ほぼ戦闘で、ハロウィンがどっかいきましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
それではどうぞ。
「ほら、私に攻撃を当ててみろ。」
「流石にこの密度はキツイものがありますよ、ふっ!!」
エノクがビナーに一撃入れようと近づくも、地面から生えた黒い棘がエノクの進路を阻んで襲いかかってくるためどうしても回避に気が取られてしまう。その上ビナーから時折柱状の何かが飛んで来るため、距離を詰める事が出来ない。制限時間は刻一刻と迫っていた。エノクは自分を捕らえようとする鎖をノコギリ鉈でいなすと、一度距離をとる。
「おや?もうおしまいかな?」
「いえいえまさか、ここからが盛り上がる所ですよ。」
ビナーからの煽りに落ち着いた言葉を返すエノクは懐から一つの丸薬を取り出す。ビナーは一瞬眉をひそめるが、エノクはそれも気にせず丸薬を飲み干した。
「ッ!……さて、久々に暴れますね。」
「………成る程、今の君は知性を持たぬ獣に寄ったということか。しかしその本能を見事に御している、なんともまぁ奇妙な事だ。」
「話してる暇など無いですよ?」
目付きが鋭くなり、先程までよりもくっきりと殺意を露にするエノク。その様子にビナーは笑みを深くする。
「じゃあまずはこれだ。」
そう言ってビナーが腕を振るうと頭上に複数の鎌が現れ、エノクを切り裂こうと回転しながら向かってくる。一本目の鎌がエノクを貫こうとした瞬間、独特のステップで鎌の下をくぐり抜けたエノクはそのまま回転する鎌の主導権を奪う。
「シッ!」
エノクは続けざまに向かって来た刃を鎌で乱暴に弾く。その反動か、持っていた鎌の刃は欠けてしまったが、エノクはそれに一切気を向けず、後続の鎌を全て叩き落としてへし折った。手に持っているボロボロの鎌だったものも横に投げ捨てると再びビナーへと突っ込んだ。
「それは先程も見たぞ?」
しかしまたもや棘に阻まれてしまう………が、エノクはそのまま止まること無く走っている。足には所々棘が刺さっているものの、いつの間にか手に持っていた斧を振り回す事で道を作っていた。それを見たビナーは感心したように言葉を漏らす。
「丸薬一つでどこまで変わるか気になっていたが………並大抵の者が扱える物ではないな。コギトとは似て非なる何かだな。原料も恐らくまともな物ではないのだろう?」
「獣血の丸薬ですからね、あまり積極的に使う物では無いですが…………こういった状況ならこれを使った方が早いんですよッ!」
エノクは力任せに斧を振り回し、棘を一掃すると今度は背中に巨大な鞘を背負い、右手には一本のロングソードを装備する。そのままエノクはビナーと肉薄すると、ロングソードを振り下ろす。
「せいッ!」
「相変わらず器用だな。」ガキンッ!
「使ってる武器が壊れる事もあったんです、そんな状況が何百回もあったら器用にもなりますよッ!」
最早とんでもないインファイトになり始めた。巨大なランプ型のハンマーを手に取ったビナーは体をひねり、最短距離でエノクに打ち込む。
「ぐッ!?」
「どうした?私を捕まえるんじゃなかったのかな?」
受け止めようとするも、防御が間に合わず左腕を犠牲になんとか逃れるエノク。しかしビナーは続けざまにかちあげるようにハンマーを振るう。左腕を力無く垂れさせたエノクはなんとか体を反らして後ろに下がる。
「あぁッ!もう埒が開かないので終わらせますねッ!」
余裕な表情が崩れたエノクは一度手に持ったロングソードを鞘にしまうと虚空から輸血液の入った注射器を取り出し、迷い無く左腕に刺す。そして左腕が動く事を確認すると、背負っていたロングソードを鞘ごと引き抜いて構える。
「君達の使う……仕掛け武器だったか?なんともまぁ奇妙だな。狩人よ、時折性能を何一つ考えて無いような物もあるが、そこら辺はどう思っているんだ?」
「僕らがお世話になっている武器を製造していた工房の掲げていた言葉をお送りしますよ。つまらないものは、それだけでよい武器ではあり得ない。」
「成る程、ロマンは全てに勝ると言うことか…………それもまた一興だな。」
「事実パイルハンマーの変型機構は使い辛いものですが、一撃の威力は半端な物では無いですから………ねッ!」
強く踏み込んだエノクは肩に抱えるように持った大剣……ルドウィークの聖剣を思い切り振り下ろす。
「…………………チッ!」
「どうしたいきなり。」
「エノクが他の女とイチャイチャしてる気配がする……。」
「お前の片割れはビナーの所にでも行っているのか。」
「ええ、私を置いてさっさと行ってしまったわ。きっと今頃あの女と血を流しながら戦ってるのよ。」
「………それはイチャついていると言って良いのか?」
「あったり前じゃない!」
少し引いた目をしているゲブラーに対して仕込み杖を突きつけるリサ。
「何だったら今すぐにでもエノクの所に行きたいわよ!」
「じゃあ私を放って置いて向かえばいいんじゃないか?」
「それはそれで何かやだ。」
頬を膨らませたリサは右手の武器を銃剣……レイテルパラッシュに持ちかえると一度横に振るった。金属音が鳴り、水銀弾が装填されたそれを向けられるゲブラーはため息をつきながらミミックを構え直す。
「だからさっさとあんたを捕まえないとねッ!」
「はっ!やれるもんならやってみろ!」
そう吠えたゲブラーは姿勢を低くし、リサへ走り出す。それに応えるようにリサもゲブラーに突っ込み、互いに武器を振り抜いた。
ガキンッ!
「その武器もお前もかなり可笑しいな。銃身で大剣の振り下ろしを受けても僅かに傷が付くだけか。」
「ぐぎぎぎぎき……あんたこそ馬鹿みたいな力でレイテルパラッシュごと私を押し潰そうとしてる癖になにいってんのよ!」
「その体躯で一歩も引かない奴に言われたくはないなッ!」
つばぜり合いを解いて一度下がったリサはその最中にレイテルパラッシュで何回か射撃を行う。左手に持ったエヴェリンも乱射するが、ゲブラーは軽い調子で避けて、弾いていく。
「ちッ!やっぱりこれじゃ決定打に欠けるわね!」
「的確に銃弾ぶちこんでくる奴が言うことじゃないな!精密さはあまりないがタイミングがいやらしい!」
「いやらしいのはベッドの上のエノクだけでいいのよ!」
「そんな意味で言ってないぞ。というか同僚のそういう事情なんて知りたく無かったんだか?」
「私がリードしようとしてもいつもいつの間にか主導権を握られて……って、なに言わせるのよッ!?」
顔を赤くしたリサは恥ずかしさを紛らわせるためにいつの間にか持ち変えていたトニトルスに雷光を纏わせるとそのまま振り回しながらゲブラーに肉薄する。触るとまずいと感じたゲブラーは回避に徹する。その目に含まれている感情は殆ど呆れだ。
「いや勝手にお前が喋っただけだろ。」
「いつも優しく微笑んでいるのに愛し合う時だけあんな獰猛な顔して私を押し倒して……あんな表情で攻められたらもう抵抗できるはず無いじゃない……思い出しただけでもう……でも今度こそ…今度こそ私が上になるんだがら……」
「聞こえて無いなこれ。」
最早自分の存在が意識の外にあるリサの様子に一つため息をついたゲブラーは被っていた赤い頭巾を取ると、少し離れたところにある本棚に背中を預ける。ズボンのポケットからタバコとライターを取り出したゲブラーはそのまま火を付けて一服する。視線の先で未だにトリップしているリサをよそに、ゲブラーは手元にある時計に目線を落とす。
「……………景品は何にしたもんか。」
それは鬼ごっこの始まった時刻の30分後まであと10秒と言う所を指していた。
「と、言う訳でゲームは終わったんだけど…………。」
「………。」
「フフ………。」
アルファはなんとも言えないような微妙な顔をして頬を掻いている。向き合っているのは火の付いたタバコを咥える無傷なゲブラーと怪しく微笑む少し衣装がボロボロのビナー、そして困ったように微笑んでいるエノクだ。ちなみにリサはエノクに後ろから力いっぱい抱きついて顔を押し付けている。
「生存者が兄さん姉さん含めて4名………。」
「皆頑張ってくれましたから。」
そう言ってとある方向に手を振ると、近くに集まっていた自然科学の階の司書補達は各々武器を掲げて返事をする。脱落した者達も復活しているのだが、そこだけぽっかりとスペースが出来ていた。
「で、景品はしっかりと有るんだろうな?」
「そこは抜かり無くお話ししてますよ。」
ゲブラーに問われたエノクは指を鳴らす。すると、何処からともなく"人形"と共にカルメンが現れた。カルメンの腕には死んだ目で拘束されたアインが抱えられている。
「………何をどうしたらこうなる。」
「それなんですけど少し前に………
~~~数分前~~~
「狩人様方のお父様、お母様。少々お時間よろしいでしょうか?」
「………確か、人形だったか。」
「あの子達のお世話係みたいな事してる子だっけ?」
「エノク様からお父様に「景品については勝者にお任せします」との伝言があるのでお伝えしに参りました。」
「用事を思い出したから帰る。」
「お母様には「もし父さんを連れてきたら数日の間父さんを自由に出来るようにしてあげる」とリサ様から………。」
「ア~イ~ン~?」
「………なんだその縄は、やめろ、こっちにくるな、どうする気だ。」
「大人しく捕まるんだよオラァ!」
……と言うことが僕とアンジェラが見てる前でありまして………。」
「その結果があれよ。」
「………何もつっこまんぞ。」
アルファの隣にいたアンジェラが指を差した先には肩に担いだアインを妖しい目で見つめるカルメンがいた。
「取り敢えず、景品はどうします?」
「ふむ、では紅茶を抽出する機械を。勿論、最高級品質の物でな。ついでに好きな紅茶葉を幾つか仕入れることにしよう。」
「………じゃあ私は酒を大量に。うちの司書補達と飲んでるとすぐになくなってしまうからな。」
「俺も行っていいですか?」
「断る、自分で調達しろ。」
近くにいたネツァクが酒と聞いて直ぐにゲブラーに尋ねるが、間も置かずに断られ肩を落とす。
「二人は?」
「アインを好きに出来たらそれでいい!」
「助けてくれ………。」
アインがか細い声で何かを言っているが、アルファはガン無視して周囲に集まっている参加者達に呼び掛ける。
「それじゃあ皆、これでパーティーはおしまいだよ。あとはそれぞれの階で楽しんでね。」
「楽しかったぁ……!」
パーティーの片付けも終わり、司書全員が自分の階に戻った頃、自然科学の階の談話室でリラックスできる服装に着替えた司書補達が語り合っていた。真ん中にはハロウィンっぽいお菓子や料理が積まれており、司書補達の手にはそれぞれ好きな飲み物が握られている。
「良かったですねアンリさん。」
「はい!いつもより暴れられたので満足でした!そう言うフルートさんは?」
「ん?私ですか、何故か知りませんが司書様4人を同時に相手取ることになりまして……途中テオさんが来て無かったら逃してた所でしたよ。ありがとうございました。」
「あはっ、役に立てたようでなによりだよぉ。」
ふにゃんとした笑みを浮かべ少年……テオはカボチャのケーキにフォークを刺して一口で平らげる。口いっぱいに頬張ったテオに隣にいた長髪の女性……スカーレットは苦笑いしながら話しかける。
「お行儀が悪いですわよ。」
「
「フフ、全くもう……世話が焼けますわね。」
微笑ましそうに笑ったスカーレットはテオの頬に付いたクリームをナプキンで拭った。端から見た姿は姉弟のようだ。
「んぐっ……それで、他の皆はどうだったのぉ?」
「私はひたすら弓で撃ち抜いてましたわ。」
「俺は、あー………なんというか……。」
「私は変態がいたから取り敢えず潰しておいた。」
「わぁ、物騒だなぁ。図書館の風紀がみだれてるのかなぁ?」
「…………カティア、それホクマー様のことか?」
言いよどむ垂れ目の男性……ジーニーを他所に目の下に隈がある女性……カティアがバッサリと答える。
「あの人のアインさん好きは最早手遅れだったろ?間違った事言ってないと思うけど。」
「いやまぁ、そうだが……もういいや、腹へった。」
深くため息をついたジーニーは自分達用にと持ち込まれた料理で前準備と鬼ごっこで動き続けて空っぽだった腹を満たす。その言葉を聞いたフルートも同意するように頷く。
「僕らはあまりパーティーに表立って参加出来ませんでしたからね。ご馳走を食べ損ねたと思いましたが、こうしてちゃんと取り分けてもらってたのは純粋に有難い限りです。」
暫く楽しく会話しながら食事やお菓子を楽しんでいる司書補達。少し後、少しラフな格好になったエノクがやって来る。相変わらず、背中にはリサが張り付いていた。
「皆、お疲れ様。無理言って悪かったね。」
「ティファレト様!いえいえ、楽しかったので大丈夫です!」
「裏方……というより運営側に回ることは滅多に無いのでいい機会でしたよ。」
「そう言ってくれると企画した甲斐があったよ…………ほら、リサ、一回離れて?一緒にご飯食べよう?」
「……………わかった。」
リサは名残惜しそうにエノクから離れると、近くの椅子に座った。エノクもその隣に腰を下ろす。
「それじゃあ改めて乾杯でもしますか?」
「その前に今料理の追加がくると思うからちょっと待ってて…………今ある物はもうジーニーがほぼ食べちゃったみたいだし。」
「へ?……いつの間に!?」
「すまん……腹が減ってて……。」
「追加持って来ましたよ~。」
ジーニーがしゅんと縮こまってしまったと同時に、備え付けられたキッチンから癖毛の男性……ノットが両手で料理を持って来る。後ろには小柄な女性……ナナがおずおずと大皿を持って付いてきている。
「うん、全員揃ったね。それじゃあ改めて僕らのパーティーを始めようか。」
その言葉を皮切りに、再び談話室が賑やかになる。
彼らの夜はまだ続くようだ。
はい、と言うことで少々はみ出しましたがハロウィン編終了です。後日、アインの自費でゲブラーの元には様々な酒とつまみ、ビナーの元には新品の紅茶抽出機と高級茶葉のカタログが届きました。
この後、自室でリサはエノクを押し倒して事に及んだようですがいつものように返り討ちにあったそうです。
カルメン?アインと同じ部屋に入って数日間外に出なかったらしいですよ?