「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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構想はあるのに話が書けません……気長に待って貰えればありがたいです。




それでは、どうぞ


闇の中で

「こっちで合ってるかい?」

「ぅん………。」

「全く……もうすっかり眠気が回ってるわね。」

 

細々とした光だけが照らす列車の通路はどことなく恐怖を煽る。しかし、寝ぼけるミカを連れてそのなかを進む二人の足取りには遅いものの、恐れを感じられない。どうやら歩幅をミカに合わせているらしい。幸い、あまり離れた場所ではなかったようで、車両を二つ程前に進んだ所でふとミカが気がついたように立ち止まった。

 

「えっと……あそこ。」

 

その言葉と共に、ミカは一番端にある部屋を指差す。二人のいた部屋よりも部屋に割り当てられた空間が少し広いようで、扉もしっかりとした木製の物である。三人揃ってそこまで向かい、エノクがドアノブに手を掛けた。

 

ガチャガチャ

 

「……ん?」

「どうかした?」

「いや……鍵がかかってる。」

 

しかし、いくらドアノブを回しても扉が開く様子は無い。

 

「勝手に閉まったのかしら。」

「……おへや、はいれないの?」

「……まぁ、あのスタッフがいるでしょ、一回戻るわよ。」

 

おずおずと尋ねるミカの目に不安の感情が浮かんでいた為、一度自分達の部屋に戻ろうと提案するリサ。それに同意するように頷くエノクは、リサの着ている服を不安そうに握り締めるミカに目線を合わせて語り掛けた。

 

「大丈夫かい?」

「……はやくねないと、おそうじされちゃう。」

「『おそうじ』?………あぁ、掃除屋の事かな。安心して、この列車にまで手を出すことはないだろうから。」

「ほんとう?」

「流石のあいつらでも、この速度の列車にわざわざ飛び乗る事なんてしないでしょ。ほら、私達の部屋で良いなら寝てもいいから、行きましょ。」

「…………うん。」

「良い子ね。」

 

そうして三人は先程まで歩いて来た道の方へ向き、再び歩き出した。しかし、一つ車両同士を繋ぐ部分を渡った所でエノクとリサは足を止める。それに加え、先頭にいたエノクは腰に差していた杖を抜いて柄の部分を軽く握り、リサは近くにいたミカを庇うように立つ。二人の突然の変化に驚くミカであったが、二人は少し険しい表情で前を見るばかりである。

 

「おにぃちゃん、おねぇちゃん、どうしたの?」

「………ごめんなさい、眠るのは少し後になりそうね。」

「?」

 

ダッダッダッダッ

 

「!?」ビクッ

 

ミカは首をかしげていたが、不意に何か近づいてくるような音が耳に入って来たと同時に怯えた様子でリサの後ろに隠れた。その音は段々と大きく鮮明になり、それが足音であることが理解できる。

 

「あのスタッフ……じゃないわよね。2、3人いるし。」

「血の匂いがするし、片方は足音の軽さが片足に偏り過ぎてるね。怪我してるみたいだけど………。」

 

バンッ!

 

エノクとリサが警戒を高める中、まばらに響く足音の主達が車両を隔てる扉を乱暴に開く。

 

「あぁ、くそ、腕が思い通りに動かねぇ。」ガンッ!

「おいおい、物に当たるなよ。寝てる奴らが起きてきたらどうすんだ。」

「うるせぇ!………あん?」

 

仲間らしき男の声も無視し、癇癪を起こしたように壁を蹴る男であったが、ふと目線を上げるとこちらの様子を伺っているエノクとリサ、怯えた目を向けるミカを見つける。明かりが小さいといっても、視界を確保するには十分な為、その三人が子供である事が理解できたようである。相方の方は怪訝な表情を浮かべる。

 

「………ガキ?この時間は鍵がかかって部屋から出られない筈だが。」

「はんっ、んなことどうでも良い。こんな列車に乗る奴のガキだ、良い人質になってくれんだろ。」

 

先程までの不機嫌さは何処へ行ったのか、ニタリと笑った男は無事な方の腕に持ったナイフを三人に向けた。

 

「おいガキども、お前の親は何処だ。案内しろ。」

「まぁまぁ、人に物を尋ねる時はまずは自己紹介ですよ。僕の名前はエノクと言います。貴方のお名前は?」

「あ?何生意気な事言ってやがる。これが見えねぇのか?」

 

しかし先頭に立つエノクは特に怖がる様子も無く軽い調子で話し始めた。それが気に食わなかったのか、男は手に持ったナイフをこれ見よがしに振るう。

 

「殺されたく無かったらさっさと案内しろ。」

「ふむ……生憎、その事については承諾しかねますね。それに、なぜそのような事をしなくてはならないのですか?」

「うだうだ言ってねぇでさっさとしろ、この糞餓鬼!」

「おい待て!」

 

薄い笑顔から一切表情を動かさないエノクはのらりくらりと言葉を交わし続ける。その様子に神経を逆撫でされたのか、男は顔を歪ませ、歩き出す。仲間の男が止めようとするが、既にそれが聞こえない位に興奮しているようで、歩を止めることは無かった。

 

「俺は優しいからな、片腕だけで勘弁してやるよッ!」

「止めろ、人質の価値が下がるだろ!」

「腕一本無くしても生きてりゃ問題ねぇだろ。大人を馬鹿にするような事が出来ないようにしてやる!」

 

そう言って男はナイフをエノクに振り下ろした。

 

 

ガキンッ!

 

「ッ!?」

「取り敢えず、貴方は敵であると言うことでよろしいですね………リサ、その子をお願い。」

「分かってるわよ。」

「がフッ!?」

 

しかしその刃が届く前に、エノクは予め下段に構えていた仕込み杖を振るい、ナイフを弾き飛ばした。反撃されるとは思っていなかった男は隙を晒し、続け様に放たれた回し蹴りを防御する暇もなく吹き飛ばされた。

 

「さて、と。出来ることならこの子に大量の血を見せたくは無いのですが……どうされます?大人しくしてくれるのなら殺しはしませんよ。」

「調子乗んなッ!」

 

呆れたような声色で話しかけるエノクだったが、相手はその態度が癇に触ったのか弾き飛ばされたナイフを掴もうと手を伸ばす。しかし、それが許される筈もなくもう少しで届くと言うところで金属がぶつかり合う音と共にナイフは弾き飛ばされ、手には一筋の切り傷が生まれそこから血が吹き出した。

 

「あがっ!?」

 

男は更にボロボロになった腕を押さえ、痛みに悶える。その上追撃で振るわれた斬撃によって、その腕は取り換えでもしない限り使い物にはならない状態となった。

 

「…………。」

「おいおい……冗談じゃねぇよ。」

 

仲間の男は冷や汗を流しながら手に持った鈍器を構え、こちらに視線を寄越したエノクを見据える。一番警戒しているのは、その手に握られていた筈の杖が変形し、今現在突き付けられている金属の鞭である。

 

「なんつー武器だ、鞭になる杖なんざ聞いたこと無いぞ……何処の工房だ?」

「さぁ?強いて言うのであれば狩人の工房ですかね。」

「知らないな……まぁそんな情報期待しても無駄だし、なッ!」ダッ!

 

会話の途中で思い切り踏み出した男は鈍器を自分の前に持って来る。迎え撃つエノクは一歩踏み出し、しなる仕込み杖を振るった。その刃先は横から男の体に突き刺さろうと迫る。

 

「おらッ!」ブォン!

 

ガキンッ!

 

しかし、その刃が届く前に男によって振るわれた鈍器によって弾かれる。頬に浅く傷がついていたが、先程の男と比べればかなりの軽傷だろう。少しばかり意外そうに目を開くエノクであったが、その手を緩めること無く追撃を行う。

 

キンッ!  ガキンッ!

 

二回、三回と迫る凶刃を全力で振るった鈍器で弾く男は漸く自分の攻撃が届く範囲までエノクに迫る事に成功する。そのままの勢いで下から振り上げようと力強く踏み込む男を眼前に迫るエノクであったが、特に焦った様子も無く杖の柄を両手で持ち直すと、

 

ガギャッ!!

 

「ッ!?チッ!」

 

振り上げられる途中の鈍器へと突き立て、その勢いを完全に殺した。それと同時に鞭自体からも金属音が鳴り響き、最初の杖へと変化する。出鼻を挫かれた男は舌打ちをするが、すぐに体制を変えて鈍器を上から振り下ろした。

 

ガキンッ!

 

再び金属同士のぶつかり合う音が鳴り響く。振り下ろされた鈍器はエノクの頭を砕く前に逆手持ちで構えられた仕込み杖を捉え、そのまま互いに動かない頓着状態へと陥っていた。鈍器を握り締める男の手には血管が浮き上がっていることからも、相当な力がかかっているのは間違いないだろう。

 

「ッ!お前本当にガキかよっ!?まだ人間じゃない方が信じられるぞ!?」

「…………さぁ、そこら辺が少々曖昧でして……どうなんでしょう、僕は人間何でしょうか?」

「知ったこっちゃねぇよ、この化け物がッ……!」

 

会話を交わしながら鍔迫り合う二人。最初こそエノクを押さえつけるような体勢であったものの、段々と押し返されついに男は仰け反り始めた。

 

「シッ!」ブォン!

「うおッ!?」ガキンッ!

 

最終的には更に力が込められた仕込み杖を受け流せず、鈍器は弾かれた。男は両手でしっかりと握り締めていたため、そのまま腕まで持っていかれ体勢を崩した。エノクは杖を振り切った後、一歩後ろに下がりながら振り切った勢いで真正面へ体を向けるとそのまま男に向けて足を踏み出す。

 

「ッ!まずっ!」

 

鑪を踏み、何とかその場で踏みとどまった男であったが、次の瞬間視界に映ったのは

 

「せいっ。」

 

自分の腹に残像が見える速さで迫る蹴りを放つ少年であった。

 

 

 

バギャンッ!!!

 

 

 

 

「がはッ。」

 

凄まじいスピードで壁に叩き付けられたことで全身に致命的なダメージが入り、それに耐えきれなくなった男はズルズルと壁に凭れながら座り込んだ。衝撃によって肺から出た分の酸素も取り込めず、呼吸すら儘ならない中、目の前には先程まで打ち合っていた杖の先端が突き付けられていた。

 

「…………………クソが。」

「悪く思わないで下さい。あくまでも自業自得ですので。」

 

吐き捨てるように悪態を着く男へ向けて、エノクは逆手に持った杖を男の心臓に突き刺さるように振り上げる。その時だった。

 

「死ねぇッ!」

 

先程エノクによって腕をズタボロにされた男が反対側の手にナイフを持ったまま突っ込んで来た。エノクはそちらをチラリと一瞥しただけでまるで興味など更々無いと言わんばかりに視線を戻す。その態度に激昂した男はがむしゃらにエノクの元まで走り、ナイフを振り下ろして突き刺そうと構えた。そのナイフはエノクの頭へと迫る。しかし、エノクは何の反応もしない。

 

 

「いい加減うるさいのよ。」チャキッ

 

 

既に届く筈もない事を気にする必要など無いからだ。

 

パァンッ!

 

いつの間にか手に変形させたレイテルパラッシュを握っていたリサはその照準を定め引き金を引いた。込められた水銀弾は射出され、真っ直ぐ空中を走り

 

バチュンッ

 

寸分違わずナイフを持った男の眉間から脳を貫いた。エノクの方にしか注目していなかった男は何が起こったのか分からないといった様子で仰け反り、そのまま弾丸のヒットストップによって後方へ吹き飛ばされた。仲間が骸と化した事に対し腹立たしげに舌打ちをする男であったが、次の瞬間には振り下ろされた杖が間近に迫り、諦めたかのように瞳を閉じる。

 

ザチュッ

 

刃となった杖の先によって心臓を貫かれ、抵抗する事も無かったその男は握っていた手を開いて以降、動くことは無かった。




狭い屋内といえど、狩人の脅威は衰えません。寧ろ逃げ場が無くなるので、ごり押しして来たらとんでもないことになりますね。

一応エノクは近距離、リサは中距離~長距離みたいな感じで軽く役割分担していますが、それでも互いの担当の武器が使えない訳では無いのです。今回仕込み杖を使ったのは「違和感無く装備しておくには便利で、たまたま腰に差していたから」といった理由です。
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