言い忘れてましたが、結構ギャグ寄りです。
設定におかしな所があっても見逃して下さい。
「皆様ご注目下さい。」
宴が始まって数時間、少しばかり騒がしさが治まって来た頃、突如大広間のど真ん中にリサと共に現れたエノクが周囲に呼び掛ける。二人の格好はよく見る司書としての服装ではなく、極たまに見掛ける「狩装束」である。あまり接点のない他の階の司書補達は首をかしげているが、かなり交流の深い者達の一部は少しばかり嫌な予感がした。しかし気がついたリサはそれをガン無視して話を続ける。
「今からゲームの説明を始めるわよ。あ、詳しい内容はアンジェラにしか伝えてないから司書達に聞いても無駄よ。」
「本当か?」
「ええ、僕は「最後にゲームするから」としか聞いてないです。あと武器の持ち込みは禁止して欲しいとも。」
「ふーん、にしても狩人としての格好かぁ……穏便に済めばいいんだか。」
「ルール……というかやることは簡単、私達と貴方達で鬼ごっこするだけ。勝者には景品として出来る限りの願いを一つ叶えるわ…………………………父さんが。」
「えっ…………。」
遠くでアインが呆然としているように見えたが、気のせいだろう。
「ほぉ……お前ら二人を捕まえればいいのか?」
いつの間にか近づいて来ていたゲブラーが好戦的な笑みを浮かべる。血の気の多い司書補達も続々と集まってきた。しかしリサはそれが些事であるかのように気にせず続ける。
「………私達が?貴女達から逃げる?」
「そうだろう?まさかこの人数相手に鬼を担当するとは言うつもりか?」
「あっはは…………ねぇエノク、もう始めちゃう?」
「そうだね、それじゃあカウントダウンお願い出来ますか管理人?」
「へ?あ、うん。」
いきなり話をふられたアルファは戸惑いながらも声を張り上げる。
「5秒前!」
手ぶらだった二人は笑みを絶やさない。
「4!」
ジリジリと周囲に司書補達が距離を詰めて来る。
「3!」
二人が顔を伏せる。
「2!」
周りの司書達が飛びかかれるように足に力をいれ始めた。
「1!」
「ッ!?」
表情が見えなくなった二人は虚空から武器を取り出す。この時点で頭に警鐘が鳴り響いたゲブラーは後ろへ跳んでいる。
二人は伏せていた顔を上げる。
「0ッ!」
ザシュッ!!
その目は獲物を捉えた狩人の物だった。
「チィッ!危なかったな。いや、お前らがその格好をしている時点で気づくべきだったか。」
咄嗟に回避行動を行った事で無事だったゲブラー。しかし目の前には全身を切り刻まれ、本に成り果てた司書補達とその中央で佇みこちらを見ているティファレトの二人がいる。
「おい、お前らは人間は狩らないんじゃ無かったのか。」
「……ハロウィンというのは本来有害な精霊や悪霊を追い払うっていう物なんです。大抵は自分も化け物の仮装をするっていうのが定石なんですが………そして、僕ら狩人の本業は獣と言う名の化け物を狩ることです。」
「貴女達は今化け物なんでしょ?だったら何の問題も無いわよ。」
「はっ、屁理屈だなッ!?」
ゲブラーがジリジリと後退しようとするのを見逃さず、リサは右手に持った展開済みの仕込み杖を振るう。しかし持ち前の動体視力でギリギリいなすゲブラー、背後にいた司書補が一人巻き込まれたが気にせずそのまま撤退していった。ゲブラーを見送ったエノクは周囲に呼び掛けるように口を開く。
「さぁ、制限時間は30分。それまでに本にならなかったら景品が貰えます。」
「範囲は図書館フロア全体、隠れるも逃げるも自由よ!」
リサは左手に持っている奇妙な生物を上に掲げ、両手で握り潰す。その瞬間、手の隙間から光が溢れ、そのまま光線となり近くの者達に襲いかかった。
「ほら、もう始まってるわよ!」
悪い笑みを浮かべるリサの言葉を聞いた瞬間、周囲の司書補達は一斉に離れ始めた。
「誰から行く?」
「厄介な奴らから仕留めるわよ…………もう向こうにも許可は出したし。」
「くッ!冗談じゃないぞ!何でいきなり生死を賭けた鬼ごっこが始まるんだ!」
「多分オズワルドとかいうピエロの入れ知恵だぞ?こないだ自然科学の階で見掛けたし。」
「だから今日いたのあの人達!?」
※ハロウィンパーティーの間、ハロウィンに寄せた衣装の「8時のサーカス」がずっと芸をしてました。
「取り敢えず何処か逃げないと…………イェソド止まってッ!」
「せいッ!」
「ッ!?」
ガシャンッ!
上から降りてきた影が、イェソドに向かって右手の武器を突き立てようと襲いかかるも、ホドの静止によってイェソド間一髪危機を逃れる。しかし、避けられた本人は動揺した様子もなくケラケラと笑っていた。その姿は少し煤けているものエノクとリサが先程着ていた狩装束と似ていた。
「あー……今ので一人削ったと思ったんですけどねぇ。」
「な、なんで狩人の人がここに?ティファレトとは違うだろうけど……。」
「?逃げるのが数十人に対して狩人が二人だけなどあるはずないでしょう?だからこうして自分たちが補佐をしてるんですよ。」
「………貴方、自然科学の階の司書補ですか。」
「正解、聡明ですねイェソド様。」
警戒するようにジリジリと動くイェソド達に対し、おもむろにに右手に持った巨体な杭のような槍の持ち手を両手で握る司書補フルート。そのまま右手を下に引っ張って持ち手を伸ばし、ピッケルのような形へと変形させた。
「まぁ攻撃が一度でも当たれば本になるという設定を館長にしていただいているのでご安心を。」
「それを聞いて安心だとは思えないんだけどなぁ。」
「自分は自分の仕事をするだけですマルクト様。」
そう言ってフルートはピッケル……教会の杭を振り上げ、四人へと躍りかかった。
「ひゃっほうッ!」
ダラララララララララララララララララララララララ
「きゃあッ!?」
「あぶなッ!?」
「うぼあッ!?」バシュッン
「ぎゃッ!?」バシュッン
「やっば、オデリとクアンが殺られたぞ!」
「アイツのガトリングなんで弾切れしねぇんだよ!?」
「逃~げ~る~な~!」ポイッ
ボフッ
「「ぐがあぁぁ!?」」バシュッン
「火炎瓶!?」
総記の階では白いフードとコートを纏ったアンリがガトリング銃を持って待ち構えていた。総記の階に逃げ込んだ司書補達は容赦なく弾丸らしき何かや火炎瓶で仕留めに来るアンリから現在進行中で逃げ惑っていた。
「ねぇ!あそこにいるのローランさん達じゃない!?」
「あ!ホントだ!」
「「…………擦り付けるか!/ましょ!」」
全力疾走しても笑いながらついて来るアンリに次々と仲間を落とされた二人……レオンとアナがちょうど総記の階に上がって来たローランとアンジェリカを見つける。数秒間考えた結果、躊躇いなく自分たちの上司を犠牲にする事を決めたようだ。
「ふぅ………なんとか撒けたか……階は越えて来ないんだな。」
「あっはは、結構面白いじゃないですか?ローランも楽しめばいいのに。」
「お前なぁ………ん?」
「どうしたんです?」
下の階の担当狩人(仮)に追いかけ回されたのか若干疲れているローランと余裕綽々のアンジェリカだったが、ふと近くき五月蝿くなっている事に気がつく。二人がそちらの方向を見るとガトリング銃を乱射しながら追いかけてくるアンリを引き連れた自分達の部下が全力でこちらに走って来た。無表情で真っ直ぐこちらに来る二人の狙いに気がついたローランは頬をひきつらせる。
「ウッソだろお前ら……。」
「もしかして私達今ピンチ?」
「どうもローランさん!そしてサヨウナラッ!」
「すいませんッ!お許し下さいアンジェリカさんッ!」
「あ、ハッピーハロウィンですお二人とも!取り敢えず
自分の隣を通り抜けた二人の言葉を聞いてアンジェリカも冷や汗を流す。しかし、目の前のアンリはハイになっており、止まる様子は無かった。その光景を目の当たりにしたローランは深くため息をつく。
「もう疲れたんだか……リタイアするか。」
「ローランがそう言うなら私もリタイアします!」
「おいおい、お前はいけるだろ?」
「ローランがいなきゃ面白くないので。」
そう言ったアンジェリカから恥ずかしそうに目を反らすローランだった。が、アンリはまるで"何でも変えて差し上げます"のような笑みを浮かべて告げる。
「あ、お二人共イチャイチャしているところ悪いのですが
これリタイアありませんよ?」ギュルルルルル
「「はい?」」
回転しているガトリング銃を前に思わず聞き返してしまった二人の結末は言うまでも無いだろう。
ちなみにレオンとアナは下の階に入った瞬間に骨灰シリーズに身を包んだ司書補に見つかり、獣狩りの曲刀によってぶちのめされていた。
「まさかケセドさんが自首してくるとは……。」
先程死んだ目をしたケセドを葬送の刃で介錯した司書補……ジーニーは身に纏う鴉羽シリーズの装飾を翻しながら近くでその様子を写真に撮って興奮していた司書補もついでに仕留めていた。
「取り敢えず、ここら辺にはもういないか。」
「すいませんそこの貴方。」
「ん?」
次に行く場所を考えていたジーニーは「追いかけてくる存在」であるはずの自分に声をかけるというおかしな状況に一瞬戸惑い、そのまま返事をする。しかし声をかけた本人であるベンジャミンはさも当然のように質問を投げ掛ける。
「先生を見ませんでしたか?」
「は?あ、アインさんの事ですか?ここらでは見てないですけど。」
「そうですか、それでは私はこれで。」
事務的な対応をしてその場を立ち去ろうとするベンジャミン。しかし、違和感に気づいたジーニーはすぐさま凪払うように鎌状態に展開させた葬送の刃を振るう。しかしベンジャミンは後ろから斬りかかられたにもかかわらず、そのまま最低限の動きで回避した。
「何をするんですか、私は早く先生の元へ行かなければならないのに!くっ……あの時カルメンさんに遅れを取ることが無ければ……ッ!」
「いや……それでもよりによって
「良いでは無いですか、手っ取り早く先生の元へ向かうためです。」
「えぇ……。」
優先順位が完全にアインになっているベンジャミンに若干気圧されるジーニーであった。
「それでは今度こそ私はこれで。あぁ先生、私が守ってさしあげn「おう、ジーニーそっちどうだ~?」ぐふッ!?」
「あ。」
そのまま立ち去ろうとするベンジャミンが、いつの間にか背後に来ていたアルデオを被った司書補……カティアに車輪で潰されて脱落した。
「んあ?どうしたんだジーニー、なんか目が遠くなってんぞ。」
「いや…まぁ、変な物を見ただけだ。」
「?」
「おや、まさか直々に相手をしてくれるとは、中々喜ばしい限りだ狩人よ。」
「貴女にそう言われるとは思ってませんでしたよビナーさん?…………僕らの事は幼子とは言わないんですね。」
「何だ、言って欲しいのか?」
「いえいえ、僕らの精神が他の皆より成熟してる自覚はありますよ。」
哲学の階にて、ビナーとエノクが対峙していた。しかしそこに殺伐とした空気はなく、二人とも世間話をするかのように落ち着いている。
「他の者は全て狩り尽くしてしまったようだか、何か狙いでもあるのかな?」
「貴女だけに集中するためですよ。ビナーさんは他の司書補達を捕まえながら相手取ることが出来るような方ではないですから。」
「嬉しい事を言ってくれる。そのうち君の片割れの嫉妬心が暴走してしまうのでは無いかな?」
「その時はゆっくりとお話しするだけです。さ、始めましょうか。」
そう言ってエノクは愛用のノコギリ鉈を握り直してビナーに向ける。
「寂しいな、そちらから追いかけるというルールだろう?」
「ご冗談を、貴女相手に無策で突っ込んでは逆に仕留められてしまうだけでしょうに。」
「ふふ、わかっているじゃないか。」
ビナーが手を上に掲げると、背後に幾つもの武器が舞い上がる。よくよく見ると死神の鎌やランプ、チェーンソーなど、かなり種類が多い。
「今日は趣向変えてみたんだ。気に入って貰えるかな?」
「それはそれは、面白くなって来ましたね。」
エノクは左手に散弾銃を持つと、そのままビナーの方へ突っ込んで行った。
「やっと追い付いたッ!」
「あぁ、他の司書補達はもういいのか?」
「道すがら脱落させて来たわよ。ゲブラーだけに集中したいから。」
言語の階では、ゲブラーとリサが対峙している。ゲブラーの手には肉塊のような大剣……ミミックが握られている。
「武器の持ち込みは禁止だったが、後から取りに行くのは禁止されて無かったからな。こういうのはいいんだろう?」
「ええ、もちろん。」
互いに初手を読みあって膠着状態が続く。にらみ合っている状況だが、二人の口には笑みが浮かんでいる。
「そういえばお前とこうしてぶつかり合うのは久しぶりだな。」
「ええ、そうねッ!」
リサが右手に持った仕込み杖を展開し、鞭を振るう。ゲブラーは冷静にミミックで受け流すと、そのままがら空きになったリサの懐に入り込もうとする。しかしリサは未だに笑みを浮かべていた。
「あら、あまり近づいたら
「何?……ッ!」
バンッ
「ほらね?」
「相変わらず相手を殺すことに容赦が無いな。敵意がない殺意何て物出せる奴はお前達以外に知らないぞ?」
「誉めても輸血液しか出ないわよ?」
「誉めてもないし要らないな。」
一旦下がったゲブラーは再び姿勢を整え、リサへと突っ込んで行く。リサがエヴェリンで迎撃しようとするも、種が明かされている攻撃がゲブラーに通用するはずもなく、ミミックによって弾かれる。仕方なく下がったリサは仕込み杖を元に戻すと振り下ろされたミミックを杖の真ん中で受け止める。
ギンッ!!
「今思い出したけど鬼ごっこよねこれ。」
「それこそ今更だろ?」
「うわぁ………。」
「どうしましたか管理人?」
「うん、事情を知らずに許可した僕も僕だけど……こんなことになるとはね……。」
全員が立ち去ったパーティー会場の一角にて、苦笑い気味のアルファがアンジェラと共に長椅子に座ってモニターを見ていた。そこには各階のメインホールの映像が映し出されている。
「私と管理人は主催者なのでゲームに参加してませんし、万が一襲いかかってくる輩がいた場合は私が貴方をお守りするのでご安心下さい。」
「ありがとうアンジェラ……それはそれとして何か距離が近くない?」
「そうですか?一つのモニターを共有するならこの位がちょうど良いと思いますが。」
(ほぼ抱きつかれてるんだよなぁ。)
恥ずかしそうに少し顔を反らせるアルファの反応を楽しむアンジェラ。しばらく堪能するアンジェラだったが、ふと何者かの気配を感じて不機嫌になる。
「やっほー。お熱いようで何よりだね。」
「……………。」
「あ、兄さん姉さん。」
やって来たのはカルメンとアインである。
「貴女達も一応参加者側でしょ?今からでも逃げたら?」
「あはは、冷たいなぁ。ここの隅で気配消してたらいつの間にか皆居なくなっただけなんだから一応逃げてる判定よ。」
「………俺が商品を用意する話など聞いていないが?」
「それについてはティファレトに言って。」
「僕らも想定して無かったから……。」
そう言ってアンジェラはそっぽを向き、アルファは苦笑いのまま頬を掻いている。結局景品を用意する事となったアインは雰囲気だけで落ち込んで肩を落としていた。
「で、あと何分?生存者はどれぐらい?」
「ええっと残り5分で、後は………うわ、ゲブラーとビナーだけだ。しかも何か暴れてる。」
「……ルール違反?」
「主催者が満面の笑みを浮かべて打ち合ってるから問題無いわよ。」
無限ガトリングは上位者擬き二人の魔改造という名の悪ふざけによってうまれた産物です。具体的には、肉体的ダメージは無いけど痛みはあるという代物です。ロボトミー風に言えばWHITEダメージです。
ハロウィン編はあと一話で終わりです。
そろそろ本編の投稿を再開しますので気長にお待ちください。