したよ。」
「私も行こうかね。」
「……………ま、貴女なら問題ないわね。」
呆然とするファンフェイシーとブランカをよそに、三人はさっさと外へ向かって行った。
イオリ様は強いんやでぇ………
はい、イオリさんの戦闘でした。正直、時空移動とかだけでも強いのに、本人の実力も相当ですからね。外郭でも余裕で生き残るでしょう。
最後辺りに出てきたブランカは、わかる人にはわかると思います。