「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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中々書きたいとこまで辿り着けないです。






それでは、どうぞ。


後始末

「………ふぅ。」ズッ

 

男にとどめを刺し、自分の中に血の遺思が流れ込んで来るのを感じ取ったエノクは突き刺した仕込み杖を抜き取ると、その場で振るい、血を落とそうとしたところで相手をしていた男達とは違う者の気配の方へ顔を向けた。

 

「あ、スタッフさん。」

『おや、先程の。』

 

男達が出てきた扉から見知ったマスクを被ったスタッフが歩いてくる。一番始めに目に入ったエノクから視線を下に落とし、自分を刺した盗人達の亡骸を視界に収めるとすぐに合点が行ったような声を上げる。

 

『これはこれは、申し訳ありません。お客様のお手を煩わせてしまいましたね。』

「いえ、構いませんよ。掃除はそちらにお願いしても?」

『勿論ですとも、すぐに取り掛かりましょう。』

「その前に少し良い?」

 

現場の処理について会話を交わしている所に様子を伺っていたリサがミカを連れて入って来る。

 

「この子の部屋の鍵、開けてほしいんだけど。」

『あぁ、この者達が隠れ場所から逃げた際に全部屋の鍵を閉めましてね。それに巻き込んでしまうとは……申し訳ございやせんお嬢さん。』

「んーん、おにいちゃんとおねぇちゃんがまもってくれたからだいじょうぶ。」

『そうでごさいましたか。』

 

膝を付き、目線を合わせて謝罪をするスタッフに少し隠れながら返答するミカ。それを受けてスッと立ち上がったスタッフは徐に一度手を叩く。

 

カチッ

 

『今緊急時用の鍵を解除しました故、これで問題無いでしょう。』

「というか、結構音立てたんだけど、騒ぎにならないのかしら。」

『それについてはご安心を。全部屋防音ですので。』

「そう………ほら、あんたは早く入ってさっさと寝なさい。」

「う、うん………。」

 

恐る恐るドアノブに手を掛け、ゆっくりと力を入れるミカ。すると、先程はびくともしなかったドアノブは簡単に回り、部屋へと通じる扉が開いた。そのままてくてくと部屋の中へ入った少女は、扉を閉める前に振り返り、エノクとリサへ向けて手を振った。

 

「おやすみ、おにいちゃん、おねぇちゃん。」

「……えぇ、おやすみ。」

「おやすみなさい、良い夢を。」

 

返事を聞いてニコッと笑ったミカはそのまま扉の向こうへ消えて行く。一仕事終えた二人は伸びをした後、何処からともなく持ってきた鉄のワゴンに亡骸を無駄に丁寧にぶちこんでいるスタッフへ話しかけた。

 

「すいません、お一つ質問があるのですがよろしいですか?」

『はい、何でしょう?』

「貴方、何なんですか?」

『………何、とは?』

「悪い意味では無いんです。ただ、貴方から感じる人間としての気配がかなり希薄でしたので。」

『成る程、そうでしたか。どうやらお客様は中々感覚が鋭いようで。まぁ隠している事でも無いので、この後始末をしながらでよろしいのであればお話しましょう。その間は………。』

 

そう言うとスタッフはワゴンの横に備え付けてあった籠から紙袋に入ったチュロスを取り出すと二人に向けて差し出した。

 

『こちらでも召し上がって下さい。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はむっ…………むぐむぐ。」

「それで?結局あんたは何なのよ。」

『そうですねぇ、この列車に付けられた機能とでも言うべきでしょうか、少なくとも普通の人間ではありやせん。自分でも何と言い表せば良いか、あまり検討が着きませんが……。』

「ふぅん……?」

 

貰ったチュロスを味わいながらスタッフの掃除の様子を見ている二人。その途中、リサは食べかけのチュロスでスタッフをの方を指すとそのまま疑問を述べる。しかし、作業の手を止めないまま思考するスタッフから返ってきたのは少しばかり不確実な内容で、本人もどう言って良いのか分からないといった様子であった。その答えに対しリサは納得してはいないようであったが、一先ず案外美味しかったチュロスを齧る。そして続け様に口の中の物を飲み込んだエノクが口を開いた。

 

「んぐっ………でも、『付けられた機能』って言うのは強ち間違いでも無さそうですね。」

『ほう、どうしてそう思われたのですかな?』

「先程から何処からともなく出している道具類ですよ。時折貴方の手から離れても動き続けていますし、その操作をしているのは貴方でしょう?隠す気も無さそうですし。それも貴方が持つ機能の一つなのか……それとも、貴方がその一部なのか。」

『強いて言えば前者ですかねぇ。』

 

スタッフはそう言いながら床に付いた血痕を拭き取っていた機械から手を離す。するとスタッフの手によって操作されていた筈の機械は独りでに動き出す。二人は昔似たようなものを見たことがある為か特に驚く様子もなく観察に徹するのであった。

 

「‥…成る程、便利そうね。」

『仕事では重宝しております。応用としてこのような芸当も出来ます故。』

 

カタンッ

 

会話の途中、壁に付いていた金具が一部だけ外れ、丁度スタッフの目の前へ差し出すように血が付着していたランプが現れた。それを布で拭き、血が無くなったのが確認出来るとそのまま逆再生するかのように元の位置へと収まった。

 

『この列車の中の備品や設備に限った話ではございますが、全て私が遠隔で操作できます。先程の鍵もこれによるものでごさいます。』

 

その言葉と共にスタッフはエノクとリサの方を指差す。それと同時に壁から板が生え、簡易的なベンチとなった。

 

『何時までもお客様を立たせる訳には行きません故、こちらにお掛けください。』

「どういう仕組みよこれ。」

『壁の隙間に収納していたに過ぎませんよ。』

 

マスクで表情は見えないが、何となく笑っているのが分かるスタッフに勧められ、二人はベンチに腰かける。絡繰染みた物ではあるが案外座り心地は悪くなかったのか、壁に背中を預けながら二人は会話を続ける。

 

「そういえば、貴方以外の乗務員を見かけませんね。車掌等がいると本で見たのですが。」

『いえ、この列車にいる乗務員は私一人でございます。』

「………列車の操縦も貴方がしているんですか?」

『そうでございます。あぁ、ご安心を。事故などは起こさないよう細心の注意を払い運行しておりますので。』

「……どうやって?」

 

怪訝な表情を浮かべるリサと首を傾げるエノク。どちらもスタッフの言葉に疑いを持っているようで、その視線にさらされたスタッフは顎に手を当て思考しながら口を開いた。

 

『それはまぁ、出来るからとしか言えませんな。私自身の意識はこの体にありますが、この列車の全てを感覚として理解出来ます故、自分の体のように動かせますから。』

「………何だか列車自体が貴方だと言っているような物言いですね。」

『あぁ………成る程。確かに、その通りですな。』

 

そう言ってスタッフはその場で立ち止まり、宙を見上げる。思考に没頭する様子にエノクは首をかしげながら。

 

「どうかされましたか?」

『いえ、お気になさらず。お客様の一言がしっくり来たものでして。そうですね、私自身がこの列車になった(・・・・・・・・・・・・)という説明が一番分かりやすい私の現状でしょう。』

 

顎に手を当てて思考するスタッフの声色には深い納得の感情がある。

 

『元々私も一人の人間でごさいやした。この都市ではよくある話ではありますが、幼い頃に親が消えましてね、そんな子供一人で生きられる甘くはありません。』

「どこかの組織にでも浚われたの?」

『まさしく。肉体を弄くられ、いつの間にかこんな所におりまして、今では列車でお客様を運ぶ日々。まぁ不満があるわけでも無いですがね。』

 

クツクツと笑うスタッフ。掃除はいつの間にか終わっており、血痕等は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

『さて、お話もここまでにいたしやしょう。ゴミがあるならこちらで回収致します故、お渡し下さい。』

「それなら、コーヒーをもう一杯頂けますか?あとそれに合う菓子があればそれも。」

『夜更かしですか、でしたらこちらを。』

 

その言葉と共に手を叩いて鳴らすと掃除道具やゴミ(死体)の入ったワゴンが何処かへ去って行き、代わりに先程の商品を乗せたワゴンが来た。自分の隣に止まったそれの中から、スタッフは一つのポットと二つのコップ、菓子の詰まった籠を取り出し二人へ差し出した。

 

「おやこんなに……良いんですか?」

『えぇ、ご迷惑をお掛けしたお詫びの一つです。』

「なら、遠慮無く頂こうかしら。」

 

エノクはコップとポット、リサは籠を持って顔を上げる。

 

「ほら、行きましょエノク。」

「うん……スタッフさん、それでは、また。」

『ええ、良い夜を御過ごしくださいませ。』

 

早速部屋に戻ろうとするリサとそれに引っ張られながら挨拶をするエノクに対して礼をするスタッフ。暫くして、別の車両へと移った音がした所で頭を上げると、そのまま傍らに置いていたワゴンを持って何処かへと去って行き、その場所から人の気配が消える。そこには列車が揺れる音が響いていた。

 

 

 

 

 

「そういえばエノク。」

「ん……どうかした?」

「この菓子、何処のやつかしら。」

「………ロゴも無いし、手作りなのかもね。」

「だとしたらあのスタッフここの生活満喫しまくってるじゃない…………ま、美味しかったら何でも良いけど。」パクッ

 

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトン   ガタンゴトン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトン  ガタンゴトン

 

 

 

 

 

 

 

ガタンゴトン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………。」パラ

「zzzz………。」

「……………全く、手加減しなくても良かったのに。」

 

リサは読んでいた本を閉じると自分の肩に寄りかかって眠るエノクの顔を愛おしそうに撫でた。

 

「やっぱりエノクは優しいわね。いつも考えているのは自分よりも他人の事なのかしら。勿論、一番は私だろうけど。」

「……………。」

「ねぇ、エノク、私はエノクを誰よりも愛してるの。エノクは私だけの物なの。誰にも、エノクを奪わせない。誰にも、エノクを殺させない。エノクの命は私の物なの。」

「……………。」

「だから、勝手に死なないでね。」

 

そう祈るように言ったリサは瞳を閉じているエノクと口付けを交わす。両手をエノクの頭の後ろに回し、しっかりとホールドして離れないように、深く深くキスをする。

 

「んッ………んッ!」

 

暫くして、少しばかりリサの息が荒くなり始める。部屋の中には小さいながらも水が跳ねるような音が響く。繋がった口元からは唾液が零れ、リサの頬は紅潮している。

 

「んッ…………ぷはッ!」

 

漸く離したリサ口からは唾液の橋がエノクの唇へと渡っていた。自分の唾液によって汚されたエノクの口元を見てさらに興奮したのか、今度はエノクの着ていた服を少しはだけさせて首元を露にさせる。白く、劣情を抱かせるほどまっさらな肌に、リサは目をトロンと溶かしながら甘噛みし始めた。

 

「はむッ…………ジュルッ………ズゾゾゾゾ。」

「んっ…………。」

「んっ………よし。」

 

目を閉じるエノクが少しだけ声を漏らすがそれを気にせず噛んだ部分を音を立てて吸い、離す。そこにはくっきりと痕が付いており、それを見たリサは頷くを浮かべて虚空から取り出したタオルで自分の唾液を拭き、マーキング痕がほんの少しだけ見えるように服を整えた。ムフーと満足げに笑ったリサはエノクを真っ直ぐ座らせると、その肩に顔を埋めるように抱きつき、そのまま瞳を閉じて意識を無の世界へと一時的に旅立たせた。

その数十秒後、片目だけをパチリと開けたエノクは自分に寄りかかって眠るリサの髪を梳かし始める。

 

(言わなくても分かってるよ。僕もリサから離れる事なんて考えられないし。)

 

言葉に出さず、慈愛の笑みを浮かべるエノクはリサをギュッと抱き締める。そしてそのまま再び目を閉じて眠るのであった。




この作品でのエノクとリサの関係は共依存がドロッドロに煮詰まり過ぎて逆に乾いているように見えてしまっているような感じです。まぁ密度と重さが段違い。普段は仲が良い小さな恋人達みたいな雰囲気ですが、一度スイッチが入ると内側に秘められた感情が発露し、リサはひたすらエノクを独占して甘えることに、エノクはひたすらリサを狂うほどに愛する事に執着します。互いに誰かが色々な意味で手を出そうとしたら、その相手を感情も無く肉片に出来る位には当の昔に狂ってます。



スタッフについてもっと詳しく説明すると、
・元々人間で、ある日人間を素材にした機械を製造している企業(翼ではない)に捕まり、列車に「存在を」融合させられた。それで鉄道運営会社に売られて今に至る。
・列車が本体で、列車の一部(と認識できる物)は自由に形を変形させたり操作できる。列車の走行の操作は無意識の内に出来る。
・二人と話していたスタッフはあくまで人の形をした端末であるが、本体の意識はそこに移されていた。なお、この端末のモデルは人間だった頃のスタッフ。

余談ですが、この列車を造った企業は海の向こう側から来たみたいで、全員が人ならざる存在との噂があります。
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