お許し下さい
それでは、どうぞ。
「おっと。」ヒュイッ
光線の通った跡から素早く逃げるエノク。次の瞬間、光線が通りすぎた場所を中心に広い爆発が巻き起こる。
「やっぱりリサの言ってた通りみたいだね。精度と威力が前に殺した奴とは違う……こっちも早めに力を使った方がいいかなぁ。」
「 !!」シュッ!!
バシュゥッ!!
「よっと。やっぱり厄介だなぁ、今までの感覚でやってるともろに食らうね………リサー、イオリさーん、そっちは大丈夫ー?」
「問題無ーい!感覚は狂うけど、そこまで強い訳じゃないからー!」
「この程度ならまだ余裕だね!」
アメンドーズを挟んで向こう側にいる二人から余裕のある答えが返ってくる。それを確認したエノクは左手を大剣に添えると、その剣に神秘を流す。それに呼応するようにエノクの持つ大剣は透き通った緑色の光を放ち、刃を形成し始めた。
「少々借りますよ、ルドウィークさん。」
緑色の光を纏う大剣……月光の聖剣の柄を両手で持ち、肩に担いだエノクは後ろに下げた左足に力を込める。
「 !」シュバッ!
「甘いよ。」バキッ!
左側の腕で連続で凪払いをしてイオリとリサを近づけ無いようにしながら右側の腕をエノクの対処に向けるアメンドーズ。エノク目掛けて振り下ろした腕は神秘の力によるものか先程よりも速く、重くなっていた。しかしエノクは陥没するレベルの強さで地面を蹴り砕き、その反動を使ってアメンドーズの体の下へと入り込む。青白い光を伴ったアメンドーズの腕はエノクがいた場所を更に砕くだけに終わる。
「さぁ、一気に行こうかっ!」
エノクは滑るように移動をしながら月光の大剣をもう一度強く握り直すと、いつものニコニコとした表情からは考えられないほど妖艶で不敵な笑みを浮かべた。まず一回、月光の聖剣を振るう。
シャリンッ!
そんな音が辺りに響いた次の瞬間、アメンドーズの体に一筋の線が走った。月光の聖剣が纏う光が斬撃となり、アメンドーズを襲う。エノクはアメンドーズが痛みに悶える姿もお構い無しに次々と大剣を振るい、また新たな傷痕を作り出す。
「 !!!」
「ほら、どうしたの?僕はここにいるんだよ?」
「 !!」ブシャッ
煽るように話しかけるエノクに向けてアメンドーズは頭から茶色の液体を発射する。狩り慣れているためか音だけで避けたエノクだったが、着弾した場所に映えていた花が即座に溶けて消え、煙が上がっているのを見て、少し驚いたような顔をする。
「うわぁ、予想以上に殺意がMAX………ん?」
「 !!!!」
続け様に辺りに溶解液を撒き散らし始めるアメンドーズ。流石に避けるのがキツくなって来たのか、エノクは漸くアメンドーズの下から離れていった。しかし、アメンドーズも学んだのか、直ぐにその後を追うように腕を振るい、最終的には何本かの手を使ってエノクを囲んで捕らえようとする。そしてついに
「おっと?」ガシッ
「 」ニチャア
「…………。」ピシッ
その内の腕の一本がエノクの腕を掴んだ。アメンドーズの表情は分からないが、雰囲気からニチャつくような笑みを浮かべている気がする。そのまま握り潰そうと力を入れ始めるアメンドーズ。しかし、後ろにいたもう一人の狩人と猛者の存在を頭から抜け落ちていたようで、決定的な隙を晒す。
「私のエノクにさわるな愚図がッ!」
その叫びと共に飛びかかったリサがアメンドーズの頭に一発蹴りを入れる。その小さな体躯からは想像出来ない程の衝撃を頭に食らったアメンドーズは思わずのけぞり、顔を押さえる。その間に、エノクは掴まれている左腕を取り出すために、アメンドーズの手首を月光の聖剣を振るって切り刻んで脱出した。隣に着地したリサにエノクは声をかける。
「ありがとうリサ、助かったよ。」
「全く……エノクならこんぐらい振り払えるでしょ?」
「あはは……やっぱり、聖杯ダンジョンにいた奴とは勝手が違ってね。あとちょっと流れ込んで来た感情にびっくりしちゃって…………。」
「感情?」
怪訝な顔をするリサに対し、エノクは少し話しにくそうに目を反らしながら口を開く。
「…………『見た目がドチャクソ好みだから種を植え付けてやろう』って、僕男なのにね?」
「……………ふ~ん。」
あはは…と苦笑いを見せるエノク。しかし、リサは特に反応すること無く前を向く。
「……………スーッ、ハァー。」
「………リサ?」
小さく深呼吸したリサは手に持ったレイテルパラッシュと散弾銃を虚空にしまうと、代わりに何処が物々しい雰囲気を纏う2本の骨を縛り付けたような武器を取り出した。それを見て何をするのか察したエノクは諦めたような目をした。
「あ、それ………。」
「エノク、後の対処、よろしくね?」ニコッ
「………分かったよ、怪我しないようにね。」
骨の武器……獣の爪を右手に取り付けたリサは静かに左手を胸の辺りに置き、何かを呟き始めた。
「契約変更……『狩り』から『獣の抱擁』にッ!」
リサがそう告げた瞬間、リサの体に変化が訪れる。口には犬歯が生じ、目は爛々とした赤い光が宿った。長い髪は靡き始め、次第に暗い灰色に染まって行き、軽くウェーブが掛かる。髪全体が染まった後、頭に同じ色の狼の耳がひょっこりと顔を出した。
「うぐッ………ルルlulululu………!」
手先から黒く成っていき肩まで黒が侵食したと思えば、今度は段々と獣に近く成っていく。爪は伸び、表皮を覆うように灰色の毛が生え、殆ど人間の物では無くなっていた。リサは唸りながら右手に着けた獣の爪に触れるとその真価を発揮させるためにその内に宿る獣性を両腕に集中させる。
「コロスコロスコロsuコroスKorosuッ!!!」
それと共にリサの手は完全に獣の物となっていた。スカートから覗く足も少しばかり獣らしさがあり、姿勢も獲物を狙う獣のように前屈みになっていた。顔はいつも通りだが、歯を見せて唸るその姿見は完全に本能で動いているようだ。その目には
「グルアッ!」ダッ!!
その反動で前方へ跳ぶように駆け出すリサ。その速さによって、黒い残像が見える。それを見送ったエノクは頬を掻いて困ったように笑っている。
「おぉ、何があったのか知らないが、随分と愉快な事になってるじゃあないか。」
「イオリさん。」
「エノク、今どういった状況だい?」
「あー…………まぁ、なんと言うか…………。」
途中、何処からか戻って来た無傷のイオリに話しかけられるも、その顔はそのままである。しかし、イオリからせっつかれたエノクはやがて諦めるように呟いた。
「…………アメンドーズが僕の事を性的な目で見てたようでして……それを知ったリサがこれ以上ない位ブチギレた結果がアレです。」
「…………ぷふっ、あっははははははは!」
イオリが腹を抱えて大爆笑し始めた。特色であるイオリに対して、無傷のままダメージを与えるのは相当困難だろうが、それを達成してしまったエノクだった。やがて少し落ち着いてきたイオリはエノクの背中をバシバシと叩きながら話し始めた。
「いやぁ、モテる男は辛いねぇ。ま、精々頑張りな。」
「僕に愛を囁くのはリサだけが良いので助けてください。」
「こんな面白そうな事に手を出す筈無いじゃないか。見守っててやるから自分で頑張りな。」
「薄情者ですね。」
「何とでも呼べばいいさ。」
「………はぁ、ちょっと援護してきます。」
諦めたように息を吐いたエノクは未だに光の刃を展開したままの月光の聖剣を肩に担ぎ直すとテクテクとアメンドーズをボコり始めたリサの元へ歩いて行った。ひとしきり笑ったイオリはその背中を見送りながら観察し始めた。その顔つきは真剣な物になっている。
「……………本当に何者なんだろうねあの子達は。まさか平行世界の私が殺されているとは思わなかったよ。」
エノク本人は気づいていませんが、彼は「上位者の好みドンピシャになる」という普通の狩人にとっては厄介なことこの上ない体質をもっています。狩人時代は言葉が理解出来なかったので自分に向けて言葉を発している事すら自覚していませんでしたが、半分上位者みたいな状態になってからはその言葉を理解できるようになったため、こんな状況になりました。
あと後半であった獣の爪+獣の抱擁によるコンボは、けも耳娘(息子)状態だと思って下さい。エノクも似たような感じになります。見た目は簡単に言えば原作のリサ、エノクがウェーブのかかった暗い灰髪になって狼の耳、尻尾が生えて目が赤くなって手足が獣っぽくなるみたいな感じです。口を開けば鋭い犬歯が生えています。bloodborne原作のあれが好きな人に申し訳ありませんが、二人は獣に寄りすぎるのを嫌っているので、変化をその程度に留めています。