それでは、どうぞ
「では、改めて話をしてくれないか?」
「えぇ、承知しました。」
数十分後、改めて応接室にて向かい合うエノクとファンフェイシー。尚、リサはエノクの膝を枕にして寝ているものとする。
「まずアメンドーズについてですね。」
「アメンドーズ?」
「今回の騒動の原因です。詳しくは僕も分かってませんが、たしか神と人間の間に生まれた神擬きだった筈ですね。」
「………何故そんな存在がここに?つい最近まではそんな予兆など無かったというのに。」
少し怪訝な顔になるファンフェイシーに対し、エノクは殺したアメンドーズから流れて来た記憶を探る。
「そうですね……確か、ここら辺には遺跡と呼ばれる場所があるとか。」
「む、そうだな。この事務所は遺跡の探索を主として活動してる。先日、戦闘の余波で新しく入り口が出来たが、それがどうした?」
「そこにアメンドーズが居たみたいですね。いや、正しくはその余波で封印から目覚めたようです。」
「………何?」
ニコニコとしているエノクはファンフェイシーの動揺を他所に、そのまま話を続ける。
「僕が知ってる街にはゴロゴロいたので特に不思議な事でも無いんですけどね。少なくとも200体位は殺してますし。まぁそんな事よりも、今は生存者についてですね。」
「ッ!………先程もイオリ殿から聞いたが、本当に無事なのか?」
「えぇ、アメンドーズに握り潰されて別世界に送られただけなので。」
「どう考えても無事であるように聞こえないんだが?」
更に怪訝な表情になるファンフェイシー。
「まぁ眠らされて異次元に飛ばされたって考えて下さい。今はもうそれで、本題何ですが………。」
そこまで言った所でエノクは困ったように頬をかく。何かを言い淀んでいるようにも見えるが、やがて諦めたように話し始める。
「すいません、遺跡の構造に詳しい方はいらっしゃいますか?恐らく急がないとまずいかも知れませんので。」
「それについてはブランカが一番適任だろうが………どうした?」
「その被害者の皆さんの現れた位置がアメンドーズの根城だった場所なのですが……………
見えた景色からして、遺跡の最深部のようなんです。」
「はい、というわけで遺跡にやって参りました。」
「さっさと中入って目的の奴回収するわよ。」
「ええっと……………。」
十分後、エノクと目覚めたリサは困惑するブランカを伴って遺跡の入り口で話している。後ろには少しだけ不安そうなファンフェイシーと普段通りのイオリがついて来ていた。
「たしか………ブランカだったっけ?この遺跡ってどういった構造になってるの?」
「あ、えっと、ちょっと待ってて……。」
ブランカはそう言ってコートのポケットから端末を取り出して操作し始める。それをじっと見つめてくる二人に若干怯えながらも目的の画像を表示させたのか、ブランカは端末の画面をエノクとリサへと見せる。そこにはマップのよう物が表示されていた。
「これは?」
「今の時点でマッピングしたこの遺跡の地図。まだ近場の調査が終わったばっかりで、ここから先は現在進行中で探索してるの。」
リサからの問いに画面を指差しながら答えるブランカ。その言葉の通り、地図は指を差した地点から途切れている。
「ふーん、そう。じゃ、さっさと行きましょう。」クルッ
「道中が楽ならいいんだけどね。」クルッ
「え?」
「というか少し懐かしいわねこれ。」ジャキッ
「こういった場所は聖杯ダンジョン以来かな。もう1ヶ月以上も前だったっけ。」ジャキッ
その話を聞き終えた二人は即座に呆けた顔を晒すブランカに背を向け、遺跡の入り口を見る。それぞれの虚空に手を入れており、引き出された際には少し長めの槌鉾を持ってギザ刃が周りについた円盤のような何かを背負っていた。ほぼ同時に目からハイライトを消した二人はそのまま武器を掲げながら走り出す。
「「マラソンの時間だー(棒)。」」ダッ!
「えぇっ!?ちょっと、危ないから待って!遺跡の中には化物がうじゃうじゃいるから!」
突如走り出した二人を追いかけるブランカ。その背中を見送ったイオリはケラケラと笑いながら隣にいるファンフェイシーに話しかける。
「で、お前さんはどうするんだい?」
「…………私も後を追いかけます。あの子供達なら兎も角、ブランカは遺跡の深部に出てくる奴らに対応出来ません。」
「そうかい。まぁ依頼の一環さ、私もついてくよ。」
「ねぇエノク、ここにも貞子いるのかしら。」
「さぁ?アメンドーズいたから居ないんじゃないかな?」
「はぁッ………はぁッ!」
(何であんな速度で走りながら喋ってるのに息切れ一つ起こさないの………!?)
遺跡の内部、どこか近未来的ながらも朽ちている景色を横目に足を止めず走り続けるエノクとリサ。背中に背負う体格に不釣り合いな巨大な機械をものともせずかなりのスピードで駆け抜けており、そこらに付着している血痕等には目も向けない。そんな二人を後から追っているブランカは早くも息切れになりかけていた。そんな中、前方から物音が聞こえて来た。
「バルルルルルルル……………。」ドチャッ
「なっ……!?と、止まって!」
(事務所の皆でも討伐に苦戦するレベルの……何でこんな浅い所に……!?)
機械と熊が混ざったような見た目の化物が唸りながら顔を上げる。その下には異形の何かが血まみれになって息絶えていた。相手の恐ろしさを知るブランカはエノクとリサに対して静止するように呼び掛ける。が、二人が止まる様子は無い。そんな二人を新たな獲物とした熊擬きは姿勢を低くし、今にも襲いかかろうとしている。
「エノク、帰ったらなに食べたい?」ガチャンッ
「チュロスかドーナツ。」ガチャンッ
しかし当の本人達は日常会話をしていた。背負っていた機械を右手に持っていた槌鉾の先に取り付けたが、こちらを見向きもせず横をむいて話している。それを隙と見た熊擬きはそのまま踏み出して二人を仕留めようと腕を振るおうとする。振るおうとした。
ギュリリリリリリリリッ!
二人が片手で持っていた槌鉾の先に取り付けられた機械が金属が擦れる音を響かせ、回転し始める。漸く熊擬きを視界に入れた二人はなにも言わず手に持った武器を振りかぶった。
「「邪魔。」」
ブチャッ!! ドシュッ!!
「へ?」
熊擬きが振るった豪腕が二人に届く前にその大本である熊擬きの体はエノクとリサが叩きつけた金属の擦れる音がうるさい武器……回転ノコギリによって見るも無残な姿に早変わりした。断末魔を叫ばせる暇も与えず熊擬きを蹂躙した二人はそのまま足を止めず通り過ぎて行った。
「最近人形さん異世界から流れて来た本に書かれてたレシピ試してるんだって。」
「へぇ、どんなの?」
「たしか…………練りきりとかなんとか。」
「ふーん、気になるわね。帰ったら頼んでみましょ。」
ノコギリの刃に挟まった肉片を柄を振り回すことで取り除いた二人はそのまま走り去り、後に残されたのは物言わぬ熊擬きの骸とその光景に呆然として立ち止まるブランカのみだった。
「………………。」
「…キ………キシャァッ!」
「へ、きゃあ!?」
すると、先程まで熊擬きによってボロボロになっていた異形が跳びはねた。どうやらまだ息があったらしい。見た目通り瀕死ではあるものの、それが分かっているのか即座にその場で体を癒すための手段を取ろうとする。そこで異形が見つけたのは近くで突っ立っていたブランカである。
「キシャァッ!!」
「くっ!まだ生きてたの!?」ジャキッ
ガキンッ!
襲いかかって来た異形に対し、急いで装備していた短剣を抜くブランカ。ギリギリの所で異形の振るった鉤爪を受けるも、向こうはダメージによってリミッターが外れているのか、少しずつ押され始めていた。
(両手で押さえてないと弾かれるッ……!銃で頭を撃ち抜けば殺せる位には弱ってそうだけど、そんな事をしている暇が無いッ!?)
膠着状態が暫く続くが、やがてブランカの背後から声がかかった。
「大変そうじゃないか、手伝ってやろうか?」
「ふぇ?」
ザシュッ!
腰の刀を抜刀しそのまま振り抜いたイオリにより、異形は真っ二つに切り裂かれ、完全に息絶えた。自分を押し潰そうとしていた力が急に無くなったブランカは少しよろめくと安堵の息を吐いた。
「ブランカ!怪我は無いか!」
「あ、ファンさん………はい、私は問題ないですけど………。」
「む、そうか……所であの二人は?」
「そ、それなんですけど………。」
ブランカは遠い目になりがら熊擬きの骸を指差す。
「通りすがりにあの惨状を作ってそのまま走って行ってしまいました………………。」
「………やはり凄まじいな。」
「そりゃそうさ。あの二人、階級こそまだ9級フィクサーだが、私と戦って勝てる位には化物だからねぇ。」
「特色である貴方に……?」
「どこで経験を積んできたかは知らないが、対人も対化物もかなり手慣れてるんだよあの子達。恐らく、私の10倍は殺してるんじゃないかね。実際に真っ向から戦った事は無いけど、そんぐらいは分かるよ。」
その言葉に目を見開くファンフェイシー。
「それで、追いかけなくて良いのかい?」
「はっ!そうですね、急ぎましょう。ブランカ、走れるか。」
「だ、大丈夫です!少しですが休憩出来ましたから!」
「少し足が震えてるじゃないか、仕方ないねぇ。」ヒョイッ
「きゃあ!?」
自分の胸元位までしかないブランカを軽々と担ぎ上げたイオリは隣にいるファンフェイシーに向けて口を開く。
「それじゃあ行こうか。」
「ええ分かりました。もしかしたら、遺跡内部の調査をしているチームとかち合わせる可能性があるので、その場合は合流しましょう。」
そう言って二人は遺跡の深部へと続く道に向かって駆け出した。
ギュリリリリリリリリリッ!!
「そぉい。」ブォンッ!!
「え~い。」ギャリギャリギャリギャリ!!
気の抜けた掛け声を発しながら遺跡の中を駆け抜ける二人。振り回す回転ノコギリには振り払いでは飛ばし切れない血が付着し続けおぞましい状態になっており、エノクとリサも通りすがりに襲いかかって来た化物を蹂躙した際の返り血で赤く染まっている。
「はぁ……ずいぶんとかかるわね。そろそろ見えても良い頃なんじゃないの、最深部。」
「う~ん……まだじゃないかな。」
「血の遺志が貯まる一方ね。ま、別に困る訳じゃ無いけど。」
そんな雑談をしていると、十字路に差し掛かる。二人は迷わず真っ直ぐ進もうとするが、不意に右から聞こえてきた沢山の足音に意識を向けながら立ち止まった。
「足音?人間かしら。」
「ファンフェイシーさんが言ってた調査隊の人達じゃないかな?ここに平行世界の狩人達が来る気配も無いからね。」
「時々聖杯ダンジョン裸で走る変態も居たわね。私達も合計で百年以上潜ってた事もあったけどそれを軽く越えてそうな輩が何人も居たのは覚えてるわ。そう言う奴に限って裸だったし…………嫌な事思い出した。」
「そう考えると僕らの精神年齢ってどれぐらい何だろうね。」
「さぁ?少なくとも数百位じゃない?」
「もう記憶も曖昧だからなぁ……。」
そう言いながら首を捻っている二人。しばらくして、その足音の主達が視界の中に入って来た。武装し、所々が血に濡れた人間達にとっては、周囲を警戒しながら捜索していた所で血まみれで首をかしげている子供二人が手にギュルギュル言いながら回転する凶器を持ち、こちらを見ながらながら突っ立っているのを進路上に見つけたという事になる。無論、動揺しない筈もない。
「なッ…………子供ッ!?」
「馬鹿ッ!遺跡、それにこんな深部に子供がいるわけ無いだろ!」
「じゃああそこにいるのは……。」
「取り敢えず、刺激しないように接触するぞ。お前らは少し後ろで待機しておいてくれ。」
「承知しました、所長。」
「混乱してるね。」←全部聞こえてるエノク
「なんでかしら。」←同じく全部聞こえてるリサ
「なんか僕らの事を警戒してるみたいだよ。」
「?精々武器持って血濡れになってる位じゃない。」
「だよね、あとは見た目が子供だからじゃ無いかなあ。」
「武器を扱える力があるなら多少小柄な方が攻撃が当たりにくいから便利だと思うんだけど。」
「じゃあ違うかな?」
アメンドーズと戦ったり、聖杯ダンジョン(みたいなもの)に潜っているせいで感覚がヤーナム時代に戻っている様子の二人が
「おっ、追い付いた追い付いた。いやぁ、あんたらの通った道楽だったよ。一切剣を振る必要が無かったんだからねぇ。」
「あら、ついてきてたの………なんでそいつ担いでんのよ?人拐い?」
「人聞きの悪い事言うんじゃないよ。」
「きゅ~……………。」グルグルオメメ
「気絶してるじゃない。」
「ん?なんだい、軟弱だねぇ。」
「…………ブランカは戦闘要員ではなく探索要員です。」
「ふーん…ま、一旦預かっておくれ。」ヒョイッ
「は、うっ!?」ダキッ
後から合流してきたファンフェイシーに担いでいたブランカを雑に投げ渡したイオリはそのまま血濡れの二人に近づいて行く。
「で、どうしたんだい?こんな所で立ち止まって。」
「あぁ、その事ですか。いや、どの道に行くのが正解なのかと思いましてね。」
「こっから先にアメンドーズがいた気配はするんだけど割りと複雑になってるみたいなのよね、めんどくさい………。」
「ファンフェイシーか。」
「連絡が遅れて申し訳ありません所長。実は最近多発していた行方不明者の捜索の件で報告がありまして……。」
「どうした?」
「原因となっていた生物は派遣されたフィクサーによって潰されました。あと、行方不明になった者達は遺跡に運ばれていたようです。」
「………派遣されたフィクサーというのは、あの長身の女の事か?」
「それと、あの子供達です。三人とも、我々が束になっても軽くはね除けられる実力があるようで、一人は特色です。」
「…………依頼料が高く付きそうだな。」
所長と呼ばれた男はファンフェイシーからの報告に思わずため息をつきながら頭を押さえるのだった。
イオリさんは高身長(公式で195cm)
この作品よ聖杯ダンジョンは隔離された世界という設定なので、プロムン世界のワープ列車のように「こちらで膨大な時間が過ぎ去ろうが元の世界では数秒しか経っていない」という現象が起こります。まぁいつでも出れますし、中に入る狩人達は時間云々の感覚がとち狂ってるのであまり関係ないです。