それでは、どうぞ。
「ガァッ!!」ザシュッ!!
「 !?」
リサは咆哮と共に腕を振るい、その爪をアメンドーズの体に食い込ませ、引き裂いた。仮にも神に近い存在であるアメンドーズの皮膚を軽く貫くその鋭さと力は、最早人間業では無いだろう。尤も、今のリサが人間かと問われたら肯定も否定も出来ないし、そもそもあの街で狩人となった時点で人間と言える存在のままなのかは知らないが。そんな事を知るよしもないアメンドーズは動揺している。
「シネシネシネシネェッ!」ザシザシザシザシッ!!
しかしそんな状態のアメンドーズを気にする事も無いリサは次々と爪を振るう。辺りにはアメンドーズの血が撒き散らされており、地面から生えた白い花畑は赤黒く染まっていた。そして、数分の内に腕三本を無残な姿に変えられたアメンドーズは残った腕に神秘を集めると、そのまま一気にリサに向けて殴り掛かる。
「 !」ズアッ!
「ッ!グルアッ!!」
連続で迫り来る拳を次々と弾いていた行くリサ。最終的には拳のうちの一つを爪で地面に縫い付けた後、足で踏みつけて
「ゼアッ!」ドシュッ!
手首の辺りを引きちぎった。血を垂れ流しながら他の手でその血を止めようとするアメンドーズだったが、その隙にリサは飛び上がり近くにあった腕を潰しにかかろうとしがみついた。しかし、やられっぱなしだったことに腹を立てたのか、アメンドーズはその腕を全力で振り回し始めた。
「 !!」ブンブン
「ウ"グルルルルルルッ!」ザシッ!
それに対応するように爪を突き立てるリサ。埒が明かないと考えたアメンドーズはもう一本の腕を使ってリサの体を押さえた。当然のように爪を刺されたが、狙い通りリサを動かないように押さえることが出来たアメンドーズはそのまま頭の回りに光球を作り出す。
「!!ガァッ!!」
「 !」
その意図気がついたリサが両手の爪を外そうとするが、向こう側から怪我も気にせず押し込まれているせいで中々動く事が出来ない。そのまま自分の腕ごとビームで消し飛ばそうとするアメンドーズだったが、
「殺らせないよ。」
その声が聞こえたと同時に頭に数発の斬撃が直撃するそのせいで作り出していた光球は霧散し、リサが拘束を振りほどく隙を与えてしまう。勿論、そのチャンスを逃すことなくリサはアメンドーズの手から逃げ出した。その後着地したリサは態勢を立て直すため、こちらに近づいて来たエノクの隣まで下がる。
「リサ、問題無い?」
「………………。」コクッ
そんな会話をしていると、アメンドーズが動き出した。複数本の腕の内、まだ比較的傷の少ない腕がもう動かせない程ボロボロになった腕の根元を握り始めた。その直後、
ボキィッ!!
「毎回思うけど、なんで治せるのにわざわざ折るんだろうね。別にリーチが長くなったとしても、逆に懐ががら空きになるのに。」
「ぐるる。(考えるだけ無駄だと思う。)」
「 !!」
アメンドーズは自らの腕をへし折り、武器のように構える。4対だった腕が3対になったが、その気迫は今まで以上である。ただ、相対しているエノクとリサは驚くどころか純粋に疑問を抱くだけで動揺等が一切無い。これが何百、何千回もアメンドーズを相手してきた年季の違いだろう。そんな事を思われているとは知らないアメンドーズはそのまま武装(?)した腕を振り下ろす。
「ムダァッ!!」
しかし、リミッターを外したリサの拳によってそれは難なく弾かれる。呆気なく攻撃を防がれたアメンドーズの腕に追い討ちをかけるように緑色に光る斬撃が飛んでくる。無論防ぐ事も出来ないため、モロに直撃したアメンドーズは耐えきれず体を前に倒す。倒してしまう。つまるところ、弱点である頭を地面近くに晒してしまった。
「 !?」
狩人を前に哀れにも弱点を晒した獲物はどうなるかは、言うまでも分かるだろう。
「シネ。」
「さよなら、もう会いたくないです。」
ドチュンッ
バシャッ!!!!
アメンドーズの頭のど真ん中に腕を同時に突き刺し、そのまま中身を横に引き抜いたエノクとリサ。背中合わせで行った為か、アメンドーズの頭は上下に別れ、言うまでも無く即死だろう。事実、それを食らったアメンドーズは力無く倒れ伏し、そのまま淡く光る粒子となって消えて行った。それを見届けたエノクは息を吐くと手に持っていた月光の聖剣の光を霧散させて背中に背負う。
「ふぅ……っと!」
「ぐるる~♪」ガシッ
一息ついたエノクに獣の爪を外したリサが抱きついた。言語は無いが、唸り声の感じとその顔でとてつもなく機嫌が良い事が分かる。しばらくリサがエノクに頭を擦り付け、エノクもされるがまま止まっていたが、やがてリサが物足りなさそうにエノクを見始める。
「………うん、ありがとうリサ。」ナデナデ
「ぐるる~♪」ギュー
その意図を察したエノクは優しい手つきでリサの頭を撫で始めた。それを受け入れるリサは更にその笑みを深くし、満足そうである。しばらくそんな時間が続いた。内容だけ見れば獣耳と尻尾を生やした美少女が美少年に撫でられて満足気に笑っているという実に絵になりそうな場面であるが、忘れてはいけない。辺りは何故か残っている血痕だらけな上、二人ともあたまからアメンドーズの血を被っているのでファンシーどころか非常にスプラッタである。まぁ、狩人にとって血濡れになるのは日常なのであるため、気にする事でも無いのだろう。
「……………。」ギューッ
「よーしよしよし………リサ、そろそろ『獣の抱擁』解かない?」
「……………く~ん♥️」ギューッ
「リサ?」
「く~んく~ん♥️」フリフリ
段々と不穏な空気が出てきた。リサはもの寂しい犬の鳴き声のような声を出して尻尾を振り回し始めた。撫でられ始めてからずっとエノクの胸に埋めていた顔をゆっくりと上げる。
「…………リサ?」
「ハッハッハッハッ♥️」ニチャア
「ちょっと落ち着こうか?」
「ぐるッ♥️!」カプッ
「おっと。」
言葉の後にハートマークでも付きそうな位の声を上げてうっとりとエノクを見つめるリサ。留めようするエノクの声も届いていないのか、エノクの首を甘噛みし始めた。どうしようかとエノクがその場に突っ立っていると、こちらに近づいて来る気配があった。
「お疲れさんだね二人共……………おやおや、何をしてるんだい?」ニチャア
「面白い物を見つけた」と言わんばかりの笑みを浮かべるイオリ。
「えぇ、まぁ。」
「お盛んだね、若いのは。ま、そんな事は今はどうでもいい。さっき確認してきたが、あの事務所の中にいた連中全員が眠ってたが、どうやったら起きる?」
「あ、すいません、今すぐに解除しますね。」
エノクがその言葉と共に指を鳴らした瞬間、辺りが光に包まれる。次に目を開けた時には、辺りに広がる白い花畑も、地面に残った血痕も無く、元の見慣れた外郭の景色となっていた。
「はい、これで皆さん目覚めるかと。」
「なるほどねぇ。これが所謂夢から覚めるってやつかい。」
「それじゃあ行きま「ぐるるるるるる♥️」ペロペロ………リサ。」
「あっはっは!取り敢えず、あんたはそのワンコをどうにかしな。私は中で混乱してるであろう奴らに説明しとくよ。」
「分かりました……あ、被害者はおそらく生きてるのでそう伝えといて下さい。」
「あいよ。」
首を堪能するように舐め始めたリサに思わず微妙な顔になるエノク。それを見て爆笑しているイオリはそのまま二人に背を向け、手をヒラヒラと振りながら遺跡天使事務所へと向かって行った。残されたのは、リサの頭を撫で続けながらその背中を見送るエノクとエノクしか見えていないリサである。一つため息をついたエノクはリサの頭を優しくポンッと叩くと口を開いた。
「もう話せるよね?」
「………………………。」ペロペロペロペロ
「……全くもう。」
どうやらしっかりと理性がある上でやってるようだ。それを確認したエノクは近くの物陰を見つけると、ずっと自分の首から離れないリサの頭をしっかりと持って取り外した。そして、
「ッ。」
「ッ!?」
思いっきり深くキスをした。暫くの間リサの口の中を蹂躙するエノク。その後、互いに顔を離すとエノクは妖艶な笑顔でリサに笑いかけながらこう言った。
「取り敢えず、リサが満足するまでやるね?」
「………………くぅ~ん♥️」
「ほら、起きな。」
「うっ………ぐっ…………!」
「おはようさん。目覚めの気分はどうだい?」
「………イオリさん?」
事務所内、外へと続くエントランスで倒れていたファンフェイシーはイオリによって目を覚まし、跳ね上がるようにその体を起こす。
「ッ!敵は!」
「安心しな、もう終わったよ。元凶はあの子らが潰してたから再発は無いだろうね。」
「そ、そうですか………。」
「むにゃむにゃ………ん、ファンさん?」
「ブランカ!異常は無いか?」
「あれ、何で私寝て……あ、そうだッ!あの、異変が!」
「落ち着きな、もう起きないだろうから。」
イオリの言葉にひとまずは精神を落ち着かせる二人。しかし、その顔からは不安が読み取れる。それを察したのか、イオリは先程エノクから伝えられた事を話す。
「あ、そうそう。被害にあった奴ら、まだおそらく生きてるみたいでねぇ。」
「ッ!本当ですか!?」
「ま、私も詳しく知ってる口じゃないんでね、そういった事はあの子らに聞いてくれないかい?昔は騒動の原因になってた奴を殺しまくってたらしいからね。」
「わ、分かりました。」
(まだ幼い子供だろうに……どんな人生を歩んで来たんだ?)
ブランカは安堵の息を吐き、ファンフェイシーはイオリから聞いたエノクとリサの過去に驚きを隠せずにいた。その後、暫くは事務所内部の職員とフィクサー達を起こして回っていたイオリは、不意に独特な気配が近づいて来るのを感じ取った。振り替えると、いつも通りの笑顔を浮かべるエノクとそのエノクの腕に引っ付いて離れないリサがいた。リサはずっと腕に頬擦りしており、周りの様子は見えていないようだ。
「おっと、
「えぇ、まぁ……………。」
「ま、どうでもいいからさっさと説明してやりな。仲間が生きてる事を知った連中がウキウキしてるんだからねぇ。」
少し困った顔をするエノクに対し、イオリは蛇のようにニヤリと笑いながら後ろを指差したのだった。
イオリさんは二人を警戒こそしてますが、基本的に「見てて面白い奴ら」と思って行動してます。人の恋愛をニヤニヤしながら見守ってる感じですかね。あと自分の教え子達に会わせたらどうなるだろうと色んな意味で期待してます。この作品ではこんな感じの人だと思って下さいな。
リサのワンコみたいな行動なんでですが、そもそも獣の抱擁を装備しても言語能力が落ちるだけで理性が奪われている訳では無いです。戦闘中は気合いを入れるため、エノクに絡みに行った時はそういったプレイのつもりでやってます。あの後?本番はやってませんよ。