それでは、どうぞ。
「私は遺跡天使事務所の代表をしているエルと申します。この度は私達の依頼を受諾していただき感謝します。貴殿方を私自身がお迎え出来なかった無礼をお許しください。」
「気にしなくて良いんだよそんな事。それよりも依頼についてだ。」
礼儀正しく謝罪を述べる巨大な鎌を背負った老齢の男性……エルに対し、イオリは笑い飛ばすように話の本題に入る。
「まぁ私よりも適任はいるんだが……二人は遺跡の構造の確認で忙しいみたいだしねぇ。」
「……一つ気になっていたのですが、あの子供達は何者なのでしょうか?」
「ん?あぁ、私の教え子みたいなもんさね。(事実、ある程度都市の常識を教えたのは私だしね。)」
「そうでしたか。」
イオリの回答に納得した様子を見せるエル。その視線は昏倒状態から復活したブランカの横から情報端末を覗き込むエノクとリサに向けられていた。ブランカは未だに血濡れの二人に挟まれている心なしか震えて涙目になっている気がするが、一先ず事態の詳細を問い始めた。
「それはさておいて……本当に遺跡の中に行方不明になった者達がいるのですな?」
「あぁ、元凶になってた化け物が遺跡を寝床にしていたらしくてね。しかも文字通り次元が違う場所からの干渉だ、大抵の奴は防ぐことすら出来ないおまけ付きだよ。行方不明になってた奴は大体異次元に飛ばされてたんじゃないかね。」
「ほぉ……それで、件の化け物というのは?」
「あの子らが一方的になぶり殺してたよ。確かアメンドーズとか言ってたか……。」
「僕らが訪れた場所ではわりとうじゃうじゃいましたよ。大昔は人間と共存、というよりも選ばれた人間から生まれていたらしいですが、今となっては関係無い出来事ですよ。人を拐った目的としては養分かそれとも生殖か………。」
いつの間にかイオリとエルの間にいたエノクが話にはいって来る。何やら恐ろしい方向にずれようとしてた話をエノクは強制的に戻す。
「取り敢えず、その異次元はアメンドーズと一緒に消えて今いる世界に統合されました。恐らく、アメンドーズが寝床にしていた場所に異次元に拐われた方々が出現しているはずです。」
「………それが遺跡の深部であると?」
「僕ら狩人は他の存在を狩ることで記憶の一部が自分に流れ込んで来る事があるんですが……それで見た場所は入り口が一つだけでしたし、先程ブランカさんに見せて頂いた遺跡の調査記録のどこの部分とも部屋の形状が合致しなかったので。」
「……確かにこの遺跡の全体を調べた訳では無い。しかし今から探索中の戦闘に人員を割けるほどの余裕が無いのですよ。」
そう言って本当に困った様子で額に手を当てるエル。しかしエノクはニコッと笑うと口を開いた。
「大丈夫ですよ。」ガキンッ!
そう言うとエノクは血を軽く拭き取ってから背負っていた回転ノコギリを手に持った。
「てい。」ドシュ!!
「そーい。」ギャルルルル!!
自分達の身長よりも長い柄のついた回転ノコギリをなれた手付きで振り回し、向かって来るか視界に入った遺跡の化け物を片っ端から細切れにしていくエノクとリサ。先程よりも進むスピードは遅いが一切の躊躇なく殺しているため、二人が通って来た道は殆どが血に染まっている。しかし本人達は気をつけているのか再び進み始めてから一切返り血の部分が増えていなかった。その様子を後ろから見ていたエルは興味深そうな視線を向けていた。
「凄いですな。あの歳であれ程の動きが出来るとは……あれも貴女の教えですか?」
「いんや?あれはあの二人の素の実力さね。私が教えたのはせいぜい手加減の仕方だよ。普通に私に刃を届かせるぐらいは強いよあの子らは。」
「特色である貴女がそう言うレベルですか……。」
なお他のフィクサー達は怯えるか、化け物以上の何かを見るような目をしていた。しばらくして、回転ノコギリを振り回すリサが後ろに向けて声をかける。
「ブランカ、まだ探索してないのってこっちであってる?」
「え、あ、うん!」
「そう、じゃあ下がっといて。」ブォン!
後ろにいるブランカに声をかけながら突っ込んで来た化け物を回転ノコギリで雑に解体するリサ。隣ではエノクが合体させていた回転ノコギリを分解し、円盤部分を左手、柄だった槌鉾を右手に持ち、器用に両手それぞれの武器を振り回していた。
「吹っ飛べ。」ガンッ!!
槌鉾を下から振り上げ、化け物の顎を捉える。結果、化け物は脳髄を撒き散らしながら道の向こう側から来ていた化け物を巻き込んで吹っ飛び絶命した。続けざまに持っていたノコギリ部分を起動したまま前方に投げると巻き込まれた方の化け物へと突っ込み、重なっていた骸ごと化け物の腕を引き裂いた。
「ガルアッ!?」
「はいはい、恨むならこっちに殺気を飛ばしてきた君自身を恨んでね。」ドチュッ!!
痛みに悶える化け物にゆっくりと近づいたエノクは側で暴れる回転ノコギリを拾い上げて背負うと、右手に持った槌鉾を振り下ろした。見た目からでは考えられないレベルの力が乗ったその槌鉾は容易く化け物の頭を潰し、体を含め二つの物言わぬ肉塊にしてしまった。それを確認したエノクは回転ノコギリについた血肉を払うと周りに敵対する生物が居ないことを確認し、虚空へと回転ノコギリをしまうと一度伸びをする。
「ん~っ……ふぅ…。」
「あら、もういないの?」
「ここら一帯はもう狩り尽くしたかな。向こう側が音を頼りに近づいている感じだったし。」
「そう。」
エノクの話を聞いたリサも手に持っていた回転ノコギリに挟まった肉片を振り回して取り除くと、そのまま虚空へとしまった。手をはたいて手に付いた埃と血をある程度落とすと、そのままブランカの方へ振り向く。
「さて、じゃあさっさと行きましょ。マップは出来てる?」
「あ、うん。」
ブランカが開いたマップを覗き込む二人。先程よりも広くなったそれをじっと見つめ続けてる最中、ずっと後ろで待機していたイオリが入って指を差す。そこはまだマップが更新されていなかった。
「恐らくここだろうね。」
「おや、分かるんですか?」
「だいたいね。」
「…なるほど、平行世界を
「さぁ?何だろうねぇ。」
薄く笑うエノクに対し、蛇のような笑みを浮かべるイオリ。
「ま、取り敢えずもうそろそろだ。せいぜい居るのも雑魚だろうからさっさと終わらしてしまおうじゃないか。」
「………それもそうですね。」
少し不穏な空気を漂わせていたエノクとイオリだったが、不意にその空気は消え、進行方向に体を向けた。
「さ、行きましょう………リサ、そんな体引っ付けたら歩きにくいよ?」
「ん~?別に良いじゃない、ほら、ここまで頑張ったご褒美って奴よ。」
直後、リサはエノクの腕に自分の腕を絡ませ、抱きつくように身を寄せる。人前であるためか、エノクは嗜めようと声をかけるも本人はどこ吹く風と言わんばかりの態度で甘えようとする。エノクも嫌がっているわけでは無いため、仕方がないといった様子で優しく微笑みを浮かべた。その様子を観察していたイオリはニヤニヤしながら近づいて話しかけた。
「お熱いねぇ?」
「………それが何か?」
「開き直るんじゃないよ。」
「良いじゃないですか、好きな人とくっついて何が悪いんですか。」
「そうよそうよ、私の知った事では無いわ。」
「リサはもう少し人目を気にしようか。」
「え~。」
軽く注意するエノクだったが、リサは気にせず引き続きエノクの腕に自身の体を押し付ける。
「ほら、さっさと行きましょ。」
「…ま、いっか。」
その言葉と共に二人は歩きだした。それを追うようにクツクツと笑うイオリと微笑ましげなエルは動き、ブランカとファンフェイシーを含めたフィクサー達はしばらくの間何とも言えない雰囲気を出し、歩き始めたのであった。
「ふふふーん♪………あら?」
特に戦闘も無く、エノクとリサが遺跡の中を歩いていると不意に巨大な扉のようなものを遠くに見つける。
「………あそこみたいね。」
「うん、上位者の臭いが染み付いてる。間違いないよ。」
「はぁ………や~っと着いた。聖杯ダンジョンでもここまで長くないわよ?」
そう言って肩を竦めるリサ。なお、その腕は依然としてガッチリとエノクの腕に絡ませて離す様子はない。気にしないことにしたのか、エノクはそのままリサを引っ付けたまま歩を進めていた。そして、その扉の前まで辿り着くと後ろに振り向く。
「開けますね。」
その言葉と共に二人は扉を押し始める。これまで歩いて来た遺跡の道と比べると少しばかり造形が古臭く、都市の中でもあまり見かけないような石製の両開き扉は力が加わる事で砂埃を散らしながらゆっくりと動いている。厚い扉が少しずつ開き、隙間から光が漏れた。
「………光?」
後ろから着いてきていたブランカの口から言葉がこぼれ落ちる。無論、地下であるはずのこの場所に日や月の光が差し込む訳もなく、あからさまにこれまでとは違う何かがあることに違いはない。隣にいるファンフェイシーも警戒して腰に差していた剣の柄に手をかける。
「「よいしょっと。」」
エノクとリサの掛け声と共に扉は引きずるような音を立てて開く。
ギギギギギギギギギギ
その扉を開き切り、エノクとリサはいの一番にその部屋の中を視界に入れ、それに続くように他の者も部屋の中へと入って行く。そんな中、ファンフェイシーは呆然と呟いた。
「………なんだ、これは。」
フィクサー達を出迎えたのは、だだっ広い空間だった。その広さは100mは軽く越えていそうだ。床は今までの遺跡のように近未来的な技術が使われている形跡があるが、問題は壁と天井である。
「何故……空が?」
そう言ったファンフェイシーの目には、どんよりとした雲が広がる空が映っていた。流れて行く雲はそこに実在すると証明しようとしてると感じる位に簡単には再現できないような緩急があり、周囲にうっすらと見える古ぼけた建物や風にたなびく植物はどう見ても限りなく本物であると感じられる。隣のブランカも同じ景色を視ているのか、口をポカンと開けていた。
「これは一体………?」
「ふぇ………。」
「二人共、どうされましたか?」
「所長……?貴方は変だと思わないのですか?」
「ふむ、確かにこれは異常でしょうね、地下空間に空があるなんて。見たところ、天井に映し出された映像という訳でも無いようですし。」
エルは混乱している二人を他所に観察するように辺りを見つめて始めた。そして、ある一点を視線を向けたところで不意に目が険しくなる。
「…………。」
「所長?」
「…………ファンフェイシー、ブランカ、皆に戦闘準備を行うように伝えなさい。」
命令に困惑する二人を置いて、この広場の真ん中へと歩いていたエノクとリサ、イオリへと近づいて行く。
「さて、ここが目的地で間違いないですかな?」
「えぇ、あいつをぶっ殺したばっかりだから次元がぐちゃぐちゃになってるのよ。」
「もう暫くしたらこの異常も治るかと思いますが………恐らく虫が待機してますね、潰しましょうか。」
そう言って肩を竦めながら虚空に手を突っ込み、絡繰染みた如雨露のような物と見るからに大きな斧を取り出すエノク。隣のリサは奇妙な曲がり方をした剣を取り出し、笛を手に持つとイオリとエルの方へと体を向けた。
「問題無いわね?」
「あぁ、いい加減このうざったい気配の主を潰したくてしょうがないねぇ。」
「大丈夫ですよ。」
イオリは既に抜刀して好戦的な笑みを浮かべていた。
「そう、それじゃ、始めるわよ。」ガキンッ!
奇妙な剣……シモンの弓剣を振るって仕掛けを作動させ、鋼鉄の弓へと変形させたリサはエノクと同時に地面を踏み抜くように足を下ろす。
パキッ
その瞬間、二人が踏んだ地面から空中に向かって黒い亀裂が走り始めた。その亀裂は遠巻きに四人を見ていたフィクサー達の間の空間にも届き、次第に空間全体へと広がったところで
バキンッ!!
周囲の景色が落とされたガラス細工のように呆気なく崩れ去る。その破片は割れると同時に空中に溶けるように消え、その裏に隠されていた景色を露にする。
「………これじゃ本当に聖杯ダンジョンじゃない。」
「………
そこはドーム状の石造りの広い部屋だった。床こそ近代的ではあるが、壁から上は取って付けたかのような古びた構造になっており、燭台に乗せられた沢山の蝋燭と床に走る幾何学模様から洩れる青白い光によって照らされていた。その部屋の壁に見覚えがあったのか、エノクとリサは鋭い目線を周囲に向ける。その先には沢山の人間が壁や柱に凭れかかったり地面に這いつくばっていた。服装はファンフェイシー達の物と殆ど同じであり、怪我人はあれど死人はいないようだ。それの内の一人を視認したファンフェイシーは目を見開いて走り出した。
「レイアルッ!」
「待ちなさいファンフェイシー…ファンフェイシー!」
エルの忠告も聞かず駆け寄った相手は柱に項垂れるようにして凭れかかる金髪の少女だった。ファンフェイシーは少女……サイゴォレイアルの側にしゃがむとそのまま安否の確認をし始めた。
「………脈は…………よし、あるな。外傷も無い。」
「ファンさんッ!」
「あぁ、ブランカ、手伝ってくれ。他の皆もここにいるからな、地上まで運び出すのは苦労するだろう。」
生きている事に安堵するファンフェイシーは後ろから声をかけてきたブランカの方へ振り返りながら倒れた仲間達の搬送の手伝いを要請しようとする。しかし、その目に入って来たブランカの表情は何かに焦っているようであった。
「逃げてッ!!!」
ブランカの口から飛び出してきたのは、懇願するような叫びだった。その言葉を理解する前に、横から………気絶しているであろう仲間達の方から聞こえるはずの無い物音が聞こえ、そちらの方を向く。
「ガアアアアァァァaaaaaaa!!」
そこにいたのはファンフェイシーへと口を大きく開けながら襲いかかる、仲間であったはずの男だった。
はい、まだ未熟な頃のファンフェイシーさんなので、ぐったりしている仲間達に思わず駆け寄ってしまいましたね。原作MODでも仲間をとても大切にしているので、若い頃はこんなこともあったのかなという感じです。
ちなみにエルさんはオリジナルで、ファンフェイシーの先生兼遺跡天使事務所の創設者です。名前の由来は
遺跡天使事務所の天使→エンジェル→エル
というような簡単なもじりです。