それでは、どうぞ。
「しまッ!?」
突然の攻撃に対処出来ず、防御が間に合いそうに無いファンフェイシー。せめてサイゴォレイアルを理性を無くし、力任せに腕を振るう男から遠ざけようと動いたところで、目の前まで迫っていた男が突然別方向へ吹き飛んだ。
「がぁ!?」
「全く……安全確認はしっかりとなさい。何度も教えた筈ですよ?」
「…………申し訳ありません、所長。」
叱るように声をかけるエル。あたかも自然体のように立ってはいるが、男を殴った拳は軽く残心していた。どうやら部屋の真ん中からほぼ一瞬で近づき、その勢いを乗せた拳だったようだ。
「取り敢えず、私はあの子をどうにかします。貴女達は無事な者の救助を急ぎなさい。戦闘を行う場合は相手の攻撃を見切ることに集中して多人数で。」
「承知しました!」
「あと一つ…………元が仲間であっても躊躇わずに。私達に出来るのは、既に狂ってしまった彼らを弔うことだけですから。」
「ッ!…………はいッ…………!」
そのまま殴り飛ばした男の方へエルの言葉に少しばかり苦しそうな表情を浮かべたファンフェイシーは駆け寄って来たブランカとそれに続いたフィクサー達に気付くと、頭を振って彼らに指示を出し始めた。
「総員、警戒を怠るなッ!救助が最優先だが、その中に死体を利用されて襲いかかるように仕組まれた罠がある!無事な者は一ヶ所に集めて防御の陣形を取れ!」
「「「はいッ!」」」
(………これで、いいんだ。)
「ファンさん……?」
まだ生きているということを告げず、そのままフィクサー達を行動させる事が心苦しいのか、自責の念に駆られるような苦い表情を浮かべる。それに気付いたのは近くに残っていたブランカだけだった。呟くようなブランカの声が耳に入り、ハッと顔を上げたファンフェイシーは心労を隠すように表情を引き締めた。
「何でもない、早くしなければ二次被害が出るやもしれん。無事な者を集めなければ………。」
そう言ってファンフェイシーはサイゴォレイアルを姫抱きにして運び始めるのであった。
「ファンフェイシーは上手くやっているようですね………さて、と………貴方は何故そうなってしまったのですか、ガルボ。」
「ガッ、ガグルルゥ………。」
殴り飛ばされたあと、柱一本を犠牲にして止まった男に向けて穏やかに話しかけるエル。しかし、男は唸り声を上げるばかりで一切言葉が聞こえていないようであった。自分を殴り飛ばしたエルに気がつくと口の端から涎を溢しながらその場からエルの方へと踏み出した。
「ガぁ!」シュッ!
「話を聞きなさい。」ガシッ
自分に向けて振るわれたその拳を軽々と受け止めるエルはそのまま握り込んで拘束し、続けて流れるように鳩尾を抉るように殴った。
「がぼぉっ!?」
「心苦しいですが、最小限の痛みで終わらせますので……。」
「ぅグがッ…………。」
「ガルボ?」
ガバッ
次の瞬間、俯いていた男の頭は突如顔を上げると口を開く
メキュッ
どこか不快に感じる音が辺りに響く。段々と男の体は震え始めた。
バシャッ
「AAAAAAAaaaaaッ!!!!!」
男の開けた口から肉で出来た管のような物が飛び出した。それは男の頭を引き裂き、血を撒き散らしながら先に付いている牙でエルを噛み砕こうと迫る。目の当たりにしたエルは一瞬固まり、ほんの数コンマさらした隙を謎の生物に狙われたのだ。しかし、
「……………………。」ドチュッ
「Aaッ!?」
その牙が頭を捉えようとした瞬間、エルは残像が残るような速さで腕を振るう。その手にはいつの間にか逆手の状態のナイフが握られており、その刃は肉の管を貫通していた。それに怯んだ肉の管を掴むと、そのまま握りつぶした。
「…………別の生き物でしたか。俗に言う寄生虫ですかな。」
握りつぶした手にべっとりと付いた血を見ながら呟くエル。その後の目線の先には頭の辺りを潰されたことによって動きが鈍くなった何かがいる。
「成る程成る程……………息絶えなさい。」
ドチ"ュッ……
エルはその声に少しばかりの怒りを滲ませながら、足を寄生虫と称したそれに向けて容赦なく振り下ろした。体との接続が潰れた肉の管は暫く痙攣した後そのまま溶けるように消えて行き、残ったのは頭が吹き飛ばされた男の死体だけであった。エルは骸となった男の側で屈むと、体の姿勢を仰向けにし、綺麗に横たわらせた。
「………間に合わなくて申し訳ありませんでした、ガルボ。」
そう言い残し、エルは立ち上がる。そして、いつの間にか後ろに立っていたエノクに向けて声をかけた。
「君はこれを知っていますか?」
「えぇ、寄生虫はカインハーストやメンシスで嫌と言う程見ましたよ。恐らくアメンドーズにひっついて着いてきたんでしょうね。でなければアメンドーズが拐ってきた人に寄生してる訳無いですから。」
「引っ付き虫のような物ですか。」
「まぁそんな物ですかね。寄生された生物は余程の事が無ければ死に絶えます。」
そうしてエノクはエルの隣に立つ。その手には先程取り出した如雨露のような何かがしっかりと握られていた。
「どうします?火葬ならば出来ますけど………。」
「………………遺品と遺骨を持って帰れますか?」
「大丈夫ですよ。ですが先ずは…………。」
そう言ってエノクは他の所に目を向ける。各所では虫に寄生され、凶暴になったフィクサー達が無事だった者目掛けて襲いかかっていた。複数人て応戦し死亡者は出ていないようではあるが、単純な暴力に対応出来ていないのか顔を何度も合わせた仲間であるためか、攻めあぐねて負傷しているようだった。
「
「………えぇ、そうですね。私の大切な家族にいつまでも汚らわしい虫を着けておくわけにはいきませんから……………ッ!」
エルが一歩踏み出そうとした瞬間、先程の寄生された男とは比べ物にならない程の殺意を感じ取る。反射的に振り向くがそこには原因となりそうな生物は見えない。しかし、長年化け物相手に戦い続けた事で培われた察知能力は嫌な信号を発し続ける。エルはそれに従い、男の死体を即座に抱えてエノクと共にその場から飛び退いた。それと同時に
ドスンッ!!
巨大な何かがエルとエノクのいた場所へと降ってきた。床に亀裂が走り、陥没したことからそれが直撃した時のダメージは半端な物では無いのが分かる。エルはこちらをゆっくりと振り向く何かを真っ直ぐに睨み付ける。
「……………これも、寄生されたことによる物だと言うのですか。」
そこには巨大な獣がいた。人間の体のような構造をしているが、その体躯や容貌は人間とはかけ離れている。が、その手首には明らかに人工物らしきネックレスがかかっていた。それを見たエノクは意外だと言わんばかりの声色で口を開いた。
「まさか獣になった者がいたとは……虫に寄生された期間が長すぎたんですかね。」
「……恐らく、彼が一番最初に寄生されたんですね。」
「心当たりでも?」
エノクの問いにエルは少しばかり悲しそうな顔で答える。
「私の弟子の一人ですよ。おいおい、ファンフェイシーと共に後を継いで貰おうかと思っていたのですが……こんな形で相対する事になろうとは………。」
「分かったのは、あのネックレスですか?」
「えぇ、彼は何かを理解する力に異常な程長けていまして、あのネックレスはその能力を制御する為の道具でした。」
「あぁ成る程、だからあんなことに………すごいですね彼、まだ五体満足だなんて。」
感心した様子を見せるエノクはそのまま背負っていた武器を持ち直す。エルはその言葉の真意を尋ねようとするが、それを遮るようにエノクは口を開く。
「取り敢えず、早く彼を殺しましょう。いつまでも虫に好き勝手に体を動かされるのも望むところでは無いでしょうし。」
「…………お手伝い、頂けますか?」
「勿論、僕ら狩人は
「ヴア"ァッ!!」
「ぐっ………!」
「どうしちまったんだよハザ!何でこんな事………!」
「無事な奴はこっちに!」
「ア"ア"ヴッ!!」
救助作業をしていたフィクサー達にも寄生された者達が襲いかかる。最初こそファンフェイシーの指示によって対応出来ていたものの、次第に押され始めていた。
「怯むなッ!もう既に死んだ人間を操っているだけだ!いつまでも相手の好きなようにさせるんじゃない!」
自ら武器を振るうファンフェイシーの叱責に応え、何人かのフィクサーは相対する者を対処していくが、全員が割り切れる訳ではないのだ。未だに攻撃を躊躇うフィクサーの一人が寄生された者の拳を反らしきれず、隙を晒してしまった。仲間も自分の事で手一杯なため、助けに入る事も出来ない。
「アズラッ!!」
「がぁッ!!!」
「ヒッ!」
ファンフェイシーが助けようとするが、距離が開いてしまっている。眼前まで凶器と化した腕が迫ったフィクサーは口から悲鳴とも言えないような声が漏れた。その時、
ドチュッ!!
「ッ!?」
突如飛来してきた何かが襲いかかろうとした寄生者の頭を消し飛ばした。それに引っ張られたのか体も横に吹っ飛んで行き、結果的に殺されそうになっていた者は一命をとりとめたのであった。状況が把握しきれないフィクサーが尻餅をつき、呆然としているとどこか呆れたような声がかかった。
「いつまでとぼけてんのよ。死にたくないならさっさと立ちなさい。」
そこにいたのは展開し、弓の形となったシモンの弓剣を手に持ったリサだった。右手には銀色に光る矢が握られており、それが今の現象を引き起こした原因であることが分かる。リサは床に座り込むフィクサーには目もくれず、次の矢を番えて弦を引き絞り、狙いを定める。
「寄生虫の相手は好きじゃ無いんだけど……ま、殺せたら勝ちよね。」
その言葉と共に銀色の矢はリサの右手から離れ、弦が戻る勢いを乗せて射出された。淡い光が矢に纏わりついていたたかのように見えたが、いかんせんその速さは通常の弓とは比較にならない為、近くにいたイオリ以外には認識すら出来ていない。その直後、射線上にいた寄生者は爆発音と共に上半身が消え去った。寄生していた虫も残っていないだろう。
「さぁ、どんどん行くわよ。」
そう言い放ったリサは右手を開くように構える。先程助けられたフィクサーがそのまま不思議そうに見ていると突如手の内に幾つかの銀色の銃弾が出現し、次の瞬間には液体となっていた。球体となったそれをリサが握ると、銀色に鈍く光る棒となり、指の間から生え複数本の矢に変化する。リサはその全てを同時に番えると、今度は少し上を向けて構える。
「彼方への呼びかけ。」
何かを呟くと同時にリサが番えた矢が一斉に光る。天井に向けて放たれたそれはそのまま突き刺さる前にあり得ないような軌道を描いてあちこちにいる寄生者を貫き、爆発した。フィクサー達は爆風に煽られて咄嗟に腕で顔を庇い、暫くその状態が続く。その中で何か刃物が通り過ぎるような風圧を感じたファンフェイシーは、サイゴォレイアルとブランカを庇いながら顔を上げる。
「………気配無し、雑魚の寄生虫はこれでおしまいね。」
「そうかい。それじゃ、向こうの援護にでも行くのか?」
「止めとくわよ。エノクが居れば十分だろうし。」
そこには、戦場の真ん中に立ち会話を交わしながら武器に付いた血を払うリサとイオリがいた。寄生されていた様子であった者達は一人残らず虫ごと上半身が消し飛ばされるか細切れにされていた為、この二人が仕留めたのだろう。いきなりの出来事に戸惑っている仲間をよそに、ファンフェイシーはリサとイオリに近づくと、頭を下げた。
「……申し訳ない、また助けられてしまった。それに私達が付けるべきケジメも………。」
「そんな事言ってる暇があるならさっさとそいつら避難させなさいよ。」
リサは取りつく島もない様子で肩を竦める。隣で愉快そうに笑うイオリもそれに同意していた。
「そうさね、あんたらは逃げたほうが良いだろうねぇ。
じゃないと、巻き込まれるよ?」
ドゴンッ!!
「GRAAAAAaaaaaa!!!」
イオリが示した先には柱に叩き付けられる傷だらけの獣とそれの命を狙う狩人と老紳士がいたのであった。
エルさんのイメージははコートを着たオーバーロードのセバスみたいな感じです。基本的に紳士かつ仲間思いのプロムン世界では珍しいかなり良心的な人です。尚、戦闘方法は拳とナイフを用いた超近接の模様。
あと、作品の中でリサが使っていた矢に関しては独自設定です。秘儀もシモンの弓剣の弓状態も水銀弾を使うので、「混ぜたら良いんじゃね?」と思った結果こうなりました。つまる所、矢の形をした水銀弾を媒介にしてそれ自体を秘儀にしてます。単発で放った時に付与したのは呪詛溜まり、複数本同時に放った時は作中で言ったように彼方への呼びかけを矢として使っています。
それぞれの効果としては以下の通りです。
・古い狩人の遺骨→矢が認識出来なくなるかつ防げなくなる。
・小さなトニトルス→矢が雷を纏う。威力は麻痺から消し炭まで調節可能。
・精霊の脱け殻→純粋な威力上昇+精神に向けて防御不能のダメージ。なお、元の威力は人体を軽く貫通してレンガ程度であれば破壊するレベルとする。
・エーブリエタースの先触れ→着弾した場所からエーブリエタースの触手が近くの対象目掛けて襲いかかる。人に着弾した場合はその対象を拘束する。
・彼方への呼びかけ→ホーミング性能+爆発追加。爆発の威力は後述の呪詛溜まりよりも低い。複数同時可能。
・聖歌の鐘→着弾地点の周囲の対象、着弾した相手の回復。
・獣の咆哮→矢が飛びながら衝撃波をばらまく。所謂ノックバック。
・処刑人の手袋→ホーミング性能+対象に着弾した場所からの腐食。
・使者の贈り物→強制的に矢に向けて注目させる。
・マダラスの笛→矢の着弾地点に大蛇が突き上げる。なお、対象に着弾した場合はその場所目掛けて大蛇が噛みつく。
・夜空の瞳→矢の速度の倍増かつ距離減衰の無効。
・呪詛溜まり→着弾地点で巨大な爆発が起こる。