「いいことだらけ」と言うけれど   作:ゲガント

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あっつい日々が続いておりますが、なんとか無事です。




それでは、どうぞ。


襲撃

カーリーを先頭にヤエと木の葉工房の従業員二人、エノク、リサは少しばかり開けた道を歩く。両隣は3、4階程度の高さの建物が建ち並んでいる。ヤエの手には大きめのジュラルミンケースと柄の長い鎚が握られており、従業員も武装していた。その後ろを着いていく二人は従業員達の武器をまじまじと観察し、その視線に気が付いた体格の良い男の従業員は歩きながら尋ねた。

 

「気になるか?」

「ん?えぇ、それなりに。色々持ってるけど、新しく仕入れるのも悪くないと思ってるの。」

「それは鎚ですよね?妙な絡繰が付いてますし、これは……メーター?」

「興味を持ってくれたようで何よりだ。もし欲しいならこの依頼でしっかりと働いてくれたら報酬として交渉してみろ。ヤエ社長なら相手が誰であれ質が良いものを用意してくれるだろう。ちなみにこれはなかに仕込んだ装置を利用してハンマーを馬鹿みたいに熱くするっつう代物だ。」

「それはそれは………他にも色々ありますか?」

「それはまた後でだな。」

「無駄なおしゃべりは止めなさい。そろそろ着くわよ。」

「お、悪い悪い。」

「貴方達も、余計なことはしないように。いいわね?」

 

目付きの鋭い女性従業員の注意され、男は軽く返事をする。その後、エノクとリサに釘を刺した女はそれっきり振り返ることもなく歩き始めた。返事をする暇もなく行ってしまった事に少し呆気にとられていた二人に対し、男は苦笑いで声をかけた。

 

「あー……悪く思わないでくれ、あいつなりに心配してんだ。」

「別に気にしてないわ、敵意を向けてるわけでもないんだし。」

「余所者に忠告してくれるだけまだ優しいですよ。場所によっては前振り無しで殺しに掛かってくるんですから。」

「あの街ホントに排他的だったものね。」

「お、おう……中々肝が座ってるな……ん?。」

 

想像以上に大人びている二人に若干引き気味になる男であったが、突然会話を切り、前を向いた。それと同時に目の前を歩くカーリーが立ち止まる。何かあったのか疑問に思っていた二人であったが近くに少し強い気配を感じ取れた事で何かがあったのを察する。

 

 

 

シュルッ タッ

 

 

 

それと同時に受けた仕事を果たすため、エノクとリサは他の人員に気づかれないように動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁどうもお客様、この度は我が工房の武器のお買い上げいただき、誠に感謝いたします。所で何故ここに?君達が根城にしていた指定場所はまだ先だった筈だけど?」

 

先頭にいたヤエは目の前の人物に対し声をかけた。最初こそ丁寧な言葉使いであったが、すぐに普段通りの声色と口調になり、問いかける。その質問に対し、相対する人物は口を開いた。

 

「つい先日、お前の言う根城に親指の組織が襲撃してきた。事前に察知して被害は最小限で済んだがまだ睨みあいが続いてる状況で、兄弟が抑えている内にアンタから武器を受け取りに来た訳だ。金はもう払っていた筈だ、さっさと寄越せ。」

 

仮面を被り、紫色のジャケットを羽織る男はそう言ってヤエに向かって手を差し出した。しかしヤエはジュラルミンケースを渡すことなく地面に置き、何故かその場でロックを外して開いたのだった。

 

「ふーむ、少し待っててもらえるかい?すぐに使えるように調節するから。」

「……時間が惜しい、5分で終わらせろ。」 

 

腹立たしげな男をよそに、腰から提げていたポーチから工具を取り出してその場でマイペースに作業を始めたヤエの手には、かなり重厚な籠手のような物が握られていた。手全体を覆うような形をしており、爪の部分は鋭く手首辺りには奇妙な機械が付いている。着けて振るえばそれだけでも脅威になり得るだろう。ヤエが作業をしている間、従業員とカーリーは周囲を警戒し始める。その直後、カーリーはとある方向を睨み付けながら男へと話しかけた。

 

「………おい。」

「なんだ?」

「お前の追手が来た。」

「っ!チッ、面倒な……!」

「見つけたぞ!こっちだ!」

 

カーリーの視線の先……道の向こう側からスーツを着崩した男が現れ、声を張り上げる。それに応えるように似たような格好をした人間が十数人程出てきた。それぞれが見える肌に刺青を入れている。

 

「黒雲会……社長、どうしますか?」

「うーん、客にまだ商品が渡ってないから抑えるか殺しといて。一応契約の範囲内だろうしアフターサービスってやつさ。君もそれで頼むよ。」

「……あまり指といざこざを起こしたくないんだがな。」

 

仕方がないと言わんばかりの表情を浮かべながら、カーリーは背負っていた剣を構える。それに続くように従業員も各々が持つ武器を構え始めた。武器の質では勝っているものの、相手は五倍近くの人数がいるため中々手を出すことが出来ない。ジリジリと男達……黒雲会の構成員が詰めてきて、睨み合いが始まる。

 

「………お前らに用はない。そこの中指の男を引き渡せば、なにもしないでやるが?」

 

その集団を率いているらしい男がカーリーへと語り掛けた。圧をかけながら口を開き、脅迫に近い交渉を始めるが、カーリーは鼻で笑う。

 

「生憎、私の依頼主はこいつを守れと言ってるんでな。一度受けた仕事はきっちりとやるさ。」

「そうか、残念だな。」

「……………。」チャキッ

「……………。」シャリンッ

 

 

黒雲会側も刀を鞘から抜き、構えた。緊迫した雰囲気が漂う。

 

「うおおおおおっ!」ダッ!

 

その静寂を破ったのは黒雲会だった。その声を上げたらしい青年は構えを解き、走り出した。そのまま直線上に立つカーリーに向けてその刃を突き立てようと刀を握り直す。

 

 

 

「手を、出しましたね?」

 

 

 

その時だった。その場にいる全員の頭上・・から声が降って来る。走り出した青年も急ブレーキをかけて上を仰ぎ見た。

 

 

 

 

 

 

 

それが最後に見る景色になるとは知らず。

 

 

 

 

 

「誰d   ザチュッ

 

 

 

「こんにちは、狩人さんです。」

 

 

 

ドゴムッ!!

 

 

 

 

 

青年の上げた顔ど真ん中を刀で突き刺したエノクはそのまま轟音と共に地面に着地する。その地点から半径1m程のクレーターが出来ており、クッションにされたらしい青年の骸の胴体は弾けとんでいた。突然の出来事にその場にいた全員が目を見開き固まっているが、当事者であるエノクは気にせず立ち上がり、骸の頭を貫通して地面に突き刺さった刀を引き抜く。

 

 

 

「ふぅ………おや、来ないのですか?」ジャキッ

 

 

 

引き抜かれ、黒雲会へも向けられた刀は青年の血を纏い、おどろおどろしい雰囲気を醸し出し始める。やがて血は赤黒い障気へと変わり、刀……千景は命を食らう妖刀としての顔を覗かせた。千景を持つエノクの頬に付いていた返り血すらも糧にするように血を啜り続けるその刀に黒雲会の構成員達は思わず怯む。しかし、そんなことお構いなしにエノクはゆっくりと歩を進め始めた。

 

 

 

コツ コツ コツ コツ

 

 

 

アスファルトの地面をブーツの底で叩く音が静まり返っていた空間に鳴り響く。下段に緩く構えられた千景を警戒してか、黒雲会の構成員達はエノクを半円状に取り囲もうと動き出す

 

 

ビュンッ  ザシュッ!

 

「がっ!?」

 

すると、それを阻止するかのように構成員の一人の足に痛みが走り、地面から足が離れなくなる。下に顔を向けると、銀色に光る棒が深々と足に突き刺さり、地面と縫い付けていた。

 

 

「いつの間にッ……ッ!!」

「余所見はいけませんね。」ズバッ 

 

動揺も束の間、特殊なステップで懐に潜り込んだエノクは動けなくなった男を袈裟斬りで仕留める。傷口から血が大量に吹き出し、その一部がかかるがそれを気にすることなく、エノクは次の敵に狙いを定めて歩き出す。

 

 

「ッ!調子に乗るなッ!お前ら、囲んで叩くぞッ!」

 

誰かがそう言うと黒雲会の構成員達は再び動き出しそのうちの数人がエノクへと斬りかかった。だが、エノクは何かを見つめながら無防備にふらふらと歩き続ける。まるで向かってくる男達など眼中にないかのように。

 

「死に晒せッ!」

 

一太刀目がエノクを食い破ろうと迫る。

 

ガキンッ!

 

「私を忘れるな。」

 

しかしその凶刃は横から入った剣によって阻まれる。その剣を持つカーリーは刀を弾かれてバランスを崩す男に致命傷となる斬撃を食らわせると、そのまま後ろに続く構成員達に向けて蹴り飛ばした。その後、油断することなく剣を構えるカーリーは前を向いたまま口を開いた。

 

「いろいろと突っ込みたいことはあるが一先ず置いておく。それよりも、お前の相方はどうした?」

「上ですよ、今は援護に徹してます。」

「さっきの矢はあいつが?」

「えぇ、リサの本来の得意分野は遠距離ですから。ほら、それよりも次来ますよ………どうしました?変な顔になってますよ?」

 

エノクから何となしに告げられた言葉に呆けたような顔をしながら振り向くカーリー。その表情からは「何言ってんだこいつ」という感情がありありと感じ取れる。

 

「何か可笑しな事言いました?」

「いや、あいつ普通に近接戦闘出来てたろ。」

「僕は普通に殴る蹴るの方が得意ですよ?」

「人間の首を当然のように螺切ってたゴリラは黙ってろ。言っておくがお前も大概だからな、何だあのクレーター。」

「上から落ちてきただけですよ。まぁ少し特殊な薬を使ってますが……っと。」

「ぐぎゃっ!?」バキッ

 

会話の途中に近づいて来た構成員を回し蹴りで肋骨と背骨をへし折りながらぶっ飛ばしたエノクはコートの懐から一つの瓶を取り出した。金属製のようで、少し鈍い光を反射している。

 

「それがか?」

「はい、鉛の秘薬という代物でして飲むと一時的に体が重くなるんです。まぁ皮膚が硬くなったりするわけでは無いですし、走れなくなる等の副作用もありますけどね。」

「…………必要か?それ。」

「向こうから殺しにかかってくる方々を返り討ちにするのには便利ですよ。体重移動とかをうまく使えばカウンターの威力を上乗せ出来ますしね、こんな風に。」

 

そう言いながらエノクは振り向きながら踏み込んだ。足を着いた地面は陥没し、その勢いのまま上から下に振り抜かれた千景は迫っていた構成員を持っていた鈍器ごと両断した。

 

「割と重宝してますよ……さて、そろそろ効果が切れますかね。」

 

地面に傷跡を残す一撃を放った後に千景を軽く振るい、障気を霧散させて鞘へと戻す。手を握って開き、首を回して体をほぐしたエノクは伸びをし始めた。

 

「何やってるんだ。」ガキンッ!

「ん~……はぁ、この薬、使ったあと体が硬くなるからこうやって解さないと後から響くんですよ…………うん、もう大丈夫です。」 

 

体の調子の確認を終えたエノクは、コートの内側からナイフを取り出し始めた

 

「その刀は使わないのか?」

「最近使ってなかったせいか少し切れ味が落ちてたので手入れをするまではお預けですかね。まぁ残りはこれで何とかしますよ。」

「………その装飾の付いた見るからに戦闘向きじゃないナイフでか?」

 

「これは投擲用です、近接戦闘用はこっちですよ。」

 

そう言って取り出した投げナイフ数本を左手に持ったまま懐をまさぐると、そこから医療用メスをそのまま大きくしたような取り出す。慣れた手付きでペン回しのようにナイフを弄ぶエノクに、カーリーは呆れたような視線を寄越していたが、やがて諦めたかのように口を開いた。

 

「まぁいい、さっさと終わらすぞ。ここまで来たら証言者を潰してしまえばいい。」

 

「そうですね。」

 

 

 

「オラッ!」ブオンッ!!

 

「邪魔よッ!」ギャリギャリッ!!

 

 

 

「……木の葉工房の従業員の方々も相手してるみたいですし、早めに終わらせることには賛成です。」

 

遠回りして二人を避けた黒雲会の構成員と戦う従業員達をチラリと見たエノクは静かにナイフを構え、前を見ながら呟いた。

 

「リサもそう思うでしょ?」

「ええ、そうね。」

「ぅおっ。」ビクッ

 

その直後、二人の背後からリサが答える。気配もなく、突如現れたリサにカーリーが詰まった様な声を出しながら振り向くが、展開されたシモンの弓剣を握るリサは気にすることなくエノクへと話しかけた。

 

「ねぇ、もっと威力ある秘儀使っていいかしら。」

「人相手にオーバーキルが過ぎるよ。さっきだって足止めのために威力絞ってなければ足吹き飛ぶか消し炭になってたろうに。」

「あくまでもそれは援護だったし。でもカーリーがいるから影からチマチマ狙って足止めするより私も攻撃に参加した方が早いでしょ?だから降りてきたのよ。」

「あぁ、そういう……じゃあ音出るのはやめておいて。近くの敵引き寄せてもあれだから。」

「じゃあこれね。」

 

リサは掌を上に向けると乗っていた水銀弾が溶け出し、物理や重量を無視した動きで球体となった。その後、リサがそれを握りつぶし矢へ加工する最中、なにかを呟いた途端青白い月明かりのような光に包まれる。

 

「さてと……………逃がさないわよ。」

 

その矢を気にせず弓剣に番えるリサは撤退しようかという動きを見せる黒雲会の構成員の方向に狙いを定め、矢を放った。

 

バシッ!

 

「ッ!……ハッ、さっきのはまぐれかよッ!」

 

しかしその矢は誰にも当たることなく近くの建物の壁に突き刺さった。そこで初めて先程の矢を放った人物を察した構成員達は命中率がそこまで高くないと考えたのか、リサへと警戒度を下げ、各々の武器を構える。そしてその先頭に立つ男は。ジリジリと距離を詰め始めた。

 

「………………ばーか。」

 

 

ドチュッ!!




次回に続きます。

本来、千景は握る人の血を這わせて血刃を展開しますが、作中では他人の血でも滴る程に血濡れにすれば展開出来るようにしています。まぁ継続して使うには結局自分の血を使う必要があるため、あまり変わりません。
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